介護/障害福祉事業者向け経営支援サービス「カイポケ」などを運営している、エス・エム・エスの介護・障害福祉事業者事業領域では 、2019年からデザイン組織が立ち上がっています。

2019年に立ち上がった、カイポケのデザイン組織の現在の体制

デジタルプロダクトである「カイポケ」を対象に、まずは、クリエイティブ、続いてプロダクトに影響範囲を広げてきました。

「カイポケ」のクリエイティブ制作、プロダクト開発を主に担当

組織としても、クリエイティブデザインチームという一つのチームから、組織拡大や役割の拡張を経て、2023年にはコミュニケーションデザインとプロダクトデザインの2つに分化しています。

この事例では、私たちのデザイン組織の変遷をシェアすることで、その思考背景や具体的な取り組みの中身をお伝えできればと思います。

エス・エム・エスには、以前は内製のデザインチームは存在しておらず、各事業部に少数のデザイナーがいるのみ、という状況でした。エンジニア組織は先行して、本格的な内製化を2015年からはじめており、カイポケを運営する介護・障害福祉事業者事業領域でも、それを追いかける形で、2019年からデザイン組織の立ち上げを開始します。

2019年ごろからデザイン組織の内製化を開始

エス・エム・エスが、増収増益を達成し続けられているのは、ビジネス機会の発見とオペレーションに卓越していた会社だったからだと考えています。

エス・エム・エスが創業以来培ってきた強みは「ビジネス機会の発見」と「オペレーション能力」

パッケージ型中心だった介護業界のシステムを、クラウド型のソフトウェアとして一新し、複数の価値を提供していくなど、エス・エム・エスの事業のつくり方は斬新で、かつそれを実現するオペレーション能力が、急激な成長を生み出していました。

エス・エム・エスでは、介護領域を中心としたサービスによって、国内でも有数の成長を維持し続けてきた (IR資料より)

一方で、カイポケにおいては、今後も事業成長を続けていく上で「デザイン品質」面の課題が少しずつ顕在化してきていました。

 介護/障害福祉事業者向けの経営支援サービスである「カイポケ」も、後発の立場から圧倒的な成長でシェア拡大を続けていましたが、プロダクトの体験面を切り取ると、細かな使いづらさやユーザー体験の低下が目立ち始めていました。

デザイン組織が立ち上がる前の、カイポケの課題

これは、介護業界だけでなく、世の中全体でデジタルプロダクトが普及してきたことが一つの原因だと思っています。

例えば、介護施設で働く職員の方も、何かしらのSaaSに触れることが当たり前になっています。

事業が成長しているとしても、介護業界のデザイン品質を基準とするのではなく、世の中全体のデザイン品質の基準を超えていくことを意識しなければ、カイポケはいずれ使われないものになってしまいます。

お客様は、多くのデジタルサービスに触れている。カイポケもその基準にデザイン品質を高めなければ、いずれ使われなくなってしまう

デザイン品質とは、プロダクト内の体験面だけでなく、プロダクト外のタッチポイントのクリエイティブもすべて含んで考える必要があるものです。

お客様は世の中のさまざまなクリエイティブに日頃から触れています。カイポケの広告やLPなどのクリエイティブもそのデザイン品質に達していなければ信頼を感じられなくなり、長期的にはサービスの利用をやめてしまう可能性があります。

プロダクト内だけでなく、プロダクト外のコミュニケーションも同じく、世の中の水準となるデザイン品質を目指さなければいけない

つまり、これまでエス・エム・エスとして培ってきた「ビジネス機会の発見」や「オペレーション能力」だけでなく、カイポケにおいては「プロダクト内外の体験」を強みにしていくことが求められ始めていたのです。

カイポケを成長させるためには「体験の良さ」「デザイン品質の高さ」を強みにすることが必要だった

このようなプロダクト内外の体験の良さや、デザイン品質をコントロールしていくには、必ず内製のデザイン組織が必要になります。

ただ、当時のエス・エム・エスでは、エンジニア組織もようやく本格的に内製化され始めたところで、デザインの多くは外注で賄われていました。

そのため、例えば、プロダクトのデザインを見直す前にコードやシステムを見直さなければいけない、など優先して解くべき課題がエンジニアリングの側面であることも多かったため、デザイン組織だけで短期的にすべてを変えることは難しく、エンジニアリング組織の成長と足並みを揃える必要がありました。

デザインだけでなく、エンジニア組織の成長とも並行して歩みを進める必要性があった

なので、短期的にではなく、数年をかけた長い目線で、デザイン品質をコントロールできる内製のデザイン組織をつくるための取り組みを、一歩ずつ始めていきました。

このような背景で、カイポケのデザイン組織を2019年に立ち上げた後、4つのフェーズを乗り越えながら成長してきました。

  1. クリエイティブデザインチームの立ち上げ

  2. プロダクトへの関わりを本格化

  3. 組織の分化、コミュニケーションとプロダクトの2組織へ

  4. それぞれの歩みへ

カイポケのデザイン組織が乗り越えてきた「4つのフェーズ」

具体的に、各フェーズで起こってきたこと、乗り越えた壁についてまとめてみます。

2019年、介護・障害福祉事業者事業領域で、内製のデザイン組織を立ち上げることが決まります。

これまで事業部付けで所属していたデザイナーに加え、新たに複数のデザイナーが入社し、「クリエイティブデザインチーム」という名前でデザイン組織の活動がはじまりました。

2019年、コミュニケーションデザインに主に役割を持った「クリエイティブデザインチーム」が立ち上がった

前述したように、機能開発以前のシステム面の課題が多くあったため、最初はプロダクトデザインには着手しづらい状況でした。

そのため、クリエイティブデザインチームは、コミュニケーションデザインに注力し、クリエイティブの品質改善から始めることとしました。

クリエイティブデザインチーム初期のアウトプット、コミュニケーションデザイン面が中心
アウトプット例: パンフレットの改善

その後、2021年ごろには、クリエイティブデザインチームのメンバーが増えてきました。ここでの変化は、プロダクトへの関わりを本格化したことです。

2021年ごろから積極的に拡大し、プロダクトデザインへの関わりを本格化した

これまでも、当時のPMと一緒に単発の案件に関わることはありました。(ex.シフト作成ツールや帳票連携機能などの単一機能のUIデザイン)

2021年のカイポケのリニューアルプロジェクト開始のタイミングで、人員拡大にともなって、動きを本格化。サービスサイトやプロダクト内のユーザビリティ改善・情報設計などにも関わり始めました。

サービスサイトの改善
プロダクト内のユーザビリティを調査し、改善施策に落とし込み
複数のサイト同士の導線を意識して、情報設計

このタイミングでは、人数が増加しただけでなく、専門性に特化した人材の入社も始まっています。

これまではクリエイティブ制作とプロダクトのどちらも対応できるデザイナーが多かったのですが、この時期からプロダクトデザインに特化したデザイナーが入社しています。

徐々に、クリエイティブデザインチームという一つのチームでは扱いきれないほど、役割も、必要となる専門性も、拡張してきていました。

そして2023年、現在プロダクトデザイングループをマネジメントする酒井が入社したことをきっかけに、カイポケのデザイン組織は、プロダクトデザインとコミュニケーションデザインの2つの組織へと分化することとなります。

人数の拡大や、求められる役割・専門性の拡張を受け、クリエイティブデザインチームは2023年に「コミュニケーションデザイン」「プロダクトデザイン」の2組織に分化

もともとクリエイティブデザインチームをマネジメントしていた中島の目線でも、求められる役割や専門性の拡張を踏まえて、一つのチームでは限界が近づいていると思っていました。

そこに、酒井が入社します。当時、酒井はフロントエンドエンジニアリングのチームのマネジメントでしたが「エス・エム・エスのプロダクトをもっと強くするには、プロダクトデザインの専門チームが必要だ」と考え、中島との対話を開始しました。

結論として、「(採用強化も含む) 専門性を高める」「役割にコミットして、生産性向上/コミュニケーション円滑化」という狙いをもとに、チームを分化することを決定します。

体制の変更時の目的をまとめたスライド

組織の分化以降は、それぞれに必要な役割を果たしていくべく、組織づくりも別々に行っていきました。

コミュニケーションデザインと、プロダクトデザインの役割分担

それぞれ進めてきたチームの現在地を少し紹介します。

コミュニケーションデザインチームは、現在マーケティンググループに所属しています。

最終的には、ユーザーエクスペリエンスとクリエイティブなデザインを通じて、カイポケのビジネス価値を高めて、サービスの成長を支援することがコミュニケーションデザインチームの責務です。

コミュニケーションデザインチームのミッション

具体的には、メディア / アクイジション / CS・事業開発という、マーケティングの目的ごとに3つのチームに分かれ、メンバーはそれらを一定の周期で入れ替わりながらアサインされます。

コミュニケーションデザインチームの役割

例えば以下のようなものをつくっています。

コミュニケーションデザインチームとしてのアウトプット例

今は、セールス・マーケティングの組織が顧客セグメントごとに組み立てられているので、コミュニケーションデザインチームもそれに合わせて、新しい組織構造を用意していく想定です。

また、カイポケ以外の新規事業のマーケティングやセールス施策にも横断的に対応できるような体制を目指しています。

来期のコミュニケーションデザインの体制をまとめたイメージ

今後コミュニケーションデザインチームは、常に進化する事業戦略に対応し、顧客体験の向上とブランド価値の最大化に貢献するために、チーム体制を柔軟に調整し続けます。

プロダクトデザイン側では、これまでにもある程度組織の土壌があったコミュニケーションデザイン側とは違い、2023年から組織立ち上げが始まりました。

途中から内製のプロダクトデザイン組織を立ち上げるにあたり、まず取り組んだのは「人を集める」ことでした。

プロダクトデザイングループの立ち上げのために「人を集める」ことに注力した

立ち上げ当初から、すでにマネジメントである酒井と、プロダクトデザイナーが数名いたものの、カイポケの体験を一新していくためには全く人が足りません。

このままでは「プロダクトデザインは内製ではなく外注で進める」という、以前と同じ文化を継続させてしまうため、プロダクトデザイナーの採用にフルコミットしていきました。

具体的には、まずはプロダクトデザイングループとしてのミッションを議論することから始めています。

立ち上げの最初は、とにかく組織に人員を増やすために採用にコミット
プロダクトデザイングループのミッションを決めていく

このミッションを持って採用活動に腰を据えて取り組むことで、少しずつプロダクトデザイナーの採用を進められました。

現在は、カイポケの大きなリニューアルを内製で進められるほどに、体制や役割を拡大することができています。

プロダクトデザイングループのアウトプット例: カイポケの機能開発・リニューアル

5年間の変遷を経て、今ようやく、カイポケのデザイン組織は、プロダクト内の体験とプロダクトを顧客に届ける体験の双方をスケール可能な形で作りあげる組織に生まれ変わることができています。

現在のカイポケのデザイン組織体制

例えば、最近では、カイポケのフルリニューアルといった、事業の根幹にあるような施策をデザイン組織全体で推進することができています。

カイポケのデザイン組織が直近で担っている施策の一部

カイポケに関するデザインタスクは、内部リソースを中心に運用されています。それにより、例えばデザインシステム設計、リサーチ体制の整備など、先に目線を向けた活動にも取り組めるようになってきました。

そして、これから私たちは、次のフェーズへと進もうとしています。

プロダクトデザイン組織と、コミュニケーションデザイン組織がそれぞれに専門性を高められてきている今、再び2つの組織の目的を合わせて、デザイン組織全体で「プロダクト内外の体験・デザイン品質強化」に取り組んでいくことを始めようとしています。

これから乗り越えていくのは「デザイン組織全体で体験の良さ・デザイン品質を強化すること」

プロダクトデザイン、コミュニケーションデザインのそれぞれで独立して課題解決に取り組むのではなく、これまでは行えていなかったプロダクトにおける探索的なアプローチや、ブランド設計など、より大きな価値を生める施策を共同で取り組んでいくことが必要です。

これまで整えた土壌を活かして、デザイン主導でカイポケを市場に浸透していくフェーズがついにやってきました。

「体験の良さ」や「デザイン品質」を司る機能として、デザイン組織の貢献範囲をさらに拡張し、エス・エム・エスの事業成長をさらに加速していくことにチャレンジしていきます。

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エス・エム・エス