エムスリー BXデザイナーの前田です。広告制作会社やエディトリアルデザインを主軸とするデザイン会社を経て、2023年にエムスリーに入社。現在は、クリエイティブ制作やUI/UXデザインなど、幅広い領域で活動しています。
昨年からは、デザイングループ内に発足した採用チームの一員として、採用ブランディングにまつわるさまざまなプロジェクトに携わってきました。
もともと採用ブランディングに関する経験や知識があったわけではありませんが、チームで連携しながらボトムアップに施策を積み重ねていくことで、認知度の向上や印象の変化などの成果につなげることができています。採用目標を担うにあたって、デザイナーとしてどのように関わり、貢献してきたかをご紹介します。
エムスリーデザイングループでは、2024年4月から全社採用強化に向けた取り組みを本格化させています。その一環として、デザイングループメンバー全員が採用関連の目標を持ち、リソースの10%を採用プロモーション活動に充てることを決定しました。
これまで、デザイングループの採用活動は主にCDOの古結が担っていましたが、私を含めたメンバーの増加に伴い、採用チームを発足。採用プロモーションの戦略設計や実行を担う体制を整えました。
採用チームでは、デザイングループの認知向上に加え、グループを超えてエムスリー全体の採用関連プロジェクトを推進していくことをミッションとしています。
その中で私は、採用ブランディングを担当することになりました。通常業務と並行してリソースの25%を採用施策に充て、主にSNSの運用や、採用資料の作成、展示物の制作などを行いました。
しかし、前述の通り、私自身は採用ブランディングに関する専門的な知識や経験があったわけではありません。その中で、メンバーそれぞれの専門性を掛け合わせ、ボトムアップで施策を推進しながら学習を増やし、成果につなげることを意識して取り組んできました。
ここからは、実際の取り組みを例に、意識していたポイントや、成果につながった施策から得た学びを、できる限り詳しくまとめていきたいと思います。
SNSを軸とした採用プロモーションでは、インプレッションやフォロワー数などの指標を設定し、効果が見込めそうな施策を実験的に運用しながら、改善を重ねていきました。
まずは、SNSでどのような投稿が効果的かを探ることから始めるため、1日1投稿の「100本ノック」企画をスタートしました。
背景には、エムスリーのデザイン組織は外から見ると「何をしているのか」「どんな人がいるのか」が伝わりづらいという課題がありました。実際には、多様なバックグラウンドを持つ個性豊かなデザイナーが在籍しており、その魅力を知ってもらいたいという思いから、この企画を立ち上げました。
企画決定から約2週間で、まずは2〜3人のメンバーで20枚程度の投稿画像と企画のキービジュアルを制作し、施策をスタート。同時に、チーム内の自由公募も実施しながら、1日1枚のペースでSNS投稿を行っていきました。
■ どのような画像だと反応がよいかひたすら試行錯誤
画像の内容についても、実験を重ねながら反応の良いパターンを探っていきました。
当初は「デザイングループのカルチャーを表す言葉とグラフィック」を中心に投稿しており、認知を目的とした投稿としては一定の効果があったものの、大きな反響にはつながっていませんでした。そうした中、「ネコ派の人待ってます」というキャッチコピーと、ネコが医師の格好をした画像を投稿したところ、インプレッションが大きく伸びたのです。
■ 手応えを感じた投稿
ここから得られた学びは、周囲がリプライなどで気軽に参加しやすい投稿であることが、SNS上では重要だということです。同じ系統の例として、「駄洒落文化あります」という文字だけの画像も、駄洒落文化のあるエンジニアリンググループの方がリポストで取り上げたことで、波及的な効果が生まれました。
SNSを隙間時間に眺めている人たちに反応してもらうには、「一言のコピーで明快なメッセージを届けること」が重要だと考えられます。また、エムスリーのこれまでの投稿やブランドイメージとのギャップも、魅力につながったのかもしれません。
他にも、「医師のポートレート写真をAIで生成した投稿」や、「スライド形式でサービスや事業を紹介した投稿」、「漫画を使って面白おかしくカルチャーを表現した投稿」などが、いずれも初速で1.5万インプレッションを超える反響を得ました。
特に漫画投稿は大きな反響があり、担当デザイナーがエンジニアリンググループの漫画を使った採用プロモーションにも参加するなど、横展開のきっかけにもなりました。
また、100本ノックのために制作した動画がキャンペーンLPのキービジュアルに採用されるなど、思いがけない広がりが生まれるのも、この企画ならではの醍醐味でした。
■ ピボットの決断
PDCAを継続的に回すことでいくつかの傾向が見えてきた「100本ノック」でしたが、100枚目あたりからユーザーが投稿に慣れ始め、効果が徐々に鈍化していきました。そこで、より効果的な別の施策に移行するため、スパッと終了する決断をしました。
こうした素早い判断と実行ができたのは、CDOがチームにいるからこそだと感じています。とにかく少人数のチームでフットワーク軽く企画を遂行するスタイルはエムスリーらしいと感じています。
また、1日1枚の実験的な投稿フェーズを経て、そろそろ腰を据えてブランディングにつながるSNS運用へと移行するタイミングが来たのかもしれません。今後も、デザインGの魅力をより多くの人に伝えられるよう、企画を生み出し続けていきたいと思います。
Designship 2024では、ノベルティや展示デザイン、SNS投稿を担当しました。
■ SNS作戦「マシンガン打線」
このイベントへの参加は2回目だったため、昨年の課題を念頭にイベントの企画が始まりました。前年度に比べてスケジュール感を把握していたこともあり、ノベルティの準備は約1ヶ月前に完了。直前はSNSでのプロモーションを強化しました。
イベントが開催される10月には、当日の12日まで毎日イベント関連の投稿を行い、カウントダウン形式で盛り上げを図りました。チーム内でこの作戦を「マシンガン打線」と呼んでいました。採用チームの中に動画チームがあることで、フットワーク軽くSNS上でイベントの様子が公開できます。
ノベルティのパッケージング作業は、昨年同様、担当メンバーで行いました。エムスリーではユニークさを重視しており、ノベルティ専門の業者は使わず、シールの作成やパッケージングもすべて自分たちの手で行っています。
動画チームも同行し、準備風景もコンテンツとしてSNSで公開。ただし、パッケージの全貌が見えてしまうと当日の新鮮さが失われてしまうため、全貌が映りすぎないよう意識していました。
Designshipの後も、ノベルティ開発秘話をコンテンツ化し、SNSで公開することで、効果を最大化できるように心がけました。
イベントノベルティとして、検討の末に選んだのは「シャーレキャンディー」です。
前年度は医療を感じさせるアイテムとして「試験管金平糖」を配布し、これが非常に好評だったことから、今年も“実験器具シリーズ”として、シャーレにパッケージングされたキャンディーを採用しました。
展示ブースでみた時に、試験管やシャーレが整然と並んでいる様が医療や化学を彷彿とさせるような雰囲気作りを行っています。中のキャンディーは京飴という飴で、色味がカラフルで、試験管金平糖とならんだ時にも相性のよい色味であったことなどからこちらの飴を選びました。
■ Designship 2024 ノベルティの試行錯誤
キャンディーに行き着くまでの試行錯誤を紹介します。例えば、コーポレートカラーである青のコーラを「エムスリーブルーコーラ」として配布することも検討していました。
しかし、取り寄せたコーラでパッケージングを試してみると、実物の色は鮮やかなのですが、ビンやパウチに充填すると予想以上に濃い色味であることが判明。エムスリーの目指す「医療感」「清潔感」からイメージが離れてしまうため再考することにしました。
次に試したのがハーブティーです。医療の会社であるため、効能があったりノンカフェインである点も親和性がよく、シャーレの中にハーブが入った見た目も標本のようになるのではとイメージしていました。
ハーブの色味が鮮やかなものを取り寄せシャーレに入れてみましたが、遠目でみた時にどうしても色味が分かりづらい点や、試験管と並んだ時に統一感が感じられなかったため再検討することにしました。(Designshipのノベルティとしては採用に至りませんでしたが、ハーブティー自体はとても素敵なものだったので、こちらはデザインを修正して別の機会に配布することにしました。)
ノベルティ制作で学んだことはプロトタイプをなるべく早く作り、チーム全員で共有することです。
商品自体の味や色、並んだときの印象、実際にお渡しするイメージなどをチーム全員で確認することで改善点が多く発見できます。また、作り込まず早めに方向転換するためにも定期的にチームメンバーの意見をもらえます。実際に多くの変更はありましたが、最終的なアウトプットが企業のブランディングとして最も納得感のあるものになったかと思います。
結果として、イベント前後で比較してSNSのフォロワーが404名増えました。来場者が1,739人でしたので、23%の方にフォローいただいた計算になります。SNS上でも、「ノベルティといえばエムスリー」と言っていただけるほどの反響をいただきました。
デザイングループ自身の採用プロモーションの推進だけでなく、エムスリー全社の採用サイトや採用資料の制作にも幅広く携わっています。
エムスリーが展開するサービスや事業は多岐にわたり、組織も拡大し続けているため、採用関連の制作に常に需要があります。その中で、他グループと連携しながら課題を引き出し、採用施策の推進につなげます。
エムスリーの製薬企業向けマーケティング支援事業を行っているSPBUというチームの採用資料の制作を行いました。
SPBUは採用人数が最も多く、大勢の戦略ファーム出身者が活躍している、エムスリーの中核事業を担う部署です。
https://speakerdeck.com/m3_spbu/spbushuo-ming-zi-liao
事業部メンバーが作成した素案をもとにヒアリングをしたところ、エムスリーの事業がBtoBということもありビジネスモデルや働いている人の人物像が外部からイメージしづらいことを課題としていることが分かりました。
そこでまずは実際にデザイナーもSPBUの定例会議に飛び込んで参加して、実際のチームの雰囲気を感じてみることにしました。定例会議に参加した結果、知的でロジカルな雰囲気は外部からのイメージ通りでしたが、思った以上に会話の中には優しさや親しみやすさもあったことから、ロジカルさと親しみやすさを両方感じられる採用資料を作る方向性が見えてきました。
この方向性をもとに部署の雰囲気をもっと分かりやすくするために、実際に働いているメンバーの写真を新たに撮影することにしました。
社内デザイナー2名が中心となって、外部カメラマンと連携しながら一貫してディレクションしました。
撮影依頼から日程調整、ロケハン、香盤表(タイムスケジュール)作成、当日の現場ディレクション、撮影後のレタッチ指示に至るまでを全て少人数で遂行しました。
社内メンバーの自然体な表情や動きが引き出せるように、カメラマンとの事前すり合わせでは「演出しすぎないリアル感」やSPBUらしさについて細かく共有しました。
当日は自然光の入る方角を踏まえた撮影場所の調整や、被写体となる社員が緊張しないような声かけ、雰囲気づくりにも気を配りました。
また、カメラマンの強みやスタイルを理解し、信頼しながらも、ビジュアル全体のトーンやブランド感を守るためのディレクションを意識。写真としての美しさと、採用広報としての「伝わりやすさ」を両立させることを目指しました。
内容に関しては年齢層や前職の職種などをアンケートを取り、ぱっと見で伝わりやすいようにグラフにしてまとめたり、言葉だけでは伝わりづらいビジネスモデルもインフォグラフィックを活用してまとめたりしました。
社員インタビューは同じ部署で詳しいSPBUチームのメンバーにも協力していただいた上で、伝わりやすさや読みやすさを向上させるために原稿の編集は社内のコピーライターと連携しながら、文字量を細かく調整するなどライティングも工夫しました。
アンケート収集やインタビューを行うなどのコンテンツ制作の取り組みがフットワーク軽くできるのはインハウスならではだなと感じています。また、ビジネス側とコミュニケーションをとりながら企画をすることが当たり前の環境なので、素材の作成もスピーディーに行えます。自らも事業理解を深めながら資料を作成することで、一貫性のあるデザインを実現できたと思います。
結果として、SPBUの採用資料は全社の新卒採用説明会の資料としても活用されたり、他の部署の採用資料の参考事例として使われるなど当初の利用範囲を超えて波及効果の大きいプロジェクトとなりました。
このような取り組みを重ねることで、エムスリーの認知度が高まり、以前と比べてエムスリーへの志望度が高い方が応募してくださるようになっています。
例えば、イベントやスカウトなどでお声がけした際に、すでにエムスリーやデザイングループについて知っているという方が格段に増えました。また、 面談時に「エムスリーはデザインに力を入れている会社ですよね」と言ってくださる方が増え、印象の変化が生まれてきていると感じています。
さらに、社内の別部署の方からもSNSの運用や採用サイト、オファー資料、ノベルティ制作など、採用関連で力を貸してほしいと声をかけてもらえることが増えてきています。例えば、採用イベントで配布したノベルティをデザイナー向けではなく、医師向けにお渡ししたいという声があり、実現しました。採用という対外的な活動が社内で認知されることで別の施策に繋がっていくことに日々シナジー効果を感じています。
私自身、採用に関する専門的な知識や経験が豊富だったわけではありません。
しかし、グラフィックや体験設計といった自分の強みを活かしながらアウトプットを積み重ね、チームメンバーに支えられることで、成果を生み出せるようになってきました。
制作会社にいた頃は、納品後の反応を知る機会がほとんどありませんでした。一方で、エムスリーでは、イベントで自分が制作したものを直接手渡し、その反応を間近で見ることができます。そうした瞬間を通じて、エムスリーのカルチャーを改めて実感できる機会が増えました。
「エムスリーらしさ」を感じられる施策やアウトプットを生み出し、反応を見ながら改善を重ねることで、エムスリーに共感してくれる人が増えていく。このサイクルを当事者として体感できることに、大きなやりがいを感じています。
迷った時には「試しに作る」というデザイナーとしての強みを最大限に生かして、これからもチームとともに試行錯誤を重ねながら、より良い体験を生み出していきたいと思います。