TIS XD Studioとして、トヨタシステムズにおける新規事業のアイディエーションプログラムを、2023年9月〜12月の3ヶ月間に渡って支援しました。

アイディエーションプログラムの全体像

新規事業創出に向けたアイデア検討は非常に重要なフェーズですが、その分難易度も高く、何から手を付けて良いか悩まれる方も多いかと思います。

今回は、トヨタシステムズとの新規事業アイディエーションプログラムの背景や取り組みをまとめることで、「パートナーとして、いかにアイデアづくりを支援したか」をお伝えします。

TIS XD Studioがトヨタシステムズを支援することになったきっかけは、2023年夏に遡ります。

トヨタシステムズは、トヨタグループ各社のグローバルなIT戦略をサポートする会社です。2023年4月頃から「スポーツ事業推進部」が立ち上がり、某バスケットボールクラブを対象として、ITソリューションを提供していました。 当初は、某バスケットボールクラブと会話し、要望を引き出しながらトヨタシステムズとしてできることを提供する「プル型の支援」が主な取り組みでしたが、より大きな価値貢献ができるように、新規事業の構想・提案をしていく「プッシュ型の支援」に挑戦していくことを意思決定していました。

トヨタシステムズがスポーツ領域で挑戦し始めた、プッシュ型の支援について

トヨタシステムズでは、主にtoBでの新規事業開発やITソリューション提供に関する強みがありましたが、今回は一転してtoCかつスポーツ領域での新規事業であり、今までにないチャレンジングな取り組みでした。

さらに、スポーツ事業推進部は立ち上がったばかりであり、人数も4名と少数 (全社では3000名以上の従業員)。その中で、このチャレンジをより価値あるものにしていくためにも、社内からも幅広い視点、特に若手メンバーのフレッシュな意見を引き出し、新規事業の構想に活かしたいと考えたそうです。

そこで、トヨタシステムズ社内で新規事業のアイディエーションプロジェクトを企画し、メンバーの社内公募を実施。結果として、スポーツ事業推進部の並々ならぬ熱量や、新たなチャレンジに共感した24名の有志メンバーが集まりました。

並行して、前述のアイディエーションプロジェクトを伴走支援してくれる外部パートナーを探していました。具体的には以下のような考えがあったそうです。

アイディエーションプロジェクトに、なぜ外部パートナーを求めていたか

① 新規事業のアイデア創出への知見を得るため 特に、スポーツ領域でのアイデア創出に関しては、社内ナレッジが少なかったこともあり、 外部の専門的な視点から支援が必要でした。 さらに、新規事業でのアイデア検討は極めて重要なプロセスであり、プログラム期間をより充実したものとするためにも、しっかりコストをかけて、最適なパートナーと協業したいと考えておられました。

② メンバーの高いモチベーションを維持するため 実際に良いアイデアが出るかどうかは、やってみないと分からない部分もありますが、参加メンバーの高いモチベーションが重要であることは言うまでもありません。

また、社内公募を中心としたメンバー構成であり、普段関わりが少ない方々も多いため、より良い関係性の中でプロジェクトを推進するためにも、メンターのような存在が必要だと考えておられました。

このような状況の中でお話する機会があり、トヨタシステムズでの挑戦に深く共感するとともに、XD Studioの実績やパーソナリティを評価いただき、伴走支援を開始することになりました。

XD Studioとして支援をさせていただきたいと強く感じたポイントは以下です。

  • スポーツ領域での新規事業創出という、新しく、難易度も高いチャレンジへの熱量

  • アイデア創出の重要性を深く理解し、しっかりとコストをかける意思決定をされていること

  • 既に20名以上の熱量の高い有志が集まっていたこと

まずはじめに、改めてトヨタシステムズの状況をヒアリングさせていただきながら、どのような方針・内容でプログラムを作るかを設計していきました。

特に大事にしていた観点は、次のようなものです。

  1. 新規事業立ち上げというチャレンジにいかに “寄り添えるか”

  2. “生み出すという体験”を限られた時間でどう提供するか

アイディエーションプログラムの設計観点

大前提として、新規事業を立ち上げていく際の不安や「どう進めれば良いんだろう...」という先が見えない怖さは、非常に大きなものだと思います。その中で、トヨタシステムズでは新しい挑戦に熱量高く立ち向かおうとしており、XD Studioとしてもその挑戦に寄り添いたいと考えました。

“寄り添う”というスタンスをプログラムに反映するならば、例えば「押し付けにならない」「楽しめること」「主役はあくまでプロジェクトメンバーであるため、彼らが参加して良かったと感じられたり、絆を深められるようなもの」といった要素が考えられました。

また、アイディエーションはいくつかフレームワークはあるものの、出てくるものは実際にやってみないと分からない部分が多いものです。そのため、限られた時間の中でもしっかりと良いアイデアにたどり着けるような手法の選択も重要なポイントでした。

そのため、例えばゲーム会社さんに教えていただいた発想の転換を促すフレームワークや、エンドユーザーの不満から逆算して発想するフレームワークを色々と組み込みながら、“生み出す体験”をしっかりと提供できるように設計していきました。

このような観点から、7日間のワークショップ、合計3ヶ月間のプログラムを設計し、提案させていただきました。

アイディエーションワークのスケジュール案についての提案資料

大まかなスケジュールに加えて、課題抽出のワークショップを進めやすくするための事前準備の工夫や、楽しい場となるための工夫についても提案しつつ、具体的なプログラム内容をすり合わせていきました。

課題抽出ワークショップに向けた事前準備について
事前にTIS側で現場観察や課題抽出を行い、たたき台として共有することでワークショップがスムーズに進められるようにした
プログラムに参加した方が心から「楽しい!」と思える場にするためのアイデアの例

実際のプログラムは、大きく分けて以下のような流れで実施していきました。

  1. 導入 (DAY1/キックオフ)

  2. 知る (DAY2)

  3. つくる (DAY3-DAY5)

  4. まとめる (DAY6)

キックオフ資料より抜粋
大きく分けて「知る」「つくる」「まとめる」の流れでアイディエーションプログラムを実施

DAY1では、今後のプログラムの全体像に加えて、ワークショップのコンセプトとなる「あそびを、つくる。」についてのインプットや、参加者同士の自己紹介なども実施しました。

キックオフにおける、ワークのコンセプト紹介スライドの例
キックオフ時の様子

DAY2では「知る」というテーマに基づき、自分を知るための目標設定や、課題解決の対象を知るための現地調査、仲間を知るためのチームビルディングを行っていきました。

DAY2の概要について
実際に現地調査をすることで、深く現状や課題感を知ることができるような内容に。

DAY3〜DAY5では「つくる」をテーマに、実際に頭と手を動かし、アイディエーションを行っていきます。某バスケットボールクラブのアリーナ体験が対象となるため「貸し館業務」と「試合当日の体験向上」の2つのテーマを設け、それぞれ「原体験アナロジー」「デザインスプリント」と呼ばれるフレームワークを取り入れたワークショップを実施しました。

DAY3〜DAY5では、実際に頭と手を動かし、アイディエーションを行うワークショップを実施。
ワークショップにおける、アイデア共有時の様子

最終日となるDAY6では、DAY5までに生まれたアイデアに関するアンケートやインタビューを行い、アイデアの検証とまとめを実施しました。

生まれたアイデアをそのままにせず、検証を行い、評価をまとめるところまでをゴールに。

このような内容でトヨタシステムズの皆様と3ヶ月間のアイディエーションプログラムを実施しました。

生まれた具体的なアイデアはご紹介できないのですが、トヨタシステムズ社内では現在以下のような状態となっており、新規事業のアイデア検討フェーズに対してしっかりと貢献ができたと考えています。

  • プログラムを通じて出した新規事業アイデアを基に、お客様(某バスケットボールクラブ)との対話や、現場での調査を改めて実施することで、最終的な新規事業案の検証が進んでいる

  • さらに、プログラムを通じて参加者同士の関係性が深まったり、普段の業務でのコミュニケーションが活発になったりと、連携の強化にも繋がっている

トヨタシステムズ様からは、今回のアイディエーションプログラムに対して、次のようなコメントをいただいています。

トヨタシステムズ S様からのコメント
トヨタシステムズ N様からのコメント

新規事業のアイデアを検討するためのフレームワークは数多くあります。しかし、フレームワークに沿って考えさえすれば、良いアイデアが生まれ、実現することができるといった単純な話ではありません。

アイデアを生み出すこと、実現に向けて検証を繰り返すこと、これらを実際に行うのは「人」であり「チーム」です。

どのようなモチベーションを持っているか、メンバー間の関係性はどのようなものか、ワクワクできているか、それぞれを信頼して強みを活かしあえているか.... このような観点も、より良いアイデアが生まれるために極めて重要だと考えています。

だからこそ、今回のプログラムにおいても、良いアイデアに辿り着くためのガイドを示すことはもちろんのこと、パートナーとして「寄り添う」というスタンスを重視していました。

そのうえで、トヨタシステムズの方々の熱量がうまく噛み合ったことで、お互いに良いプログラムだったと自信を持って言える状態となったのだと思います。

TIS XD Studioではこのように、表層のデザインに限らず、アイデア創出やチームビルディング、事業企画構想まで幅広い支援を提供しています。今後も様々な領域のデザイン支援事例を公開していきますので、ご期待ください。

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