DeNA デザイン本部マーケティングデザイン部 アートディレクター/デザイナーの田中です。
2022年末から2023年3月にかけて「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」のアートディレクション・デザインを担当しました。
どういった世界観にするかコンセプトから考え、キービジュアルなどのグラフィックやWebサイトなどを一貫してデザインしています。
制作したキービジュアルは、競合となる他のアリーナプロジェクトで使われているビジュアルとは全く異なる方向性に振り切ったものとなっています。
結果として、2023年3月の公開後には、当初の目的としていた新たな企業との対話が始まったり、プロジェクトを一緒に推進したいと考えてくださるパートナー企業からのお問い合わせを多数いただくなど、「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」に対する期待感やワクワク感を大きく高められたのではないかと思います。
今回は、このプロジェクトのVIデザインを手掛けたことを振り返りながら、オリジナリティを感じられる世界観をどのように作っていったかをまとめたいと思います。
京急川崎駅の隣接地に、「川崎ブレイブサンダース」の新たなホームアリーナを核とした複合エンターテインメント施設を建設するプロジェクトの記者発表に向けて、2022年末ごろ、コンセプトから各媒体のVIデザインを依頼されました。
2023年3月に実施した記者会見で初めてこのプロジェクトを発表するにあたり、認知拡大やパートナーの獲得に繋げることが目的でした。
事業部からは、以下の内容が伝わるようなものにしてほしいという要望があり、コンセプトの設計や展開されるクリエイティブの制作を行いました。
アジア最高峰のエンターテインメントが集まるワクワク感を、ビジュアルを通して伝えられるようにすることを目指し、「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」のVIデザインや、それに伴うサイト制作をどのように展開していくか、リサーチや思考することから始めました。
まずは、どんな世界観にしていくか方向性を考えていきました。
このプロジェクトの目指す世界観が、他には無いオリジナリティのある表現ができるように、いくつかの観点から絞り込んでいきました。
まずは、先行する他のアリーナプロジェクトのビジュアル傾向を調べながら、どんな方向性のビジュアルにすると、オリジナリティある世界観を作れるか探っていきました。
「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」として目指す世界観とは違うな、と感じるものを想定しておくことで、よりオリジナリティが出しやすくなることを意図しています。
いくつか事例を調べていくと、モチーフとしては施設の写真やCG、航空写真、バスケットボールなどを使用しているものが多く、親しみやすさや簡潔な印象を持ったものが多くありました。
これらとは差別化しながら、川崎らしさ・エンタメらしさの表現に繋げるためには、「派手さ」や「多様性」を持たせると良いのではないかと感じていました。
また、川崎にはたくさんのカルチャーがあり、それらが交ざりあった独特な世界観を表現できたら面白くなりそうと考えました。
次に、モチーフをキーワードとして出しながら「どんな表現にしていくべきか」を考えていきました。
キーワードとしては、バスケ、音楽、スポーツなど「かっこよさ」を連想するようなものが多く、そこに加えて、複合施設としてのエンタメ性や、川崎らしいカルチャー性などの要素も組み合わさっています。
ぱっと見でエンタメ・カルチャーのワクワク感や、かっこよさもある中で、川崎の多様性も感じられるような入り交じった世界観が良いのではないかと考え、キーワードや印象に沿ったリファレンスを集めながら「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」らしさを探っていきました。
集めたリファレンスを眺めていると、上記の入り交じった世界観を表現するためには、実写とグラフィック要素のコラージュをベースに、ビジュアルを作ると良いのではないかと直感的にイメージすることができたので、その方向性で作ることを決めました。
また、今回主役となるのはアリーナであるため、そのアリーナをどのような表現でビジュアルに落とし込むかが重要なポイントでした。
しかし、今回はあくまでプロジェクトの始動という段階で、具体的な施設の外観を連想させるような表現ができないという状態にありました。
そこで、「箱」や「建設時の仮囲い」をモチーフとして見せることにしました。意図としては、以下のようなものがあります。
「箱」にすることで、決まっていない施設を抽象化することができる
「箱」と別のモチーフをコラージュで組み合わせることにより、独特な世界観が表現できる
見る人に対して「これはなんだろう?」と思わせたり、感情を動かすきっかけになる可能性がある
次に、設定したビジュアルの方向性を踏まえてラフデザインを制作していきます。
ラフ段階では、キービジュアルとイラストを主に制作し、イラストは外部のイラストレーターに依頼する形で進めていきました。
前述の「箱」をメインモチーフとして、エンタメやカルチャーを連想させるような写真をコラージュで組み合わせ、この箱から生まれるワクワクや川崎らしさが交わる世界観を、ビジュアルで表現していきました。
具体的には、以下のようなステップで作っています。
手書きでざっくりとした構図をスケッチブックに描き起こす
コラージュで使用する写真素材を集め加工
手書きラフを元にIllustratorで写真素材を配置し、文字やシェイプなども組み合わせていく
このような過程を踏まえて、制作したラフ案がこちらです。意図としては、以下のようなものがあります。
真ん中の「箱」がアリーナを意味しており、そこを起点に日々開催されるエンタメや、新たに生まれる川崎のカルチャーを表現
モノトーンベースにして、これから様々なカラーが加わり、アリーナができていく期待感を演出
グローバル展開を見据え、日本らしいテイストも加える
次に、キービジュアルと並行して、Webサイトや発表資料で使用するイラストを外部のイラストレーターにご協力いただき、進行していきました。
イラスト制作の依頼時には、コンセプトコピーやラフのキービジュアル、方向性を示すキーワードやリファレンスを提示し、まずはラフを描いていただきました。
そして、ラフキービジュアルとイラストをもって、事業部への提案に挑みました。
初稿ラフデザインに対して、事業部からの反応としては「川崎っぽさが出ている」や「インパクトもあり、攻めてる感じがして良い」と概ね好印象でした。 一方、「ダークな印象が強い」など少しネガティブなフィードバックもあったため、カオス感は崩さず、落ち着いた印象にするなど細部の調整を行っていきました。
具体的には、以下のような点で微修正を加えながら、クオリティを高めていきました。
写真モチーフの変更・追加
カラー調整
各要素の配置やバランス調整
キービジュアル制作も終盤に差し掛かったころ、Webサイトデザインと、サイト内や発表資料で使用する空撮合成グラフィック、プロモーション動画制作など、それぞれ同時進行で制作していきました。
空撮合成グラフィックは、空撮専門の会社に川崎市上空の写真を撮っていただき、その写真を社内デザイナーがPhotoshopで加工して、イメージを制作しています。
同時進行で進めていたイラストは、数回のブラッシュアップを依頼し、細部までの描き込みやカラー調整をご対応いただきました。
Webサイトは弊社ディレクターがワイヤーフレームを制作し、それを元にデザインを進めます。 制作のポイントとしては、キービジュアルやイラストなどが際立つよう、モノトーンベースにシンプルなレイアウトでデザインしています。 また、コピーやキービジュアルにインパクトがあるので、各要素が効果的に見えるよう、やりすぎない程度にアニメーションを加え、上質さを演出しています。
そして、来る2023年3月3日、記者発表と共にWebサイトも公開されました。
記者会見の様子は、約40社のメディアに取り上げられ、各社の記事には今回制作したキービジュアルやイラストが転載されています。
結果として、新たな企業との対話が始まったり、プロジェクトを一緒に推進したいと考えてくださるパートナー企業からのお問い合わせを多数いただきました。(現在も継続中)
また、プロジェクトの内容や施設の完成に期待を寄せる声も、様々なところから聞こえてきました。
自分でも尖ってるな...と感じる方向性のビジュアルとしたために、一定予期せぬ反応が来ることを覚悟していたのですが、ポジティブなコメントが多かったことに安心しました。
依頼いただいた川崎拠点開発室の元沢室長(兼 川崎ブレイブサンダース代表取締役社長)からも、「川崎らしく、いい記者発表となりました。デザイン本部の皆さんのおかげです」と熱いコメントをいただくことができました。
新しいプロジェクトへの期待感やワクワク感を高める1つのきっかけにできたのではないかと思っています。
余談ですが、美術手帖やWebデザインのギャラリーサイトにいくつか掲載されたことは、自分にとっても嬉しくありました。
露出度の高い広告や、大衆向けにデザインを制作する場合、どうしても分かりやすさや親しみやすさを重視する依頼やレビューを受けることが多々あります。
しかし、上記に合わせてできたデザインは、どこかで見たことがあるような“量産型”のデザインになりがちな印象です。
目的を見失わないことは前提とし、自分が楽しめて作れないデザインや、オリジナリティも無く誰の記憶にも残らない、そんなデザインは意味が無いと思っているので、時には振り切った方向性に賭けてデザインする勇気も必要だと日々取り組んでいます。
そう言い続けてデザインを作り続けてきた結果、大きな仕事を繰り返し任せていただいています。
また、賛同してくれる仲間も増え、ビジュアルデザインに特化したチームを作ることができました。
これからもデザインと向き合い、人の感情が動かせるよう仲間と共にいいものを作り続けていきたいと思います。