国内9割以上の医師が登録する日本最大級の医療従事者専用サイト「m3.com」を運営し、医療ドメインに対して100以上のサービスを提供する事業会社、エムスリー。

そんなエムスリーのデザイングループの中には、2021年から「動画チーム」が置かれています。

エムスリーデザイングループには、2021年から「動画チーム」が置かれている

事業会社のデザイン組織であるエムスリーデザイングループが、なぜ「動画」という専門性に投資し、チームを発足するまでに至っているのか。その裏側については、これまであまり発信してきていませんでした。

エムスリーの動画チームの役割は、動画という手段を使って、事業成長を加速し、利益を生み出すこと。僕がエムスリー初の動画デザイナーとしてこの2年間模索してきた、エムスリーにおける動画チームの役割について変遷をまとめてみます。

エムスリーの動画チームでは、これまで50以上の事業を動画で支援してきました。年間制作本数は180本に及びます。

例えば、サービスのプロモーション・採用関連の情報発信・社内向けのインタビュー・コーポレートブランディングなどなど。各部署と協力し、企画から制作まで全てインハウスで行っています。

スマートな診療体験をサポートする「デジスマ診療」のサービスプロモーション動画
プロダクトチームの採用を目的として制作した動画。「The Power of Medical Innovation」はプロダクトチームの採用テーマ

エムスリーにおける動画チームの役割は、「動画という手段を使って、利益を生み出す」ことです。”見栄えの良い”動画を”多く”作ることではありません。

エムスリーの動画チームの役割

事業会社であるエムスリーでは、動画はあくまで手段で、それを使って事業に貢献することが本質的に求められます。

では、なぜエムスリーには「動画」が必要なのか。その答えは、医療領域には、わかりやすく、かつエンタメ性がある「動画」というコミュニケーション手法が適しているからだと考えています。

情報は、正しく届けることも重要ですが、一方で、まずは触れてもらうこともとても重要です。医療領域の情報は、複雑で硬い印象を持たれますが、それを動画でわかりやすく伝えることで、見てもらいやすくすることができます。

エムスリーにおける動画の価値「医療の情報を、わかりやすく届ける」

例えば、エムスリーのプロダクトをご愛用いただいている医師のインタビュー動画であれば、記事と比較した際に、“感情” や “熱量” を本人の表情と声にのせて届けることができるため、よりリアリティのある「ファンの声」を届けることができます。

「デジスマ診療」の利用施設に向けて、プロダクトをご愛用いただく医師 (ファン) にインタビューした動画を制作

ドライで固い印象を持たれがちなエムスリーグループで働く楽しさと充実感を伝えられるように、対談形式で、あえて失敗談も含めて話してもらうことで、社員の人柄を伝えています。

エムスリーデザイングループの、CDO古結さんと、動画デザイナー後藤の対談動画

医療の情報は必要とする人に、適切に正確に届くようにしなければいけません。「動画」は、文章や静的なビジュアルだけでは伝わりづらい情報をわかりやすく届けるために、エムスリーになくてはならないコミュニケーション手法だと考えています。

ではなぜエムスリーに動画デザイナーというポジションが置かれることになったのか?

ここからは、動画チームの成り立ちから、現在の役割に至るまでの立ち上げの歴史をまとめていきます。

僕が、1人目の動画デザイナーとしてエムスリーに入社したのは、2021年のことでした。

それまでは主にロサンゼルスを拠点に、3DCGやモーション・グラフィックスを専門として、AppleやMarvel Studiosの案件など、幅広い映像制作に取り組んでいました。その中で、エミー賞という世界的な賞も受賞しています。

そこから、580名の社員の中で動画デザインを専門としている方は1人もいない、エムスリーを新たなチャレンジの場として選びます。

事業会社で働いた経験がなかった僕が、エムスリーという事業会社に入社するに至ったのには、大きく2つの理由がありました。

1つ目の理由は、制作会社とは全く違う世界に飛び込みたかったこと。

制作会社で働き始めた頃は、何をしても新しく感じるし、スキルもどんどん増えていくし、挑戦的な環境でした。ただ、20年が経って少しずつワクワクすることも減ってきたことに気づいた時、「これから再び20年続けられるような新しいことにチャレンジしてみたい」と思うようになりました。

そこで、決めたのが「事業会社で働くこと」でした。

制作会社では、技術提供のスペシャリストであることが求められます。一方で、事業会社では「なによりも事業が伸びることが一番、そのため自身のスキルをどう活かすか?」という考え方が必要です。

スピード感、関わる相手、届ける対象、重視するもの...。これらすべてが今までと違う、事業会社という世界に面白さを感じ、まるで異世界に「転生」するような感覚で、入社を決めました。

制作会社から事業会社への「異世界への転生」

2つ目の理由は、エムスリーという環境には「動画で挑戦できる余地が多い」ことです。

エムスリーは、医師の9割以上が使っているプラットフォームを提供しており、医療領域で100以上のサービスを運営しています。

エムスリーは医師の9割以上が使っているプラットフォームと、医療領域で100以上のサービスを提供

そして580名の社員の中に、動画を専門的に扱っている人はまだいない。「これはチャンスだ」と思い、1人目の動画デザイナーとして入社することを決めました。

2021年に僕が1人目の動画デザイナーとして入社し、CDOの古結さんと2人体制の「動画チーム」が発足します。

とはいえ、当初は事業内容についてもちんぷんかんぷん。かつ、動画デザイナーの前例もない中で事業に貢献する方法もわからず、仕事のつくり方や他部署への提案は、はじめはCDOの古結さんに頼りきりでした。

最初の半年は、僕は依頼された動画をつくる仕事がほとんどで、制作会社の頃とさほど変わらない働き方になっていました。

動画チームが発足。ただ、最初の半年は、依頼されたものを制作するに留まってしまっていた

その後、より事業に貢献していくために、古結さんからも少しずつ学んでいきながら、徐々に制作だけの役割から、企画やディレクションのような役割まで幅を広げていきました。

具体的には、以下のように動画チームとして歩みを進めてきました。

動画チームのこれまでの歩み

1. 動画の事業としての可能性を探るフェーズ
 ・動画チームが生み出した「利益」を算出
 ・実績から信頼を積み上げる
 ・ファンが生まれ、相談が増える

2. 能動的に仕事を生み出すフェーズ
 ・課題に対して、最適な解決策を伝える

はじめに、動画チームが貢献した「利益」を算出できるようにしました

実は初年度から動画デザインチームには、1億円の利益に貢献することが求められていました。動画による貢献度合いをあらかじめ明確にできるようにチームで模索していきます。

具体的には、最終的にプロジェクトを通して出た数値に対して、動画デザインが貢献した比率を、プロジェクトメンバーと決める形で算出するようにしています。

例えば、プロモーション動画で1,000万円の想定利益があり、そのうち動画デザインの貢献分が50%程度とするならば500万円の利益貢献とするようなイメージです。

動画デザインからの「貢献利益」の測り方

直接換算しやすいマーケティング施策だけでなく、例えば採用PR動画などでも同様に考えています。

入社した人が年間でどのくらいの利益を生むか ↓ 1人入社したことにデザイングループがどのくらい貢献できたか ↓ その中で、動画がどのくらい貢献できたか... と分解する

このように1つ1つのプロジェクトでの利益貢献度まで測れるようになったことで、動画デザインとしてどのような領域に関わるべきか、関わった結果どうだったのか?を明確に捉えられるようになりました。

最初の転機となったのは「デジスマ診療」のプロモーションのために、モーショングラフィックスをつくったことでした。

スマートな通院体験をサポートする「デジスマ診療」のサービスプロモーション動画

この動画を公開後、狙い通りの反響が生まれました。

このような「小さな成果」の積み重ねで、少しずつ動画チームとしての実績と信頼が増えていきました。

実績と信頼が積み上がると、社内に動画チームのファンが生まれていきます。

仕事と共に成果も積み上がり、社内に動画チームに「相談してよかった!」と行ってくれる事業が増えてきたことで噂が広まり、「あの部署でやってたようなこと、うちの部署でもできないかな」と、ふわっとした段階で相談をもらえるようになっていきます。

ここまできて、ようやく次のフェーズに進める土壌ができてきました。

今の動画チームは、何かを依頼されてつくるというのではなく、課題に対して最適な解決策を提案する「コンサル」のような仕事が多くなっています。

相手の悩みを聞きながら、他部署との実績を踏まえつつ、こちらから何をすると良さそうかを提案します。(逆に、もし動画より適した手段があるならば、動画以外の打ち手を提案することもあります。)

「この問題を解決したい」というふわっとした段階での相談に対して、有効な解決策を動画チーム側から提案

「医院継承支援サービス」での、過去に医院継承をした医師に対するインタビュー動画のように、結果につながったコンテンツもあります。

担当部署から「継承を希望する医師の相談数がもっと増えて欲しい」という悩みを相談され、動画チームから企画構成を提案し、撮影〜動画制作を行いました。

「医院継承支援サービス」で、クリニックを継承できた事例を取り上げたインタビュー動画

事例動画をいくつもつくっていく中で、「医療継承支援サービス」を先生方に選んでもらうためには、会社やサービスに対する信頼だけでなく、「この人に継承をお任せしたい!」というエムスリーの担当者への信頼も重要だということが見えてきました。

インタビュー動画の中で、気配りや真摯さ、優しさなどの担当者の人柄までお伝えすることで、「動画をみて安心した」とお問い合わせをいただくことができました。これは動画がないと起こらなかった行動で、動画チームの利益貢献としても大きなものとなりました。

結果として、動画チームとして初年度で掲げていた1億円以上の利益貢献を達成することができました。今ではさらに大きな利益貢献の目標を追いかけています。

さらに、動画チームではこれまでに、50以上の事業部と案件を通して関わりを持ち、動画がどう事業貢献するのかは、社内全体に伝わりつつあります。

初年度は1億円以上の利益貢献目標を達成し、今ではさらに大きな利益目標を掲げている。50以上の事業部とも関わることができた

僕は事業会社に入る前は、動画によってどれだけ事業・ビジネスに貢献することができたのか?ということはほとんど考える機会がありませんでした。

このように、動画による利益貢献度合いが結果として返ってくることはモチベーションにもなります。結果を受けて、事業を伸ばすために続けるべきこと・直すべきこともわかりやすく見えてきます。

このように事業貢献に向けた下地を整えられたことで、エムスリーの動画チームは「体制を拡大するフェーズ」に入りつつあります。これからは、動画デザインチームの人数をさらに拡大していけないか?といったところにも注力していきます。

エムスリー動画チームは、事業貢献の下地を整えるフェーズから体制拡大フェーズに移行しはじめている

僕が約2年働いてきて思うのは、制作会社と事業会社の動画デザインはそもそもゲームから違う、ということでした。

例えるなら、制作会社での動画制作はRPGゲームのように、ストーリーが決まっている中でいかにクオリティを上げていけるか?が大切になります。一方で、事業会社での動画制作は、Minecraftのように、オープンワールドで何をするのかすら自由なところから始まるイメージをしています。

技術提供ではなく、課題を解決できたかどうかで評価をいただける世界で、動画チームの土壌を耕してきました。ここから仲間を増やし、さらに大きな課題を解決していこうと思います。