2023年10月、LINEとヤフーの経営統合により、LINEヤフー株式会社が設立されました。

それに伴って、LINEヤフー株式会社には、国内でも最大規模となる約500人のデザイナーが所属することとなります。

組織体制・文化・スキルセットも異なる2つの組織のデザイナーが混ざり、その中で全社に対してどのようにデザインから価値提供をしていくのか?という問いに向き合う中で、一つの答えとして今の「LINEヤフーDesign」が生まれました。

500名が所属する、国内最大規模のデザイン組織「LINEヤフーDesign」

ここまでの規模のデザイン組織づくりについての知見は世の中にほとんど出ていませんが、私たちの経験から業界に残せることがあればと思い、事例を公開します。

話は、2023年4月ごろにさかのぼります。LINEとヤフーの経営統合が決まったあと、各社から8名ずつデザイン組織のマネジメントが集まり、統合後にデザイナーはどのような体制で配置されるべきか議論が開始されます。

合併前までの体制としては、ヤフー側は事業部にデザイナーが所属するカンパニー制。一方で、LINE側は事業をまたいで横串にデザイナーが所属する横断組織体制をとっていました。

当時のヤフー側の体制。各事業部にデザイナーは所属、横断的な機能もあったがどちらかというと独立したカンパニー制をとっていた (参考: https://cocoda.design/tatsuakisuzuki/p/p47512fc6a3b0)
対して、LINE側の組織体制。全社にまたがる横断組織として、幅広い専門性を持つデザイナーが集まっていた (参考: https://cocoda.design/linecreativecenter/p/p36280638af28)

さらに、スキルセットや文化としての違いもありました。ヤフー側のデザイナーは事業部所属の中で、よりビジネスへの貢献に対する意識が強く、逆にLINE側のデザイナーは横断型組織としてクリエイティブやプロダクト品質の高さに専門性を持っていました。

この時点で、これからのデザイン組織の形として、これら2組織の体制を大きく変更するのではなく、強みを活かしていけるハイブリッド型が良いのではないか、という仮説を持っていました。

2社のデザイン組織の特徴を把握した上で、まずは、LINEとヤフーのそれぞれの事業にとって、どのようにデザイナーが価値貢献していけるのかを明確にしていくために、全カンパニー (*1) のマネージャーに対してヒアリングを進めていきました。

(*1) LINEヤフーでは、事業領域ごとに独立したカンパニー制を採用しています。
全カンパニーのマネージャーに対して、デザイナーがどう価値貢献していけるのかをヒアリングする

以下のような点を確認しながら、これからのデザイン組織がやるべきことを見極めていきます。

  • 各サービスの注力、展望

  • デザイナーに期待すること

  • セントラル的なデザイン組織に期待すること

  • カンパニーだけでできること・できないこと

ヒアリングを通して、具体的には以下の画像のような、アウトプット面とデザイナーの体制面の課題が共通してありそうなことを整理していきます。

ヒアリングを通して、全カンパニーに共通して起こるデザインの課題を整理したもの
アウトプット面と、デザイナーの体制面の課題の両方があり、横断的な機能とカンパニー専属的な機能の両方が必要であることが分かる

これらのヒアリングを経て、体制についての仮説を設計し、経営陣と何度も議論を重ねながら、新たなLINEヤフーのデザイン組織の形を模索していきました。

一貫して重視されていたのは「その体制で、どれだけビジネスに貢献できるのか?」という点です。

最終的には、ヒアリングを通してカンパニーの納得感を生めていたこと、LINEとヤフーの組織体制やスキルセットを踏まえて統合によるハレーションが生まれづらくなること、の2つの観点から、当初想定していたようなカンパニー制と横断組織制を合わせたハイブリッドな体制に落ち着きました。

そのようなプロセスを経て、2023年10月、約500名が所属するデザイン組織「LINEヤフーDesign」が生まれます。

LINEヤフーDesign

LINEヤフー株式会社に在籍する約500名のデザイナーが、担当サービスを持つ各カンパニー (カンパニー) と、横断的にプロダクトやブランド、文化醸成に携わるDesign Exective Center(デザイン統括本部)の2つに分かれて所属しています。

それらを合わせたデザイナーコミュニティを「LINEヤフーDesign」と名付けています。

新たなコーポレートロゴのデザインコンセプトにも「Stay Closer, Go Further=両者の結束によって革新を生み出しながらユーザーに寄り添い続ける」という文言を掲げているように、今回の統合においては両者の結束が重視されています。

これと同じように、デザイン組織の体制としても、スキルセットや文化の異なる2つの組織をただ一緒にするだけでなく、両者の良さや強みを活かしていくことを重視しています。

そのため、ビジネスへの解像度が高いヤフー出身のデザイナーは各カンパニーに所属する方が多く、幅広い専門性を持つLINE出身のデザイナーは横断的なデザイン貢献をするDesign Exective Centerに所属する方が多くなっています。

それぞれの強みを活かした、各部署の位置付けは以下のように整理しています。

各カンパニーのデザイン部署と、横断機能を受け持つDesign Exective Centerの位置付け
それぞれ「ビジネスコミットメント」と「品質向上・効率化のサポート」という役割分担をしている

包括的に問題解決にあたった方が良いケースにはDesign Exrective Centerが主導し、逆に個別のデザインチームとしての対応が適切なケースではカンパニーごとに対応することができます。各カンパニーに所属するデザインチームと横断的なデザイン組織の強みが両立することを目指しています。

ここからは、統合後の具体的な動きについて、特に横断デザイン組織である「Design Exective Center」の活動を例にまとめていきます。

先述の通り、LINEヤフーDesignには、各カンパニーと横断組織の2つの所属先があります。横断組織としてのDesign Exective Centerは、以下のような体制で運営されています。 (統合後も、全社の課題に応じて少しずつ変更されています。)

Design Exective Centerの体制について
組織課題の解決を担うCX部、映像デザインを担うMX部、プロダクト品質の担保を担うUXD本部、ブランドデザインを担うVXD本部、プロダクトデザインとデザインSWATを担うUID1, 2本部、という構成

Design Exective Centerは、中長期的なデザイン組織の体制の計画を立てつつ、高い専門性からカンパニーだけでは解決しづらいデザイン課題を解決していくことで、全社の事業成果を高めていくことに取り組んでいます。

そのために、Design Exective Centerと各カンパニーを連結させる3つの仕組みを用意しています。

Design Exective Centerと、各カンパニーのデザイナーを連結させる3つの仕組み

1. デザインコミッティー
2. デザイン責任者
3. デザイナーコミュニティ

まず一つの機能が、デザインに止まらない各カンパニーの横断的な課題を解決する「デザインコミッティー」です。

デザインコミッティーでは、例えば以下のような課題を扱っています。

  • 一つのアプリの中から、別のアプリに移動するときの挙動をどうするか?

  • サービスごとの体験を、どのように一貫した体験に近づけるか?

  • 各事業で流動的に必要になるデザインリソースを、どう担保するか?

200を超えるサービスを提供するLINEヤフーにおいて、このような横断的な動きを機能させるためには、カンパニーごとに生まれている課題をいかに引き上げるか?が大切です。

そのため、デザインコミッティーとして、カンパニーから課題を引き上げる仕組みをいくつか用意しています。

デザインコミッティーが、カンパニーから課題を引き上げる仕組み

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1. Design Exective Centerとやり取りできるSlackチャンネルを、カンパニーごとに用意

デザインコミッティーでは、カンパニーごとにDesign Exective Centerとやり取りするためのSlackのチャンネルを用意し、カンパニーごとの課題をそこに投げ込んでもらうようにしています。

2. 四半期ごとに各カンパニーのトップにヒアリング

とはいえ、Slackチャンネルを置くだけでは、最初はなかなか相談はもらえません。カンパニーのメンバーと適切な関係を持ち、この人たちに頼めば解決してくれると信頼し続けてもらうことが重要です。

そこで、デザインコミッティーから、四半期に1度、各カンパニーのトップや統括本部長に対してヒアリングを行うようにしています。

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引き上げた課題に対しては、統括本部のそれぞれの部署のメンバーがアサインされ課題解決に取り組みます。大きく分けると、以下のような動き方を行っています。

  • カンパニーをまたぐような課題解決 

    • ex. 社内のツールをつくる、リソースの調整、併用を促す部分の設計

  • 短期決戦的に、カンパニーに入り込む (デザインSWAT)

    • ex. 1~2ヶ月など短期集中の案件に、一気にリソースを投下し直接結果を出しに行く

Design Exective Centerのもう一つの機能が、デザイン責任者との連携です。

Design Exective Centerと連携してプロダクトの品質を高める役割として「デザイン責任者」というポジションをプロダクトごとに1名ずつ置いてもらっています。

Design Exective Centerとのハブになってくれる「デザイン責任者」をプロダクトごとに1名ずつ置いてもらう
プロダクト品質に責任を持ってもらっており、Design Exective Centerから全社に浸透したい基準やルールを伝え、プロダクトに反映する

例えば、プロダクトごとのフォントの統一ルールや、ツール統合についてのアクション、画像管理の仕組みなど、Design Exective Centerからデザインの品質・生産性を高めるための仕組みを構築したあと、確実に各プロダクトに反映していくためにデザイン責任者の方にハブになってもらうようにしています。

ここまでの2つの機能は、各カンパニーに対しての直接的な取り組みですが、もう一つの機能として、約500名が所属するデザイナーの横の繋がりを強化し、大規模な組織としてのメリットを強めるために「デザイナーコミュニティ」をつくっています。

これまでは各カンパニーのデザイナーがそれぞれ活動しており、横の繋がりはあまり生まれていませんでした。

コミュニケーションを生み、ナレッジのサイロ化を無くし、みんながLINEヤフーのデザイナーであるということを意識できるようにするために、カンパニーもDesign Exective Centerも混ぜたデザイナーの集まりをつくり「LINEヤフーDesign」という名前をつけました。

コミュニティの活動の一つとして、LINE出身のデザイナーも、ヤフー出身のデザイナーも、お互いの色や良さをよりリスペクトして取り入れていけるように、勉強会や社外発信機会に積極的に巻き込むようにしています。

LINEヤフーDesignとしての発信や、勉強会を積極的に増やし、2つの組織の強みがうまく融け合うように意識している (参考: https://lydesign.jp/)

これまであまり発信に関わっていなかった方も積極的に発信に関わっていただけており、うまく連携が進んでいるように感じています。

合併を経てこの半年間は、試行錯誤の連続でした。枠組みをつくり、まずはやってみる。その中で、うまく連携し、事業成果にもつなげていけた事例が少しずつ増えています。

例えば、LINEヤフーの新たなコーポレートロゴは、LINE、ヤフー、LINE Plus(韓国拠点のグループ会社)の3社から約30名のデザイナーが集まり、3社のデザイナーが一緒に案を出しながらつくっています。

LINEヤフーの新たなコーポレートロゴは、LINEとヤフーとLINE Plusの3社のデザイナーが集まって協業する形でつくられた (参考: https://www.lycorp.co.jp/ja/story/20240205/logodesign.html)

その後のブランド運用についても、マーケティング統括本部のブランドコミュニケーション本部と、Design Exective CenterのVXD本部がうまく連携して、これまでのヤフーやLINEの仕組みをさらにアップデートした運用フローを構築できています。

ブランド運用のために、マーケティング統括本部のブランドコミュニケーション本部と、Design Exective CenterのVXD本部が連携して、「ブランドガイドライン」や「ブランドポータル」を作成

デザインコミッティーにて優先課題と認定された案件に対し、短期決戦的にDesign Executive Centerのデザイナーリソースを投下してカンパニーのデザイナーと協業し事業成果に繋がった事例もいくつか生まれています。Design Exective Centerでは、これを「デザインSWAT」と呼んでいます。

デザインコミッティにて優先課題と認定された案件に対し、短期決戦的にリソースをカンパニーに投下し、集中して事業成果を生みにいくデザインSWAT
すでに合併後もいくつかのプロジェクトは終わり、成果につながっているものも多い

LINEのデザイナーの高品質なアウトプットを生み出せる専門性の高さ、ヤフーのデザイナーのビジネス解像度の高さ、これらを組み合わせたLINEヤフーDesignというデザイン組織ならば、これまで以上の事業成果を生むことができると信じています。

国内でも最大規模となる、約500名が所属するデザイン組織の形として成功例となり、デザイン業界全体にも知見を広げていけるように、ここからさらにLINEヤフーDesignとして事業への貢献を続けていきます。


本事例の公開と同時に、LINEとヤフーの統合にともなって生まれた新たなコーポレートブランドの全社浸透についての事例が公開されています。こちらもぜひあわせてご活用ください。

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