Shippioデザイン組織は、2022年に1人だったところから、2023年4月現在では5名が所属しています。
プロダクトデザイン領域に責任を持ち、マーケティングに関わる制作物のデザインなどは責任範囲としていません。
デザイン組織の立ち上げにおいて重要視したのは、プロダクトデザイナーやプロダクトマネージャーの責任範囲、つまり「何に取り組み、何に取り組まないのか?」を明確にすることです。
これにより、プロダクトデザイナーの採用や、プロダクトチームの連携がうまく進む結果につながりました。課題や、取り組んだことについてまとめてみます。
Shippioでは、2022年からデザイン組織の立ち上げをはじめました。
私が2022年に入社した直後に、デザイナーは自分1名になり、対してプロダクトマネージャーは3名、未公開のプロダクトも含めて3プロダクトが走っている状態だったので、デザイナーの採用が緊急課題でした。
当時のShippioでは、プロダクト開発において、デザインプロセスを誰がどのように責任を持つのかきっちりとは決まっていませんでした。
例えば、プロダクトマネージャーが、プロダクトのロードマップの設計や、体験設計、情報設計、UIデザインなど全てをやるような時期もありました。
この段階でデザイナーをただ増やしたら良い、というわけでもなく、プロダクトマネージャーとデザイナーがどういう連携をすべきか・どのように役割分担していくべきか考えるところから始める必要がありました。
デザイナーの採用に取り組むためにも、立ち上げ初期は、デザインプロセスの中でShippioのプロダクトデザイナーは何に取り組むのかを可視化することから始めました。
ここでのポイントは、プロダクトデザイナーだけでなく、プロダクトマネージャーも含んだ役割分担を行ったことです。
プロダクトマネージャーがいろんなことを抱えすぎてしまうと、一番重要な「顧客と向き合って何に取り組むか決めること」に時間が取れなくなってしまいます。
そこで、プロダクトマネージャーも、プロダクトデザイナーも、各々の強みを活かしてプロダクトづくりをしていくことができないか?と座組みを整理し始めました。
プロダクトマネージャーとプロダクトデザイナーで、それぞれプロダクトデザインにおけるWHY(解決する問題や優先順位を決めること)と、WHAT(何をつくるのか決めて問題を解決すること)に責任を持つ、という役割分担を行いました。
Shippioの対象とする貿易業界はとても複雑な領域なので、課題の優先順位付けやソリューションを検討する際には、常にドメイン・ユーザーの理解が求められます。一方、プロダクトにおけるUIデザインの作業量が特段多いわけではありませんでした。
そこで、プロダクトマネージャーが「WHY: そもそも解決する問題や優先順位を決めること」に、プロダクトデザイナーが「WHAT: 問題をどう解決するかを決めること」にフォーカスできるように役割を定義しました。
Shippioのデザイナーとしては、マーケティングに関わる制作物のデザインには取り組まず、プロダクトデザインに特化した役割とすることを決めています。
背景としては、自分自身がプロダクトリサーチやプロダクトデザインに強みを持っていたため、強みに集中することが大事だと考えていたためです。
初期は、何でもかんでもやることになりがちですが、このように特化することで適切に役割範囲を決めることができました。
役割を明確化することで、採用プロセスにおいても、候補者に対して明確に魅力づけやオファーができるようになりました。
例えば、採用募集や、オファーレターなどでも、明確にプロダクトのデザインを通じて問題を解決することに責任を持つ「プロダクトデザイナー」という部分に絞って魅力を伝えられるようになりました。
当時、他社の採用募集を見ていると、立ち上げ期だからこそ何でもやれるデザイナーを求めてしまっている、またはUIデザインのみを行う人を求めているような印象を受けていました。
Shippioのプロダクトデザイナー募集では、他社と差別化する意味でもUIのスペシャリストではなく、プロダクトを通して問題を解決できる・事業成長を牽引できるデザイナーになる、というキャリア像を示すことを意識しました。
目指す姿や役割を明文化したことで、UIデザインのみでは物足りない方に興味を持ってもらえるようになりました。
プロダクトデザイナーのこのような役割は、社内メンバーにもイメージが付きづらいと思ったため、プロダクトデザイナーの活動・強みを社内メンバーに理解してもらうための動きも行いました。
例えば、顧客理解や、仮説検証にもプロダクトデザイナーが関わることを示すため、顧客理解・仮説検証の進め方について全社に向けて勉強会を開催しました。
勉強会を開催したことで、ShippioのプロダクトデザイナーはUIだけを担当しているのではなく、プロダクトデザインのプロセス全体に貢献していく、というスタンスを社内に浸透させることができました。
プロダクトデザイナーが増えてくるにつれて、WHYとWHATで切り分ける役割分担は浸透していたものの、細かなところで「あれ、ここは誰が責任を持つの?」と迷うことが増えていきました。
そのため、デザインプロセスの中での責任範囲についても整理しました。
Shippioではデザインプロセスを、4つのフェーズから定義しています。
一般的なフローではありますが、線状ではなくサイクル型で表現するのは、”リリースして終わりでなく、成果が出たら完了”という思想を込めて大事にしているポイントです。
デザインプロセスをさらに分解し、プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアでどのようなアウトカムに責任を持つのかを明確にしています。
例えば、プロダクトマネージャーは、6ヶ月以上の開発テーマや、そこから落とし込んだ1-3ヶ月の開発テーマ、フォーカスする課題を決めることに責任を持っています。
プロダクトデザイナーは、解決策の理想像のプロトタイプや、リリースする範囲の決定、具体的な仕様の決定などのアウトプットを出すことに責任を持つようにしています。
担当者ごとに、どのフェーズでどのようなアウトプットに責任を持つのかは、プロダクトデザインドックというドキュメントで明示しています。
それぞれの役割の責任範囲を明示することで、アウトプットに対するレビューにより品質を高めることも意図しています。
これをShippioではレビューゲートと呼んでおり、責任を持ったそれぞれが自由にプロセスを進めつつ、ゲートにて都度レビューすることで品質が担保されるようにしています。
各々の責任範囲では自由に振る舞ってもらいつつ、レビューゲートを置くことでプロダクトのクオリティを担保し続けられるようにしています。
結果として、プロダクトデザイナーの採用、組織拡大、デザインプロセスの浸透につながっています。
プロダクトデザイナーの役割を明確化したことで、興味を持ってくれる方が以前に比べ格段に増えました。
今ではプロダクトデザイナーは5名の規模になりました。スタートアップ出身・デザインコンサル出身・大手toB SaaS出身などのデザイナーが入社しています。
プロダクトデザイナーの役割も含め、デザインプロセスがプロダクトチーム全体に浸透しています。共通言語ができたことで、最終的なクオリティが高まり、スピードもより早くできそうだと感じています。
“顧客にとって最高の体験を届けること”を実現するためには、プロダクト開発に関わる全てのメンバーが連携しながら、各々の領域で強みを発揮することが重要だと思っています。特に貿易という複雑な領域だからこそ、引き続き全員でよりよい形を模索していきたいです。
今回ご紹介させていただいたデザインプロセスと責任範囲の明確化も、「事業成長」や「顧客に最高の体験を提供すること」の手段だと思っています。そのため、デザイナーの役割も組織の変化に合わせて徐々に変わっていくと思います。
私自身「デザイナーは事業成長を牽引していく力がある」と深く信じています。Shippioでいろんな挑戦を重ねながら、「事業成長を牽引できるプロダクトデザイナー集団」に成長していきたいです。
また、個人的には「市場や顧客に対して価値を提供していると思える時」が一番幸せです。プロダクトデザイナーであるからこそ、「誰もが、誰かを想いながら働ける」という状態を創出し、いつのまにか全員が最高の顧客体験創出に向けて動いているような、そんな動きが作れると良いなと思っています。