TIS XD Studio(以下、XDS)は、トヨタ技能者養成所の人材育成に関わるメンバーの方々を対象に「未来創造人材育成ワークショップ」を実施しました。

テーマは「バックキャスト思考」を体感し、理解すること。

不確実性の高い時代のモノづくりの現場で、これまでの“改善(カイゼン)”で培った強みを土台としながら、そこからさらに未来の課題に向き合える人材を育成するため、参加者自身が“未来から逆算して考える力”を身につけることを目指した取り組みです。

今回は、このプロジェクトの背景や実際のワークショップ内容、得られた効果をお伝えします。

トヨタ技能者養成所は、トヨタ自動車の技能者の育成を担う部門で、「モノづくりは人づくり」の理念に基づき、モノづくりの現場を支える技能者を育成しています。

トヨタ技能者養成所とXDS が出会ったのは、2025年9月。きっかけは東海地方で行われているUXリサーチに関するワークショップでした。

そこでの会話をきっかけに、「人材育成のあり方を、時代に合わせて変えていきたい」という相談を受けました。XDSとしてどのような形で力になれるかを話し合い、会話を重ねていったことが本取り組みの始まりです。

組織には、モノづくりを象徴する文化として、現場で各々が主体的に課題を見つけ、解決策を導き出す“改善(カイゼン)”があります。

しかし、不確実性が高まり、課題そのものが見えづらくなっている現代において、現場で何十年と培ってきた経験を伝えることはできるが、本当にそれだけで良いのか—。 未来を担う人材を育てていくためには、これまでのカイゼンの考え方に加え、あるべき未来を描き、そこから逆算して考える視点も取り入れる必要があるのではないか――。

トヨタ技能者養成所の方々は、そのような課題感を抱いていました。

このような課題感を丁寧に掘り下げる中で、私たちから提案したのが、自ら未来を想像・創造し、逆算する力(バックキャスト思考)を取り入れてみてはどうかということでした。

現場の観察から課題を見つけ、改善を積み重ねていく考え方は、XDSが大切にしているデザインアプローチとも共通点が多くあります。

しかし、これから起こりうる未来を描き、まだ存在しない課題に向き合うためには、現在を起点にした改善とは異なる視点が必要になります。

そして、このバックキャスト思考を育成に取り入れるためには、まずは人材育成に関わるメンバー自身がその思考法を体験し、あるべき育成の形を自ら描ける状態になることが必要です。

そこで、人材育成に関わるメンバーを対象とした「バックキャスト思考」を身につけるワークショップを提案したところ、「ぜひやってみたい」と前向きな返答をいただきました。

実は私自身、これまでさまざまなクライアントや教育機関の生徒向けに、講義やワークショップを行うことがありましたが、今回のように人材育成を主業務とされる方々向けの機会は、初めてでした。

その中でも、皆さんにとって本当に良い機会だったと思えるように、ワークショップの設計を進めていきました。設計時の観点は主に以下の2つです。

一つ目は、バックキャスト思考を体感し、実際に活かせる内容にすることです。 人材育成に関わるメンバーの方々自身がバックキャスト思考を体感・理解したうえで、未来にあるべき姿を描き、それを実際の人材育成に活かせることが重要だと考えていました。そのため、座学中心ではなく、実際に手を動かし、対話しながら学ぶワークショップ形式にこだわって設計しました。

二つ目は、楽しく、安心して未来を語り合える場づくりです。 他者とアイデアを共有し、互いに応援し合うことで、一人では思いつかないような素晴らしい未来像が生まれます。そのため、とにかく楽しく、心理的安全性の高い場づくりを心がけました。また、この場を通じて、メンバー同士の関係性が深まり、日々の業務における場づくりのヒントを持ち帰ってもらえたらとも考えていました。

ワークショップは2025年9月末の半日間で実施し、トヨタ技能者養成所からは11名の方々が参加しました。 本ワークショップの目的はバックキャスト思考を体感し、理解すること。そのために、5つのワークを通じてバックキャスト思考の一連の流れを体感できるような構成としました。

冒頭では、トヨタ技能者養成所の方々が抱える課題を踏まえ、不確実性の高い時代においては、未来を想像・創造し、そこから逆算して行動する力が不可欠であることを共有しました。あわせて、その力を「育成できる人材」の存在こそが、これからの組織の競争力を左右するというメッセージを提示し、ワークショップを開始しました。

以下、前述のワークショップの設計観点とした2つの点に沿って、実際の内容をいくつか紹介します。

ワークショップでは、バックキャスト思考を知識として「知る」だけでなく、育成の現場で実際に「活かせる」ようになることを重視していました。

そのため、バックキャスト思考の一連の流れを「未来像を描く → 逆算する → 小さな行動に落とす」というステップに分解し、それぞれに対応するワークを用意。参加者が段階的に思考を深めながら、自然とバックキャストの考え方を体感できる構成としました。

ワークショップ前半では、「未来のトヨタのトップマネジメントから、現在の自分に使命を伝えるポストカードが届くとしたら、そこには何が書かれているか」という架空の設定のもと、自由に未来を想像してもらいました。

続いて、その未来像を起点に、「その未来を実現するためには、どのような状態や出来事が必要か」「そこに至るまでに、どんな節目がありそうか」を時間軸に沿って整理していきました。

最終的には、描いた未来と現在との間にあるギャップを踏まえ、「明日から何ができそうか」という小さな行動レベルまで落とし込みました。

日常業務や現場の延長線ではなく、あえて制約を外して未来を描いてみる。それをアイデアで終わらせるのではなく、自分自身の言葉で行動につなげることで、「あるべき未来から逆算し、行動する」という思考の流れを体感してもらえるように心がけました。

未来を描くという行為には正解がなく、一人で考えていると不安を感じやすいものです。一方で、他者が描く未来像から共感やヒントを得たり、意見を交わし合ったりすることで、一人では思いつかないような素晴らしい未来像が生まれ、仲間と共有できる指針へと育っていきます。

そこで今回のワークショップでは、個人で考える時間と、他者と共有・対話する時間を意図的に織り交ぜる構成としました。

共有の際には、批評や指摘ではなく「Yes, and」の精神をグランドルールとし、共感や驚き、応援、アドバイスといった、相手のモチベーションを高める言葉を贈ることを大切にしました。

例えば、ワークの中で実施した「美術館ウォーク」では、壁に貼られた参加者全員のアウトプットを鑑賞しながら、付箋で感想を書き込んでいきました。その付箋を手がかりに、新たな視点や気づきを得て、次のワークへとつなげていく流れをつくっています。

こうした、楽しく、安心して未来を語り合える場づくりを心がけたことで、メンバー同士が言葉を掛け合う中で心が動く瞬間や、立場や経験年数を越えて、ワクワクしながら未来について語り合う姿が次第に見られるようになっていきました。

ワークショップ終了後、参加された皆様から高評価をいただくことができました。

バックキャスト思考という考え方を知るだけでなく、未来について仲間とポジティブに語り合える場そのものが新鮮だったという反応も多く、場づくりという点でも意義のある時間にできたことは、私たちとしても嬉しく感じています。

今回はバックキャスト思考を体感し、理解することをゴールとしていましたが、今後さらに内容をブラッシュアップし、日々の育成の現場でより活用できるような研修を届けられるよう、事務局の方とディスカッションを進めています。

トヨタ技能者養成所において、未来を描き、未来から逆算できる「未来創造人材」を育てていくこと。そのために、引き続き支援していきたいと思います。

今回は、トヨタ技能者養成所における人材育成の取り組みとして、バックキャスト思考をテーマにしたワークショップの事例を紹介しました。

技術や産業構造、地政学、社会課題など、あらゆる前提が短いスパンで移り変わる不確実性の高い時代において、自ら未来を想像・創造し、逆算する力(バックキャスト思考)は、より重要性を増しています。

それは製造業に限らず、あらゆる産業に共通する課題だと考えています。

XDSでは、今回の「未来創造人材育成ワークショップ」だけでなく、多様なクライアントに伴走しながら、組織づくりやサービスデザインの支援を行っています。

XDSが手掛けたプロジェクト一覧 : https://cocoda.design/teams/tis

人材育成や研修、サービスやプロダクトの開発など、お困りのことがあればぜひ一度ご相談ください。

具体的な支援ができるかどうかに関わらず、これまで培ってきた知見や経験をもとに、少しでも皆さまのお役に立てればと考えています。

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