2024年3月18日・19日の2日間で、エンジニア・デザイナー向けカンファレンス「MIXI TECH DESIGN CONFERENCE 2024」(以下 MTDC2024)を開催しました。
MTDC2024の各種クリエイティブは、デザイン本部メンバーを中心に制作しており、私たちはビジュアルコンセプトの設計や、3DCGをかけ合わせたキービジュアルの制作を担当しました。
MTDC2024キービジュアル
「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」というMIXIの理念から「包む」というコンセプトを設定し、MIXIらしさを象徴するさまざまな要素を、風になびく布を模したキービジュアルで表現しています。
このデザインを手掛けたことを振り返りながら、MTDC2024を通してどのようにMIXIらしい世界観を作っていったか、どのような工夫を取り入れたのかをまとめたいと思います。
MTDC2024は、技術・デザイン領域の発展に貢献することを目指して、MIXIがこれまで培ってきた技術とデザインの知見や課題解決の取り組み、未来に向けた挑戦などを、多様な講演・パネルディスカッションを通じて紹介するカンファレンスです。
2023年に開催した「MIXI TECH CONFERENCE 2023」では、主にエンジニアが技術についての知見を公開し、デザイン本部では本カンファレンスのキービジュアルや動画など、一部の制作に携わっていました。
MIXIのデザイン・クリエイティブ領域においても、今まで培ってきた知見を公開することで業界への還元をしていきたいと考え、2024年はエンジニアと合同で開催することになりました。
MTDC2024は「テクノロジーとクリエイティブの共創(Co-Creation)」がテーマであるため、サイトや会場など各種クリエイティブ面でも、MIXIやこれからの業界の可能性を感じられるような表現に挑戦したい。このような思いで、デザイン本部メンバーを中心に制作を進めていきました。
そのなかでも特に、キービジュアルや3DCGによる表現をどのように考え、磨き込んでいったのかをご紹介します。
まずはカンファレンス全体のデザインのベースとなる、ビジュアルの制作についてです。
MTDC2024は、MIXIのコーポレートイベントであり、MIXIが展開する多種多様な事業にも紐づいたイベントでもあるため、どの側面を切り取って表現を落とし込むべきかといった方向性を模索していきました。
MIXIらしさや、イベントの位置付けなどをメンバーと壁打ちしたり、様々なリファレンスを集めながら、大きく3つの軸を整理しました。
メンバー間で議論した結果、この中から「技術とデザインのつながり軸」をベースとすることにしました。カンファレンスは事業開発に関わるナレッジ共有の場であるため、それぞれの職種や事業の「つながり」という切り口がマッチしていると考えたためです。
「つながり」を切り口として、考えられる方向性をデザインに落とし込んでいきます。
その過程では、メンバーと会話する中で感じた「あたたかみ」や、MIXIの根底にある「コミュニケーション」や「人との交流」などといったMIXIらしさを意識し、無機質ではなく有機的なぬくもりを感じられるようなビジュアルを心がけました。
実際に制作した4つのビジュアル案がこちらです。
それぞれ以下のようなコンセプトで作られています。
① つながる・広がる (左上) 点が次第に線へ、そして面へと続き、心地よく温かなつながりを紡ぐ様子。
② blooming (右上) 人の手作業を指紋として捉えた造形。人力の技術・クリエイティブがその手垢を残して事業として花開く様子。
③ 包む (左下) 様々なパターン、一つ一つの技術・クリエイティブが糸のように縦・横に折り重なり、面=一枚布となって「世界を驚きで包む」事業を発信する。
④ 影響・反応・共創 (右下) 同じ空間にあるモチーフが互いに影響しあいながら形を変えていくことで、共創を表現。
4つの中から精査していき、「③ 包む」の方向性で進めていくことに決まりました。この段階でキービジュアルのコンセプトを言語化したものがこちらです。
よりコンセプトを反映したビジュアルとなるようにブラッシュアップしていきました。特にこだわった、4つのポイントについてご紹介します。
① グリッド MIXIという一つの枠組み(企業)を表現するために、デザインベースにグリッドを採用。グリッドの設計はMIXIロゴの形状に紐づいています。
② MIXIレッドとMIXIオレンジ MIXIロゴに合わせて、左半分にはMIXIレッドを、右半分にはMIXIオレンジを基調に配置しています。
③ 事業ごとのカラー MIXIはコミュニケーションを軸に20種類以上のサービス/事業を展開しているため、その各事業のカラーを意識したグラデーションを作成しています。
④ 多種多様なパターン 事業の多様性を表現するため、設計したグリッドをベースに様々なパターンを作成。なるべく事業ごとのイメージを感じられるような形状にすることを意識しています。
このように、MIXIのアイデンティティから着想した要素を反映していくことで完成したビジュアルがこちらです。
また、グリッドのベースを活かせばフォントも作れそうだと考え、他メンバーにもアドバイスをもらいながらTECH感もあるオリジナルフォントを作成したことも、こだわりの一つです。
今回のキービジュアルでは、静止画だけではなく、3DCGを活用して布の揺れや質感を表現しています。動きまでこだわることで、「包む」というビジュアルコンセプトを最大限表現するとともに、カンファレンステーマである「Co-Creation」を私たち自身も体現できるように進めていきました。
キービジュアルの方向性が固まってきたタイミングから、ビジュアルを担当していた新開さんと相談しつつ、「包む」というコンセプトを表現するために最適な3Dアニメーションの方法は何かを考えていきました。
3DCGのアニメーション方法は大きく分けて3つあります。
- ボーンを使ったアニメーション
- テクスチャーを使ったアニメーション
- 物理シミュレーションを使ったアニメーション
それぞれの方法にメリット・デメリットがあるのですが、今回はより自然な動きを再現できる「物理シミュレーション」を使ったアニメーションを取り入れることにしました。
物理シミュレーションでは、オブジェクトのどこかを固定しないとシミュレーションを始めた時に自由落下していきます。この落下を防ぐために任意の頂点を固定するのですが、試してみると「のれん」のような動きになってしまいました。
元々のキービジュアルの範囲でオブジェクトを作ると「のれん」のようになってしまうことが分かったので、オブジェクトの長さを伸ばして固定部分が見えないようにしていきます。
オブジェクトの長さを調整したことで、画面外にも布の広がりを感じられるようになり、目指していた動きに近づいてきました。
さらに「包む」を感じられる動きになるように、曲がり・伸び・重さ・風の影響などのパラメーターをひたすらいじって動きを調整していきます。試行錯誤の過程をいくつかご紹介します。
NG案① : ごちゃごちゃしてしまっている
NG案② : 弱すぎるし、うねうねしすぎてしまっている
NG案③ : 良い感じだが、強すぎる
ひたすらパラメーターを調整していき、狙った動きに近づいてきたのですが「動き出しの部分で画面右側が左側と同時に動き出しているのが気になる」というレビューがありました。
この一部の修正のために改めてシミュレーションをすると、他の良い部分まで変わってしまうリスクがあるため、ここは「Mesh Select」と「Morpher」という機能を使って力技で修正していきました。
まずMesh Selectで修正したい箇所をグラデーションで選択します。この青から赤のグラデーションは、この次に使う機能の影響の受けやすさを表しています。今回の場合は、赤い部分ほどこの後に使用するMorpher機能の影響を受けるようになります。そして、選択した範囲にMorpherを適用することで布が動かないようにすることができました。
狙った動きを再現できるようになってきたタイミングから、より温かみを感じる柔らかな質感を目指して調整を重ねていきました。
3dsmaxでアニメーションを行い、Brenderで布の素材・マスク素材・グリッド素材等を出力していき、Adter Effectsでコンポジットしていきます。
今回は、Brenderから以下の素材を出力しています。
■ 布のグリッド表現 布が揺れた際に、布のハイライト部分にさりげなくグリッドがキラリと光る表現を目指しました。グリッドと布を一緒にレンダリングしてしまうと、修正の際にレンダリングコストが高くなることが予想されるため、今回はグリッドを別素材で出力し、After Effectsで合成処理を行っています。
具体的には、前述した②の素材のままだと布前面にグリッドが表示されてしまうため、これを③の素材でマスクすることで、布のハイライト部分にだけグリッドが表示される仕組みにしています。
③の素材は、①の素材からテクスチャを外したオブジェクトをレンダリングした素材です。①と光の当たり方が変わらないようにするため、③は①と同じライティングを施しています。こうすることで、①と③のハイライトが同じになり、グリッドをハイライト部分にだけ合成することができます。
■ テキストのグリッド表現 布のグリッドと同じく、テキストにもグリッドを走らせています。仕組みとしては、上記の布のグリッドと同じように④の素材をマスクとして使用し、グリッドの表示範囲を制御しています。
違う点としては、テキストのグリッドは布の影となる部分にグリッドが走る点です。しかし、何もない空間に布の影を落とすことは不可能なので、このように背景となる平面を布の後ろに配置し、ライトを正面斜め上から当てることで、影の素材を抽出しています。
また、3Dの布素材と2Dのテキスト素材を、布の動きと連動した影になる部分にグリッドを走らせることで、同一空間上にそれぞれの素材が存在しているように見せ、布とテキストの関係性に矛盾が生じないように演出しています。
テキストのグリッドは、キービジュアルと合わせて左半分をMIXIレッド、右半分をMIXIオレンジの色に分けています。
■ 布の色味 3Dの質感を付け、ライティングを施した布をレンダリングすると静止画のキービジュアルよりも若干彩度が低くなってしまいます。特に黒い部分が白飛びしてしまい、キービジュアルと見た目の印象が変わってきてしまいました。
そこで、レンダリングした布の素材から黒い部分の情報だけを抽出し、明るさを抑えてキービジュアルとの色の差が出ないように調整しました。
このようにコンポジット工程で全体の色味調整やグリッドの合成などを行っていきました。改めて、完成したキービジュアルがこちらです。
完成したアニメーション
このような流れでMTDC2024のキービジュアルを制作しました。また、ここで制作したキービジュアルは、特設サイトではもちろん、アタック動画や配信素材、会場装飾、グッズなど、さまざまなアイテムに展開されています。
さらに、MTDC2024に参加された方からは「とにかくキービジュアルがすごかった」「会場で配られていたノベルティのデザインが素敵だった」「MIXIの各サービスがモチーフの幾何学なキービジュアルがすごく素敵だった」などありがたいコメントをいただき、制作を担当したメンバーとしてすごく嬉しかったです。
私たちはそれぞれ2023年8月・9月の入社で、入社間もない時期でのアサインだったため、MIXIらしさとはどういうものか手探り状態からのスタートでした。ただ、他のメンバーに何度も助けてもらいながら、単にきれいなクリエイティブではなく「どこを切り取ってもMIXIらしさを感じられる」ようなものにできたのではないかと思っています。
MIXIのデザイン本部にはグラフィックや動画、3DCG、サウンドなど、様々な専門性を持つクリエイターが所属しているので、これからもそれぞれの専門性を活かし合い、MIXIだからできるデザインや表現を、もっと届けていきたいと思います。