TIS XD Studioとして、B.LEAGUEにおけるマーケティング戦略の設計支援を実施しました。
B.LEAGUEでは、入場者数の増加を目指してマーケティング戦略を設計する中で、「机上の空論ではなく、顧客の声を深く理解し、効果的な施策を組み立てたい」という強い意思がありました。TIS XD Studioは、この意思に応える形で、ユーザーリサーチを通じて顧客理解を深め、そのインサイトに基づいた施策設計までを伴走支援しました。
プロジェクトの背景や取り組みをまとめることで、「パートナーとして、ユーザーリサーチを通じた戦略設計支援をどのように行ったか」をお伝えします。
B.LEAGUEは2016年に開幕した日本の男子プロバスケットボールリーグです。
B.LEAGUEでは、2024年6月に、2050年に創りたい世界観 “B.LEAGUE 2050 VISION『感動立国』”と、その実現に向けた中期経営計画を発表。さらに、達成を目指す具体的な数値目標も公開しています。
その中で、2023-24シーズンに記録した約450万人の総入場者数を、2028年までに700万人まで引き上げるという大きな目標を掲げています。
入場者数を大きく伸ばすためには、新規のお客様を増やすだけでなく、リピーターを増やすことも重要です。そのためには、バスケ観戦の一連の体験(=観戦体験)をより良くし、「本当に楽しかった、また来たい!」と強く感じてもらうことが鍵となります。
さらに、元々バスケが好きな方、初めて訪れる方、地方から訪れる方、家族連れで訪れる方など、様々な属性のお客様がいらっしゃる中で観戦体験を向上させるためには、お客様を深く理解することが極めて重要です。
その中で、B.LEAGUEは「机上の空論ではなく、顧客の声を深く理解することで、効果的な施策を組み立てたい」という強い意志を持っており、私たちもその意志に深く共感し、ユーザーリサーチを通じた支援をさせていただくことになりました。
TIS XD Studioとしても、今回のようなマーケティング戦略設計の支援は、非常にチャレンジングな機会でしたが、これまで培ってきた生活者起点での価値創出の経験を活かし、若手メンバーも含めて一丸となってプロジェクトに取り組みました。
まずはじめに、実際にバスケの試合を観戦しに行きました。実際に観戦することで、当事者としての感覚を深く理解するとともに、リサーチを通して「何を明らかにできると良いのか?」について仮説を立てることが目的です。
具体的には、B.LEAGUEに所属する2つのクラブの試合観戦を実施。アリーナで実際に観るバスケの試合は非常に盛り上がり、私たちも自然とガッツポーズをしたり、大きな声援を送ったことを覚えています。
その後、「試合観戦をまたしたいと思ったか、そうでないか、それはなぜか」「テンションが高まった瞬間はどんな場面だったか」を自身の視点から書き出してみたり、少し俯瞰して「地域ごとに盛り上がり方に違いがあるか」「子連れの方とそうでない方の体験に違いがあるか」といった様々な観点から仮説を立て、リサーチ計画に反映させていきました。
リサーチにかけられる期間も限られていたため、必要十分なプロセスに絞り込み、以下のような流れでリサーチを行いました。
また、リサーチを通して得られた結果は、その後の戦略設計に活かせなければ意味がありません。ただ大量のユーザー情報を集めてお渡しするだけでは共感しづらく、「なんとなく理解したが、活かし方が分からない」という状態に陥りがちです。
そのため、得られた情報をいかに分かりやすく、活用しやすい形で分析・可視化するかについても、試行錯誤を繰り返しました。
まず、バスケ観戦に訪れる方々の属性や特徴、観戦を通じてどんな体験をするのかを理解するために、モニターインタビューを実施しました。
インタビュー対象は、「新規来場者かリピーターか」「都市住まいか地方住まいか」「独身か既婚か、または子連れか」などの切り口からセグメントを整理し、2週間で計22名にインタビューを行いました。
このインタビューは、TIS XD Studioの若手メンバー2名を中心に実施しています。短期間で大人数のリサーチを行うために、お互いのノウハウを共有し合いながら推進してくれました。
その後、各モニターの属性情報や特徴を以下のように可視化し、全体像を把握しやすくするとともに、一人ひとりに対する共感を得やすくしています。
さらに、属性ごとのお客様像を抽象化し、試合前後における興味・関心をマッピングしました。 例えば、当初は選手に関心が強いわけではなかったが、観戦を通じて気になる選手ができ、その後熱心に調べるようになったなど、試合前後での興味・関心の変化を可視化しています。また、それらの変化がリピートに関連しているかどうかの傾向も把握できるように心がけました。
この時点で、例えばB.LEAGUEの強みである「演出の派手さや非日常感」「競技の迫力やスピード感からくる没入感」に対して、多くの来場者が驚きや満足感を感じている一方、その後のリピートに繋がることが少ないといった傾向が見えてきました。
没入感や興奮の裏側でふと感じる不自由さがあったり、バスケが非日常体験で終わり、日常生活に戻るとバスケに触れる機会が少ないといった課題も新たに見えてきたため、ここからさらに体験を俯瞰し、顧客理解を深められるようにしていきました。
より体験を俯瞰できるようにするために、観戦の前中後の体験をジャーニーラインとして可視化しました。お客様の属性ごとに、プラスの体験・マイナスの体験の変遷を構造的にまとめ、どの要素がどの体験に影響を与えているのかを、視覚的に、かつ線として理解できるように心がけました。
一方で、このような構造は資料として見るだけではなかなか共感しづらいですし、今後施策を実行していくB.LEAGUEの皆様が深く理解し、その背景にあるインサイトまで自分の言葉で語れる状態になっていなければ、あまり意味がありません。
そこで、ここまででまとめてきた情報を基にした分析ワークショップを、B.LEAGUEの皆様と一緒に実施しました。
マイナスの体験をプラスの体験に変換することが最優先と考え、まずはマイナスな体験に着目し、来場者の体験の背景にある「ユーザーの欲求や願望」を言語化することをゴールに実施しています。
上位下位関係分析という定性データの分析手法を用いて本質的なインサイトを言語化・共有し、どのインサイトに対して優先的にアプローチすべきかを検討していきました。
次に、抽象化したインサイトに対応する形で、体験を改善・革新する施策案を洗い出していきました。
ジャーニーラインのマイナス体験・プラス体験のうち、施策によってコントロール可能なもの ( 例えば試合の勝敗や内容はコントロール不可能 ) を中心に、以下のようなフォーマットで施策案をまとめました。
ユーザーの実体験 (マイナス・プラス)
ユーザーの欲求・願望
施策案
また、各施策は「大人のみで観戦するのか、子どもと観戦するのか」「試合開始前か、試合中か、試合開始後か」といった組み合わせごとに整理しています。
例えば、「(他のスポーツの会場と同じように)フードトラックがたくさんあると思っていたが、実際は2台しかなく、選択肢が少なくて残念だった」という実体験があるとして、その背景には「バスケ以外も目一杯体験して満足したい」「非日常感を味わいたい」というインサイトがあると考えられます。
このままではお客様の期待と実際の体験にギャップがあり、ネガティブな記憶として残る可能性があります。そのため、たとえマイナスイメージの情報 (フードトラックが少ない) であっても、正確な情報や代替手段をアプリの通知等でお伝えするといった施策案が考えられます。
このような施策案を50個ほど洗い出し、また、その施策を実施すると体験がどのように変化するのかを想定しやすいようにジャーニーラインとの関連性も含めて共有し、B.LEAGUEの皆様と今後の方向性をすり合わせていきました。
このようなプロセスで、ユーザーリサーチを通じたマーケティング戦略設計の支援を行いました。現在は、今回設計した戦略をベースとした施策実行が進んでいます。
B.LEAGUE様からは、私たちの支援に対して、次のようなコメントをいただいています。今後もパートナーとして、エンターテイメントとしてのバスケを、より魅力的で、感動を提供していくために、伴走していきたいと思います。
改めて、TIS XD Studioとしてこのようなマーケティング戦略の設計支援に携わることは、とてもチャレンジングでした。
私たち自身も、実際にバスケを観戦したり、何度もインタビューを行う中で得られる学びが多くありましたし、当事者の感覚を理解するにつれて「この人たちがもっと楽しめる体験を届けたい」という想いが一層強くなっていきました。
また、若手メンバーの活躍も非常に大きく、ディレクターとしてプロジェクトを引っ張ってくれたメンバーは、バスケの魅力を理解するために何度も試合観戦に行ったり、SNSも熱心にチェックしてくれていました。このような姿勢に、私自身も大いに助けられました。
さらに、B.LEAGUEの皆様の「顧客理解を深め、手触り感のある施策を組み立てたい」という熱意にも支えられ、関わったメンバー全員にとって納得感のあるアウトプットに繋げることができたと思います。
一方で、もう少し踏み込んでインサイトを見極められなかったか、もっと芯を喰った分析ができなかったかなど、今後に向けた反省点もいくつかありますが、パートナーとして支援を続ける中で、チームとして改善していきたいと考えています。
TIS XD Studioではこのように、表層のデザインに限らず、事業企画構想や戦略設計支援、チームビルディングなど、幅広い支援を提供しています。今後も様々な領域のデザイン支援事例を公開していきますので、ご期待ください。