チームラボは、2023年4月に開校した「安平町立早来学園」のICT空間設計を担当しました。
早来学園の建設にあたり、安平町民と児童・生徒が考えたコンセプトは「自分が世界と出会う場所」。このコンセプトを起点に、学校を地域住民にも開かれた場所とし、地域と学校が一体となる空間をICTを用いて実現していきました。
その結果、早来学園は“これまでにない新しい学校”と呼べる空間になりました。
一方、チームラボとして学校づくりに携わるのは、この早来学園が初めてでした。
それでも「学校もインターフェースである」と捉え、どんな体験をしてほしいかを突き詰めて設計することで、「自分が世界と出会う場所」を体現する空間をつくることができました。
たとえインターフェースの形が変わったとしても、ものづくりに携わる人間として根本的にやるべきことは変わらない。その確信を得られたプロジェクトでした。
チームラボは2001年の創業以来、約25年にわたり、さまざまなユーザー体験を実現するためのユーザーインターフェース(UI)をつくってきました。
銀行や郵便局、空港、アート空間、テーマパーク、飲食など、関わってきた領域は多岐にわたります。
成果物としてはスマホアプリやWebサイトの形になることが多いものの、私たちは特定のUIにこだわっているわけではありません。
25年前にはスマホはまだ普及していませんでしたし、これからも技術の発展とともに、主流となるUIは移り変わっていきます。
そのうえで私たちが常に大切にしてきたのは、その場で人が何を見て、どう感じ、どう行動するのかといった、“人の根源的部分”から考えるということです。
これは、たとえUIの形が変化しても変わらない、つくり手としての原則です。
私たちに学校づくりの経験がなかったにもかかわらず、これまでにない学校空間を設計できたのは、この原則を大切にしてきたからだと考えています。
ここからは、早来学園のICT空間設計に携わるにあたり、私たちが何を考え、どのようにデザインしていったのかを、いくつかのポイントに整理してまとめていきます。
早来学園の建設は、2018年の北海道胆振東部地震で学校を失ったことを機に、安平町が「日本一の公教育」を目指し、構想されました。
地域住民や児童・生徒が考えた「自分が世界と出会う場所」というコンセプトのもと、学校と地域が一体になった、まちのコミュニティセンターを実現するビジョンが打ち出され、そのICT空間設計のパートナーとしてチームラボに声がかかりました。
私たちはまず、「子どもたちにとって本質的により良い体験とは何か」を考えました。思い描いたのは、何かを強制されるのではなく、“なんとなく世界の広さを感じられる場所”でした。
たとえば、教室を一歩出た子どもたちが家庭科室に行くと、地域の人たちによる古着リメイクのワークショップを目にする。図書館では、先生同士が授業について打ち合わせしている場面に出くわしたり、地域の人が本を読んでいたり、受験を控えた中学生が勉強していたりする。
おばちゃんたちがわいわい料理しているのを見て、「あれ美味しそう」と子どもが寄っていき、自然と料理に興味を持ち始める。
これまでの教室と廊下で区切られ、児童・生徒と先生だけで閉ざされた空間では出会えなかったような、新たな世界に日常的に出会える。そんな空間を実現したいと考えました。
中の様子が見えることで、自然と新たな世界と出会える構造となっている
そう考えると、重要になるのは「距離の近さ」です。子どもたちと大人たちの活動場所は物理的に近い方が良いし、お互いの活動が自然と目に入る方が良いということです。
早来学園では、「学校」「共有」「パブリック」という3つのエリアが動的に関係しあう構造にしており、さらに、建物の中央部分に家庭科室や図工室が配置され、その壁をすべて透明にしているなど、一般的な学校では考えられない設計としています。
だから、子どもたちがどんな授業を受けているか、地域の人たちがどんな活動をしているかが、全部分かります。このような透明性によって、交流やコミュニケーション、共創のきっかけが自然と生まれる空間を目指しました。
このような方向性が見えてきてから、はじめて「デジタルをどう活用するか」を考えます。目指す体験がクリアになってこそ、デジタルの意味や使いどころが浮かび上がってきます。
早来学園では、主に2つの方向性でデジタルを活用していきました。
早来学園には、児童・生徒と地域住民が共有できる教室があります。たとえば授業の時間は学校の「美術室」として使い、放課後や休日はコミュニティセンターの「アトリエ」として地域住民が利用できます。
従来であれば、学校とコミュニティセンターで、それぞれ別の空間として設計されていたはずですが、早来学園では同じ空間を時間帯によって役割を切り替えながら使うことができます。
この発想のヒントになったのは、デジタルがもたらした「1つの空間に複数の役割を持たせられる」変化です。たとえばAirbnbは「個人の家」を「ホテル」として、Uberは「自家用車」を「タクシー」として、デジタルの仕組みによって、同じ空間を利用者のニーズに応じて使い分けられるようにしました。
同じように、物理的には同じ空間でも、子どもたちにとっては音楽室・美術室・家庭科室であり、地域の方にとってはスタジオやアトリエ、キッチン教室になる。このような発想で、時間帯によって授業で使ったり、地域の皆さんが自由に使ったりできるようにしたいと考えました。
そして、これを実現するために「予約システム」と「スマートロック」の仕組みを開発しました。
予約システムでは、地域住民がWebサイト上でシェア可能な教室を選び、日時を指定して予約できます。学校が授業で利用する時間帯は予約システムに自動で連携され、その時間は地域住民が予約できないように制御されています。
また、教室の扉に設置したスマートロックは予約システムと連動しています。児童・生徒が授業で教室を利用している時間帯は、地域住民側の扉が施錠され、教室に入ることができません。逆に地域住民が予約して利用している時間帯は、児童・生徒は教室に入れないようになっています。
利用状況に合わせて扉をICTで制御することで、共有しやすさとセキュリティの両立を図っています。
もう一つは、「いま何が起きているか」が自然に伝わる仕組みです。
教室の扉横に設置されたタブレットでは、子どもたちも地域の人たちも、「このスペースが何時から、どんな内容で使われるのか」をその場ですぐに把握できます。さらに、学校内や役場などの人が集まる場所に設置されたサイネージには、教室の活動情報が表示されます。
ブラウザベースのシステムなので、インターネットがつながれば、端末は最新機種でなくても良い
これまで学校の中に閉じていた情報が町のあちこちで共有され、「いま早来学園で古着のリメイクワークショップをやっているんだ」「今日は体育祭なんだ」と自然に伝わります。
安平町はとても広いのですが、こうした情報をもとに人が集まって、人と出会えて世界と出会える。そんな学校となっています。
空間設計の過程で大切にしたのは、体験の理想像を高解像度で関係者と共有し続けることです。
たとえば内装のイメージを固める段階では、目指す体験の要素と具体例を可視化した、100ページ近い資料を作成しています。その資料を軸に、関係者との理想像のすり合わせを進めると同時に、建築会社へ要件を共有していきました。
資料の中では、早来学園のテーマのひとつである「共創」を空間で実現するために、7つのポイントを設定しています。
そして各ポイントについて、満たすべき要件を「必須・推奨・禁止」に分類して可視化し、それぞれに具体例を添えています。
ここで重要なのは、資料のフォーマットや情報量といったHOWではなく、つくりたい体験のイメージが、高解像度で共有され続ける状態をつくることです。
今までにない新たな学校をつくる以上、誰も最初から具体的な理想像を持っているわけではありません。
だからこそ、お互いにアイデアを出し合い、抽象と具体を何度も行き来しながら、理想像の輪郭をとことんクリアにしていく過程そのものを大切にしました。
その一環として、私たちが「共創」をテーマにつくり込んできたチームラボのオフィスに安平町 教育長の井内さんを招いたり、逆に私たちが井内さんが以前園長を務めていた「はやきた子ども園」を訪問したりと、フィジカルな体験を通じて理想像を共有し合う機会もつくっています。
チームでものづくりを進めるうえで、「どんな体験をつくりたいか」という理想像を徹底的に共有し合う文化は、デザインの対象が何であっても重要だと考えています。
私たちはものづくりを生業にしていますが、何かをつくりさえすれば、体験が変わるというわけではありません。その空間で、人の体験が変わるための構成要素を「系」として捉えて設計する必要があります。
早来学園では、普通の学校ではあまり見られないような、地域住民と子どもたちが自然に交流する光景が日常的に起きています。
これは、「空間」「システム」「人」という3つの要素がうまく噛み合った結果だと考えています。
空間は、建物のつくりや内装といった物理的な環境そのものです。システムは、前述のスマートロックやサイネージなど、裏側を支える技術やプラットフォーム。そして人は、場を訪れる人たちの交流を促し、出会いを生む触媒となる存在です。
早来学園では、「人」の要素も極めて重要でした。
学園内の公共スペース「まなびお」には、安平町の地域おこし協力隊員がコンシェルジュとして常駐し、施設管理だけでなく、地域住民を巻き込んだイベントの企画など、交流が自然に生まれる場づくりを支えてくれています。
早来学園を訪れる人が「居心地が良い」と口にする背景には、こうした場づくりを担う人たちの存在も大きいと感じています。
2018年の北海道胆振東部地震という困難を機に、「日本一の公教育」を目指し、動きはじめた安平町。その教育の中核を担う場のひとつとして構想された早来学園。
そんな早来学園は、2023年4月に開校しました。
開校後、早来学園はさまざまなメディアで「教育環境におけるロールモデルのひとつ」として取り上げられ、全国から注目を集めています。
また、安平町の教育を軸とした町づくりの結果、3年連続で社会増(転入超過)を達成し、『2025年版 住みたい田舎ベストランキング』子育て世代部門で第5位に選ばれるなど、躍進を遂げています。
もちろん、これはチームラボだけで成し得たものではなく、教育関係者、地域の方々、建築・運営に関わる多くの皆さんの尽力があってこそです。その一端に関われたことは、私たちにとって大きな誇りです。
そして何より、早来学園を通じて、子どもたちや地域の方々が新しい出会いに触れ、可能性を広げていける場を生み出せたことを、心から嬉しく思っています。
2001年にチームラボを立ち上げて以来、私たちは約25年にわたり、さまざまなユーザー体験を実現するためのUIをつくってきました。
UIというとWebやアプリを思い浮かべがちですが、実際には空間も、音声も、AIも、ロボットも、人とシステムが接する入口はすべてUIです。そして技術の進化に応じて、そのUIの形はこれからも変わり続けていきます。
だからこそ、その場で人が何を見て、何を感じ、どう行動し、何に心が動くのか —— そういった人の根源的部分を的確に捉えたうえで、ものづくりに臨むことが重要だと考えています。
早来学園での取り組みは、それを“学校というインターフェース”で実践できた事例だと言えます。
これからもユーザーインターフェースのプロとして、時代を代表するクオリティの高いものづくりを目指していきたいと思います。
もし私たちの考えや取り組みに興味がある方がいれば、支援や採用に関するご相談など、気軽にお声がけください。