DeNAデザイン本部 サービスデザイン部 UXリサーチャーの五島です。 2021年1月から2022年8月にかけて、オンラインパーソナルジム「WITH Fitness」の継続ユーザーの特徴を明らかにするためのUXリサーチを実施しました。

WITH Fitnessは、DeNAグループ(デライト・ベンチャーズ)の社内起業プログラムから誕生した株式会社ウィズカンパニーが提供するサービスです。

そのなかで、プロダクトの価値が刺さりやすい人・刺さりづらい人の特徴を明らかにするため、試行錯誤の末「ByName分析」と独自に呼んでいる手法を元に分析を行いました。

WITH Fitnessで実施したUXリサーチの概要。UXリサーチには様々な手法があるなかで、試行錯誤を重ねながら、明らかにしたいことを元に泥臭く色んなやり方を試してみることが大事でした。
ByName分析 : サービスデータを活用し、「ユーザー一人ひとりがどのようにプロダクトを利用しているか」について解像度を上げる方法。(社内で独自に定義) ユーザーの日毎のアクション数を並べたものをN1で観察していくことで、仮説の発見・改善や検証を行う。現在はダッシュボード化を行い、プロジェクトメンバーがだれでも利用することができる。

結果として、継続ユーザーの特徴が明らかになり、その特徴に沿うようにプランの変更を行ったところ、月の売上やユーザー数も大きく伸びる結果となりました。

今回は、なぜByName分析というものを独自に試してみることにしたのか、どのように進めたのかをまとめたいと思います。

WITH Fitnessでは、2020年のサービス開始以来、利用熱量の高い継続ユーザーは一定数生まれていたものの、下記の課題がありました。

当時、事業部メンバーから共有されたサービスの課題感について。

課題A:ユーザー獲得コストが高い
課題B : 長期継続ユーザーは一定数いるが、多くはない

A・Bを踏まえると、希望的な仮説としては「ユーザー獲得の精度は低いものの、条件が噛み合えば価値を感じてもらえるプロダクトになっている可能性がある」と考えられました。

一方で、当時の事業フェーズでの課題感としてはAが大きく、さらに「立ち上げ初期のユーザー仮説がズレている可能性がある」という点ではBも重大な課題だと判断しました。

そこで、まずはプロダクトの価値が刺さりやすい人・刺さりづらい人を明らかにするために、下記の2点を明らかにできるようなリサーチを進めていくことにしました。

リサーチを進める上で、明らかにしたいと考えていたこと。
①:プロダクト価値が刺さりやすい人は、立ち上げ初期のユーザー仮説と乖離がないか
② : トライアルレッスン後、有料プランに移行しないユーザーには、どんな理由・条件があるのか

明らかにしたいことは決まりましたが、「プロダクトの価値が刺さりやすい人・刺さりづらい人のあたりをつける」という課題に対して、私自身もどんな観点でどのようにリサーチを行なうべきか、すぐには判断できない状態にありました。

リサーチの王道としてはユーザーインタビューから価値抽出を行うことだと思いますが、下記の理由から今回のケースだとあまり適切ではないように思えました。

  • 長期継続ユーザーは、当時はまだ数も少なく、元テストユーザーや紹介など利用経緯が特殊なユーザーも含まれていた

  • トライアル後に有料プランに移行しなかったユーザーは、既に離脱してしまっているため直接話を聞くことが難しい

そのため、結果がすぐに得られそうなトライアルユーザーを対象として、ざっくりでもいいから定性的な観点からユーザー分類ができないか検討してみることにしました。

WITH Fitnessでは初回のみ無料のトライアルレッスンが利用できるため、ほとんどのユーザーはトライアルレッスンを受けた上で有料プランへの登録(=プレミアム化)を行います。

まずは、プレミアム化したユーザー/しなかったユーザーに特徴や傾向があるかを探るために、いくつかの観点でユーザーを分類してみることにしました。

ペルソナスペクトラム法と呼ばれる手法を参考に、「属性」や「態度」、「ユーザーの持つ課題意識」などの分析軸を洗い出しました。

今回はWITH Fitnessの企画段階の仮説として「オンラインパーソナルトレーニングを利用する人」「WITH Fitnessに価値を感じやすい人」などターゲットユーザーに関する仮説がいくつかあったので、それに関連する軸を主に検証してみることになりました。

軸の検証のため、過去インタビューの対象者をマッピングしてみたメモ。
軸のラベルや何を観点軸とするかなどを、可視化しながら認識を合わせていきました。できればSEPIA法のように四象限くらいに収めたかったのですが、仮説の検証を行いたかったため諦めて軸を増やしました。

例えば、忙しさ・モチベーション・運動の前向きさなどいくつかの軸を出し、過去にインタビューを行ったユーザーの情報を当てはめてみながら、仮説を整理していきました。

分析の軸ができたので、実際にユーザーをマッピングしてみることにしました。 仮説から抽出した観点に当てはまるユーザーの定着率が高ければ、立ち上げ初期のユーザー仮説が正しいことになります。

まずは、ユーザー一人ひとりに対して分析軸ごとの評価をする方法を考える必要がありました。

本当は既存のユーザーデータを用いてマッピングができるとよかったのですが、定性情報が不足していたため、今回は下記の2つの方法で情報を取得しました。

  1. WITH Fitnessアプリ内のアンケートや、レッスン前カルテの質問を追加・変更

  2. トライアルレッスン後にPOがヒアリングの時間を設け、直接生の声を聴く

アンケートとヒアリングでどの観点の情報を得るか整理した表。
サービス内のアンケートではあまり項目数を増やしたくなかったので、できるだけトライアル後インタビューのなかで深掘りする形で探っていくことにしました。

トライアルレッスン後のヒアリングを踏まえて、各ユーザー毎の傾向をスプレッドシート上に可視化し、プレミアム化するユーザー、しないユーザーの特徴を探ってみました。

ヒアリング後、ユーザー一人ひとりに対して観点軸別をスコアリングしたシート。
厳密にスコア化することは難しいため、PO一人の主観でマッピングしてみてもらいました。

結果として、プレミアム化するユーザーの特徴はあまり見えなかったものの、プレミアム化しないユーザーの特徴は少しずつ見えてきました

具体的には、以下がプレミアム化しないユーザーの特徴として挙げられます。

  • モチベーション不足 

    •  例: 一度試してみたかった人、トレーナーがいても自分には無理だなと諦めてしまう人

  • サービスに頼る必要がない

    • 例: トライアルレッスン内のトレーナーとのやりとりで満足し、その後自分でトレーニングができる人

  • 課金ハードル

    • 例: 価格が高いと感じる人、クレジットカードを持っていない人 (※当時は支払い方法がクレジットカードのみ)

「プレミアム化しないユーザーの特徴」が見えたことで、ターゲット外のユーザーをフィルタリングするような施策を行うことができました。

一方で、本来明らかにしたかった「プレミアム化するユーザーの特徴」に関しては、トライアルレッスン時点の情報では傾向が見られないという一つの結果が得られました。(検証精度の問題はありますが、わかりやすい結果が得られたところから取り組めばいいと思うのでokです) 次は視点を変えて、プレミアム化後の行動を分析していくことにしました。

そこで試してみたのが、後に社内で「ByName分析」と呼ばれることになる独自の分析手法です。

「ByName分析」はサービスデータを活用してユーザーの行動を分析する方法ですが、一般的な定量分析のように、DAUなど「ユーザーをひとまとめに扱う指標」を追うのではなく、データ上で「ユーザー一人ひとり=ByName」で観察を行います。

具体的には、全ユーザーの日毎のアクション数を並べ、長期継続ユーザー・早期離脱ユーザーなどさまざまな観点で、ユーザー一人ひとりの行動の違いを詳細に比較していくというものです。

もともとチームでも実施することがあったファネル分析にヒントを得て、より具体的に定性・定量データを入れ込んでみながら、「ユーザー一人ひとりの解像度を上げる」ために、泥臭く分析をしてみました。

まずは、アプリの各機能が使われた回数を日毎に一覧化し、全ユーザーの傾向を見られる状態にしました。

  • 体組成記録

  • 食事記録

  • 運動記録

  • メッセージ(ユーザー)

  • メッセージ(トレーナー)

  • レッスン予約

  • レッスン実施

全ユーザーの日毎のアクションを可視化したシート。
開発メンバーに協力してもらいながら、関連しそうなデータを集めていきました。

また、定量的なデータだけでなく、ヒアリング時に得た情報や、退会時のアンケートの回答など定性的な情報も全てまとめていくことで、ユーザー個々人の状況を想像しやすくすることを意識していました。

次に、一覧になっているユーザー情報の中から「長期間継続しているユーザー」「早期離脱したユーザー」をそれぞれピックアップして、比較をしていきました。

継続・離脱ユーザーそれぞれをピックアップして比較できるようにシートをカスタマイズ。

各ユーザーの傾向を見ていると、多くのユーザーは時期によってアクション数の波があることに気付きました。

そこで、行動変容ステージモデルを参考にして、「あるユーザーが、時期ごとにどんな状態になっているのか」を詳細にイメージできるように工夫しました。

WITH Fitness自体が、トレーニングができていない状態から、習慣化することをサポートするものなので、このような理論を元にすることで分析がしやすくなったように感じています。

行動変容ステージモデル : 人が行動を変えるまでの流れを「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の5つのステージから定義したもの。
行動変容ステージモデルの例。WITH Fitnessに登録する時点で関心期は超えていると考えられるので、その後の準備期・行動期・維持期でどのような傾向があるかを特に見ていきました。

分析を進めていく中で、WITH Fitnessを長期的に利用してもらうためには「成果が出ること」よりも「行動期が長く続くこと」が重要だという結論を導き出すことができました。

具体的には、以下のような事象が発見できました。

  • 登録直後に過剰にがんばりすぎて早々に力尽きてしまう

    • 早期解約をしてしまうユーザーのなかには、サービス登録直後の一番モチベーションが高い時期にトレーナーとのメッセージのやりとりや運動・食事管理を頑張りすぎてしまって、それを維持できずにあっという間に収束→解約してしまう、というパターンが多く見られました。一方で長期利用ユーザーはサービス登録直後から現在まで一定のペースで日々の行動が行われていました。

  • モチベーションが足りず、「準備期」を抜け出せない

    • がんばりすぎてしまうユーザーとは対象的に、始めたはいいもののなかなか軌道に乗れないユーザーも多くいました。一方で結婚式前の女性など、3ヶ月プランで集中的にみっちりアクションを行い、成果を出して卒業していく短期集中型のユーザーもいました。

  • 長期継続ユーザーは毎月チケットを消化しきっている

    • 有料プランでは毎月プランに応じた枚数のチケットがユーザーに付与されるのですが、チケットの消化ペースを見ると、解約してしまうユーザーの中にはチケットの消化が追いつかなくなっている人が一定数いました。一方で長期利用ユーザーは自分の決めたペースでレッスン予約を取り、毎月しっかりとチケットを消化していました。

分析結果をまとめた資料の一部。
この分析結果を元に、サービスとして改善できることはどこかをメンバーと話し合っていきました。

ByName分析を踏まえて、継続ユーザーの特徴を見出せたので、その学習を事業部メンバーと共有しながら施策に反映させていきました。

その一例として「料金プランの変更」があります。 もともとのプランでは、サービス内容は同一で契約期間を1・3・6ヶ月の3パターンから選べるという内容となっていましたが、サービス内容の異なる3つのプランを用意し、最小契約期間は3・6ヶ月からという内容に変更しました。

変更前のプランと、変更後のプランの比較。

このプラン変更を行った理由は以下です。

  • 継続ユーザーの特徴である「行動期の長さ」が自然と生まれるようにすること

  • それにより、ユーザー体験・事業数値が向上すること

  • この2点を満たす上で、プラン (何に対してお金を払うか) の変更が適切だと考えたため

プラン変更を行った結果、月の売上やユーザー数増加などの数値向上に繋がっていきました。 具体的には、月次の売上はプラン変更以降2ヶ月ほどで10%〜20%UPし、ユーザー数も最高記録を更新する結果となりました。

また、今回取り組んだByName分析を、他のメンバーでも実施できるように、新しくダッシュボードを開発しました。

最もユーザーと触れるトレーナーの方々が、リサーチャーがいなくてもユーザーの傾向を手軽に分析でき、効果的な施策を素早く打てるようにすることを目的としています。

現在は、WITH Fitness所属のトレーナーのマネージャーなどに主に使われ、ユーザーデータをもとに施策を出せるようになっています。

今回ByName分析のために使用したスプレッドシートをもとに、新たに開発したダッシュボード。

今回は、WITH Fitnessを対象として、ByName分析という独自の手法でリサーチを行いましたが、他の部署でもユーザーリサーチを浸透していけるように、今回の取り組みを汎用化した施策も進めていきたいと考えています。

UXリサーチと一口に言っても、明らかにしたいことや、そのために必要なプロセス、かけるべき時間やコストなど、プロダクトや事業の状況に応じて全く異なります。

最近はUXリサーチ界隈が盛り上がっているので多くの事例やフレームワークについて知ることができますが、そっくりそのまま同じことをしても確実に成果が得られる方法というのは存在せず、様々な手法を試してみたり、定性・定量関わらず多くの情報に触れたり、当事者としてプロダクトを利用してみたりと、結構泥臭いものだと思っています。

今回取り組んだWITH FitnessでのUXリサーチは、個人的にエンジニアからリサーチャーへのジョブチェンジ後初めてのリサーチ案件だったので、正直ずーっと試行錯誤をしているような感じでしたが、プロジェクトメンバーと議論を重ねながら進めることで、最終的には成果に結びつけることができました。

個人的にリサーチをしていて一番難しいと感じるのは、リサーチ・分析した内容を「施策につなげて成果を出すこと」です。今回はリサーチ結果として出したパスを、WITH FitnessのPOである谷口さんによる適切なビジネス判断で成果に繋げてもらうことができました。リサーチャーとしては的確な施策提案をもっとしていかねばと思いますが、それ以上に「プロジェクトメンバーがより成果につながる意思決定をしやすい土壌をつくる」ことを担保し続けたいなと思います。

デザインケースの中では触れられませんでしたが、今回分析をする上で一番役に立ったことは、リサーチチームのメンバーと一緒にWITH Fitnessのサービスをユーザーとして利用し、それぞれの視点で感想を言い合ったことでした。今後もユーザーを深く理解できるようにいろいろと試しながら、リサーチに取り組んでいきたいと思います。

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