DeNAデザイン統括部デザイナーのSUNNAです。普段はDeNAのヘルスケア事業領域のグループ会社DeSCヘルスケア(以下DeSC)でブランディングやマーケティング、営業支援を中心に、デザイン業務を行っています。
昨年、DeSCのデータ利活用事業における営業資料や広報物のデザイン刷新に取り組みました。
きっかけとなったのは、サービスの専門性が高く、メニューも非常に多いがゆえに、「このサービスは結局何ができるのか」という全体像を顧客に伝えづらい、という課題感です。
こうした課題に対して、デザイナーの発想としては「リブランディング」という選択肢が浮かびやすいかもしれません。一方で今回私たちは、リブランディングを主語にするのではなく、事業として優先度の高いツールから順に刷新し、短期の価値提供を積み重ねながら、その延長線上で事業全体のVIへと昇華させていく進め方を選びました。
営業やマーケティング領域の課題解決に並走しつつ、長期のブランディングにもつなげていく一つの事例として、参考になれば幸いです。
DeSCのデータ利活用事業は、ヘルスビッグデータをアカデミアや製薬会社・保険会社での研究・開発に役立て、「エビデンス」の創出につなげています。そうして得られたエビデンスを社会に還元し、健康寿命の延伸や医療費適正化などの社会課題の解決に貢献していくことを目指しています。
扱うテーマ自体が専門的であるうえに、提供形態も「データ提供」だけでなく、活用支援のコンサルティングや、顧客側でデータを迅速に閲覧できるWebツールなど、複数のサービスが存在します。
しかし当時の営業資料等での見せ方は、多くのサービスが並列に並び、それぞれを個別具体に説明していく構造になっていました。
営業メンバーにとっては、サービス全体を構造的かつ印象的に伝えづらく、聞き手も「結局、何ができるのか」を掴みにくいという課題がありました。
そうした状況のなかで営業メンバーから、あるサービスの営業資料の一部で使用するビジュアルを制作してほしい、という依頼がマネージャーの宮本宛にありました。
依頼自体は数あるサービスのうち一つのビジュアル制作でしたが、そこだけを整えても課題の根本解決にはつながらないのではというデザイナー側からの提案によってプロジェクト化され、私もそこからジョインしました。
まずは、課題をより深く理解するために、営業メンバーへのヒアリングを行い、デモ営業も見せてもらいました。その結果、個々のサービスをきれいに見せること以上に、事業の全体像が直感的に理解しやすく、かつ一貫した印象で伝わる見せ方にする必要があると実感しました。
加えて、事業フェーズの変化に合わせて見せ方自体を更新する必要性もありました。
もともとは「データ提供」を主軸としていましたが、現在はコンサルティングやツール提供など、包括的なソリューション提供へと広がっています。これまでの「データ提供」という印象に留まらず、現状の事業方針に沿った見せ方へと改めていく必要がありました。
そこで、一つのサービスだけを対象にビジュアルをつくるのではなく、事業全体の見せ方を刷新していく必要があると提案しました。
事業全体の見せ方を変えるとなると、デザイナーとしては「リブランディング」と銘打って、丁寧に進めるアプローチ(ex. ブランド定義 → ロゴ → VI → 各種ツール展開...) を取りがちだと思います。
しかし、リブランディングを主語に巻き込もうとすると、「デザイナーのエゴ」として受け取られる可能性もあります。他職種からすると「それって今やる必要があるの?」となりやすく、優先度が上がらないまま途中で止まってしまうリスクもあります。
そのため今回は、リブランディングを主語にせず、あくまで「営業資料におけるサービス価値の伝えづらさ」という事業課題の解決策として取り組むことを意識しました。また、その過程で必要となるVI構築は、デザイナーとして責任を持ってやり切るというスタンスで臨みました。
やっていること自体は同じに見えるかもしれませんが、「デザインを変えたいからやる」のではなく、「事業課題を解決するためにやる」というスタンスを明確にするだけで、関係者の納得感や進みやすさも大きく変わると考えていました。
このプロジェクトでは、短期と中長期の施策を並行して走らせることにしました。
VIをはじめとするブランド要素の刷新には時間がかかり、効果が出るまでのスパンも長くなります。その成果を待ってもらう構図になると、日々忙しい現場では「いま何が進んでいるんだっけ?」となりやすく、関係者間の温度差が生まれたり、コミュニケーションが途切れがちになったりします。
一方で、事業の優先度に紐づいた成果物が早い段階で出てくると、現場の体験がまず変わります。
「使えるものが増えた」「助かった」という実感が先に生まれると、次のアクションにつながりやすくなります。そこで、まずは“すぐに必要なもの”から着手しつつ、並行してVI構築も進める設計にしました。
まず初めに、営業メンバーにとって「今一番欲しいツール」を提供することから着手しました。
改めて営業メンバーへヒアリングしてみると、普段使っている詳細版の営業資料とは別に、「簡易版の営業資料」をつくる優先度が高いことが分かりました。
理由は大きく2つです。
情報量が多く、サービス構造も複雑なため、重要な点がパッと見で伝わりづらいこと
NDAを結んでいない新規顧客には資料をお渡しできず、機会損失が発生していたこと
そこで、NDAなしでも共有でき、なおかつサービス内容や価値が端的に理解できる資料が必要でした。まずはここを最優先にやるべきだと判断しました。
データ利活用事業では、ターゲット別に大きく2種類の営業資料を運用していました。
ただ、それぞれの中身を見てみると、事業として共通して伝えるべき内容と、ターゲット別に調整して伝えるべき内容が整理しきれていない箇所も見受けられました。
そこでまずは、各資料を俯瞰しながら、スライドの台割(構成)をスプレッドシートで可視化しました。
どこを共通情報として揃えるべきか、どこを個別最適にするべきかを整理し、これを営業担当者と一緒に見ながら、構成や情報の過不足がないかを確認していきました。
さらに、NDAが必須なページを明確にし、NDAなしでも展開できる情報だけで資料を構成する方針としました。
構成が固まってきたら、実際の資料制作に進みます。特に注力したのは、「いかにサービス構造を分かりやすく伝えるか」という点でした。
当時の資料は、複数のサービスが並列に並び、最初から具体的な話に入る構造になっていました。聞き手が全体像を掴む前に情報が多くなり、結果として印象に残りづらい状況となっていました。
ヒアリングを重ねる中で、サービスは大きく3つのカテゴリに整理できることが見えてきました。
そこで、
データ提供サービス
Webツールサービス
コンサルティングサービス
という3つの軸でサービスを可視化し、構造が視覚的に把握できるようにしました。
簡易版資料が完成した直後から営業チームで活用が始まり、早くも「詳細版のアップデート」を求める声が上がるなど、資料へのニーズを再確認できました。
短期施策としての簡易版営業資料の制作と並行して、VI構築や各種ツールへの展開など、時間をかけて取り組むべきプロジェクトを進めていきました。
プロジェクト全体を進めるにあたって工夫したのは、短期施策と中長期施策で、巻き込むメンバーを切り分けることです。
初期は関わりそうな人全員を巻き込んで進めてしまい、メンバーの工数を多く割いてしまったという反省がありました。そのため、途中から会議体を2つに切り分けました。
短期(簡易版営業資料) : 営業部長と営業担当者数名のコアチーム + デザイナー
中長期施策 (VI構築) : 事業部長と事業戦略担当者 + デザイナー
巻き込むメンバーの工数を最小限にしつつ、素早く意思決定を重ねるためにも重要な進め方だったと思います。
VI構築に着手するにあたり、まずはデータ利活用事業におけるブランド定義を行いました。
複数サービスで構成される事業だからこそ、事業全体としてのビジョン・ミッション・コンセプト、そして各サービスが担う役割を、改めて事業部長と丁寧に確認していきました。
今回のVI刷新においては、ロゴは維持しつつ、事業の世界観を象徴する「キービジュアル」の構築に注力しました。活用頻度の高いツールにおいて、視覚情報の大部分を占めるビジュアルを刷新することが、よりダイレクトに印象づけられると考えたためです。
そのうえで、ブランド定義を踏まえてブランドコンセプトを作成し、提案しました。
最終的には、顧客や業界、ひいては社会を、エビデンスの力で先導していく —— そんな力強く頼もしい事業としてのスタンスを表したコンセプト『Lead with Evidence』が採用されました。
ブランドコンセプトをVIに落とし込むにあたり、3D表現を用いることにしました。
データの「信頼性」や「クリアさ」を表現することに加え、データ提供にとどまらず包括的なソリューションを提供していく事業の“奥行き”を伝えるには、2Dよりも3Dが適切だと考えたからです。
事業全体を象徴するビジュアルに加えて、前述の「データ提供」「ウェブツール」「コンサルティング」という3つのサービス群それぞれに合わせたビジュアルも制作しました。
私自身、3Dの制作が初めてでしたし、他業務との兼ね合いもあり時間はかかりました。
ただ、短期施策で価値提供を積み重ねられていたことで、プロジェクトが空中分解しにくく、最後までやりきりやすい状態を作れていたと思います。
VIの方向性が固まった段階で、改めて事業的に優先度高く必要なツールの棚卸しを実施。その結果、詳細版の営業資料の刷新と合わせてパンフレットの制作を優先度高く進めていきました。
詳細版の営業資料は、簡易版で構造と要点の整理ができていたため、比較的スピーディーに制作することができました。
パンフレットについては、イベントなどで配布する機会が多く、利用頻度が高いツールです。その中で「事業全体を伝えるパンフレット」と、サービスの一つである「ウェブツールに関するパンフレット」の2点を制作しました。
営業資料やパンフレットなどの各種ツールを、新たなVIに沿ってアップデートしたところ、早速営業チームを中心に活用が進んでいます。
その中で、社内メンバーからはサービス概要や価値を今まで以上に伝えやすくなった、よりブランドイメージにワクワク感をもってもらえるようになったなど、嬉しい声を聞くことができています。
サービスは常に戦略に応じて流動的なので、次年度に向けて、より実態にフィットした見せ方や営業資料へのアップデートを継続的に行っていきたいと考えています。
プロジェクトを通して改めて感じたのは、事業の視点で必要なことから始めた方が、結果として大きな変化や達成感につながる、ということでした。
制作会社にいた頃は、どうしても「デザインをどう良くするか」というデザイン起点で考える場面が多くありました。もちろんそれ自体は大切なのですが、納品して終わりになりやすく、その後の成果まで見えにくいことに、どこか物足りなさも感じていました。
一方で今回は、営業メンバーが抱える課題と、デザインで貢献できる点を丁寧にすり合わせながら進められたことで、課題解決にしっかりつなげられたと感じています。こうした進め方は、インハウスならではだったと思います。
これからも、「事業にとって必要かどうか」という視点を大事にしながら、デザインに取り組んでいきたいと思います。