DeNAデザイン本部 ブランドデザイン室 室長の飯島です。2021年4月より「横浜DeNAベイスターズ(以下:ベイスターズ)」の広告グループのグループリーダーを兼任しています。

このチームでは「ベイスターズ」に関わるビジュアルクリエイティブを制作しており、この仕事は、勝敗に関わる部分以外で「ベイスターズ」が世の中からどんな風に見られるか?の印象を作っている仕事だと、僕自身はとらえています。

横浜スタジアムやその最寄駅数駅と近隣のエリア、さらには横浜駅に掲出するクリエイティブの一例

ビジュアルは複数の種類を制作し、様々な場所に掲出するのですが、それを見た方々が、同じ「ベイスターズの広告」であることが瞬時にわかるよう、ビジュアルの一貫性を担保することにはとても気を使っています。

この辺りも含め、今回の記事では、2022年シーズン開幕に向けて制作したビジュアルをメインの題材にして、実際のプロセスや制作物を紹介しながら、私なりの考えをまとめていこうと思います。

まず最初に、ベイスターズの広告グループの仕事について少し紹介します。

このチームでは、年間で大きくは15種類(15イベント)程度のビジュアルを制作します。

野球チームのビジュアルと言ってもイメージしづらいかもしれませんが、以下の通りベイスターズでは年間を通じて様々な「イベント※の開催」や「ドキュメンタリー映画の制作」をしており、これら全てに対してのビジュアルを制作しています。

(※イベント:野球の興行に加え球場演出やライブなど、時期に合わせて、テーマに沿った催しをします。)

2021年シーズンを例にした、1年間の大体の動き

この年は、ポストシーズン(CS / NS)への進出可能性がなかったため、レギュラーシーズン終盤(9月)での、ポストシーズンへ向けたクリエイティブ制作が発生しない年
2021年シーズンで、制作したビジュアルの一例

これらビジュアル制作の中でも、もっとも多くのリソース(時間、人、予算)を使って取り組むのが

  • シーズンビジュアル(シーズン中、継続して使用)
  • 開幕シリーズ用ビジュアル(開幕3連戦に使用)

です。

ベイスターズファンの皆さまに、その時のチームの雰囲気や魅力をお届けすること」また「より多くの方々にベイスターズや野球を知ってもらうこと」を目的に、これらを制作しています。

ビジュアルの制作については、パートナー企業さんと一緒に進めます。

2022年シーズン開幕が3月末(3/25(金))でしたので、この2週間前を目処に全てのビジュアルが世の中に出ている状態を作るため、準備を進めます。

キックオフの場で関係者に向けて、過去と今のベイスターズの状態、向かっていきたい方向性をお伝えし、「共通認識づくり」をしました。

2021年の最新のベイスターズの状況を、ポジティブ・ネガティブ両面でまとめます。ベイスターズに対する理解を高めるため、チームに帯同しているメンバーにもヒアリングしながら資料を制作
これまでのクリエイティブ強化は継続しつつも、「変化」を生むシーズンにしたい

ビジュアル制作は、パートナー企業を含む多くの関係者と一緒に進めます。その為、全員が高い解像度でベイスターズの状況を理解し、共通認識を持つことが重要だと考えました。

2022年シーズンから、クリエイティブを掲出する場所について、その場所に適したコミュニケーションができるよう、少しカスタマイズをしました。

以下の図は、左が「場所の考え方」、右が「場所ごとのクリエイティブの考え方」の整理の図です。

場所(Area)と掲出するクリエイティブの考え方

掲出する場所については、現在は以下のように考えています。

チームの本拠地である横浜スタジアムをArea-1とし、そこから物理的な距離が遠のくに従って、Area-2 → Area-3と位置付けています。

  • Area-1:横浜スタジアム
  • Area-2:横浜スタジアム最寄駅を含む、近隣のエリア
  • Area-3:さらに離れた、横浜駅を中心としたエリア

そして、この各エリアにいらっしゃるベイスターズのファン(チームに関心を持ってくださる方々)の人口密度は、Area-1 → Area-3にいくに従って低くなると考えています。

具体的なクリエイティブについてはこれ以降で紹介しますが、

といったように、2022年シーズンからは(物理的に距離の離れる)Area-3に対しては、Area-1・Area-2とは、少し異なるクリエイティブでコミュニケーションを作りました。

これが本当に正しいコミュニケーションであるか?はまだトライアル中ですし、すぐに狙い通りの結果につながるものでもないと思っていますが、ストレートにチームや野球一辺倒ではないコミュニケーションについては、掲出場所を含め、今後もいろいろなトライアルを続けて行ければと思っています。

ここまで、制作チームとの認識のすり合わせや、掲出場所の考え方について説明してきましたが、これらをベースに「どのようなものを制作したのか」を以下で紹介いたします。

「シーズンスローガン」のビジュアルについては、1月中旬あたりから世の中に出始めます。その2ヶ月前の11月に2022年シーズンスローガン「横浜反撃」が決まり、このスローガンから「反撃の狼煙」を全てのビジュアルの共通モチーフとして使用する案が生まれました。

前年度最下位のベイスターズにとって「反撃」の一年にする決意を込めた2022年シーズンスローガン

シーズンを通じて掲載するビジュアルで、大きくは3種類のバリエーションです。

②-1:反撃メッセージビジュアル

最も多く掲出されるビジュアルで、バリエーションは全部で23種類。ベイスターズの監督・選手紹介も兼ねており、各選手の象徴的なプレーの瞬間と、より個人の個性を強調するため、反撃に立ち向かう『言葉』を添えたものです。

②-2:プレービジュアル vol.1

反撃メッセージビジュアルに次いで多く掲出されるビジュアルで、バリエーションは全部で12種類。各選手の個性につながるプレーの瞬間を切り取り、選手の『動き』によって「反撃」を表現しています。

②-3:プレービジュアル vol.2

バリエーションは全部で4種類。制作の考え方はver.1と同様ですが、縦長矩形の媒体に合わせて制作しています。

スタジアムや駅には、その場所の特徴上、壁面や柱など極端に縦長なユニークな形状の媒体が複数存在し、この形状を生かすことを意識したビジュアルです。

開幕ビジュアルは、本拠地横浜スタジアムでの開幕シリーズ3連戦に向けて制作したビジュアルで、ここまでに紹介したものと、同じタイミングで世の中に露出されるものです。

ビジュアルの考え方は「シーズンビジュアル」と同様ですが、ここには『横浜開幕』のロゴマークと『さあ、反撃の狼煙をあげよう。』のコピーが入り、開幕シリーズを迎えるならではの期待感と、見た人が開幕に向けて士気を高められることを強く意識して制作しています。

最後に、シーズンビジュアルの一部としてもう1種類。

2022年シーズンからは、上で紹介したものと少し趣の異なるビジュアルを制作しています。これは、「今はまだ横浜DeNAベイスターズや、野球自体に興味を持っていない未来のお客さま」へ向けてのメッセージで、バリエーションは全部で8種類。

オリジナルのクラフトビールやスタジアムの立地の良さなど、野球以外の魅力的な要素を知ってもらうためのビジュアル

シーズンスローガンの「横浜反撃」をもじった「横浜感激」というコピーとともに、直接野球や選手を打ち出すのではなく、

「横浜スタジアムで野球を観戦する体験」におけるお楽しみポイント=「感激ポイント」

にフォーカスし、その魅力を一つでも多く感じていただくことができればいいな、という思いで制作しています(そして、スタジアムの来場に繋がって欲しいと願っています)。

そのため、相対的にファン密度が下がるArea-3を中心に掲出しています。これが、野球や横浜DeNAベイスターズに興味を持っていただくきっかけの一つにつながれば、とても嬉しく思います。

ここまで制作したビジュアルについて説明をしましたが、説明の最後にその掲出のストーリーについて触れます。例年、シーズンスローガンの発表が1月中旬で、ほぼ同時期に、上でも紹介した「シーズンスローガンビジュアル」を横浜の街中に掲出します(同時に来るべきシーズンの到来への期待とオープン戦の情報をお知らせします)。

スタジアムの周辺や最寄駅、主要駅(横浜駅)に掲出

掲出場所はArea-1〜Area-3にまたがりますが、Area1・2を中心とした少量の媒体に限定されます。

そして、3月末の開幕を迎える少し前の3月中旬に、一斉に街中へ開幕・シーズンビジュアルが掲出されます。

3月の開幕に向けて、ビジュアルを見るお客さまの気持ちを徐々に高めていくことを意識しました

つまり、この青い「反撃の狼煙」が1月に少しずつ上がりだし、3月になるとこれが一斉に街中へ上がり、いよいよ開幕を迎える準備が整い、そしてシーズン開幕!というストーリーです。

スタジアムへご来場いただいたお客さまのアンケート結果をみると、概ね得たかった結果につながっていますし、より広範囲でのweb調査結果についても、過去シーズン比較で、伸ばしたいスコアが高く出る結果に繋がっています。

詳細はぼかしていますが、ピンクのグラフがポジティブな回答を示していて、スコアが伸びる結果になっています

また、上で紹介した選手のビジュアルについては、公開時にWebサイトとTwitterでも同時に発信をしました。開幕当日に向けて、20日程前から1選手ごとに選手ビジュアルを順に発信したのですが、これについては特にTwitter上で合計で10万件以上のリアクションをしていただきました。

いただいたコメントの中には、自分の推しの選手の登場を待つ内容や、それを歓迎する内容、また「言葉」に賛同する内容も多くあり、選手の写真に加え「言葉」を添えたこととその内容に対して、ファンのみなさまが反応してくださったと感じています。

多くの反響をいただいたことで、自分自身、プロ野球開幕へのファンの皆さまの期待値の大きさに、改めて身が引き締まる思いでした。

本拠地での開幕へ向けて、ファンの方々と一緒に盛り上げを作っていくこのような施策は、今後も継続して作っていきたいと思っています。

また、最後に紹介した「未来のお客さま」へのメッセージについては特に、なかなか短期的な結果につながりにくい取り組みだと思っています。だからと言って一度で終わることなく、球団としてさまざまな部門が連動した取り組みを継続して作っていくことが今後の課題だと思っています。

現在、2022年11月ですが、2023年シーズン開幕に向けた新たな取り組みはすでに始まっています。まだ完成の形は見えていませんが、コミュニケーションが向かう方向は定まっています。

2023年シーズンの本拠地開幕は2023年4月4日(火)。ここへ向けて、チーム同様に私たちも様々な準備をして臨みますので、ぜひ新たなクリエイティブにも期待して欲しいな、と思っています。

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