サイボウズのデザイン&リサーチチームでデザイナーをしているおーじです。

僕が担当するリサーチは今までオフラインがメインでしたが、最近はオンラインに移行しています。

良いタイミングなので、「導入で困ったこと」「具体的な進め方」「オンラインならではのポイント」など、社内ユーザーリサーチを例に、ポイントをまとめてみたいと思います。

オンラインでのユーザーテストやリサーチの進め方、考え方に悩んでいる方に届くと嬉しいです。

※ サイボウズでは、広くユーザーリサーチ・ユーザーテスト・ユーザビリティテストを意味する言葉として「UT」というワードを使っています。ここからはUTでお送りします。

コロナ禍以前のUTは、オフラインで行うことがほとんどでした。

中国でのユーザーリサーチの様子。一番右側が私です。

上記は、kintoneのリサーチを行っていた場面ですが、実際にkintoneを使ってもらいながら、感じたことや操作を教えてもらう (思考発話) をしていました。 

▼ 関連 : 海外向けにkintoneのポータルデザインをリニューアルした話

社内には「リサーチラボ」と呼ばれる施設があります。この「リサーチラボ」はマジックミラーで被験者側の部屋と観察者側の部屋に分けられており、目の前で被験者の様子を観察することができます。

許可を取り、プレッシャーにならないように被験者からは見えないように観察できる別室も。

そんな中コロナ禍になり、上で紹介したリサーチラボを使ったユーザーリサーチが難しくなってきたため、2020年の5月ごろからオンラインでのUTに取り組みはじめました。

当時はメンバー全員オンラインでのUTの経験がなかったため、できるだけオフラインの環境をオンラインで再現するというアプローチを採用することにしました。

リサーチラボのような特殊な環境をどうやってオンラインで再現するか?意識したポイントは2つあります。

1つ目は「被験者との会話ができること」です。どんな定性調査にも被験者とのコミュニケーションはマストです。幸いなことに、サイボウズでは社員の約90%が完全リモートになっています。そのため、ほとんどの社員が普段からzoomを使用しており、ビデオ会議に慣れていたのでスムーズに導入できそうでした。

2つ目は「被験者の手元の観察ができること」です。製品のテストなので、製品に触れている被験者の観察がUTの要になってきます。これは、画面共有機能が使えそうでした。被験者の方にご自身の画面を共有してもらえればカーソルの動きなどを見れるので違和感なく観察できると考えました。

再現方法を考えるうちに、意外とオンラインでUT出来るのではと思い始めました。

しかし、実際にやってみたらそんなにうまくはいかなかったのです。

サイボウズではインタビューアーの段取り確認として本番の前にリハーサルを行います。(これを社内ではパイロットテストと呼んでいます)

実際にパイロットテストをして気づいたことがあります。それは「観察者と被験者が同じzoomの部屋にいる」という点です。オフラインのUTでは、観察者は別の部屋にいるので被験者は「見られている」意識をせずにタスクを進めることができます。しかし、zoomでは部屋を分けることができないので、被験者は複数人の視線を感じながらタスクを進めることになります。これではオフラインUTと同じ環境を再現することができません。

そこで、zoomのWebinar機能を使用してみました。これは本来ウェブセミナーに使用する機能で、ホストと視聴者という関係性で構成され、ホストを中心に進行することができます。

Webinarだとパネリスト側(被験者)からは参加者(観察者)が見えないので被験者は観察者の目を気にせずにUTに参加することができます。つまり、オフラインの時と同じ構造を作ることができます。これにより、被験者も安心して参加することができますし、観察者もURL一つでUTを観察することができます。

しかし、これだけではオフラインの時に活発だった観察者同士のコミュニケーションが再現できませんでした。そこで、kintone上で実況スレを立て、自由にコメントできるようにしました。その結果、「最初のカーソルの位置違ったよね」「今の動きのメンタルモデル深掘りしたいな」など、オフラインでの観察者同士の会話をある程度再現できるようになりました。

今では、Webinarを見ながら実況スレでコミュニケーションをするのがベストプラクティスになっています。

アメリカのユーザーをテストした際の実況スレの様子。(被験者の画面とコメントを抜粋してそれを元に議論しています。)
リサーチラボでやっていた時からの変化

最初オンラインUTを始めた頃はオフラインでUTができないので仕方なくオンラインで再現してみようという心境でしたが、回数を重ねていくうちにオンラインだからこそのメリットなども見えてきました。

大きなメリットは場所の制約がないということです。これはオンラインだから当たり前と思うかもしれませんが、海外でのリサーチをするサイボウズにとっては非常に大きなメリットです。コロナ以前は大所帯でアメリカに行ってUTやヒアリングなどをしていたので、移動コストが無くなるというのは非常に助かります。 先月、アメリカでkintoneのオンボーディング改善を目的としたUTがあったのですが、日本にいる僕がリサーチャーとして参加するよう要望がありました。

アメリカにいる被験者にUTをする場合、これまでは現地に行く必要がありましたが、今回は日本から実施することができました。

オンラインだからこそ実現できたUTでした。

UT終わりに被験者、観察者含め全員集合している画像。それぞれの参加者が日本、アメリカと別々の場所から参加しています。

UTとして成り立ってきているものの、まだまだ課題は多いです。特に問題なのが、こちら側でテストの環境設定ができないことです。

入社したばかりの方をターゲットにkintoneのUTをしている際に、PCの供給が追いつかず代わりにiPadを使っている方がいました。この方はPCでkintoneの操作をしたことがなかったので、準備してきたシナリオで進めることができませんでした。

他にも、zoomのリンクがうまく伝わっておらず、入るまでに時間を要してしまったり、被験者宅のネットワークが安定せず画面共有ができずそもそもUTが始められないなんてこともありました。さらには、ご自宅のペットの犬が鳴いていて被験者の声が聞こえないなんてこともありました。オフラインだとあり得ないことが起きるんです。

これらはこちらでコントロールできることではないので、なるべく詳細に事前確認することが大事です。例えば、被験者の方に画面共有をしてもらうことを事前に伝えるのもそうですし、テストが始まる5分前にネットワークの確認などで同じzoomに入ってもらうことも重要です。

これまで紹介したのはすべて社内でのUTの話になります。社外でのオンラインUTとなると更に準備が大変になってくるかと思います。

社内では担保されていたビデオ会議リテラシーが、社外の人となるとまちまちです。画面共有やビデオの録画に関しても秘密情報となる可能性もあるのでNDAを更新する必要があります。

ですが、悲観的なことばかりではありません。オンラインUTが普及することで、社外のUTが逆にやりやすくなるのではないかと思っています。

上でも書きましたが、オンラインのUTでは場所の制約がないのがメリットです。今まで社外のUTを行うときの障壁の一つは、お客様の会社にうかがうことでした。BtoBの製品ということもあり、ユーザーの方にお話を聞きたい場合は利用している会社のオフィスに伺う必要がありました。リサーチャーとして他社のオフィス内に入ることはセキュリティーの問題で難しいこともあり、オンラインであればそこを解決できるのではと思っています。

さらなるオンラインUTの充実のために、次に取り組もうとしているのはカスタマーサポートチームとの協力です。

サイボウズカスタマーサポートチームでは、日頃からお客様のkintoneの利用をマンツーマンでサポートしています。そのお客様に、外部被験者になってもらえないか提案しています。

すでに何度もやりとりしているお客様とは信頼関係が築けていますし、最近ではサポートも完全オンラインなのでお客様もビデオ会議リテラシーが高い方が多いのも理由です。

このように、最初は仕方なく始めたオフラインのUTですが、実施していくにつれてUTの幅を広げる可能性があることがわかってきました。これからはオンラインの特徴を活かしてリサーチを継続していきたいと思います。

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