エムスリー株式会社でCDOを務めている古結です。
2021年の4月からCDOに就任し、エムスリーのデザイン組織の強化に取り組んできました。
今回はエムスリーのデザイン組織強化について普段お伝えできていない裏側をまとめましたので、少しでも参考になると嬉しいです。
現在、20名(社員)ほどになったエムスリーのデザイン組織は、以下のような体制で活動をしています。
国内外のグループ会社を含めると60以上の事業 / 120以上のサービス/プロダクトがある状態で、デザイナーは20名(社員)と、まだまだ多くない状況ですが、少しずつデザイン組織として拡大・整備を進めているところです。
エムスリーという企業自体が、事業づくりに強いこともあり、デザイン組織も「強みを事業に活かせる組織づくり」をテーマにこの1年取り組んでいることをご紹介します。
60を超える事業の中には、約31万人の医師が登録する医療専門サイト(m3.com)、開業医の手間を削減するクラウド電子カルテ(エムスリーデジカル)、クリニックの診療予約やキャッシュレス決済を提供するサービス(デジスマ診療)まで様々なサービス/プロダクトがあり、非常に幅広いアウトプットが求められます。
(デザイン組織の採用プロモーションビデオ。デザイン組織では動画チームもコーポレートや事業などのブランドづくりに貢献)
また、医療ドメインで事業を展開しているため、多忙を極める医師や薬剤師など様々な医療従事者の方々がメインユーザーになります。
極端に言えば人の生死に関わる医療を支えるサービスづくりをするため、デザイナーの医療業界理解を促しながら、事業を成長させていくような環境づくりが必要です。
多種多様な専門性を持つデザイナーの活動を、確実な事業成長に結びつけていくために、デザイン組織ではいくつかのアプローチを行っています。
- 事業進捗の共有や組織目標の確認などを行う毎月のデザイングループ定例
- 学びを深めるための「学び共有会」
- ドメイン理解を深める医療現場の観察やユーザーとの対話
- メンバー間の相互フィードバック
まずは、2年以上にわたって、毎月行っているデザイングループの定例会。
それぞれの専門性を正しく事業成長に反映させるために、デザイン組織として目指すものや、他メンバーの動きなど「どの方向に動けば良いかを知り、実践するための材料」をたくさん持ち帰ってもらい実践につなげていくことを目的にした会です。
持ち帰ったものを実践していくことが最大の目的のため、一方通行で報告を繰り返すだけではなく、発表者を多くし反応を促す雰囲気づくりで会話やディスカッションが生まれる余白を増やし、自分ごと化できるようにしています。
そして、「定例の実施時間は適切か」「扱う内容は役立ちそうか」など、より充実した場にするためにアンケートを取っているのですが、特に他事業のデザイナーのLTは毎回非常に反応が良いです。
扱う内容はその時々で「デザイン組織全体として直面している課題」などによって変えています。
ちなみに、この定例が始まった当初は「エムスリーに必要なデザイナー像が不明確」という問題があり、ペルソナの共有やディスカッションをしていました。
また、新規のプロダクトが毎月できるようなエムスリーでは、スピードも事業を成長させるための重要な要素です。
個人に対して「業務を早くしよう」ということを伝えるだけではなく、エムスリーでは「学び共有会」を実施し、学びのサイクルを回すことでデザイン組織として共通の価値観づくり、スピードアップを目指しています。
学びを共有する上で大事にしているのが、プロセスをなるべく言語化、可視化する「2割共有」です。
2割共有とは方向性をまずレビューしてもらい、チームからのアドバイス、フィードバックでブラッシュアップしていくことで目的やゴールを明確にすることです。
方向性がステークホルダーと握れていない状態で作り込んでしまい、出来上がってしまってから方向性が違う、という場合はいわゆる「ちゃぶ台返し」で作り直すことになり、結局時間がかかりすぎてしまいます。また、今回は時間がないから、という理由で方向性の違ったもの、さらに良くなるはずのものが価値最大化できずにリリースされてしまうという事態にも陥ります。
例えば、事業づくりにおいて「ユーザーは疲れていてささっとお茶漬けが本当は食べたいのに、がっつりパスタをつくってくる」といった状態です。
こういった、そもそものゴールや目的に沿っているのか、を作っていきながら共有し擦り合わせていくことでクライアント、ユーザーが欲しいものをつくる、といったことを徹底するための施策になります。
また、複雑な医療ドメインの知識を深めるために、実際に医師の方々にヒアリングやプロトタイプの提案をさせてもらうこともデザイン組織として継続的に行っています。
学び共有会などで「現場観察をした人のアウトプット」を見ると、ファクトに基づいていることもあり、クオリティや筋の良さが段違いになります。スピード感もって取り組んでいるため品質、スピードともにだれもが驚く状況をつくり出せます。
現場観察を経たアウトプットを見た他のデザイナーが、現場観察を活用するという流れもあり、良い循環が生まれ始めています。
1on1など、個々人とのコミュニケーションの場では、「ヒトだけではなく、モノを見る」ことを心がけています。
実際に制作しているFigmaの画面を見せてもらいながら、どんなことをやっているのか、詰まっている箇所はあるのか、など「評価 / 批評したいのではなく、一緒に良い結果を出すための時間」と捉えてもらうようにしています。
1on1や月1の定例でもそうですが、ことあるごとに個人だけではなくデザイン組織全体へのフィードバックももらうようにしており、相互にフィードバックが増えるように場をつくっています。
フィードバックはリーダーからメンバーへ、という一方通行だけではありません。デザイナーや事業メンバーから私への良かった点、改善点など1on1でフィードバックをもらうように心がけています。
そこで得た気づきは個人、組織への成長に繋げるよう実践していきます。 ちなみに1on1では業務やキャリアの話のみならずもちろん、雑談もおこないます。笑
エムスリーのCDOとして、約1年半デザイン組織づくり/運営に力を注いできたのですが、エムスリーデザイン組織は「個々の専門性や多様性が、事業の成長に活かされるような組織」を一貫して目指してきました。
そのためには、個々のスキルだけでなく、メンバーどうしの連携の強化や雰囲気づくりなど、組織施策も多く必要です。
事業をしっかりと伸ばせるデザイン集団でありながら、学び成長するデザイン組織であるように、チャレンジにワクワクする組織を目指してCDOとしてこれからも邁進していきます。