DeNAデザイン本部のデザイナー/マネージャーの宮本です。
普段は、DeNAのヘルスケア事業領域の子会社DeSCヘルスケア(以下DeSC)にて、デザイナーのマネージメントやサービスデザイナーとしてUI/UX業務を行っています。
昨年、DeNAヘルスケア事業部のカルチャーデッキを作りました。
通常のプロセスであればカルチャーデッキの作成は、人事やビジネスサイドからデザイナーに依頼されるケースが殆どではないでしょうか。
また、全社に関わることなので、部長やマネージャーなど多くの人にレビューをもらうシーンも多く、やりとりが大変なイメージを持たれている方も多いかと思います。
今回はデザイナーが複雑な関係性の中で、プロジェクトの立ち上げから制作〜運用を主導しながら、どうやって制作したのかをお届けします。
今後カルチャーデッキを作成するようなシーンに直面した時に、関わる人をうまく巻き込んで、納得のいくカルチャーデッキを作るプロセスの1つの事例として参考になれば幸いです。
カルチャーデッキ作成のきっかけは、2022年の春に行われたマネージャー合宿まで遡ります。
この合宿の中で様々な課題について議論するのですが、個人的に解決したかった課題が2点ありました。
事業が描く姿の認識がメンバーごとに違う
採用市場の激化による人材の獲得
この課題は以前から顕在化していましたが、事業フェーズやリソースの関係で着手する人が居ませんでした。
この2点の課題を、カルチャーデッキであれば1つで解決できる手段になり得ると感じたので、合宿終了後すぐに着手することを決めました。
とはいえ、優先度が高いプロジェクトではなく、普段の業務もある中で作成自体が流れてしまうリスクもありました。
なので、まずは必要性を確かめるべく私のほうですぐに簡易にアウトプットイメージのスライドを作り、採用チームに共有し反応を確認しました。
採用担当の方は当初外部パートナーに発注を視野に入れていたそうですが、所属している自身の目線から
社内の関係者が多く、ハイレベルなパートナーでなければ難しい
ドメイン知識がないと無駄なやりとりが多くなる
カルチャーの形成は内部で持つべき
との考えがあったので、私を中心に内製化することにしました。
さっそく採用担当の方とキックオフを行い、現状の状況のヒアリングから目的・役割・今後の進め方を議論しました。
議論の中で広報目線での意見も必要となり、新たに広報の方に入ってもらって「デザイナー・人事・広報」3名体制で本格的にプロジェクトがスタートしました。
制作に入る前にプロジェクトメンバーの目線合わせをするために、要件定義と他社事例リサーチの2つを行いました。
どのような目的でカルチャーデッキを作るのか、要件を整理することから始めました。
要件をまとめる中で、当初はDeSCだけがスコープの予定だったのですが、採用や広報観点から大元であるDeNAヘルスケア事業本部全体の内容でデッキを作ることになりました。
その背景としては、
子会社の詳細な事業よりも、社会課題に関心があって応募している
どの領域で活躍できるかわからないので、期待と役割を知りたい
このようなケースが多いとのことなので、この状態をメインストーリーに設定してカルチャーデッキのページ構成を設計をすることになりました。
また、ヘルスケア事業本部は、エンタメ系事業を多数有するDeNAの中では在籍している職種だったり、働き方や雰囲気も違うので、そこも表現して伝えられるカルチャーデッキを目指しました。
要件定義しながら、構成やトンマナの参考にするために既に公開されているカルチャーデッキをリサーチし、それぞれの良いポイントをピックアップして会議の中でアウトプットの解像度を高めました。
リサーチの結果、
・どのような課題を解決したいのか ・どのような組織なのか
を知ることで企業の目指す姿と、自身の働く姿が想像できることが共感や興味に繋がっていることが新たにわかり、制作に生かすことに。
また、リサーチの中でカルチャーデッキをFigmaで運用している会社がありました。
当初はプレゼンテーションサービスで公開する予定でしたが、事業の成長スピードが速く更新頻度が高くなることが想定されたので、私たちもFigmaで作成・公開し、内容の更新から公開までの工程を簡素化して事業のスピードについていける運用の参考にさせていただきました。
ある程度要件が固まり、同時進行していたページ構成の素案が出来上がったタイミングでDeNAヘルスケア事業本部長との擦り合わせ会議を設定しました。
会議では
要件の共有
アウトプットのイメージの擦り合わせ
事業に対する思いなどをヒアリング
を中心に会話し、カルチャーデッキに足りないピースなどを集めながら合意形成に向けて議論をしています。
概ねの合意を得た後の確認はオンライン上で進め、非同期コミュニケーションを意識しながら議論ポイントを整理していきます。
事業本部長との基本的な合意形成を進めた後、早速制作に入っていきます。
制作する中で、特に工夫した
1.手戻り・抜け漏れのない進行管理
2.忙しい人からのレビューのもらい方
3.作りながら試すプロトタイプ運用
について解説していきます。
ページ構成をベースに内容や参考URL、監修者と発注者をまとめ、進捗管理表を作りました。
ページによっては元々ある素材を流用する場合もありますし、一から内容を作る場合もあります。なので、参照できる情報があるページの場合はURLを明記し、情報の一元管理をしています。
また、内容ごとにレビューをもらう人は異なるので、監修者も設定し、どれくらいの進度かを可視化し、ヘルプに入りやすくするためにステータスを表示しました。
毎週人事・広報の方と3人で定例会議を開き、進捗や共有事項を確認しあっていました(プロジェクトが停滞しないように、自分は絶対に何かしらの進捗を生むことを徹底していました)。
今回、カルチャーデッキを仕上げていくうえで
- 事業本部長
- 部長
- プロダクト担当者
にヒアリングやレビューをお願いしようと思っていました。
特に忙しい部長やマネージャー層の方々にレビューやヒアリングをお願いする際には「瞬間的に便利なモノ」と思ってもらえることを心がけました。
その印象を醸成できれば、今後期待値を高めてプロジェクトに参加していただくことができ、スムーズにレビューや素材などの協力にリソースを割いていただける傾向があります。
そのような背景からSlackでの頭出し時点で、ある程度デザインした成果物を共有するプロセスを踏んでいます。
冒頭でもお伝えした通り、カルチャーデッキというのは優先度が低くなりがちです。他にもやることがたくさんあるレビュアーの方々がポジティブな気持ちで臨めるよう、「テンションが上がる」形でキックオフやレビューに持っていくようにしました。
また、完成度のフェーズごとにSlack上でFigmaを共有して、レビューフェーズもお互いの時間を奪わない非同期で行うことを意識しました。
結果として部長の方々との会議時間は、キックオフの30分以外は全てSlack上で完結させることができました。
ある程度外部に見せられるくらいまでクオリティが仕上がった段階で、実証実験として採用やビジネスの現場で使ってもらうことにしました。主にカジュアル面談など事業や働く環境を外部の方に説明する場面で使用していただきました。
「いいモノを作っても使われないと意味がない」という考えのもと、いろんな人にプロトタイプを使ってもらいました。結果として、もっと短い内容のほうが現場としてもありがたいということがわかり、簡易版のデッキも作成することに。
いきなり完成版を作るのではなく試験的に運用したことで、利用シーンが想定された使いやすいカルチャーデッキになったように思います。
一旦リリース第一弾の制作期間を終え、カルチャーデッキを全社会やSlackでお披露目したところ、社内メンバーから賞賛の声をいただきました。 潜在的に困っていたけど着手できていなかった領域に対して、デザイナーとして組織に貢献できたと思います。
今回のフェーズはあくまでDeNAヘルスケアへの理解や共感を目標にしたものなので、ここから足りていない要素を足していき、カルチャーデッキを成長させていく予定です。
カルチャーデッキというものは、「重要度は高いけど、優先度は低い・大事そうだけど、なかなか手をつけられない」そんな存在かと思います。
私はデザイナーとして「作る」という武器を駆使して、プロジェクトを主導しながら広報や人事・マネージャーなど多くの方々とコラボレーションを進めてきました。
建前は色々書きましたが、カルチャーデッキ作成は、自分が手を動かす仕事が欲しかったのが本音だったりします。
これはやりたい仕事を自ら作っていくと、納得のいくデザインに近づける経験があったからこそ動けたと思います。
自ら仕事を作ることに自信がない人もいるかと思いますが、声をかけてみると思っている以上に需要があったりします。
進んで自分から仕事を作ってデザインで価値を生み出していけると、動きやすい環境を作ることができるのではないでしょうか。
今度もデザインを武器にしながら組織や社会に貢献していきたいと思います。