新感覚Vtuberアプリ「IRIAM」を運営する株式会社IRIAMでは、2024年4月から横断型のデザイン組織である「デザイングループ」を設立しました。私は、2023年4月にDeNA デザイン統括部からIRIAMチームに出向し、IRIAMでのデザイン組織開発やマネジメントを担っています。
私は今まで、UI/UXデザインやアートディレクションの経験はありましたが、デザイン組織開発の経験は多くありませんでした。
そのため、手探り状態からのスタートでしたが、IRIAMチームやDeNA デザイン統括部の力を借りながらデザイングループの立ち上げを進め、徐々にIRIAM全体でデザインによる価値発揮ができるようになってきています。
取り組みを振り返りながら、なぜIRIAMで横断型のデザイン組織が必要だったのか、どのようにデザイングループの立ち上げを進めたのかをまとめたいと思います。
IRIAMは、2018年にリリースされた新感覚Vtuberアプリです。2024年3月末時点で、累計ダウンロード数は349万を、年間売上は70億円を超え、成長を続けています。
組織規模も100名を超えており、私がジョインした時点では、約10名のデザイナーがプロダクト開発、コミュニティ、イベントなどのグループに分かれて活動していました。
また、デザイン業務の種類も数も多くあります。例えば、IRIAMではライバーさん・リスナーさんが楽しめる「イベント」を数多く開催しており、その数は大小合わせて月に約200本。これらのクリエイティブは、IRIAMのデザイナーがアートディレクションと一部デザインを担当し、外部の制作パートナーと協力して制作しています。
IRIAMの事業フェーズが0→1ではなく、1→100へと拡大していく状況において、今後のデザイン組織のあり方を改めて考えていく必要がありました。特に、当時のIRIAMのデザイナー体制について、次のような課題が生まれていました。
例えば、クオリティの最終判断を誰がどうやるのか、各所で発生する案件の優先度付けやアサインをどうするのか、IRIAM内でデザイナーのキャリアパスをどう描くのか...など、こぼれ落ちてしまっている論点も多く、個々人はそれぞれの持ち場で頑張っているが、デザインチームとしての事業貢献には伸びしろがあるという状態でした。
IRIAM内でも、このような課題を解決し、事業戦略を推進していくための強い組織としてデザイングループを立ち上げていきたいという期待感も強くありました。
このような背景に加え、私自身もIRIAMというサービスや、プロダクト愛が強く、ユーザーを大切にする組織に共感し、IRIAMチームにジョインしてデザイングループを立ち上げていくことにしました。
とはいえ、当初は私もIRIAMのチーム内でどんな人が、何をしていて、何に困っているのかを深く理解できていた訳ではありませんし、そのような状況で「デザイングループを立ち上げるので、やっていきましょう!」と無理やり旗振りをしてもうまくいかない可能性もあります。
そこで、まずはメンバーと1on1をさせてもらったり、課題のヒアリング、大まかなロードマップのすり合わせなどを丁寧に行っていきました。
次に、洗い出した課題を短期で取り組むもの・長期で取り組むものに切り分けていきました。
すべてを一気に解決することはできないので、長期的な組織体制の構想を進めながら、足元では事業のボトルネックとなるような課題を解消していくことで、徐々にデザイングループの下地をつくっていきました。
短期と長期の切り分けは、ざっくりと以下のような考えで行っています。
短期で取り組むもの
事業のボトルネックとなっている課題解決
デザイン組織化に向けた検証・実績づくり
長期で取り組むもの
立ち上げに向けて取り組むべきことの棚卸し
人員計画の策定・体制強化
それぞれで具体的に行ってきたことをまとめていきます。
まずは事業的にボトルネックとなり得る論点の解消を進めていきました。同時に、組織横断型のグループを一気に作る前に、小さな範囲から組織化を進めることにも取り組みました。
初期に取り組んだ課題の一つが、ブランド監修フローの整備です。
当時、デザイナーが制作したクリエイティブをブランドチームが品質等の観点から監修し、リリース可否を判断するフローになっていました。
しかし、制作物の数も右肩上がりに増え、ブランドチームのリソースも限られる中で、監修フローが機能しづらい状況になっていました。
結果として、リリースの最終判断をする人が曖昧になってしまったり、予定通りにリリースできないことがあったりと、事業的にも、メンバーの負荷としても問題となっていました。
これらは、以前構築された監修フローが、現状の組織状態に合っていないことで生まれていました。当初は最適なフローでしたが、暗黙の了解として続いていく中で、いつの間にかお互いに苦しくなってしまっていた...という構造の問題です。
そこで、ブランド監修は各領域のクリエイティブリーダーが責任を持つようにしつつ、定期的にブランドチームを含めた振り返りを行っていくという仕組みによって解決していきました。
また、デザイングループの立ち上げの前段階で、プロダクトデザイナーを対象に組織化を進めていきました。
当時はプロダクト開発グループのマネージャーが兼任していた、プロダクトデザイナーのマネジメント機能をグループとして担うことで体制を最適化することに加え、小さな範囲から組織化することで実績をつくり、その後のデザイングループ立ち上げをスムーズに行えるようにすることを目的にしていました。
デザイングループとして目指したい体制の可視化や、そのために取り組むべき論点の洗い出しを行い、優先度を付けて取り組んでいきました。
デザイン組織立ち上げを進める中で、取り組むべきことは多岐に渡ります。デザイン組織としての戦略策定や、人員計画、キャリアパス設計、採用など、論点は様々です。
私自身、デザイン組織開発の経験が多いわけではなかったため、DeNA デザイン統括部のマネージャー陣と定期的に壁打ちさせてもらいながら、どんな順番で何に取り組むべきかを整理していきました。
ただし、一気にすべてに取り組めるわけではないので、2024年4月時点でのデザイングループ立ち上げを目標として、やるべきことを絞り込んでいきました。
例えば、オンボーディング強化や、メンバーの目標設定をサポートする仕組みなどは、ゆくゆくは必要だけど今は必須ではない。一方で、事業戦略に紐づいた役割定義や体制づくりは必須だろうといった切り分けを行っています。
また、将来的にどんな体制にしていくべきか、どんな人が必要なのかを人員計画として可視化し、プロダクトオーナーと相談しながら解像度を高めていきました。
初期段階では上図のようにかなりラフな状態ですが、ある程度の組織像をチーム内に共有しつつ、現状の組織状況と照らし合わせて、少しづつ体制づくりを進めていきました。
例えば、先述したプロダクトデザイングループを先んじて立ち上げていく取り組みもその一つです。
他にも、イベント領域のリソースが足りていないというアラートが上がってきた時には、DeNAデザイン統括部に打診してメンバーをアサインしてもらったり、追加のデザイナー採用について経営層と合意形成して採用を進めていきました。
このように、足元の体制強化と人員計画のアップデートを行き来しながら行っていくことで、現在の組織体制へと落ち着いていきました。
上記の流れで立ち上げを進め、2024年4月から正式に横断型のデザイン組織として「デザイングループ」が設立されました。
現在はグループ内で「プロダクトデザインUnit」「イベント・ギフトキャラデザインUnit」という2つのユニットを置き、それぞれリーダー・サブリーダーを立てる体制にしています。
今後は、2つのユニットに統合されている機能を、ギフトUnit・コミュニティUnit・マーケデザインUnitなど、さらに細分化することで、より事業推進に適した体制にしていきたいと考えています。
デザイングループが立ち上がったことで、現時点で次のような変化が生まれています。
IRIAM内の各部署からデザインに関する需要が顕在化
デザイングループができたことで、「うちではこんなデザインの需要があるんだけど、どうしたらいいかな」といった相談を多くもらえるようになりました。良い意味で、IRIAM全体でデザインに頼っていく意識が強くなっていると感じています。
デザイングループとして携わる領域の拡大
結果として、今まではプロダクトとイベント領域に限定した活動が多かったのですが、採用ブランディングやマーケティング領域、海外展開に向けたクリエイティブ制作など、案件の幅が広がっていっています。
その反面、次のステップでの課題も見えてきています。
全体を俯瞰した施策の優先度付けやリソース配分をどうしていくか、また、今はグループリーダーとして私が受け持っている論点を各領域に移譲していくことで、自律的な組織運営を促進するなど、引き続き体制強化を進めていきたいと思います。
IRIAMチームにジョインしてから約1年間取り組んできたデザイングループの立ち上げ。はじめは手探り状態でしたが、メンバーの協力を得ながら、ひとまず区切りをつけることができました。
振り返ってみると、人や構造に対する理解を深め、あるべき姿を描き、トライアンドエラーを繰り返してより良い組織に近づけていくというプロセスは、私が今まで取り組んできたプロダクトデザインのアプローチとよく似ていました。
組織づくりやマネジメントは「何か難しいもの」と敬遠するのではなく、デザインの対象が変わるだけなんだと考えると、むしろデザイナーと相性が良い役割なのかもしれません。
区切りはついたものの、IRIAMのデザイングループは立ち上がったばかりで、これからが本番です。
これからもIRIAMの価値をデザインを通して最大化し、ライバーさんやリスナーさんにとって、なくてはならないサービスにしていくために、チャレンジを続けていきたいと思います。