Kyashのデザインチームが主導して、組織として目指す像を「Kyash VisionDeck」として可視化しました。
このようなビジョンやミッションの視覚化は、外部のパートナー中心に進めてもらうことも多いと思いますが、Kyashではパートナーを巻き込みながら、自社のデザインチーム中心に取り組んでいます。
インハウスのデザイン組織で取り組むからこそできた、事業アウトカムにつながりやすい形で目指すものを可視化するプロセスや、バージョン管理を前提とした運用についてまとめていきます。
もともとKyashには、「新しいお金の文化を創る」というビジョンと「価値移動のインフラを創る」というミッションがありました。
言葉としての浸透度は高かったのですが、一方で、言葉の抽象度が高いために、それらが指すものの具体的なイメージは人によって捉え方が曖昧になっている状況でした。
例えば、会社説明資料やコーポレートサイト、登壇時のスライドには、毎回異なるイメージが使われていました。
さらに、プロダクトで開発するものを決める時や、ユーザーの体験を考える際にも、ビジョンやミッションが判断基準として機能していませんでした。
そこで取り組んだのが「Kyash VisionDeck」の作成です。
これは、Kyashの目指すものを可視化する、いわばバイブルのような位置付けのドキュメントです。
ビジョンやミッションに対する解像度が低いことで、人によってゴールの捉え方が曖昧になっていたところから、一つのゴールを目掛けて全員が一貫した動きができるようになることを目指しています。
ここからはVisionDeckで、何を言語化したのか、どのように事業に繋げていくのか、運用の方法についてまとめていきます。
大前提として、VisionDeckは、完成されるものではなく今後継続的にアップデートされ続けるものであると考えています。核となる部分は変わらないものですが、我々のプロダクトのように「より良くしていく」必要があると思っています。
まずはプロトタイプとしてVer.1.0を作り上げました。Ver.1.0の段階では、意図的にビジュアライズや浸透方法にはこだわらず、ミニマムに言語化だけ行うことを心がけています。
現在、VisionDeckのアップデートは、Ver.2.0のビジュアライズまで進んでいます。例えば、写真やイラスト表現におけるブランド資産化に取り組んでいます。
VisionDeckを制作する上で、まずビジョン/ミッションの言語化に取り組みました。
以下のようなプロセスを通して言語化を進めています。
まず、過去の膨大なドキュメントのリサーチをするところから始めていきます。
ここでは創業からこれまで生み出されてきたさまざまな言葉や概念を洗い出し「現状の理解」を行います。この時点で、何が核にあるのかなど、それぞれの関係性における不明点を確認していきます。
また同時に社歴の長い社員へのヒアリングを行い理解を深めていきました。
次に、複数回に及ぶ代表へのデプスインタビューを行いました。
そこでは、以下のような項目を確認していきます。
どのような背景や想いから、現在のビジョンやミッションが生まれたのか? 背後にある個人的なストーリーを聞き出す。
会社として大切にしている概念をより掘り下げていき、それらが具体的にどのような状態を示しているのか? まだ言語化されていない内容をさまざまな角度の質問から引き出す。
創業当初から掲げられている概念と、その後の歴史を経て生まれてきた概念の重要度や構造的位置付け、ビジネス上の変化などを踏まえたリアルな背景を理解する。
ここまでのプロセスを経て、WHY・HOW・WHATの関係性を整理します。言葉と言葉の関係性をFigJamなどのツールを用いて図解しながら、それぞれの位置関係や、重要な部分についてすり合わせていきます。
例えば、ビジョンが最上位にあり、その下にミッションがあるのか。または、ミッションが最上位にあり、その下にビジョンがあるのか。ということまで整理します。
こうした構造化を通してさらに、これまでのビジョンやミッションの綺麗な言葉の背後にある「WHY」としての「なぜこの事業をやっているのか」を探索していきます。考えられるパターンを整理しながら、どのような関係性で表すと適切なのかをビジュアライズしながら共通認識にしていきました。
ビジョンやミッションはどうしても未来の事業の広がりを担保しようとすると、抽象的になりがちという問題があります。
そこで、事業が目指すゴール(最終アウトカム)を言語化し、さらにツリー構造へ図解することで、足元でやっている施策が、未来へどのように繋がっているのかを可視化しました。
ここまで整理を進めて、はじめて「ことば」に落としていきました。
今回は、コピーライターとして曽原剛さんへ協力いただき言語化を開始しました。
毎週2回、2時間のMTGを行い、膨大なアイデア出しとフィードバックのやりとりを行いながら、代表を交えて本質的で、分かりやすく、エモーショナルな言葉を探して、言語化していきました。
Ver.2.0のビジュアライズのプロセスでは、イラストや写真などを今後もKyashのブランド資産として扱えるようにしながら、VisionDeckのアップデートに取り組みました。
直近ではVisionDeckに反映するためのアウトプットとして、ブランドらしさをピュアに表現するビジュアライズを意識しつつも、ブランドアセットとしても中長期的に活用できるものを目指して、デザイン、写真、イラストの制作を行っています。
言語化した言葉をビジュアライズすることで、より直感的にブランドの哲学を伝え「理解する」だけではなく「感じる」状態を目指して、今後のブランドの世界観を見据えたアートディレクションを行っています。
中長期を見据えながら、目の前のVisionDeckにも活用できるブランドアセットを制作するのは、難易度としては高いものでした。しかし、一度完成すれば今後のアウトプットのブレも小さく、制作時間の短縮化や合理化にも繋がります。
また、それだけではなく、チーム内や外部のデザイナーやクリエーターへのトンマナや世界観の認識を合わせることにも活用でき、ビジュアルにおける大きな一つの指針となります。
これらのブランドアセットを最大限活用しながら、VisionDeckの制作を行いました。
このようなプロセスで、Kyash VisionDeckは現在Ver.2.1までアップデートしてきました。
内容の特徴を、以下にまとめていきます。
ビジョンやミッションは、これまで定義されていた文言を活用しながら、写真やステートメントを置くことでより解像度を高めるアプローチでまとめました。
狙いとしては、言葉に対する解像度を高め、表現をよりわかりやすくすることです。
「お金の新しい文化?とは」「価値移動のインフラ?とは」など、Kyashにこれまで根付いている言葉は大きく変えずに、それぞれが意味していることを代表から引き出し、解像度を上げながら言語化することで、よりイメージが共有されると考えました。
ビジョン、ミッション、バリューについてはもともとあったものをそのまま活用した上で、パーパス (=Kyashの社会的な存在意義) のみ新たに言語化しました。
これまでのビジョン、ミッションには、そもそもなぜKyashが事業をやっているのかが、明確に定義されていませんでした。
この点をより深掘りすることで、あたらめて私たちの存在理由、社会的意義を明確にすることができると考えました。
パーパスや、ビジョン、ミッションなど言語化されたKyashが目指すもの同士の関係性も、VisionDeck内で視覚的に可視化しています。
結果として、高い解像度で社内にKyashの目指すものが浸透することとなり、事業全体で判断軸として機能する状態がつくれています。
例えば、経営面でも、中期経営計画を立てる際にVision Deckに沿っているか?を判断軸として検討されています。
また、プロダクトをつくっていく上で、これらの目指すものに辿り着くことを前提として、機能の実装順序が意思決定されるようになっています。例えば、現在「NEXT UX」という、Kyashが理想像へ近づくためには具体的にどのようなUXやUIであるべきかを定義するプロジェクトを推進しています。
ビジョンやミッションは、言葉としてあるだけでは意味がなく、全員が高い解像度を持って目指すものになっているべきだと考えています。
そのためには、ただ文言だけ変えたり、VIをつくるだけでなく、どこまでが浸透しているか、どこからはさらに認識を揃えるべきなのか、を捉えながら設計する必要があります。
大切なことは「理想像」を描くことだけではなく、それからブレることがないように一貫したアクションを行い、ブランドの体験を設計していくことだと思います。単にデザインやクリエイティブの話だけではなく、組織全体、事業全体、プロダクトやカルチャー全体に浸透させていくことが重要です。
現在、Kyashの社内ではデザイナーを中心にこのビジョン浸透のインナーコミュニケーションの施策にも力を入れはじめています。コーヒーを飲みながら、ビジョンについて考える場をつくったり、AllHandsという多くの社員が参加する会議でビジョンについて代表との対話の場を開催を計画したりと、さまざまな取り組みも進めています。
また、ビジョンやミッションは、一度つくられただけでは機能しているとは言えず、日々の事業を進める上での指針として活用されてこそ機能していると言えます。
上記で示したように、中期経営計画における指針として活用したり、プロダクトのエクスペリエンスを考える際、またコミュニケーションを作っていく際にも、常に立ち返る場所としてあるべきでしょう。
事業において、全員が目指すものを曖昧に捉えているか、一つの理想へ向かって大きな矢印の方向を向いているか、によって事業スピードに大きな差が出てきます。矢印が揃っていなければ、時に引っ張り合いが起きたり、意思疎通やコンセンサスに非常に時間がかかってしまったりしますが、同じ矢印を向いていれば大きな推進力となるでしょう。
また、デザインだけでなく、Kyashを支える全てのチームが、ユーザーへ一貫性のある体験を届けることができれば、ブランドへの信頼と認知も向上していきます。
今回のように、Kyashは代表を筆頭にビジョンドリブンで事業を推進している企業だと思います。恐らく通常のスタートアップの何倍もの時間を費やしていることは確かでしょう。インハウスのデザイン組織で目指すものの可視化に取り組む最大の意義は、ブランドの可視化によって事業全体にまで影響していくことができるところだと思います。
組織が目指す未来へのバイブルとして、Kyash VisionDeckを、今後もアップデートしていきます。