Shippioでプロダクトデザイナーをしている山口です。8月からShippioにジョインし、当初から新規プロダクトの立ち上げを担当しています。

新規プロダクトは、プロダクトマネージャーとプロダクトデザイナー(僕)の2人で行っていて、戦略を考えるフェーズで、提供したい価値の検証を行うためにコンセプトテストを行いました。

今回行ったコンセプトテストは、新規プロダクトの想定ユーザーの方(今回の場合は商社や小売・製造業等の荷主企業様)に対して、上記のような複数のコンセプトをお話しながら、10点満点で欲しさを表してもらい、その理由などを聞いていくような進め方をしました。

コンセプトテストをしたことで、顧客課題の優先度、顧客価値に対しての解決策の確度、顧客価値の検証プランなどなど、プロダクトの戦略に関わる検証を進めることができました

また、コンセプトテストで顧客課題の優先度が明確になり、チーム内の認識も揃ったことで、プロダクトのあるべき姿を時間軸に沿って定義(ロードマップ化)することもできました。

短期(半年)、中期(1年)、長期(2年)で区切りながら、各ステークホルダーに対しての価値やプロダクトの完成度を洗い出しました。

今回は新規プロダクトで顧客課題の優先度を探索するのが目的でした。

そのため、検証というと「プロトタイプをつくってテストして...」というユーザビリティテストのような検証方法も考えられますが、コンセプトテストで課題・顕在ニーズ・潜在ニーズ・それら背景を理解しにいきました。その結果、業界特有の慣習やシナリオとしてどのような事に課題があるのかの解像度が上がり、プロダクトの戦略や要件を考える上で役に立つ情報を得られました。

今回は、そのコンセプトテストの実施内容や良かった点 / 改善点についてまとめていきます。

もともと、Shippioで運営しているクラウドサービス「Shippio」で取引をしている、商社や小売・製造業等の荷主企業様の課題感や要望は、サービスを運営する中でどんどん出てきていました。

これまでの貿易業務は、紙・電話・FAXを使い、煩雑でアナログな管理や連絡手段をとっていたり、各社 / 各人が独自のフォーマットをつくって業務を進めていたりしていました。

そこで、Shippioでは、貿易業務をデジタル化することで、業務量を削減し、貿易業務に関わる方の負担を削減することに取り組んでいます。

Shippioではフォワーディングサービス*1を提供しているため、社内に貿易実務を行なっているチームがあります。彼らはドメインエキスパートとして、いつでも貿易実務に関する課題感などを詳しく教えてくれたり、一緒に議論をしてくれます。

*1 フォワーディングとは国をまたいだ輸出入を行う荷主企業のご希望・ご依頼にあわせ、貨物を運ぶのに必要な海上輸送・航空輸送・トラック輸送・税関手続きなどを手配し、最適な国際輸送をアレンジすること。

そのため「既に明確な課題が多くあることは分かっているけど、新規プロダクトでどこにフォーカスしたら良いか分からない」という状況になっていました。

また、貿易業界はステークホルダーが多く複雑性があります。1つの輸出入をとっても、関わる業者の方が多く、Aさんの課題はB社の慣習に起因してて...といった、課題の全体像をつかむことも非常に大事な状況でした。

会社紹介のスライドから引用。
1つの輸出入に対して「仕入れ」「配送」「海上での輸送」「通関」「倉庫や工場」などなど、非常にたくさんの方が関わっているのが貿易業界の特徴です。

そこで、課題の全体像を把握しながら、優先的に提供する価値や、解決策を決めていくためにコンセプトテストを実施することに。

ヒアリングに同席するセールスメンバーなどに対して、コンセプトテストで扱う資料のレビューをもらっている場面です。

コンセプトテストは、新規プロダクトの対象顧客層である4社に対して、各社20分ずつ行いました。

コンセプトテストは、オンラインで実施した場合もあればオフラインでの実施もありました。
オフラインで実施した場合は、Zoomで画面を共有しながら、手元で資料を確認できるようにして進めていきました。

今回は、3パターンのコンセプトを用意し、それぞれに対して「パートナーに積極的に紹介してでも使いたい度」を10点満点での評価とその理由を教えていただくような形式で進めました。

10点中何点なのかを評価してもらった後、10点との差分や他コンセプトとの差分をヒアリングする事で、課題の大きさやその背景を具体的に聞いていきました。

以下のようなコンセプト案を、貿易実務を担当する方に対して、資料を見せながら説明。

資料では、どのようなプロダクトか、というよりも「何が実現されるか」「どうやって実現するか」ということを中心に記載しています。

ユーザビリティではなく顧客課題の優先度を検証できるようにするために、どのように業務の構造が変わるのかを把握できるようにしました。

同じようなコンセプトについての詳細な資料を、他の2つのコンセプトに対しても用意し、順番に見ていただきました。

順番にご説明した後、以下のように3つのコンセプト案に「パートナーに積極的に紹介してでも使いたい度」の点数を付けていただきました。

※ここでいうパートナーとは荷主の貿易実務に関わる物流事業者のこと
10点満点で「パートナーの企業に紹介してでも使いたい度合い」を表してもらうようにご説明した時の様子

点数を基に、その理由・背景を伺い深掘りをしていきました。

3社目からはさらに価値を感じる部分を特定するため、各コンセプト案の解決策で得られる価値を絞ったり増やしたり、ニュアンスを変えたりしました。

結果として、絞ったコンセプトの方が欲しいという回答をもらい、顧客課題の優先度を解像度上げることができました。

以下の点で、コンセプトテストを実施して良かったなと感じています。

  • 認識の一致:コンセプトテストをしたことで、こういうインサイトを得られたから、「Aの解決策で進めてみよう」など、コンセプトテストを起点としてチームの認識が揃った

  • 想定外のインサイト:「業界構造上のこういう背景で大きい壁があるかも?」といった、業界ならではのインサイトも発見できたりと、戦略上考慮すべき点が明確になった

  • 方向性が明確にニーズがあるかないかを知れて、さらに価値を感じる部分やその具体まで把握することができたため、提供する解決策やその優先度を決めやすくなった

一方で、以下の点は今後改善できるとさらに良いと感じています。

  • 時間:各社20分の枠だったため、インサイトを十分に深掘りをする時間が少なく感じました。今後は、検証すべき重要な論点を明確にし、(テスト対象の方々への)説明はなるべくシンプルにすることで、良いフィードバックをもらえるように(ヒアリングの成果を大きくできるように)工夫をしたい。

  • 問いかけの仕方:どれも10点満点になったり、点数がつけられないような状態がありました。ステークホルダーや業務の複雑性がある中で、粒度の大きめなコンセプト案を提示したため、「全部できたらいいな」「できるイメージが想像つかない」とあいまいな回答になる場合がありました。今後は、インタビュイーがもっとイメージしながら回答できるように、具体的にどういう業務を変えようとしているのか説明して、各業務のシーンを頭に思い浮かべながらヒアリングできるように工夫をしたいです。

コンセプトテストの結果として、新規プロダクトで取り組む課題や解決策を絞り込み、プロダクトのロードマップまで落とすことができました。

各戦略を信号(赤はNo Go、青はGoなど)のように表しながら、戦略ごとに「半年、1年、2年でどうなっていくと良いか」「どのステークホルダーにとってメリットのある戦略か」などを可視化していきました。

プロダクトのロードマップをつくりながら、具体の施策を走らせているのが今の状況ですが、コンセプトテストがあったおかげで、プロダクト開発を通してどんな検証から始めるかの迷うことが大きく減ったなと感じています。

コンセプトテストが最大限活かせたのも、日々の共通認識づくりができていたことが大きいと感じています。

新規プロダクトの立ち上げなどは特に、戦略やコンセプトなど抽象的なトピックを扱いながら、具体施策なども考えないといけない場面が多くあります。

抽象と具体を行き来したり、短期と長期を行き来したりする際に、プロダクトマネージャーとプロダクトデザイナーが一緒のチームになって、ほぼ毎日「今分かっていないことは何か」を共有できていました。

8月から11月の動きを振り返ったMiroの様子。
「コンセプトテストの内容がずっと話の材料になっていたので、よかった」というコメントや、「常に何考えているかシンクアップ (同期) できていたと思う」などのコメントが出ていました。

新規のプロダクトをつくる場面では、顧客課題の優先度が見えていない場合がよくあります。

コンセプトテストを行うことで、より課題(やそれを引き起こす要因、環境)や解決策、優先度がつくようになり、さまざまな場面での意思決定の材料になりました。

プロトタイプをつくって見ていただくようなユーザビリティテストよりも、コンセプトテストの方が適している場面は以下のような場合だと感じています。

  • ターゲットにとって価値となるものは、どんなものがあるのか

  • 価値の優先度はどのようなものなのか

  • 価値を実現を阻んでいる障壁(ブロッカー)は何か

  • 価値を実現するための解決策はなにか

これらの解像度を上げることが、コンセプトテストの目的であり、成果であるなと感じています。

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