AIメンタルパートナー「アウェアファイ」のCTO池内です。

僕たちは最先端の技術と、心理学の理論を組み合わせ、大切なことへの気づきや行動変容を促すアプリを開発しています。

AIメンタルパートナー「アウェアファイ」

「アウェアファイ」は、2024年5月にブランドリニューアルを行いました。このような大規模なブランドリニューアルを行うのは初めてでしたが、実はこれまでにも、アウェアファイでは何度もブランドの調整を行なってきています。

ブランドリニューアルの変遷

今回は、プロダクトの世界観を統括している僕の視点から、「アウェアファイ」でのブランドリニューアルの変遷についてまとめてみたいと思います。

まずは「アウェアファイ」でなぜブランドづくりに注力しているのか、市場環境や事業構造も交えて触れておきます。

Awarefyという会社は、いつでも、誰にとってもメンタルケアを当たり前にしていくことを目指してプロダクト開発を行っています。

Awarefyは「心の問題」を解決する会社

これを実現するには、単一の課題解決ではなく、いくつもの種類の課題を解決していく必要があります。

「5人に1人は一生の間に何らかの精神疾患にかかる」と言われるように、心の問題は誰にとっても身近な問題になっています。ただ、悩みがあっても「病気であると気づかない」「医療機関を受診しづらい」といった理由で、専門家の支援を受けていない方も多くいるのが実状です。

Awarefyが解決すべき課題は、対象も粒度もさまざま

AIメンタルパートナー「アウェアファイ」でも、最初は、過去に心の不調を明確に自覚したことのある方に向けて、日常的に心の健康をメンテナンスできる価値を届けていました。

現在は、事業成長やプロダクトの機能拡張によって、これまでメンタルケアに触れたことがない方や企業内のメンタルケアなど、対象を広げた課題解決に取り組むことができています。

アウェアファイという事業の、課題解決範囲の広がり

僕たちのサービスを世の中に普及させていくことは、メンタルヘルス領域への偏見(スティグマ)を取り払うことと同義だと考えています。

精神的な悩みは人によってさまざまですが「社会から理解されづらい」と感じてしまう方は多く、医療機関にかかりにくかったり、相談もしづらかったりと、改善に向けた行動への抵抗が起こっています。これはメンタルヘルス領域にスティグマがあるためです。

日常的に感じるストレスを、自分の中に抱えたままにしてしまう。それが蓄積されて、結果的に仕事や生活に支障をきたしてしまう。そのようなリスクに対して、誰もがスティグマを感じずに、当たり前のようにメンタルケアを行えるようになってほしいと考えています。

サービスの成長と共にメンタルヘルス領域の偏見 (スティグマ) を少しずつ取り払い、好循環をつくっていく

「アウェアファイ」としては、「誰でも日常的にメンタルヘルスのケアができる」という価値を、対人カウンセリングや、一人で行うセルフケアなどと並ぶ「第3の選択肢」として普及させていきたいと思っています。このような世界観づくりを行うのがAwarefyでのブランドづくりの根本にある考え方です。

アウェアファイを、カウンセリングやセルフケアと並ぶ「第3の選択肢」として普及させていくために世界観に投資する

このような背景から、創業時から一貫して「アウェアファイ」の世界観づくりに取り組んでいます。

僕が強く意識しているのは、プロダクトとブランド表現の足並みを揃えて、少しずつ世界観を広げていくことです。

世界観は、ブランド表現だけをリニューアルしてもつくられません。「プロダクトとして提供できる価値を追加し、ターゲットとしている方に伝わるようにコンセプトを広げる」ことで、実態を伴ったブランドの世界観がつくられるのです。

アウェアファイでのブランドづくりは「少しずつ世界観を拡張していく」イメージで取り組んでいった

ここからは事業フェーズごとに、プロダクトとブランド表現をどのように変遷させてきたのかをステップごとにまとめます。

アウェアファイのブランドリニューアルのステップ

2019年9月に、「アウェアファイ」というプロダクトを立ち上げた時点から、将来的な広がりを意図した設計にすることを意識していました。

体験や機能をあらわす言葉を直接サービス名にするのではなく、世界観やビジョンを表現した「アウェアファイ」という名前でスタートさせたのは、SpotifyやShopifyなどのように将来的にはグローバルで日常的に活用されるようなブランドを構築したい、という想いがありました。

エビデンス重視のヘルスケアのサービスであれば、正しい情報を届ける必要があるため、固い印象となる場合が多く、体験への投資やブランド表現が二の次になってしまうことがあります。

アウェアファイでは、習慣的に使ってもらうことをゴールとしているので、情緒的な価値を高めることは初めから重視していました。

そして、2020年5月にプロダクトをローンチします。

リリース時から、習慣的に使ってもらうために、出来るだけ親しみやすさを感じてもらえるような雰囲気にしていくことを意識した

リリース後、継続して訴求の調整を行うなかで、PMFを感じたきっかけがありました。それが、「認知行動療法をもとにしたセルフケア」「デジタル認知行動療法」というタグラインを主体にし始めたタイミングです。

最初のPMFに至った当時のタグライン

このような訴求に至ったのは、過去に心の不調を明確に自覚したことのある方に対して「あの頃に戻らないように」というメッセージを伝えることで、共感が得られるということが分かってきたためです。

認知行動療法という手法への共感がすでにある方であれば、継続利用率も非常に高くなっていたので、まずはそこから世界観を固めていきました。

「デジタル認知行動療法アプリ」として、過去に心の不調を明確に自覚したことのある方に向けて押し出したことで最初のPMFに繋がった

最初のPMFが生まれたため、次は「アウェアファイとして、さらに多くの対象の課題を解決できないか?」ということを模索し始めます。

PMF後の事業状況としては「継続率の向上」を課題視していました。前述したように認知行動療法を知っている方であればプロダクトの継続率は非常に高かったのですが、まだそのような手法を知らない方は継続率が低くなってしまっていたのです。

タグラインとしていた「認知行動療法」を認知しているかどうかによって、プロダクトの継続率に差が生まれていた

タグラインを調整するだけでは、なかなか継続率は変わってきておらず、これは表現の問題ではなく「プロダクトも含めた価値や世界観の問題なのではないか?」と考え始めます。

タグラインを調整してみるだけでは、大きく継続率は変わってこなかった

ユーザーの広がりをつくれなければ、「アウェアファイ」としてのサービス成長も止まってしまいます。飛躍的な成長をするために、そして「誰でも日常的にメンタルのケアができる」というプロダクトビジョンに向けて、世界観の拡張を行うこととします。

ここでポイントだったのは「見せ方だけ変えるのではなく、プロダクトの機能も一緒に拡張していく」ということです。

ブランド更新の起点となったのは、AIを使ったチャット機能を実装した時のユーザーの反応でした。

「アウェアファイ」には、日々の記録を残すような機能があるのですが、それをAIがチャットで打ち返してくれるような機能「Awarefy AI Chat」としてリニューアルしました。

2023年4月、AIチャット機能をリリース

補足ですが、このAI搭載のきっかけは、プロダクトアウト的な発想でした。アウェアファイは、従来からテキストの多いアプリだったので、ユーザーに入力してもらったテキストをソースに、よりよいインタラクション・よりよい体験を生みだすことができないだろうか、と摸索していました。ただ、当時のAI技術の限界もあり、充分な品質に仕上げるにはまだ難しいなと考えていたのです。

ところが2023年、AIの技術に世界的なブレイクスルーが起こります。そこで、アウェアファイでも、傾聴・よりそいを重視したAIを構築しようと決め、社内の心理の専門家(臨床心理士・公認心理師)と一緒に実装しました。

すると、認知行動療法を知らなかったユーザーの方々からも「AIチャット、良い」という声が増えてきました。自分の状況を専門家から見てもらえるような感覚として、体験がよりわかりやすく伝わったのだと思います。

AIチャット機能によって、プロダクトとして満たせる価値が拡張した

その後、「AIプラン」という上位の機能プランが順調に売上を伸ばすなどの出来事を経て、発展の方向性に確信をもてるようになってきました。

プロダクトの機能拡張に合わせてターゲットを広げていくために、ブランド表現にも磨きをかけていきました

僕たちが重視していたのは「これまで使っていただいていた方を置き去りにせず、世界観を拡張して伝える」ということです。

「アウェアファイ」は様々なユーザーに使用していただいていますが、例えば過去に心の不調を自覚したことがある方はペインが強く、まだそのような経験がない方はペインが弱い、などといった違いがあるわけでははありません。その人が置かれている状況によってペインそのものの種類が異なり、それぞれのつらさがあります。

そのため、このような種類の違う課題を、包括していくような世界観をつくることが重要です。

種類の違う課題を包括する概念をつくる

PMFは、一度すれば良いというわけでなく、特に「アウェアファイ」のような潜在ターゲットが広いサービスにおいては、何度もPMFをしていくものだと思っています。今回もそのような目線で、ブランドの拡張に取り組みました。

ブランドリニューアルは、外部パートナーとして株式会社neccoさんに入ってもらい進めていきました。

Awarefy社には、社内にもデザイナーがいるのですが、抜本的に印象から変えていくことを狙って外部パートナーを巻き込むことにしたのです。

依頼のタイミングで、ここまでの検証の中で考えていたことをneccoさんに共有しました。小手先のコピーを変えるとか、キービジュアルを変えるとかではなく、「我々が何者か」を強く伝えていきたいと思っていました。

依頼のタイミングでneccoさんに共有した資料の一部

キックオフ後、まずはコーポレート資料のリニューアルから取り組みます。

最初に取り組んだ、コーポレート資料のリニューアル

この中で言語化が進められ、次にプロダクトとしてのブランドガイドラインに落とし込んでいきました。

次に、ブランドガイドラインへと落とし込んでいく

抜本的な変化を生んだアウトプットの一つは「タグラインのリニューアル」でした。

認知行動療法という言葉は使わずに、「AIメンタルパートナー」という、セルフケアでも、カウンセリングでもない新たなカテゴリーをつくることを決めることができました。

新たなタグラインを策定
サービス訴求にも反映

もう1つ大きく機能したのは「キャラクターの制作」です。

AIチャット機能を前面に押し出していくために、親しみを持ってもらえる象徴的なアイコンをつくろうと思い、当初は予定していなかったキャラクターデザインにも取り組みました。

AIメンタルパートナーのアイコンとして、「ファイさん」というキャラクターをデザイン
アプリ内でも登場させられるよう、ポーズやアプリ内ビジュアル例などもまとめたガイドラインを用意

これらのタグラインやキャラクターを含めた、新しいブランドガイドラインを、プロダクトにも反映していきます。

例えば、すでに好評だったAIチャット機能など、プロダクトの至る所にファイさんを追加していくよう改善。また、AIを活用した機能として「AIヒント」「AIコメント」など、寄り添ってくれていると感じられるような機能もどんどん追加していきます。

表現面だけでなく、プロダクトの機能面からもブランドコンセプトを伝えられるように一新していきました。

ブランドコンセプトを、プロダクトのUIや、機能にまで反映していく

このような取り組みを経て、2024年5月にアウェアファイのブランドリニューアルを発表しました。

2024年5月、ブランドリニューアルを発表
プロダクトや、訴求の中でも、ファイさんを散りばめていく
AIを活用した、寄り添ってくれているような体験を感じられる機能を頻度高く追加

反応は非常に好評です。これまでに離脱が起こっていたような「認知行動療法を知らない方」も、アクティブな利用をしてくれるようになっています。

「前よりもアプリが使いやすく、わかりやすくなっている」「カウンセリングではなくてアウェアファイを使ってみようかな」「ファイさんと話すのが楽しい」などのポジティブな印象も増えてきていて、世界観がしっかり伝わっている感覚があります。

ユーザーの方からの反応、これまでと比べてアクティブユーザーの層が拡張している

繰り返しになりますが、アウェアファイにおけるブランドづくりとは、世界観づくりと同義だと捉えています。

そのために、長期的なプロダクトビジョンを描くことや、プロダクトとして解決していく課題を広く捉えていくことは必須です。

そして、コピーやキービジュアルなど、表現面だけ変更していくのではなく、実態としての価値も合わせて育てていくことで、事業としての世界観をどんどん拡張していき、大きく成長することができます。

アウェアファイにおけるブランドづくりとは「世界観づくり」

アウェアファイでは、今後もブランドづくりを進めていきます。

直近では、新たに定義されたブランドアイデンティティを、さまざまなクリエイティブに落とし込み、アウェアファイらしい表現を模索すること。

そして、その後は、事業成長に合わせて、今回のリニューアルのように、さらにブランドの世界観を拡張していくことに取り組んでいきます。

現在取り組んでいるブランドづくりの一部: コンセプトムービー

現在取り組んでいるブランドづくりの一部: アプリ内でのファイさんの活用パターンの増加
現在取り組んでいるブランドづくりの一部: ブランドマネジメントの役割について整理

そのために、内製でのブランドデザインチームの立ち上げをすでに開始しています。今後の取り組みも引き続き公開していきますので、お楽しみに。

このデザイン組織をもっと知る

Awarefy