東京ガス株式会社でUIUXデザインチームのリーダーをしている檜垣です。
東京ガスでは、2022年にWebプロダクト開発の内製化を目指して、インハウスの開発組織が立ち上がりました。同年、デザインチームも立ち上がり、現在は兼務者も含めて7名が所属しています。
デザインチームでは、お客さま向けWeb会員サービスであるmyTOKYOGASプロダクトを中心に個人のお客さま向けサービスに対してデザインの視点から関わっています。
東京ガスは、紙の検針票の発行を2024年10月をもって終了するにあたり、2023年11月から2024年11月にかけて、検針票のペーパーレス化を進め、加えて書面(検針票・払込書)の有料化を実施しました。
この検針票のぺーパーレス化のプロジェクトに含まれるmyTOKYOGASは、Web上で電気・ガスの使用量や料金情報を提供しているサービスであり、内製開発組織はフロントエンドを中心とした領域を担当しています。
今回、BtoC領域のインハウスデザイン組織で担当した検針票のペーパーレス化プロジェクトとそれに伴うmyTOKYOGASリニューアルについて、デザイナーがどのように関わっていたのかを、私が東京ガスに経験者採用で入社した22年3月以降のタイムラインでお話ししたいと思います。
検針票のペーパーレス化プロジェクト、およびmyTOKYOGASのリニューアルは、社内でも非常に重要なプロジェクトとして位置付けられていました。
環境保全の取り組みの一環として、また業務効率化やデジタル化に向け、東京ガス内では数年をかけて、検針票のペーパーレス化を計画してきました。
東京ガスのお客さまアカウント数は、現在1,300万件 (※1) を超えており、幅広い世代のお客さまにご契約いただいております。そのためペーパーレス化のリリースにあたり、周知や影響などさまざまな課題整理が必要でした。
また、検針票のペーパーレス化前は、お客さまのポストなどに紙の検針票を投函していましたが、検針票のペーパーレス化後はこの紙の検針票の投函がなくなります。 そのため、現在紙の検針票で毎月の料金や使用量をご確認いただいているお客さまに紙の投函が終了する前にペーパーレス化の周知、またWebへの会員登録(myTOKYOGAS登録)手続きのご案内をどのように周知実施していくのかもプロジェクトの課題としてありました。
検針票のペーパーレス化以前から、東京ガスでは電気・ガスご契約のお客さまにWebやアプリ上で使用量や料金を確認できるmyTOKYOGASを提供しています。
検針票のペーパーレス化に伴う改修をきっかけに、myTOKYOGASをお客さまとの重要なデジタル接点と位置付け、内製でのフロント開発に着手しました。
リニューアルでは、紙の検針票と同等の情報をweb上で提供し、インボイス対応や口座振替済領収証のダウンロード、また契約種別によってお客さまの情報をmyTOKYOGAS上で表示できることが必要でした。
さらに、検針票のペーパーレス化を機にmyTOKYOGASへの会員増やアクセス増も見込まれるため、より良いUI/UXデザインの提供が必要となりました。
プロジェクトは、以下のような流れで進行しました。プロジェクトが進むにつれて、デザイナーの役割や監修範囲は、myTOKYOGASというひとつのプロダクトから、次第に検針票のペーパーレス化プロジェクト全体に広がっていったように思います。
myTOKYOGASの内製開発組織にはプロジェクトマネージャー、プロダクトオーナー、デザイナー、エンジニア、マーケター、会員サポートなど様々な役割を担うメンバーがおり、社内やグループ会社の各関係部署と連携しながら進めていました。
ここからは、検針票のペーパーレス化プロジェクトにフォーカスし、デザイナーとしてプロジェクト全体にどのように関わっていたかをポイントにまとめます。
1. 早期にデザインを固め、テストに時間をかける
2. ペーパーレス化周知にあたり顧客接点を整理
3. 周知物デザインのインタビュー検証
1つ目のポイントとして、myTOKYOGASのUIデザインにおいて基本の画面デザインは早期に固め、画面の表示パターンの洗い出しや契約種別による画面表示の検証を重視しました。
お客さまの契約種別によって、myTOKYOGAS上で表示される情報も複数パターンがあります。
myTOKYOGASの画面デザインに関わるデザイナーは、契約種別のパターンや機能を考慮しつつ、ペーパーレス化に伴い新たに実装する機能も踏まえて設計を進める必要がありました。
そのため、基本の画面デザインを決めるにあたり、開発着手前にmyTOKYOGAS会員向けにオンラインインタビューの募集を行い、デザイナー自らインタビューを実施しながら主要機能の新画面デザインについての受容性の検証を行いました。
さらに、内製開発メンバーと協力し、実装段階でも表示パターンの検証と修正を繰り返し、実装後の画面検証にも多くの時間をかけました。
myTOKYOGASのリニューアルデザインの見通しがついた23年4月頃からは、検針票のペーパーレス化に伴うmyTOKYOGAS会員登録までの体験整理を行いました。
myTOKYOGASというプロダクトを開発リニューアルすることは決まっていましたが、そもそも検針票のペーパーレス化周知にあたってのユーザーコミュニケーションは課題整理ができていませんでした。
そこで、検針票のペーパーレス化の周知から、myTOKYOGAS会員登録まで、どのように顧客が認知しアクションしていくか、導線全体の整理を行いました。
整理していくと、課題が大きく3つあったように思います。
- お客さまが検針票のペーパーレス化を認知し、myTOKYOGAS会員登録化までのカスタマージャーニーが未整理であったこと。
- お客さまへの周知物として紙媒体(投函チラシ、会員登録の郵送ハガキなど)、ご案内のWebサイトなどコミュニケーションデザイン(表現やトンマナ)にバラツキがあったこと。
- 登録手順の説明動画を用意するなど、会員登録の操作をフォローする視点が抜けていたことでした。
ほかにも課題はありましたが、UIUXデザインチームではこの3つの課題にフォーカスし、紙媒体のデザイン、ペーパーレス化の特設Webサイトの設計やデザイン、サポート動画のストーリーや絵コンテの作成検討など、自分たちで手を動かしながら顧客接点で必要な周知物のデザインを行いました。
お客さまに直接届く「ペーパーレス化周知チラシ」と「myTOKYOGAS会員登録ハガキ」については、受容性や課題の洗い出しのため、お客さまがどのように周知物を受け取りアクションをとるのか、日常生活での受け取りシーンを想定し「インタビュー検証」を対面で行っています。
周知物(投函チラシとmyTOKYOGAS会員登録はがき)の目的としては以下の2点を想定していました。
お客さまに検針票のペーパーレス化についてご理解いただく
myTOKYOGAS未登録の方には会員登録をしていただく
そのため、ユーザーインタビューでは周知物の掲載情報について過不足がないか、また会員登録ハガキからの登録にあたり課題がないかを検証テーマとしています。
インタビューでは、東京ガスをご契約中のミドル・シニア世代のお客さまを中心にインタビュールームにお越しいただきました。
当時はまだ検針票のペーパーレス化の周知前であったので、リサーチ会社を通し、社名を伏せた状態で、「契約中のエネルギー会社から検針票含む書面ペーパーレス化のチラシや会員登録のハガキが届いた場合」を想定したインタビューを行っています。
インタビューの中で、日常生活で自宅ポストから投函物をどのように受け取りその後どういった行動をとられるのか、またスマートフォンでのWeb検針票の会員登録の方法まで、多くの発見がありました。
インタビューで得た課題は、チラシやハガキのデザインの見直しや、myTOKYOGAS会員登録フローの改善に活かしています。また、お客さまの反応をプロジェクト関係者にフィードバックできたことも、デザイナーとして重要な役割だったと思います。
テストの結果を踏まえて、チラシやハガキ、サービスサイト上の周知を調整し、リリースしました。
ちなみに、この後も2〜3ヶ月に1回は会員登録のハガキのデザインを変えていたりと、myTOKYOGASに関係する顧客接点のデザインに、我々デザインチームが継続的に入っていくようにしています。
プロダクトデザインだけにとどまらず、全体の顧客体験のデザインまで踏み込むことが、社内にデザインチームがある意味かなと思っています。
そうしてお客さまのご理解とご協力のもと、2023年11月から周知を行ってきた検針票のペーパーレス化プロジェクトは、2024年11月の紙の検針票投函終了をもって完了し、今後はWeb上のmyTOKYOGASで使用量や料金を確認いただく形へと移行しました。
検針票のペーパーレス化をきっかけに、myTOKYOGAS会員数も、MAUも急激に増加し、これからの東京ガスのお客さまとのコミュニケーション基盤として社内の期待も高まっています。
今回の検針票のペーパーレス化のプロジェクトを通し、当初は「デザイン」が本来果たす意味や「デザイナー」として立ち回りが難しい場面もありましたが、myTOKYOGASのUI/UXや周知物を一緒にデザインし課題解決に向かうことで、社内に「デザインの役割」や「デザイナーがいることの意義」も伝わったように思います。
例えば、プロジェクト終了以降、デザイン相談にのってほしいと他部署から声を掛けてもらえることも増えてきました。
これからもお客さまへ提供するサービスとして、また事業貢献のプロダクトとして、myTOKYOGASのUI/UX改善を続け、より良いデザインを提供していきたいと思います。
今回お話ししたように、東京ガスのデザイナーの関わり方は、単純なプロダクトのデザインにとどまりません。
東京ガスでは、専門領域のデザイナーとして、UXUIデザイナーとサービスデザイナーの2つのロールを定義しました。
この2つのロールは、未来のエネルギーを扱うインフラ企業としてのより良いサービスの仕組みを描き、実現するための、具体のUI/UXをデザインしていく人材として期待されています。職種としてはこの2ロールで定義していますが、今回の事例で紹介したように関連するサービスのグラフィックデザインやインタビューの実施、UXリサーチ、ワークショップの設計など業務内容は多岐にわたります。
また、徐々にこのような役割を発揮していくための組織も整ってきています。
東京ガスの内製開発組織では、ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーに関係する各チームが同じ組織にいるため、協力して価値提供を行いやすい環境となっています。
東京ガスデザインチームはこれからも、デザインの力を通して、未来のエネルギー体験をデザインしていくことに引き続き取り組んでいきます。