リンクアンドモチベーションでは、2019年10月にデザイン組織を立ち上げました。社内デザイナーが不在の状況から、私を含めたデザイン未経験の社員のジョブチェンジを促進しつつ、外部パートナーと協力して、立ち上げを進めてきました。

2023年2月時点でのデザイン組織体制。

現在は社内のデザイナーが5名、社外のパートナーが4名の計9名体制で活動しています。立ち上げから3年強のタイミングですが、BtoB SaaSを中心に5つのプロダクトのデザインを牽引できるチームになってきました。

ARRが40億に迫っているモチベーションクラウドのデザインも、社員メンバーが中心となって推進しています。UIデザインのみにとどまらず、UXリサーチや要件定義、デザインシステムの構築といった領域まで、パートナーの方々と二人三脚で進めることが可能となりました。

デザイン組織の立ち上げ期は体制が手薄になりやすく、デザイナーの採用も難しいため、いかに組織を拡大させるか頭を悩ませることも多いのではないでしょうか。

今回は、リンクアンドモチベーションでの実際の取り組みを、採用の打ち手が取りづらい「立ち上げ期」における、体制拡大のアプローチとして参考にしていただければと思います。

リンクアンドモチベーションでは、2016年から社内初のSaas事業であるモチベーションクラウドを立ち上げました。初期はエンジニアもデザイナーも業務委託のパートナーに力を借りていましたが、2018年から開発組織の内製化に着手し、それに伴ってデザインチームづくりにも乗り出しました。

デザイナーとしては、業務委託の外部パートナーが4〜5名いたものの、どうしても顧客や事業理解の解像度を高めづらい部分があり、インハウスデザイナーの不在が課題になっていました。

社員として働くデザイナーがいなかったため、デザイナーの採用は苦戦が続いていました。エンジニア組織は、開発責任者の採用を皮切りにリファラル採用で拡大できていたものの、デザイナーは2年近く採用できていなかったのです。

結果として、採用ではないアプローチで、デザイン組織を立ち上げる必要に迫られました。

リンクアンドモチベーションでは、こういった状況下での組織立ち上げを、「デザイン未経験のコンサルタントのジョブチェンジ」と、「外部パートナーとのより深い協働」で実現していきました。

採用ではなく、社内のコンサルチームからの異動や、外部パートナーとの協働でリソース不足を補った。

未経験からのジョブチェンジや、外部パートナーとの協働が機能した要因は以下の3つにまとめられます。

  1. ジョブチェンジ後は、ドメイン理解を活かした役割を担う

  2. デザインレビューから、業務外のスキル開発までパートナーに委託

  3. 「役割設計」と「情報の透明化」で、社員とパートナーをワンチームに

デザイン未経験のメンバーは、高い専門性が求められるデザイン業務においては、すぐに価値を発揮することが難しくなります。

そこで、はじめのうちは既存パーツを組み合わせて完遂できるUIデザインを担当しつつ、ユーザーリサーチなど、ドメイン理解や現場経験が特に活かされる役割を担うようにしました。コンサルタント時代のインプットをもとに、顧客やサービス提供に関する知見を開発組織に還元し、徐々に担当範囲を増やしていったのです。

初期に取り組んでいたユーザーリサーチの例。ユーザーインタビューやペルソナ策定など、コンサルタント時代のスキルを転用しやすい業務に従事。

コンサルタントとしてお客様と対峙する中で培われた「顧客理解」や、課題を設定し解決に導く「論理的思考力」は、プロダクト開発における価値探索や要件定義でも力を発揮しました。

加えて、ユーザーとの接点を持ちづらい開発メンバーに対して、高い解像度でユーザー像を伝えるなど、ビジネスサイドと開発サイドをつなぐ通訳のような役割も担いました。

専門性や経験が求められるUIデザインスキルの獲得に向けては、外部パートナーの協力を得ながら育成の仕組みを整えるアプローチを採りました

立ち上げ直後から、新任デザイナーのアウトプットは、パートナーの方々にレビューしていただいていました。加えて、業務外のスキル開発についても、パートナーの方々の力をお借りすることにしました。実際の取り組みを2つご紹介できればと思います。

日々の業務の中でスキルアップの機会を増やすべく、バディ制度を導入しました。

具体的には、社員デザイナーと外部パートナーがバディを組み、ペアデザインやインタビューへの同席を行うという仕組みです。

ペアデザインの様子。社員デザイナーのスキルアップに加え、外部パートナーの方のドメインや顧客への解像度が向上するという副次効果もあった。

デザインレビューはアウトプットに対してのレビューになりがちですが、そのアウトプットに至る道筋やプロセスにこそ、デザイナーとしての技術や知見が詰まっています。

そこで、プロセスや実際の手法を模倣する機会として、「共に作業する時間」を大事にしています。

様々な取り組みの中でも、特に効果を発揮したのが「UI/UX道場」という育成施策です。UI/UXそれぞれの領域に長けたパートナーの方に、社員デザイナーを育成する研修の企画・実施を「業務」として委託し、指導いただく機会を設けたのです。

UI道場のカリキュラムと、参加者のアウトプット一例。課題に対する各人のアウトプットをレビューいただき、デザインの作法や技術を学んだ。
UI道場:各種ツールの活用法とUIデザインのポイントを、実践を交えて体得していく講座。     毎回制作課題を提出し、各人へのレビューをいただきながら基礎スキルを磨いた。
UX道場:UXデザインのプロセスを一気通貫で実践するカリキュラム。      インタビューに基づいてペルソナやカスタマージャーニーマップを策定。      新機能のアイディア出しから要件定義までを行った。

両講座を通して、デザイナーとしての考え方や専門的なスキルの獲得を目指しました。実際のプロダクトや開発プロセスをよく知るパートナーの方にご依頼したことで、より実践的で本業に生かしやすい研修となりました。

ジョブチェンジした社員の一人立ちには、ある程度の時間がかかります。そこで、その期間はパートナーの方の役割定義や、業務を推進しやすくする情報共有に工夫を施しました。

パートナーの方々とは、「発注者↔︎受託者」という関係を越えて、理想状態を共に議論し、二人三脚で課題を解決していくチームメイトになることを目指しています。そこで、ひとりひとりに、ミッションを起点とした役割を担っていただいています。

たとえば、直近で取り組んだ「オンボーディング機能」の検討時には、インタビューで発見したユーザーの課題をお伝えしたところから、前後のジャーニーを踏まえたプロトタイプを高解像度でアウトプットしていただきました。

パートナーの方が取り組んでくれた「オンボーディング機能」のプロトタイプ。全体のジャーニーや実現したい価値への深い理解が、スピーディーかつ本質的なアウトプットにつながっている。

これは、事業方針や組織の文脈を、解像度高く把握していただけているからこそ、実現できていることだと思います。

プロダクトの立ち上げフェーズからデザインをお願いしてきたため、プロダクトに込めた想いや価値転換の経緯も知っていただいています。また、具体的なカスタマージャーニーや、ユーザーインタビューの動画などもご共有しており、UI/UXの意図やユーザーの課題感についても共通認識が持てています。

そういったご経験やインプットを基盤として、「デザイン制作を、個別のタスクとして遂行してもらう」のではなく、「プロダクトの価値を磨き上げるために、価値の定義や要件定義から伴走する」役割をお願いしています。

かねてより、社員とパートナーの間で情報格差を生まず、チームでデザイン業務を進めていけるように、「常に情報がオープンになっている状態」を目指してきました。

社員・パートナーが一丸となる、「四半期ごとのキックオフ」

四半期ごとのイベントとして、プロダクト全体のビジョン・戦略や、開発方針についての情報を、キックオフの場で丁寧に共有しています。

四半期ごとのキックオフで用いているスライド。プロダクトのビジョンや具体的な戦略まで、パートナー含めたチーム全体で視界共有を行っている。

加えて、週次のKPTや日次の進捗共有など、定例の会議体にも時間を投じ、運動神経よく協働できる土台を築いています。

事業全体の方針やプロダクト戦略の伝達を通じて、社員-パートナー間の情報格差をなくすことで、全体観と長期視点を持ったデザインが可能となります。

チーム横断で全デザイナーが参加する、定例の「プロダクト横断会議」

「プロダクト横断会議」を社員・パートナー全員が参加する形で実施し、複数あるプロダクトの現状や課題、今後の展望などの情報をシェアしています。

パートナーを巻き込んだミーティングの様子。デザインプロセスのKPTや、プロダクトごとの進捗共有を通じて、デザインの生産性向上を図っている。

デザインシステムの構築やUIデザインの一貫性向上に向けて、各種連携をスムーズにする狙いがあり、隔週の定例開催となっています。

日々の業務中は、全員がバーチャルオフィスに常駐

日々のコミュニケーションにおいては、業務に関する相談から、何気ない雑談まで日常的に会話しやすいように、バーチャルオフィスのGatherに社員・パートナー関係なく常駐するようにしています。

毎日社員・パートナー関係なくGatherに集まって、チームごとに業務の相談や雑談ができるようになっている。

コミュニケーションを取ることのハードルをできるだけ低くし、双方向のやりとりが生まれやすくすることで、スムーズな協働を可能にしました。

チームとしての親交を深めるコミュニケーションの場

これはパートナーの方によって価値観や方針が異なるので、あくまで相手に合わせた上でになりますが、オンラインでのゲーム会やリアルでの懇親会も定期的に開催し、親交を深めています。

プロダクト横断で、デザイナー全員が集まった懇親会の様子。会社や契約形態を越えて、ワンチームでデザインに取り組んでいる。

ただ仕事をするだけでは見えないお互いの人柄や、非公式の場で生まれるコミュニケーションによって、「近く、深く、長い関係性」を紡ぐことができています。

これらの取り組みを通じて、社員とパートナーの垣根を越えて、ワンチームで価値創出に全力投球できるデザイン組織が形になりつつあります。

ジョブチェンジの2名から始まったインハウスチームも、異動と中途入社を経て、5名まで拡大しました。

デザイン組織を立ち上げた成果として、開発組織全体にも以下のような変化が生まれてきています。

  • インハウスデザイナーがいることで、セールス・CSと開発組織の連携が強化された

  • 上流の価値探索〜要件定義からデザイナーが参画することで、仮説検証の速度が向上した

この3年間のデザイン組織の変遷を経て感じたことを、立ち上げ当初から在籍しているPdMとパートナーの方にコメントしてもらいました。

SaaSプロダクト立ち上げから従事している、PdMからのコメント
複数プロダクトに横断して携わり、UI道場の実施も引き受けてくださったパートナーの方からのコメント

一方で、今後のさらなる組織拡大、デザイン組織主体での事業貢献に向けては、まだまだ課題がたくさんあります。

  • 0→1の新プロダクト立ち上げを担えるレベルまで、個力を磨き上げること

  • デザイナーの採用・育成・評価を司どるデザインマネージャーを採用・登用すること

  • 会社におけるデザインのプレゼンスを高め、デザイン起点での事業成長を実現すること

こうした課題を一つずつ乗り越えながら、デザイン組織をさらに成長させていきたいと考えています。

「デザイン未経験からのジョブチェンジ」という形で始まったデザイン組織ですが、紆余曲折ありながら、なんとか今日を迎えることができています。他社のデザイナーの方とお話する中で、かなり珍しい試みであることも分かってきました。

このチャレンジの根底にあったのは「限られたリソースの中でも、なんとかデザインの力を最大限に生かし、より良いサービスを作っていきたい」という当時の関係者たちの想いだと思います。私たちの場合は、たまたまそれが「ジョブチェンジ」と「パートナーとの協働」という形となりました。

デザイン組織について、多くの会社が試行錯誤を繰り返している中だと思いますが、「唯一無二の正しい組織のつくり方」というものは存在しないと考えています。ビジネスモデルや組織のカルチャーに応じて、それぞれの会社にとって「最適」なデザイン組織があるのだと思います。

そんな中でも、「組織づくり」や「モチベーション」をテーマにビジネスを展開してきたリンクアンドモチベーションだからこそ実現できる、「今までにないデザイン組織の形」をこれからも探究していきます。

些細なご質問からディスカッションまで、もし少しでもご興味があれば、お気軽にご連絡ください!「リンクアンドモチベーションのデザイン組織で働いてみたい!」という方も、もちろんご連絡お待ちしております。