MIXIデザイン本部 本部長の横山です。僕は2019年1月より、MIXIのデザイン職全体のマネジメントをしています。MIXIには2021年3月現在で250名ほどのデザイン職が在籍しており、横断組織のデザイン本部に1/3、モンスト事業本部に1/3、残り1/3が各事業部に在籍しながら、MIXI全体でゆるやかにデザイン職同士が連携する体制になっています。
そんなMIXIのデザイン本部では、全社評価制度をデザイン職向けに翻訳した評価指針を2年前に定め、以来運用を続けています。評価指針は、各グレードごとに求められる視座と必要なスキル、そして次のグレードへの登り方で定義しています。
評価指針を通し、以下が伝わることを期待しています。
- 事業会社のデザイン職に求められる働きを理解する
- 事業会社のデザイン職のキャリアアップイメージを持つ
- グレードが上がるほど、事業や組織にポジティブな影響を与える意識をより強く持つ
なぜデザイン職向けの指針をつくったのか、どんなプロセスで今の形になったのか、実際に活躍しより評価されているのはどんなデザイン職なのか?シェアしたいと思います。
入社以来、たくさんのデザイン職と話す中で、評価とキャリアに関する悩みや相談を数多く耳にしました。特に印象的だったのは、以下のようなメンバーの声です。
メンバーの声を集めた後、次に、マネジメントはどんな課題感を持ってるのか、デザインマネージャーや部室長に話を聞いてまわりました。
実際、事業会社のデザイン組織のマネジメントが、デザイン職の評価をする時、主に以下のような項目を念頭に置いていると思います。
- デザインの力量やキャパやクオリティ
- デザインのアウトプットによる事業成果や組織成果
- デザインの現場で、自身の専門性を強みにしたリーダーシップ
- デザインを推進していくための、周りの職能とのコミュニケーション力
- 能動的なデザイン職としてのマインドセットによるアクション
これらをふまえ、さらにはメンバーごとに、グレード×職能×所属部署×チーム構成による役割×個人目標などがあり、たしかに運用難易度が高い状態にあることを僕自身も改めて理解しました。
当初はこれらの課題に対しそれぞれ、メンバーには職能ごとのより詳細なキャリアガイドを作って成長イメージが持ちやすいようにする。マネジメントにはモチベーティブにフィードバックするためのコミュニケーションガイドを作って育成イメージが持ちやすいようにする。この2つを実現すれば良くなるのかなと考えましたが、
変化の早い事業開発の現場に対し、最前線にいるわけではない僕がガイドを作るのは、いつも少しずつ古い状態になるし、スキル面も新たな職能や複数職能への対応が後手後手になり続けるので、いずれも現実的ではないなと考えるようになりました。
さらにMIXIは、エンタメ系とサービス系、それぞれ強みが異なるデザイン職が在籍していることから、より包括的にするためにも、MIXIの全デザイン職はこうありたいよね、これを大切にしたいよねなどのマインドセットのような指針の方が、現場のマネジメントも応用しやすく、メンバーに対してもフィードバックしやすいだろうと考えるようになり、最終的に各グレードごとに求められる視座と必要なスキル、そして次のグレードへの登り方を定義するに至りました。
定義後のデザイン職の様々な声やリアクションを見て感じたのは、デザイン組織として、デザイン職にどんな働きを期待しているのか、きちんと発信してなかったこと。これ以降、今後はあらゆることを言語化し発信していこうと決めるきっかけになりました。
僕はMIXIの全デザイン職のマネジメントをしますが、マネジメントや評価は、直接的に関わる部署と間接的に関わる部署があり、上記課題を克服するトライアルは前者から始めることにしました。
当時の組織課題に対し、どの施策がどんな効果を及ぼすかは全くの未知数だったので、実際には評価指針にとどまらず、同時に様々なデザイン組織としての意思表明を発信しました。
僕自身、変化を求めることへの不安はもちろんありましたが、少なくともデザイン本部のメンバーが、組織やマネジメントに対し、何を考えているかよくわからない状態を回避することはできると考え実行しました。
考えを明確に表明することは、裏返せばあなたの考えには共感できませんってデザイン職が現れることでもあります。しかし、MIXIのデザイン職の多くが、真面目で誠実なことは入社以来話していてひしひしと感じていたので、きっと共感してくれるデザイン職の方が多いんじゃないか?の期待を持って、MIXIのデザイン組織として、個人としてどうあるべきなのか、どんなデザイン職を評価しどんなデザイン職は評価できないのか、どんな動きを良しとしどんなキャリアを積んで欲しいのかをひとつひとつ発信していきました。
評価指針は常にアップデートできないかと思いながら運用していますが、特に以下を大切にしています。
- 目標設定をし、評価やフィードバックを受け改善するループが重要
- メンバーの目標達成の機会を作るのもマネジメントの役割
- マネジメントスキルもデザイン職のひとつの専門スキルと捉える
マネジメントが評価のループをまわす前提は、「デザイン職のパフォーマンスをより引き出すことができれば、MIXIが事業を通して社会により良いインパクトを与えられる」という考えです。
その過程で、組織成長と同時にメンバーの個人成長が実現できていれば、デザインが事業成果や組織成果に強く結びついているはずで、マネジメントが機能している状態と言えるのではないかと思います。
ループの詳細は以下です。
- 目標設定をする(メンバー)
- 目標設定をマネージャーとすり合わせる(メンバー&マネージャー)
- 目標達成に向かってデザインする、デザインする、デザインする(メンバー)
- メンバーが目標達成できる機会を創出する。達成支援をする(マネージャー)
- マネージャーが与えてくれた機会をものにする(メンバー)
- 目標に対するデザインの成果や結果をマネージャーに伝える(メンバー)
- グレードをふまえたメンバーの評価をする(マネージャー)
- メンバーへ評価のフィードバックをし、すり合わせる(メンバー&マネージャー)
- 改善&次のグレードに向けたチャレンジをふまえた、次の目標設定をする(メンバー)…
ループをまわし続けていくと、最初は変化にとまどっていたメンバーやマネージャーも、少しずつ組織の期待に応えたいと考えるようになり行動に変化が現れます。ループを重ねるごとに、メンバーも組織のベクトルを意識した目標設定の仕方、成果の伝え方を身につけ、マネジメントも目標達成したメンバーへのさらなる期待のかけ方、目標未達メンバーへの期待値のすり合わせ方などを身につけていきます。
もちろん、組織のベクトルに合わせた働きをするメンバーの評価はどんどん上がるので、メンバーはより組織を理解したいマインドに変化していきました。そうして少しずつ、評価や評価のフィードバックに対する捉え方も変わっていきました。
評価指針では、グレードに求められる視座と必要なスキルの他に、グレードの登り方も合わせて定義しています。メンバーとマネジメント間で、「今グレードのどの段階にいて、次の半期でどれをクリアしていくのか?」など、期待値をすり合わせる会話に使うイメージで定義しました。
当然マネジメントは、メンバーがグレードを登ることに集中できるような環境作りや、登りたくなるような機会を作りメンバーをよりモチベーティブにさせることを意識しています。
Masterの上にもうひとつグレードが存在します。Masterで既に、期待を上回る成果を発揮しながら、独自の場所を切り開き、新たなロールモデルになっている方であるため、特に登り方の定義を設けてはいません。
MIXIのデザイン組織では、マネジメントスキルもクリエイティブディレクションやアートディレクションやデザインリーダーシップと同等に、デザイン組織になくてはならない専門スキルと捉えています。
そのためこれらの役割や役職が直接グレードに紐づくことはなく(緩やかに連動はしている)、デザイン職としてどの役割や役職であっても、より大きな成果を出し、より良い影響を与えられる方が、より上位のグレードになります。
これらをふまえ、デザイン本部のマネジメントチームでは、「メンバーそれぞれがどんなキャリアを志望しているか?」「どんな強みのあるメンバーがいるか」などを、グループを超えて共有しあう場を定期的に設けています。その中でマネジメント志向があるデザイン職に対しては、マネジメントへの登り方も共有しながら、Next人材の育成/抜擢にも目を向けるようにしています。
とはいえ「マネージャーになるしか、デザイナーとして評価される道はないのかなあ」という声は、特に事業会社でよく聞かれるところです。
最後にMIXIのデザイン本部で、実際にどんなデザイン職やデザインチームがより高い評価を得ているのかの一例を紹介します。
- Unreal Engine (ゲーム開発で使われるゲームエンジン) を用いて、映像表現や演出を拡張し、事業価値向上を追求するチーム
- 新規事業に対し、能動的に動画コンテンツ制作を提案し、企画/演出/撮影/編集までを推進してユーザーサプライズファーストを体現しているチーム
- 2Dから3DへとCG表現を拡張し、エンジニアと連動してスポーツ事業において、業界初の試みで事業価値向上に貢献したチーム
上記プロジェクトに関わるチームは、個人評価はもちろん、経営や社内から見たデザイン職の評価をも押し上げ、若いデザイン職の技術習得意欲や、デザイン職のキャリアのロールモデルになってくれていることも合わせて評価しています。
テクニカルディレクターやCGデザイナーや動画ディレクターやグラフィックデザイナーがチームを組んで、実写とCGをリアルタイム合成した配信技術や映像表現に日々チャレンジをしています。
評価指針をつくったら、デザインのクオリティが上がった!事業が伸びた!給料が増えた!などの単純な相関が出たらいいなとは僕も思いますが、作って終わりではなく改善し続ける事業を営んでいる組織のマネジメントが、評価指針をつくったらあとは勝手に組織が良くなると考えるのは、随分と都合がいい考えなんだろうなあと思います。
マネジメントも常に改善の連続で、うまく行ったと思えば予期せぬエラーも起こります。だけどそれでも、その取り組みから学んで次に活かすことは、実は僕らデザイン職が、普段からデザインの現場でやってるプロトタイピングと一緒なのではないかと思います。
デザイナーの評価に悩む組織が多い分だけ、デザイン職向けの評価指針にフォーカスが当たりがちですが、色々な施策が少しづつ功を奏し、聞く耳を持つ人がひとり、またひとり…の繰り返しで、今のMIXIのデザイン組織があるのは、言うまでもありません。
何よりも、MIXIのデザイン職は真面目で誠実な人が多いので、きちんとマネジメントに取り組めば、マネジメントの声を理解しようと、メンバーから歩み寄ってきてくれます。その連鎖の先で結果として、デザイン職の足並みやベクトルが揃い始めるということはあるのかもしれません(当時想像できなかったけど現在は強力なデザイン職のマネジメントチームもできました!)。
マネジメントが新しいマネジメント方法やフレームワークに飛びつきたくなる気持ちは僕にもよくわかります。ですがそれはメンバーからすると、常に新しい方法論を学ぶコストがかかる、変化対応へのストレスにさらされることでもあるので、実は新しい何かを追い求めるよりも、今ある何かをもうちょっとうまく運用したり、少しずつ変化させたりを繰り返す方が結局近道なのかなあなどとよく思います(これもデザインの現場と一緒!)。僕らMIXIのマネジメントも高速プロトタイピングの真っ只中です。