エムスリーのデザイナーは、楽しむことと利益貢献を両立していくようにしています。

前回ご紹介したように、私はマルチデバイスデザインチームのリーダーとして、エムスリーにある9つのアプリデザインを並行して進めながら、プロジェクトから利益を生むことに取り組んでいます。

それとは別に、技術とデザインをかけ合わせて社内向けミニプロダクトを開発していくことにもフォーカスしています。現場の課題になっていること、ROIが低い活動を見つけ、自分がプロダクトオーナーのように解決していくようにしています。

社内向けにつくってきたエムスリー独自のミニプロダクト

私は、利益を追いかけることと同じくらい、デザイナーとして楽しむことも大事だと思っています。

どうすればデザイナーとして楽しみながら利益を生んでいけるのか。エムスリーデザイン組織での、ミニプロダクト開発の事例からまとめてみます。

これまで私はいくつもの社内向けミニプロダクトをつくってきました。例えば「Web講演会」の資料作成のためのグラフ生成ツール。「臨床ポケットアプリ」の原稿・表のHTML生成ツールなどなど。

講演会の資料作成のためのグラフ生成ツール
「臨床ポケットアプリ」の原稿・表のHTML生成ツール

このような仕組みは、最終的に利益につながることが理想的ですが、はじめはもう少し現場の視点から開発を始めています。

私は、プロダクトデザイナーがこのような仕組みづくりにコミットすると、組織的にも個人的にもいくつかのメリットがあるように思います。

組織的なメリットは、現場の課題になっていること、ROIが低い活動をなくしていけることです。

例えば、すでに1〜2名が属人的にでも利益を生み出せている活動があれば、それをうまく効率化したり、他の人でも行えるような仕組みにしていくことで、さらに利益が大きくなっていきます。

他にも、何度も繰り返しつくる必要があるページのデザインや実装も効率化を試みたいところです。そうすると、コミュニケーションコストも減り、担当デザイナーはもっと別のインパクトのある領域に時間を使えるようになります。

デザイナーとしての楽しみの一つは、具体的な課題を解決して、行動の変化をつくれることだと思います。社内の課題も解決していけるようになると、組織も嬉しいし、デザイナーとしても活動の幅が広がって楽しく仕事ができます。

実は、このような活動には個人的なメリットも大きいです。

私は、ミニプロダクト開発を「プロダクトオーナーになれる機会」だと捉えています。課題を探り、どうすれば解決できるかを考え、スピーディーにモノをつくり改善していく。自分がオーナーとしてどんどん進めていけるのはやりがいもあり、楽しさを感じます。

また、自分がオーナーシップを持てる社内向けのミニプロダクト開発であれば、新しい技術や表現も自由に取り入れやすいので、自分の成長にもつながるのも楽しさの一つです。

いつも同じプロダクトでデザインをしていると、いつの間にか新しいスキルが身に付かず、成長が止まってしまうので、意識的にこのような機会を自分でつくっていくと事業会社の中で楽しくデザインを続けられるのではないかと思います。

ここからは、いくつかのミニプロダクトを例に、私がどのように楽しみながら利益につなげているのかをまとめてみます。

2025年後半につくったミニプロダクトの一つが、Web講演会の資料作成のための「グラフ生成ツール」です。

Web講演スライド作成のためのグラフを生成できるデザインツール

このツールをつくったきっかけは、Web講演の立ち上げに関わった1人のデザイナーが、前のQで大幅に利益を出せていたので、さらなる事業拡大のため効率化を検討したいという話をキャッチアップしたことでした。

詳しく確認すると、エムスリーでは月に何度も講演を開催しており、短い期間でスライド作成・撮影・公開を回す必要があり、それをデザイナーとして手作業で回し続けているということが分かりました。

エムスリー講演会アプリでは、デザイナーが毎月大量に講演スライドを用意していた

さらに「今、一番時間がかかっているところはどこか」と聞くと、彼からは「スライド作成、特にグラフの作成に時間がかかっている」との話がありました。

講演スライド作成では、精緻なデータを読み取り、それを一つひとつビジュアルに加工していくことが必要です。なので、一つひとつのグラフの作成にコストがかかり、現在でも3日ほどかかっているということでした。

一番工数がかかっていたのはグラフの作成

そこで私から「グラフを自動で生成できるようにしてみませんか?」と提案しました。

これは、現在でもグラフ作成に時間がかかっているという課題や、スライドが高速でつくれれば事業成長に直結することが事例で分かっていたこと、さらには他事業でもグラフ表現を使う場面は多くあるため転用も効くツールになると考えたためです。

私個人としても、グラフィックのAI生成を実験してみたいなと思っていたので、ちょうど良い検証機会になるなと思っていました。

グラフを自動生成できるミニプロダクトをつくることを提案

過去の講演スライドを確認していくと、一番多く使われている表現は「棒グラフ」でした。

そこで週末の2日間で、過去データから棒グラフを簡易に生成できるデザインツールをAIの協力のもと実装してみました。

これを担当デザイナーに見せてみると、「良さそうです」というリアクションが得られたので、さらに入力項目の設定を調整したり、棒グラフ以外の表現もできるように何度かアップデートを重ねていきました。

2〜3日くらいで実際に業務で使えるくらいまでブラッシュアップすることができています。

結果的に、これまでデザイナーが3日かけていたグラフ作成の作業は、5時間程度に圧縮することができています。ということは利益に換算すると、約6倍の成果となります。

誰かが属人的に生んでいる成果を見つけ、それを拡張していくために仕組み化を試みたのは良いアプローチでした。担当デザイナーの負担は減り、誰でもスライド作成を行えるようになり、最終的に利益にもつながりました。

ちなみに、このWeb講演会は私が責任を持っているマルチデバイスチームの対象業務ではありません。エムスリーは、デザイナーが自分の担当を越えて、興味がある仕事 (事業) に自由に参加して、起案したり事業立ち上げをすることができる特別な環境だと思います。

ROIが低い活動をなくしていく目的で、臨床ポケットアプリの中で日々つくられる原稿・表の「HTML生成ツール」をつくりました。

『臨床ポケット』内の原稿・表のHTMLを自動生成するミニプロダクトをつくった

臨床ポケットアプリは、医師になって間もない臨床医の方が使うものです。アプリの中では臨床のための膨大な情報が記事としてまとめられています。

この臨床情報のページはとにかく量が多く、日々編集部の方が原稿をつくり、その内容をデザイナー (私) がHTML化していくようなフローでかなりコストがかかっていました。

臨床情報ページの原稿や表を、デザイナーがHTMLに変換する業務にコストがかかっていた

ページ自体のフォーマットはそこまで変わるわけではなく、一方でつくらなければいけないコンテンツ量が多い状況を踏まえて、原稿や表データのHTML化が自動で行えるようなツールをつくることを決めました。

まず初期に、マークダウン形式でつくった原稿がHTML化されるツールをつくりました。さらに、表のデータもHTML化できるようなツールもAIの協力のもと2日でつくっています。

表のデータを簡易にHTML化できるツールをAIで実装

今では、デザイナーが運用しなくても誰でも使える状態になっていて、デザイナーはこの作業から手離れできました。

バグや要望があれば時折、ツール自体を修正するPdMのような関わり方をしていますが、それ以外はノータッチで、他の事業でより利益を生める部分に注力を移すことができています。

また、この改善は医師の方にとっても喜ばれるものでした。臨床アプリが使われる現場は、例えば手術室のような電波の届きづらい場所も多いです。これまで表のパターンが多く、HTML化が難しい時は画像で実装していることもありました。そうすると容量が多くなり、手術室では表の表示が遅くなるようなこともあったようです。

一方、今回の改善によって、表示が速くなり、コピペなどの動作も行いやすくなり、医師の方にとってもさらに使いやすいアプリとすることができました。

このような考え方で、他にもFigma CA生成プラグインや、WebGL エフェクト生成ツールなど、いくつもミニプロダクトを開発してきました。

私が担当するマルデバチームだけでなく、エムスリーのデザイン組織全体の活動を課題解決の対象としています。

ミニプロダクト化できそうな活動を見つけたら、すぐに状況を確認し、必要なら数日以内に仕組みを提案するようにしています。

事業成長につながる現場の課題を見つけたらデザイン組織として解決に動き出す

「デザイナーが利益に貢献する」と言われても、取っ付きづらいなと感じる人も多いかもしれません。

でも、私は利益の根本は「ユーザーに役立つこと」だと思っています。ユーザーに好かれているプロダクトに参加して、そこでよりユーザーに喜んでもらえるように課題を解決する。その連続で利益は生まれます。

ユーザーに喜んでもらう方法はいくつもあります。直接プロダクトの機能を開発するだけでなく、今回紹介したような社内課題を解決するミニプロダクトも扱えるようになれば、デザイナーとしてのアプローチの幅が広がります。

そして、冒頭にも書きましたが、ミニプロダクト開発は、手軽にプロダクトオーナーになれる機会でもあり、自分の成長にもつながるので、とても楽しい活動です。

AIの技術進化によってコストが下がり、社内向けのツール開発であれば1日あれば実装が可能になりました。以前は余裕もなく諦めていたことも多くありましたが、今ならデザイナーが主導してエムスリーに特化した社内ツールを開発することもできるはずです。

デザイナーとして楽しみながら、利益を生んでいく。維持するのは難しいことですが、私たちはこの両立にこだわっていきたいなと思っています。この事例が、みなさんの活動のヒントになれば嬉しいです。

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