2025年10月、ラクスルはCanvaで作成したデザインを簡単に入稿・印刷できる「Canva連携機能」をリリースしました。 僕はデザイナーとして、このCanva連携機能のMVP設計に関わっていました。
この機能は単なる外部サービス連携機能の1つとしてではなく、ラクスルとCanvaの戦略的パートナーシップを具体的なサービスとして形にする、最初の取り組みとしてリリースされたものです。
自社サービスだけでは完結しない体験を、ビジネス・開発・デザインそれぞれの観点を踏まえながら、限られた時間と条件のなかで、どこまで価値ある体験として形にできるか 。
そのようなことを意識しながら取り組んできたことについて、振り返りながらまとめたいと思います。
ラクスルは、Canvaが掲げる「あらゆる人がデザインで輝ける社会をめざす」というミッションに共感し、ユーザーにとって最適な印刷体験を提供するため、Canvaと戦略的パートナーシップ契約を締結しました。
デザインと印刷の連携を越えて、Web・販促・マーケティング領域まで包括的なサービスを展開していくために、両社の間ではプロジェクトの企画や合意形成が進められてきました。
ラクスル × Canva連携機能は、その第一歩として企画されたプロジェクトです。
両社のアセットを活かし、デザインと印刷・配送をシームレスにつなぐことで、個人や企業がマーケティング活動を進める際に生じる「デザインをつくる」「印刷する」といった分断を減らしていくことが目的でした。
僕がプロジェクトに参画したのは、パートナーシップ契約の合意がほぼ完了し、Canva連携機能の構想もおおよそ固まっていたタイミングです。
役割は、デザイナーとしてCanva連携機能のMVPを設計することでした。
ラクスルは以前から、オンラインデザイン機能などを通じて、デザインから印刷までのルートを整えることに力を入れてきました。そのなかで、Canvaとの提携を大きな契機として、デザインと印刷をさらにシームレスにつなげたいという狙いがありました。
ラクスルとCanvaで機能連携させるという大枠はすでに固まっているので、その体験をよりなめらかに実現するためのデザインを提供してほしい。連携機能の企画をリードしていた経営メンバーから、キックオフ時にそうしたオーダーを受けました。
それを踏まえて、初期はPOと一緒に初期草案を見ながら、MVPとしてどこまでの体験を実現すべきかを検討していきました。
この機能は、ラクスルだけで完結する体験ではありません。
ラクスルとCanvaでは、アカウント情報やデザイン・印刷用データなど、両者が持つデータや仕様も異なります。その中で、ラクスルを使うユーザー、Canvaを使うユーザーの双方にとって、なめらかな連携体験をつくり上げていく必要がありました。
また、MVPとしてスピード感を持ってリリースすることも求められていたため、どこまでを初期スコープとし、何を削るのかを見極めることが重要でした。
そこで、今回は以下のようなプロセスでCanva連携機能のデザインを進めていきました。
最初に行ったのは、実際にCanvaを利用しながら、デザイン作成から印刷発注までの一連の体験をウォークスルーしてみることでした。
Canvaには元々、作成したデザインをそのまま印刷発注できる機能があります。まずは現状を把握するために、実際に自分で試しつつ、その流れをキャプチャで可視化していきました。
そのうえで、「Canvaで作成したデザインを、ラクスルで印刷する」というルートを設計するにあたり、ユーザー視点で障壁になりそうなことを洗い出していきました。
例えば、以下のような障壁や検討すべきことが見えてきます。
Canvaからラクスルに遷移した後、途中で迷ったり、注文をやり直したりすることなく完了できる導線設計が必要である
両サービスで入稿データの確認基準が異なるため、その差分をどう吸収するかが論点になった
ラクスルでの注文過程で、デザインを再編集したくなった時にどう対応するか
このようにウォークスルーを通じて、ユーザーが実際にぶつかりうる問題を洗い出し、POや開発メンバーと会話を重ねながら、まずは「連携するうえで、特に何が障壁となりうるのか」という認識を揃えていきました。
次に、MVPとして実現する体験をプロトタイプで可視化していきました。その際には、対象ユーザーのモデリングやジャーニー、想定される障壁もあわせて言語化しています。
特に今回は、2つのサービスをまたぐ体験です。そのため、「Canvaユーザーが初めてラクスルを使う」「ラクスルユーザーが初めてCanvaを使う」など、複数の利用パターンを想定しながら、必要な導線を整理していきました。
このプロトタイプをたたき台に、POをはじめとした関係メンバーと議論を重ねながら、初期リリースのスコープを絞り込んでいきました。
例えば、当初はユーザー情報の連携なども想定されていました。しかし、ユーザー情報まで連携しようとすると、ログイン、アカウント連携、配送先情報、注文情報の扱いなど、検討すべき論点が一気に増えてしまいます。
将来的には必要になる可能性がありますし、作り切れれば体験としては美しくなります。ただ、Canva連携が本当にユーザーに価値を持つか未検証な段階で、そこまで作り込むのはリスクも大きいと考えました。そのため、ユーザー情報の連携は初期スコープから外しています。
一方で、Canvaで制作した印刷データをラクスルの入稿画面から呼び出せるようにすることは、既存の入稿導線を活かしながら実現でき、ユーザー視点でもシンプルな体験にできそうなことが分かってきました。
そこで初期リリースでは、この入稿導線でユーザーが迷わず印刷まで進められるかが、体験設計上のフォーカスになっていきました。
初期スコープを絞った後は、プロトタイプをベースにしながら、プロジェクトメンバーでレビューを重ね、連携体験を磨き込んでいきました。
画面を一緒に見ながら、「この情報は取得できるのか」「この導線は実現できるのか」「開発上どのような論点があるのか」を、POや開発メンバーと一つずつ確認し、仕様を固めていきます。
例えば、Canvaで作成したデザインデータをラクスル側でどう選択できるようにするのか。あるいは、入稿するデータを選ぶ際に、ユーザーが迷わず目的のデザインを選べるようにするにはどうすべきか。
こうした細かな分岐点ごとに複数のパターンを提案しながら、条件の中でもより良いユーザー体験を選択できるように進めていきました。
また、仕様面が固まっていった後は、プロダクト内でCanva連携機能を知ってもらうためのバナーを作成したり、他のデザイナーを中心にLPも公開するなど、認知から利用までのコミュニケーションも整えていきました。
ラクスル × Canva連携機能は、2025年10月に公開されました。
初期は名刺のみの対応でしたが、現在はチラシや冊子、Tシャツなどさまざまな商品に対応しており、より多くの方にデザインから印刷・配送まで一貫したシームレスな体験を提供できるようになっています。
今後も機能改善や対応商品の拡充を進めながら、ラクスルとCanva両社のパートナーシップに基づき、「誰もが簡単にビジネスの成長に必要なクリエイティブとマーケティングを活用できる世界」の実現に向けて取り組んでいきたいと考えています。
僕は2018年から、ラクスルのさまざまなプロジェクトでデザインに携わってきました。 振り返ってみても、「これをつくってください」と固まった要件ありきでオーダーされることはほとんどなく、「こんな結果をつくりたい」「こんな課題を解決したい」という企画の初期段階から相談を受けることが多くありました。
デザインのスペシャリストでありつつも、ビジネス・開発・デザインを俯瞰し、関係者を巻き込みながら物事を前に進めていくことが求められます。
そのなかでは、理想的な体験だけに固執してもうまくいきません。前提条件やその時々の状況に応じて、最適解を見出しながら動くことが重要です。
今回のMVP設計においても、ビジネス面・開発面の条件があるなかで、目的にかなう価値をどうつくっていくのかを模索し、思いつく限りのアイデアを素早く試していくことが重要でした。
俯瞰すると、地味な意思決定の連続に見えるかもしれません。しかし、一つひとつの意思決定において「より良い体験につなげるにはどうすればいいか」と一歩踏み込み、楽しみながらデザインしていくことで、良い結果につなげていけるのではないかと思っています。