エムスリーデザイン組織のマルチデバイスデザインチーム (以下マルデバ) は、エムスリーの9つのアプリのプロダクトデザインを、兼務も含めた4名のデザイナーで同時並行で進めているチームです。
そんなマルデバでこだわっているのは「どう利益を最小工数で生み続けるか」ということです。私たちはその問いに向き合い続けるために、4つの指針を設定しています。
今回は、この指針に基づいた具体的なプロダクトデザイナーの働き方について、エムスリーマルデバチームをリードする私の実例とともにまとめます。
まず私たちエムスリーのプロダクトデザイナーは、いかに最小工数でユーザーの行動を生み、利益をつくるかという問いに向き合い続けています。
大前提として、アプリだけでも9つのプロダクトを運営しており、会社全体ではさらに広く事業を運営しているエムスリーでは、常に投資対効果を考える必要があります。
プロダクトデザインにおいて、1つの施策や機能にだけ長く時間をかけるようなことはできません。常にこの案件は本当に投資対効果が高いのか?ということを考えてデザインに取り組むことが求められます。
このような環境でプロダクトデザインに取り組む上では「総合的な視点」が必要です。
私たちはデザイナーなので、ユーザー視点で使いやすいプロダクト体験を設計するのは当たり前にやるべきラインだと考えています。
その上でエムスリーのプロダクトデザイナーは、事業状況を踏まえたゴール設定や、開発的な実現可能性を加味して、プロダクトデザイナーから「ユーザー視点」「ビジネス目的」「開発的な実現可能性」を踏まえたデザインを提案していくことを徹底しなければいけません。
そんなエムスリーの環境で、常にプロダクトデザインから最小工数で利益を生み続けるために、マルデバチームでは4つの指針を掲げています。
ここからは、指針に基づいた私たちの具体的な実践例をまとめます。
エムスリーのプロダクトデザイナーは、当たり前にデザインのスピードと品質を両立させながら、ビジネスゴールを達成して利益を生み出していくことを担います。
このための指針が「本質思考」と「迅速実践」です。具体的には、どんなプロジェクトであっても「ユーザー体験」「ビジネス目的」「開発可能性」の検討をすべて押さえたデザイン提案を1日で返すことを意識しています。
エムスリーが提供する『臨床ポケット』の立ち上げの事例をもとに、具体的な動き方について解説します。
『臨床ポケット』の立ち上げが決まったタイミングで、すぐにプロダクトデザイナーがプロジェクトにジョインし、企画やスコープをアウトプットから決めるように動き始めました。
その後、「グローバル基準を知り、独自の体験を発明する」ために世の中の類似体験を洗い出していきます。日本国内のアプリだけでなく、グローバルでのスタンダードをインプットしていき、エムスリーとして今回つくりたい体験に近いものはないかを探ります。
この調査を踏まえて、私たちのアプリ特有のユーザー体験を模索します。デザイナー目線で方向性の異なる理想的な体験をすぐにプロトタイピングし、その後開発的な実現可能性や、ユーザー的な使いやすさを考慮して絞っていきます。
例えば、以下の臨床ポケットの3パターンの初期プロトタイプは、すべて独自の体験で設計しています。
ここまでにまとめたような流れで使いやすいUI/UXをつくるのは、プロダクトデザイナーとしての基本です。さらに私たちは、想定した行動や利益が生まれるまでの流れを考えて、スコープをどこまで絞るべきかも提案します。
例えば、臨床ポケット立ち上げでは、リリースの1週間前に「ユーザーが臨床ポケットアプリらしさをもっと感じてもらえる要素を入れられないか」という要望をもらいました。
リリースまで1週間しか時間がなかったため、追加工数をかけている場合ではないので、開発スコープはミニマムにするべきだと判断します。
その中でも、すぐあり得るパターンを洗い出し、1日以内に提案します。
ここでは、ビジネスゴールを意識しつつ、つくったデザインに対して「ここまでつくるとこのくらい実装コストがかかる」ということを事前に見積もっておき、スコープの調整を行いやすくしています。
結果として今回は、実装的に追加コストがかかりそうなところは初期スコープから外すようにして、「ブックマークのアイコンを、一般的なハート・星などのアイコンから、臨床ポケットのロゴに差し替える」というミニマムな提案をしました。
もしも案件としてのビジネスインパクトが大きければ、あえてさらに時間をかけるように提案することもあります。あくまで最終的なインパクト次第でスコープは調整します。
このような開発の優先度やスコープは、事業群としての優先度と照らし合わせて決定しています。
例えば、この機能を開発することで得られる利益よりも、他のプロダクトに時間をかける方が利益が大きいならそちらを優先すべきだと考えています。
このような検討とデザイン提案は、基本的に1日以内で返すようにしています。何度も繰り返しますが、私たちはデザイナーなので、大前提として使いやすいデザインをつくることが必要です。そこにビジネス視点と開発視点を乗せて事前にスコープを絞り、最速で利益を生み出せる提案を行います。
これがエムスリーマルデバチームの指針「本質思考」と「迅速実践」です。
エムスリーのマルデバチームでは、4名体制で9つのアプリを同時並行で動かしていくために、プロジェクトと並行させて “スピードと品質を両立させるための効率化の動き” も進めています。
まず一つ工夫できるのが、同時並行するPJで体験が共通するものはひとまとめにするということです。
例えば、一つのアプリで通知体験を検証するプロジェクトが走り、その後別のプロジェクトから通知体験を検証するプロジェクトが立ち上がったことがありました。
このような場合は、すでに1つのプロジェクトで検証した通知体験のベストプラクティスを別アプリにも転用していくようにしています。
このような工夫によって、同じような体験を別々のデザイナーが考えているという無駄を無くせます。
普段は担当プロダクトごとにデザイナーを分けていますが、プロダクトをまたいだ体験がないか確認して、アサインは柔軟に調整します。
各プロダクトに共通するパーツをシステム化することもあります。例えば、ログインフォームなどは9つのアプリで共通するものなので、共通化させておくと投資対効果が高いです。
他にも、以下のようなコンポーネント・体験は、タイミングに応じて共通化を試みています。
ここでのポイントは「共通化のためのプロジェクトを目的にしない」「資産化できないデザインはつくらない」ということです。
日々無数の施策が走るマルデバチームでは、デザインシステムプロジェクトのように、 “プロダクトの価値に直結しない整備だけの時間” をかけている暇はありません。私たちはユーザーにとって価値になることしかやらないようにしています。
なのでもしコンポーネント的に共通化できるところがあっても、必ずプロジェクトと合わせて進めるようにしています。
また、複数の事業やプロダクトで活用がある場合にしか共通化に動かないようにしています。
また、共通化できるパーツはもちろん資産になりますが、単発の施策であってもデザインを使い捨てにしないようにしています。後から他のメンバーが再利用できる『型』や『リファレンス』として資産化することを常に意識します。
このように、無数のプロジェクトを前に進めつつ、その中で同時に効率化も進めていくのがマルデバの指針「効率重視」のイメージです。
ビジネス目的や開発実現性も踏まえて、毎回速く提案を打ち返していくためには、施策が来てから考えるのでは遅いです。
提案が来たらすぐデザインを提案しないといけないので、私たちは “仕様が来る前からリサーチを始めておく” ことを意識しています。
例えばそのために、常に世の中のグローバルなデザイントレンドや、プロダクトのインプットをチームで重ねています。機能別に参考になる他プロダクトの体験を整理したFigmaファイルをつくり、各自で追加しながら、参考を探したい時に見にいきます。
また、新しい技術や表現方法も積極的に取り入れることを重視しています。
少し前には以下のように、アプリに紐づくLPに表示するプロダクトのモックアップの画像を、モーションで表示できるようにしてみました。これまでは静的な画面を載せるだけだったのですが、このような実験はコストを少なくやれるならどんどん取り入れます。
新しい表現を取り入れ続けると、ユーザーも気づいてくれて、無意識的にでも愛着が形成されます。さらにデザイナーも常に学び、新しいチャレンジを厭わないようになることで、楽しく働き続けられると考えています。これがマルデバの指針「常に学ぶ」です。
これがエムスリーマルデバチームで重視している4つの指針です。
マルデバチームに所属する4名のデザイナーが、今回紹介した4つの指針に則って、9つのアプリのプロダクトデザインを同時並行で進めています。
この指針を実践していくことで、私たちは「いかに最小工数でユーザーの行動を生み、利益をつくるか」ということに責任を持とうとしています。
プロダクトデザイナーとして、ユーザーの視点をもって使いやすいUI/UXをつくるということは前提で、それ以上に、利益に対して動くことが重要です。そのために、デザイナーはビジネス/開発の視点も押さえて体験に関する意思決定をつくります。
プロダクトデザインからエムスリーの利益を最大化させるために、事業全体でどこに投資すべきかを常に意識してこれからも活動していきます。