Ubieでは、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションとして、生活者向けの症状検索エンジン「ユビー」や、医療機関向けのユビーメディカルナビなどのサービスを提供しています。
またUbieの開発組織である Ubie Product Platform では、ホラクラシーという組織形態を採用しており、部署なし・役職なし・評価なしのフルフラットな体制で活動をしています。
このような体制の中でデザイン領域においては、2020年からアクセシビリティの推進・プロダクトの改善・デザイン基盤の構築など、横断的なデザイン課題の解消に向けた取り組みを行ってきました。
今回は、Ubieにおいて横断的なデザイン課題の解消に取り組み始めた背景や、その試行錯誤をまとめます。
僕がデザイナーとして入社した2020年当時、Ubieの組織全体としてもどんどん人が増えており、組織拡大に伴って新しい事業・チームも同時並行的に多く生まれている状況でした。
もちろん、事業や組織が大きくなっていくことはそれだけユーザーや社会にとって価値を作れているという証明でもあり、とても喜ばしいことです。
ただデザインという視点から見ると、組織拡大によっていくつかの問題が起こり始めていました。
組織拡大に伴い、複数のプロダクトに多くのメンバーが関わるようになったことで、目指す品質定義のばらつきが生まれてしまったり、プロセスが属人的になってしまったりと、中長期的に影響する横断的なデザイン課題が散見されるようになりました。
こういった問題は、プロダクトデザインの活動として重要ではあるものの、事業的な課題と比べると効果が見えにくいため優先度を上げづらく、見逃されたり後回しになってしまいがちです。
ただ何もせずに放置してしまうと、デザインにおける負債が積み重なり、今後のプロダクトの成長に対して品質・スピードの面で足を引っ張ってしまいかねない危機感がありました。
一方で、これらの横断的なデザイン課題を誰が扱えばいいのか?という問題もありました。
Ubieでは当時、各開発チームにデザイナーが分散して所属しており、それぞれの担当範囲に分かれて活動している状況でした。
そのため、プロダクトをまたいだ横断的なデザイン課題に取り組むことが難しく、それらに主体性を持って取り組める組織体制から構築することが必要だと感じていました。
そこで、横断的なデザイン課題を主体的に解決していけるチームとして「デザインによる価値最大化サークル (以下デザ価値)」を立ち上げることにしました。 「サークル」とはホラクラシーにおける部門のようなもので、明確な目的を元に組成されます。デザイナーの横断組織化で成し遂げたいことは、デザイナーのナレッジシェアでも立派なキャリアラダーの構築でもありません。本質的にはそれらによってプロダクトや事業の価値を最大限高めていくことが目的であり、それがデザ価値という名称の由来です。 デザ価値では当初私を含めた5〜6人のデザイナーが、それぞれのチームでプロダクト開発に注力しつつ、兼任で手分けしながらデザイン課題を解決していくという形でスタートしています。
まずは「デザイン生産基盤の構築」「アクセシビリティ対応の推進」「プロダクト品質の改善」という3つの領域に焦点を当てて活動をはじめました。デザイナー自身が課題感を持っており、主体的なマインドを持って活動を推進できるテーマとして選定しました。 以降数年にわたって、フォーカスするテーマや領域を少しずつ変えながら様々なことに取り組んできました。そのうちデザイン原則や各種ガイドラインであったり、アセットとして定義できるものは「Ubie Vitals」というデザインシステムに統合され、今ではデザインのクオリティと生産性向上を目的に開発・運用されています。
とはいえ上記のようなサークルを立ち上げればそれだけで事が進むわけではありません。兼任メンバーだけで構成されたデザイン組織においてさまざまな活動を推進していくにあたって、いくつかの壁がありました。
取り組む課題の優先度設定
そもそものリソースや専門性の不足
取り組みについての社内発信や巻き込み
「デザ価値」では、上記のような問題を乗り越えて推進力を持たせるために、3つの工夫を取り入れています。
デザ価値としての活動は、全社で運用しているOKRの仕組みに乗せて管理しています。 目標と進捗を可視化することで、チームで取り掛かる範囲と優先度について目線を揃えることを目的としています。また一部のOKRについては、事業的な目標ともアラインできるものを設定し、他のサークルとも情報連携を取りながら進めることもありました。
デザ価値のOKRを設計する過程では、関わるメンバーが各自の問題意識から取り組みたいことをブレスト的に発散しながらボトムアップで考えるようにしています。その後、相互の依存関係やリソースなどの観点を踏まえ、四半期単位で注力したいポイントを絞るようにしています。
兼任メンバーで構成されるために、OKRがストレッチ過ぎるとどうしても進捗を出しきれないといった問題も出てきます。その場合は、期中であっても達成目標を見直すなどの柔軟な調整を重ねています。
兼任メンバーのみで推進する上で、純粋なリソースや専門性の不足も一つの壁でした。
例えばアクセシビリティ対応の推進にあたっても、アクセシビリティに関する深い知識やドメインの専門性が十分でないと感じられることがありました。またデザイナーが中心なこともあり、改善したUIをプロダクトに反映できるエンジニアリングスキルも不足していました。
特に実装面においては社内エンジニアの協力も仰ぎたいところですが、協力を依頼したところですぐに対応をしてもらえるほど、エンジニアも暇ではありません。そこでまずは、外部パートナーとしてその領域に詳しい有識者にアドバイザーとして入ってもらったり、副業で手伝っていただけるエンジニアの方を募集するなどして、デザ価値としての自己完結力を高めていきました。
それらの活動を踏まえながら、社員として必要なポジションや人物像を少しずつ明らかにしていきました。
結果として、元々プロダクトデザイナーのみの募集だったところを、デザインエンジニアなどいくつかの職種や要件に細分化。現在でも外部パートナーで推進可能な業務を切り分けることで、いま必要なメンバーの採用活動に集中できる体制につなげています。
さらに、デザ価値の取り組みを社内外へ伝える発信活動も積極的に行っています。
デザイン視点からの取り組みがなぜ必要なのか、何をどのように進めているのかを伝えていくことで、取り組みに共感してくれる仲間を増やしていけるようにしています。
例えば、アクセシビリティの改善に取り組んでいく時には、開発者向けに勉強会を開催し、問題意識や具体的な方法についても広げていきました。
社外に対しても資料の公開やイベントの開催など積極的に発信の機会を作ることで、「デザイナーだけに閉じて進めている活動」にならないようにしています。
2021年から続けてきたデザ価値としての活動ですが、全社的な組織の変化・事業の成長にも伴い、現在はまた新しい形への体制の改変に取り組んでいます。
デザ価値の取り組みは一定成果を上げていたものの、組織全体や事業が拡大するにつれ、次のような壁も見えてきました。
- 活発にプロダクト開発しているチームとは少し離れた部門となり、実際のプロダクトや開発フローまで影響しづらい
- 横断部門としてデザ価値に求められる事が増え、徐々に役割が肥大化してきたことで活動内容がブレてきた
デザ価値の活動で実現したいのは、冒頭に述べた通りデザインの力によって事業やプロダクトが持つ価値を最大化していくことです。 その役割を果たすことができれば、ずっと同じ形態の横断部門であることに固執する必要はありません。直近ではホラクラシーの仕組みを活かして、デザインの横断組織体制も見直していくことにしました。
具体的には、デザ価値として担っていたアクセシビリティの推進やユーザーリサーチなどの役割を、関係が深い事業系サークルの中に置くように体制を変更しています。 また、デザインシステム関連は全社的な開発生産性向上の文脈とセットにすることで、プロダクトや開発メンバーへの影響力を一層高められる技術基盤系サークルに移行させました。
一方でデザ価値サークルが消失したわけではありません。デザ価値は「デザイナー連携によるプロダクト価値最大化サークル」と名前を変え、デザイナー同士の連携支援機能に注力するサークルとして存続しています。個々の活動が分散していくからこそ、コミュニケーション基盤を整えナレッジをデザイナー全体で共有し、デザイナー個々人がさらに価値を発揮できる仕組みを整えていきたいと考えています。
2021年に「デザインによる価値最大化サークル」を立ち上げ、粘り強く取り組みを続けた結果、少しずつ成果と言えるような事例も増え、デザインからプロダクトの価値を高めていく必要性が社内にも広がってきているように感じています。
デザイナーだけでなくBiz Devやエンジニアのメンバーなども、関心のあるテーマには自発的に自身の役割を広げてデザ価値の活動に参戦してくれるようになったことも、そのひとつの大きな効用だと思っています。
しかし本質的に大事なことは、組織の完成を目指すことではなく、そのときに必要な組織のあり方を考え変化していくことです。
デザイナーやデザイン組織に求められる役割や解決したい課題はその時々で変わってきます。1つのやり方に固執せず、より価値を発揮できるデザイン組織に変化していかなければなりません。
Ubieでは、今回お伝えした取り組み以外にもまだまだやりたいこと、できていないことも数多くあります。ご興味がある方は、ぜひ気軽にお話しましょう。