ダイニーでは、新たな事業価値を発見する0→1フェーズに特化した 「ディスカバリーチーム」を組成し、活動しています。
このチームは、PdM・デザイナー・エンジニアの3名という最小構成で編成されており、私自身も創業初期からディスカバリーチームのデザイナーとして活動してきました。
今回は、ダイニーにおけるディスカバリーチームの立ち位置や、これまでの具体的な活動内容についてまとめたいと思います。
ダイニーは、「All in One Restaurant Cloud.」を掲げ、外食産業におけるオーダー領域、店内オペレーション領域、CRM領域、タレントマネジメント領域、ファイナンス領域などを包括的にサポートするマルチプロダクト構想に取り組むスタートアップです。
https://speakerdeck.com/diniiofficial/dinii-company-deck-ver-dot-1-0-2024
ディスカバリーチームは、新たな事業価値を発見する0→1フェーズに特化した専門チームです。
組織図上はCEO室直下に位置し、私はこのディスカバリーチームと、既存プロダクトのデリバリーを担うデザインチームの双方に所属しています。
現在のディスカバリーチームは3名体制で、PdMは代表のmao、エンジニアはkido、デザイナーは私が担当しています。
正式にチームとして組織化されたのは2024年ですが、その機能自体は創業初期から存在しており、これまでもダイニーにおける複数の0→1フェーズの事業立ち上げに携わってきました。
ディスカバリーチームにおける、事業化までのプロセスは大きく分けて以下となります。
一般的な新規事業部門と異なるのは、飲食領域というバーティカルな市場において、ダイニーのアセットを活かしながら、TAMを拡大していく事業を連続的に立ち上げていくという点にあります。
ミッションの設定
プロトタイピング
初期セールス
テスト運用 / 有償契約の獲得
事業部への引き継ぎ
細かなプロセスは状況によって異なりますが、共通して重視しているのは、「売れる価値」を生み出し、実際に顧客が契約している状態をいかに早く実現するかという点です。
ここからはさらに詳細なプロジェクト例として、直近で取り組んでいた「キオスク事業の立ち上げ」についてまとめます。
2024年10月から2025年3月にかけて、ディスカバリープロセスを通じて立ち上げた事業のひとつが「キオスク事業」です。
これは、ラーメン店やフードコートなどの昼業態の飲食店に設置する店頭端末(キオスク)をダイニーとして提供し、売上向上を支援するサービスです。
今回のミッションは、TAM(Total Addressable Market)を拡大するための新規事業を検証・立ち上げることでした。
これまでダイニーは、主に居酒屋などの夜業態に対してサービスを提供してきましたが、昼業態の店舗にもサービス提供を広げることで、TAMを拡大できるのではないかという仮説が出発点となっています。
昼業態へのサービス提供といっても、キオスクに限らず、セルフレジやテイクアウト対応など、複数のアプローチが考えられるため、どのアプローチから検証を進めるかについても、チーム内で適宜判断していく必要がありました。
ゴールとしては、いずれかのアプローチで「有償契約を獲得できていること」と明確に定め、その実現に向けて、PdM・デザイナー・エンジニアの3名がチームとして一丸となって取り組んでいきます。
まずは、複数のアプローチを検証可能な状態にするために、各サービスに対するデザイン案のベースを高速で作成しました。
この段階ではキオスクだけでなく、セルフレジやテイクアウトなど、想定される複数のサービスに対応したデザイン案を網羅的に制作。あらかじめデザインを素早く準備しておくことで、後述する初期セールスのスピードを早め、実際に反応の良かったアプローチに対して、リソースを集中できる状態を整えました。
ディスカバリープロセスの中で、デザインだけに集中した期間は1週間程度です。山登りに例えるならば、「デザインを作り終えること」は荷造りを終えた段階に過ぎません。
このフェーズで重視すべきなのは、デザイン自体の完成度よりも圧倒的なスピードです。スピードを優先することで、検証段階における失敗からより多くの学びを得ることができます。
どれだけ丁寧に準備を重ねても、失敗する時は失敗する。であれば、最初から完成度の高さにはこだわらず、早くつくって早く試す、という姿勢で臨むほうが有効です。
では、この段階で「捨てるべきもの」とは何か。たとえば、以下のようなものが該当します。
きれいに整ったデザインシステム
全画面・全機能を網羅した設計
目新しさや独自性を追求したデザイン
リッチに繋ぎこまれたプロトタイプ
上記のアクションが重要な場面も当然ありますが、この段階では丁寧さや完璧さよりも、粗くても良いので価値になり得るものを素早く可視化していくことが求められます。
手を抜くべきところを見極めることも、このフェーズにおいては重要だと考えています。(全部をやらなくても良いと思えば、気持ちも楽になります)
次に、実際にお客さま候補となり得る方にアポイントを取り、商談を通じてニーズの検証を行います。
基本的にはチーム内で分担しており、全員が顧客接点を持つようにしています。提案資料は共通のものを使いつつ、顧客とのコミュニケーションは各自のスタイルに合わせて行い、その結果は都度チームに共有し、常に共通認識を持てるようにしています。
ディスカバリーフェーズにおいて、自ら顧客接点を持ち、大小さまざまな課題を直接把握し、素早く提案内容の改善に繋げていくためにも商談は重要な機会だと考えています。
捉え方としては、「セールストークをする」というより、「(改善に繋げるために)ヒアリングをする」と捉えると良いかもしれません。
たとえば今回では、「従来の券売機では、メニュー入れ替えや価格変更をする場合、業者に依頼する必要があり、時間的・金銭的コストがかかって大変」というインサイトを得た際に、「メニューの入替や価格変更が簡単にできる」という訴求を強めた営業資料に更新する、といった改善を行っていました。
このような改善を繰り返しながらニーズ検証を行っていった結果、まずはキオスクに絞ってテスト運用・事業化を行っていくことに決定しました。
初期セールスを経て、導入店舗が決まった後には、テスト運用を行っていきました。
キオスクのテスト運用における検証項目としては以下の2つです。
ダイニーのキオスクで売上があがるか
キオスクでID取得(会員登録)できるか
テスト運用の期間中は導入店舗に視察に行き、検証項目に対してうまくいっていない箇所があれば、課題を特定し、即改善を行っていきます。ここで、実際に売上向上まで至った改善例を2つ紹介します。
1つ目は、「キオスクでのトッピング訴求」に関するものです。
当初は、キオスク上でトッピングの訴求を強めることで単価アップが期待できるのではないかという仮説を立てていました。しかし、実際には「キオスク導入後もトッピングなしの注文が多い」「ドリンクの注文がほとんどない」という状況となっていました。
なぜこのような状況となっているのかを把握するため、実際に店舗で視察したところ、以下2つの課題が見えてきました。
オプションエリアが縦スクロールで、最後まで見られない
ドリンクカテゴリの存在に気づいていない
そこで、「トッピングエリアを横スクロールに変更する」「ドリンクもトッピングに含める」という改善を実施しました。
その結果、トッピングやドリンクの注文数が増加し、客単価が100円アップするという成果が得られました。
客単価が100円上がると、仮に1日の来客数を100名、月営業日数を25日とした場合、1日あたり1万円、1ヶ月で25万円、年間では300万円の売上増につながるため、非常に大きなインパクトがあると言えます。
2つ目は、「キオスクでの会員登録導線」に関するものです。当初はキオスク内にQRを表示する設計としていたのですが、これがうまく機能していなかったのです。
課題特定のため視察をしてみていたところ、「注文中のユーザーはタスク過多である」という状況が見えてきました。慣れない端末で注文操作を行っていたり、後ろには待っているお客さまがいたりと、忙しく焦りやすい環境にあります。
つまり、キオスクでの注文中に表示されたQRを読み取っている暇はないということです。
一方、お客さまの行動を観察していると「注文後に提供を待っている時間は比較的余裕がある」ということが分かりました。手持ち無沙汰に過ごしていることも多く、このタイミングであれば、ちょっとした暇つぶし感覚で会員登録するという行動が生まれやすいのではないかと考えました。
そこで、レシートで会員登録訴求を行うという改善を行ってみました。
その結果、キオスクでの会員登録率が5%から50%へ大幅アップするという成果が得られました。
実は、この改善にかけた時間は約3時間(レシートレイアウト10分、UIデザイン・アニメーション2時間、卓上ポップ1時間)ほどです。視察を踏まえた正しい課題特定と改善によって、スピーディーに結果を出せた事例と言えます。
このような課題解決を高速で行っていき、実際に導入店舗での売上向上を実現できるということが検証できた後は、有償契約していただけるように提案を行うフェーズに入ります。
具体的には、テスト運用中の検証結果や成果などの情報をまとめた提案資料を作成し、導入店舗の方々とのコミュニケーションを行います。
結果として、前述の売上向上に関する成果や、オペレーション負担の軽減などについて評価をいただき、この段階で約5店舗の有償契約を獲得することができました。
有償契約の獲得をもって、キオスクの0→1フェーズでの検証を完了とし、正式な事業化フェーズへと移行することになりました。事業化にあたっては、社内で新たなチームを立ち上げ、ディスカバリーチームからの引き継ぎを行います。
キオスク事業には、PO1名・デザイナー1名・エンジニア3名で構成されるチームを組成。ディスカバリーチームのPOを中心に、検証結果や今後の事業計画に関する引き継ぎを実施し、私はデザイナーとして、デザインに関する引き継ぎを行いました。
具体的には、キオスクを引き継ぐデザイナーに伴走し、デザインシステムの構築などを行なっています。
前述の「捨てるべきこと」でも触れた通り、ここまでで作っていたデザインは、スピードを重視したものです。そのため、この段階で改めて情報設計やコンポーネントの見直しや、デザインシステムの整備を行うことで、今後のスケールがしやすくなるようにしています。
ここで、視点を少し変えて「ディスカバリーチームのデザイナーに求められることは何か」について、自分なりの考えを整理したいと思います。比較的属人性の高いポジションであることは理解しつつ、それでも共通して求められる点はあると考えています。
1. 速さと守備範囲 これまでまとめたように、ディスカバリーを少人数チームで進めるうえでは、UIデザイン・資料作成・商談・カスタマーサポートなど、一定の守備範囲の広さが求められます。
特にデザイナーとしては、プロトタイピングや視察を通じた改善などを通じて、素早くデザインを可視化することで、検証サイクルを加速させる役割が期待されます。
2. 捨てる力 丁寧さや完璧さを求めたデザインが、ディスカバリーフェーズでは必ずしも必要とは限りません。重要でない部分をあえて削ぎ落とす、あるいは“楽をする”という判断ができることも大切です。
また、「変えられない変数を無理に変えようとしない」というのも、重要な捨て方の一つです。 たとえば、キオスクの会員登録導線において「注文中は忙しいし焦る」という状況そのものは変えづらい。であれば、キオスク上で無理に解決しようとせず、別のタッチポイントでの解決を図る方が効果的です。こうした取捨選択も、大切な視点だと思っています。
冒頭でもお伝えした通り、ダイニーは「All in One Restaurant Cloud.」を掲げ、外食産業におけるさまざまな領域に対して、次々とプロダクトを提供していく構想を持つスタートアップです。
飲食というドメインに深く根を張り、圧倒的な現場理解を武器に、新たな価値を生み出すプロダクトを連続的に立ち上げていく。さらに、競合プレイヤーも多く存在する中で、他の追随を許さないスピードで進化を続けていく。このような環境において、ディスカバリーチームが担う役割は非常に大きいと感じています。
現在は1ユニット体制ですが、今後はディスカバリーチームの体制も拡大させ、ダイニーにおける高速なプロダクト立ち上げを支える中核的な存在へと成長させていきたいと考えています。
個人の視点で見ても、ディスカバリーチームは自分にとって非常にフィットしたポジションだと感じています。
これまでにない新たな価値を見つけ出し、デザインの力を武器に、高速で価値提供へとつなげていく。そのインパクトの大きさにやりがいを感じますし、こうした経験を重ねていく中で、チームとしての「打率」も着実に高まっているという実感があります。
これからも、泥臭く自らの足を動かしながら、新たな価値をつくり続けることに本気で向き合っていきたいと思います。