DeNAデザイン本部マーケティングデザイン部で、動画ディレクションを担当している金子です。

CM制作プロダクションでさまざまな動画広告の制作に携わり、2015年の4月にDeNAにジョインして以降は、事業部と連携して多くの動画広告をつくってきました。

アプリからスポーツチームまで、さまざまな種類の動画制作に携わってきました

長く所属していた制作プロダクションと、事業会社でのディレクションの動き方は大きく異なります。特に、事業会社の立場で制作会社と協力しながら動画制作を行う場合、以下の3点に気をつける必要があります。

  • 動画制作に入る前に、チーム全体で作りたい動画の「目的」「ターゲット」の合意形成を必ず行う

  • 一般的な動画広告の制作費の相場と比較して、事業部からの捻出予算は限られるケースが多いため、理想と現実の事前すり合わせを行う

  • 動画制作では「後戻りが容易にできないポイント」が複数あるため、あらかじめ、制作プロセスとスケジュール感を共通の認識となるまですり合わせる

近年、動画制作のディレクションを自社で行う会社は増えてきていると感じており、事業会社における動画ディレクションの立ち回り方や勘所をまとめることで、自社で動画制作を担当することになった方に少しでも参考になれたら幸いです。

(DeNAでは動画制作を外注するケースが多く、制作会社という外部パートナーがいることを前提にまとめています)

DeNAにおける私の業務は、事業部から動画制作の依頼が来るところから始まります。 依頼によって粒度はさまざまで、目的や要望が詳細にまとまった状態で来ることもあれば、ラフな状態で依頼が来ることもあります。

事業部からの依頼例①:Notionに目的や要望が詳細にまとまった状態で依頼されました
事業部からの依頼例②:要件がまだ固まっていない状態でも、動画制作の依頼が来ます。割合としては、こちらのパターンの方が多め

依頼が来たら、まずは企画についてのヒアリングから入ることが多く、制作が決まればディレクション担当として企画を推進します。

制作決定後に行う初回のキックオフでは、必ず「作りたい動画の目的」「ターゲット」をすり合わせるようにしています。

キックオフで確認したい要件をまとめた資料。こちらを見せながら、依頼者となるメンバーと作る動画のイメージをすり合わせていきます

基本的には事業部側の作りたい動画を作れるように、寄り添う意識でディレクションを進めます。

一方、これからグロースしていく段階にある事業の広告予算は、どうしても一般的な動画制作の相場からすると少ない場合があります。

事業部からすると「かき集めた最大限の予算で、満を持して動画を作りたい」という状況なのはもちろん分かりますし協力したいと思いますが、例えば、100~150万円程度の予算であれば制作会社側からするとあまりメリットのない案件であり、優先度が下がってしまうのも事実です。

そのような状況で信頼できる制作会社と巡り会えたとしても、初めて動画制作に関わる場合、独自のプロセスや用語など、どうしても制作会社/事業部間でギャップが生まれます。

そのギャップを事前に埋めていかないと手戻りが発生してしまい、結果、お互いに不幸な状況になってしまいます。

ここからは、事業部の希望を最大限叶えつつ、制作会社との関係値を良好に保ち続けるために意識していることをまとめていきます。

制作進行において、私が普段意識していることは以下の3つです。

  • 動画制作における事業部メンバーの関わり方を明示する

  • 動画制作プロセスの共通認識を持つ

  • 動画制作における「共通言語」を浸透させる

動画制作時に事業部メンバーに必ず見てもらう資料があるのですが、今回はその資料の中身をお見せしつつ、意識している3つのポイントをご紹介します。

動画制作時に事業部メンバーに配る資料。計7枚のスライドに、動画の制作進行における要点をまとめています

ディレクションは私がメインで担当しますが、制作会社からあがってきたアウトプットのレビューなど、事業部のメンバーも多く関わります。

事業部メンバーにとって動画を作る機会はあまり多くはないですし、事業部予算のうち大きな割合をかけることも多いので、(当たり前ですが)完成物にはどうしてもこだわってしまい、多く口出しをしたくなるという性質があると思っています。

しかし、一般的な動画制作の常識をあまり知らないまま関わると、後で意図せず痛い目にあってしまうこともあります。(詳細は後述します) なので、「動画制作会社への制作進行は、デザイン本部メンバーが間に入る」ということを最初に明示しておきます。

動画制作会社 ⇄ デザイン本部メンバー ⇄ 事業部メンバー、という構図を最初に伝える

事業部メンバーと制作会社の間に、デザイン本部メンバーがディレクション担当として入る構図ではありますが、事業部メンバーには基本的な動画制作のプロセスやスケジュール感を理解してもらうようにしています。

というのも、事業部メンバーには必ずアウトプットにレビューを入れてもらうのですが、動画制作は「オフライン編集」「オンライン編集」「MA」などプロセスが区切られていて、レビューのタイミングを間違えると、「もう後戻りできない」「ここから修正となると追加予算がかかる」といった事態になってしまいます(これが先ほど書いた「痛い目にあう」ということ)。

オフライン編集 : 各カットの順番や尺(秒数)を編集するフェーズ オンライン編集 : エフェクト、テロップ(コピー)、画のトーンを編集するフェーズ MA : Mixing Audioの略。ナレーションやBGMなどの音関係を最終調整するフェーズ
制作準備期間のフロー。制作素材の展開や、企画コンテのFBなどをどれくらいの時期に行う必要があるかを明示しています
実制作から納品までのフロー。オフライン/オンライン編集、MAなど、編集する対象の順番は決まっていて、後戻りはできない、するなら追加予算がかかる、という前提を伝えるようにしています

制作会社さんにもよりますが、そのほとんどが「相手は動画制作のお作法を心得ている」という前提で接してきます。 なので、事業部メンバーにもこういったプロセスを理解しておいてもらわないと、「余計な追加予算がかかる」「意図したアウトプットが出てこない」という状況に陥ってしまうリスクがあります。

また、制作会社の選定は、予算や動画の品質を左右する重要なステップなのですが、相場感を知らずに選んでしまったためにミスマッチが起こる事態も幾度となく見てきました。

そういった事態は絶対に起こしてほしくないし、最大限良いものを作れるようにしたいという意図で、動画制作フローのインプットをしています。

また、動画制作における専門的な用語をチーム全体で認識してもらうようにしています。

制作時のやり取りの中では、例えば「PPM」や「MA」などの専門用語が飛び交うことも多々あります。 ディレクション担当・制作会社・事業部とワンチームで制作に携われるように、私が逐一翻訳していくよりも、関わる人全員が齟齬なく同じ目線で会話できることが大切だと考えています。

メインで制作会社とコミュニケーションを取るのはデザイン本部メンバーですが、一緒に作り上げるチームとして、事業部にも専門用語を浸透させるようにしています

動画制作の業界に長く身を置いてきて、今、事業会社側で動画ディレクションをする立場にいる自分だからこそできる貢献の仕方が、ここまでまとめてきた内容です。

多くの制約がある中で妥協を積み重ねて、結果的にクオリティの低いものが生まれてしまうと、サービス自体も安っぽく見えてグロースを妨げてしまったり、会社全体のブランドイメージの低下にもつながってしまいます。

このようなことは、我々がいる限り、絶対に避けたいと考えています。

「予算が少ないから...」はサービスのユーザーや一般視聴者には全く関係のないことですし、プロとして関わるからには背景や理由はどうであれ、関わる全員がベストを尽くせる状態が望ましいと考えています。

これからも、事業部と制作会社のギャップを極力埋めながら、互いにwin-winの関係で気持ちよく仕事ができるようディレクションを行い、DeNAとしても胸を張って世に出せるクオリティの動画制作を手助けしていきたいと思います。

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