2026年4月、慶應義塾の公式Webサイトの全面リニューアルを、慶應義塾とチームラボが共同で実施し、公開しました。

今回のリニューアルでは、個別に運用されていた27部門のサイト、および約3.2万ページを1つの共通基盤へと統合することで、学内外すべてのサイト訪問者の視点で「慶應義塾の解像度を上げる」ことを目指しました。

リニューアルされた慶應義塾 公式Webサイト :
https://www.keio.ac.jp/ja/

規模も大きく、多くのステークホルダーが関わる中で、各部門との合意形成を図りながら、組織としてより良いものづくりを追求していく重要性を改めて実感したプロジェクトでした。

このプロジェクトにカタリストとして携わった視点から、そのプロセスや意思決定の観点をまとめたいと思います。

2013年にチームラボに中途入社し、以来カタリストとして活動している長門です。 今回の慶應義塾案件をはじめとしてさまざまなプロジェクトで、戦略設計・ディレクション・データ分析などを広く担当してきました。

創設から160年以上の歴史を持ち、日本を代表する学塾の一つである学校法人慶應義塾。

その公式Webサイトの全面刷新にあたり、チームラボは共創パートナーとしてプロジェクトに参画しました。チームラボからは、カタリスト、デザイナー、エンジニアからなる約20名のプロジェクトチームが参画し、約1年半にわたって全面刷新を推進しました。

慶應義塾は、大学に10学部と14研究科(大学院)、10校の一貫教育校、その他にも大学病院やさまざまなセンター・研究所などを有する総合学塾です。

各部門の自主性を尊重する文化があり、ウェブサイトも各部門がそれぞれに管理・運用してきた経緯があります。

積極的な発信により情報が充実してきた一方で、部門毎に27サイト・約3.2万ページが分散して運用される状態となり、「どこに何があるのか分かりにくい」「関連サイトが多く全体像が把握しづらい」といった課題も顕在化していました。

こうした背景を踏まえ、閲覧者にとっての分かりやすさの向上に加え、アクセシビリティ対応やグローバル発信の強化といった課題を解消し、新たな統一基盤を構築するとともに、「慶應義塾の顔」としてのウェブサイトへ変化していくことが求められていました。

27サイト・約3.2万ページの統合という規模の大きさに加え、ステークホルダーやウェブサイトに求める目的が多岐にわたることが、プロジェクトの難易度を高める要因となっていました。

前述の通り、数多くの部門が自主的にウェブサイトを運用し、情報発信・ブランド形成を行ってきた経緯に加え、以下のように情報発信の目的も多岐にわたります。

  • 受験生に向けた教育内容や入試情報の発信

  • 学部・研究科ごとの広報(教育方針・特色の訴求)

  • 研究成果の国内外への発信および研究連携の促進

  • 塾員(卒業生)に対する広報・コミュニケーション

  • 寄付の獲得など、大学運営を支えるための情報発信

このように、関わるステークホルダーや目的が多岐にわたる中でウェブサイトの全面刷新を進めるには、組織的な合意形成を積み重ねていくことが不可欠です。

実際のプロジェクトにおいては、慶應義塾の広報室と密に連携し、彼らをハブとしながら各部門への提案や合意形成を行っていました。

プロジェクト全体を振り返り、特に重要だった点をいくつかピックアップしてまとめていきます。

  1. コンセプトを明確に定める

  2. 徹底的な構造化と、泥臭い改善

  3. ハブを中心とした有機的なチーム

チームラボが手掛けるプロジェクトは、まずコンセプトを明確に定めることから始まります。

今回は前述の通り、規模も大きく、ステークホルダーやそれぞれの目的も多様でした。さらに、ECサイトにおける購買のような分かりやすいゴールがあるわけでもなく、合意形成の難易度も高い状態でした。

一方で、その合意形成を強固なものにできなければ、統一基盤としてサイトを再構築し、その後も運用し続けていくことはできません。

必要なことは、「何を目指し、何を良しとするのか」というコンセプトが明快に示され、判断軸として機能できている状態をつくることです。

今回掲げたコンセプトは、「学内外すべてのサイト訪問者視点で、慶應義塾の解像度を上げる」 というものでした。これはプロジェクトの初回提案時に提示したもので、その後のあらゆる意思決定の軸となりました。

コンセプトを考える際の観点は、第一に「ユーザーにとって、本質的な課題を解決する」ことです。

ユーザーとは、今回であれば慶應義塾のサイト訪問者です。クライアントは慶應義塾ですが、サイトはあくまでユーザーのために存在します。だからこそ、ユーザーにとって良いかどうかを、常に判断軸の最上位に置いていました。

また、私たち自身がユーザー視点であり続けるためのリサーチも徹底します。

ほぼすべてのサイトに目を通したり、関係者や慶應義塾出身メンバーへのヒアリングはもちろん、慶應義塾のキャンパスを巡ったり、ミュージアムで歴史を辿ってみたりと、どっぷりとその文脈に浸かります。そのうえで、ユーザー視点での本質的な価値は何か?を考え抜き、コンセプトを設定していました。

コンセプトが明確になった後は、それを徹底的に実現していく必要があります。

近道のようなものがあればよいのですが、実際には、地道に情報を整理し、手を動かし、提案し、フィードバックをもとに最適解を見出していくしかありません。まさに、泥臭いプロセスの積み重ねだったと思います。

まず取り組んだのは、27サイト・約3.2万ページの情報をすべて棚卸しし、読み解き、どんな情報が・どこに・どんな目的で存在しているのかを把握していくことでした。

次に行ったのが、ユーザー視点での情報設計です。「学部」「入試」「キャンパス」「学生生活」「研究」「教授」など、慶應義塾全体で共通する主要なオブジェクトを抽出し、情報同士の関連性を細かく整理。これにより、ユーザー自身の関心に沿って見逃しなく深堀っていける構造へ変えていきました。

さらに、並行してコンテンツやデザインのテンプレート化も進めていきます。

関連サイト・ページをすべて棚卸ししたスプレッドシートの一部。すべてに目を通した上で、ユーザー視点での情報の再整理を行っていった。

文章にすると当たり前の作業に見えるかもしれませんが、実際は極めて膨大な量です。ただし、この情報設計が雑になってしまえば、コンセプトを実現することは不可能であるため、地道に、着実に進めていきました。

これほど規模が大きく、関係者も多い状況で一つのアウトプットを形にしていく以上、必ずトレードオフ(対立構造)への判断が求められる場面が発生します。

その際に重要なのは、「みんなが言っていることの“間”を取る」ことではなく、「目的に対して最適な解を選ぶ」ことです。そのためには、あらかじめ発生しうるトレードオフを想定し、どちらを優先するのか(またはどう両立させるのか)という判断軸を持っておく必要があります。

例えば、今回のプロジェクトにおけるトレードオフとしては、以下のようなものがありました。

  • 伝統と未来

  • アクセシビリティとブランド

  • ガバナンスとアジリティ

例えば、アクセシビリティとブランド表現のトレードオフにおいては、アクセシビリティ(あらゆる人にとっての、情報の分かりやすさ)を最優先とし、そのうえで、できる限りブランド表現を取り入れる、という優先順位を明確にしていました。

ユーザーは大学の公式サイトに情報を「読み」に来ています。そのため、読みやすさや分かりやすさは非常に重要ですし、多様な方々が訪れる公共性の高い情報基盤として、アクセシビリティも大前提として担保すべき要素です。

このように、発生しうるトレードオフに対してどのようなスタンスを取るのかを明確にし、あらかじめ明文化しておくこと、そして実際の意思決定の場面でも判断軸として機能させることが重要でした。

最終的には、トップページのような個別設計のページに加え、学部紹介ページや卒業生インタビューページなど、約60種類のテンプレートを作成し、運用可能な状態まで落とし込みました。

テンプレート設計に加えて、それに対応するようにコンテンツの再編集を行う必要もあった

ただし、これらのテンプレート設計は、最初からうまく固まるわけではありません。

前述の通り、慶應義塾ではこれまで各部門が主体的にサイト運用を行ってきた経緯や歴史もあり、自部門の見せ方やコンテンツ、管理方法、ドメインやURLの表記に至るまで、細部にわたる強いこだわりが存在します。

また、各種テンプレートについては、27部門それぞれからフィードバックをもらうようにしており、多様な観点から意見が寄せられます。そのうえで、クオリティ向上のため、主要なページでは20〜30回ほどバージョンアップを重ねています。

プロセスの補足 : 各テンプレートのデザイン(Figma)に、編集者が作成したコンテンツを流し込み、各学部・研究科へ順に提示して協議を実施。コンテンツ・テンプレート仕様・デザインを同時に確定させていく。また、ウォーターフォール型で進行しているため、あるタイミング以降は仕様変更がロックされる。そのため、それ以降は既存仕様にどのように当てはめて実現するか、という視点へ切り替わる。

こうした中で、それぞれのテンプレート、さらにそのテンプレートに収まるコンテンツへと落とし込んでいく工程は容易ではありませんでした。

地道に、各部門と順番に会話し、モックを作って見せ、また会話し、別部門と要望がぶつかる場面があれば調整してモックに取り込み、再度すり合わせる…その繰り返しでした。とにかく地道に、実直に、一つずつ進めていったことで、最終的に最適な設計でウェブサイトを構築することができたと考えています。

改めて、今回のウェブサイト全面刷新は慶應義塾との共同プロジェクトであり、特に広報室の方々が中心となり、方針設計や各部門との調整などに尽力してくださいました。彼らの存在がなければ、プロジェクトの推進は難しかったと思います。

システム・プロジェクト・組織の規模が大きくなるほど、「チームによるものづくり」の重要性は高まっていきます。その中で、コミュニケーションの「ハブ」となる存在も非常に重要になります。

例えば、チームラボが27部門それぞれと個別にコミュニケーションを担いながら、合意形成や開発を推進していくことは現実的ではありません。その点において、広報室がハブとなり、コミュニケーションを集約しながら推進力を生み出していたことは非常に大きかったと感じています。

また、慶應義塾では月次で開催される「広報連絡協議会」という関係者一同が参加する会議体を通じて、重要事項の共有や各部門への依頼など、組織的な情報共有が行われていました。チームラボとしても、こうした慶應義塾の意思決定やコミュニケーションのフローに合わせながら、進め方を最適化していきました。

そうした試行錯誤の結果、単なるクライアントと外部制作会社という関係ではなく、まさに一つのチームとして共にひとつのものづくりを進めていく関係性を築くことができたと思います。

こうした取り組みを経て、慶應義塾全体の合意形成のもと、新しい公式Webサイトを公開することができました。

27部門に分散していたサイトや情報は1つの基盤に統合され、閲覧者にとって必要な情報にたどり着きやすい構造になりました。さらに、AIを活用した機械翻訳による日英ミラー化、Webアクセシビリティへの対応強化、学生や研究に関する新たな連載コンテンツの開始なども行っています。

リニューアルされた慶應義塾 公式Webサイト :
https://www.keio.ac.jp/ja/

また、この基盤は今回のリニューアルで完結するものではなく、今後も拡張を続けていきます。

実際に、2026年4月以降、一貫教育校や研究所等を含む約50サイトの統合、研究者データベースの一元化も予定しており、より多くの慶應義塾関連サイトを統一基盤へ展開していく計画となっています。

チームラボに参画してから約13年。今回の慶應義塾に加え、成田国際空港TOTO読売ジャイアンツ江崎グリコなど、様々なプロジェクトにカタリストとして携わってきました。

カタリストとして私が力を注いできたことは、チーム全体がクオリティだけに集中できる状態をつくることに尽きます。それは言い換えれば、ユーザーに対して常に誠実であることです。嘘偽りなく、最大限のクオリティで価値を提供できたと言える状態を目指しています。

特に今回のように、システム・プロジェクト・組織の規模が大きくなればなるほど、「チームによるものづくり」の重要性は増していきます。

一方で、複雑さや難易度の高さを理由に妥協が積み重なると、高いクオリティを目指す意識の純度は少しずつ下がっていきます。結果として、本来ユーザーには関係のないしがらみが増え、良いものづくりの難易度がさらに高くなっていきます。

チームによるものづくりにおいては、個々人のスキルはもちろんのこと、組織全体として「何を目指すのか」「何を重要視し、何を捨てるのか」「何によって良し悪しを判断するのか」といった枠組みが、最終的なアウトプットのクオリティに大きな影響を与えます。

カタリストとしては、1つ1つのアウトプットだけでなく、こうした組織的な枠組みもデザインの対象として扱い、チームによるものづくりの価値を最大化することが求められます。そして、その実践から得た学習をチームラボのナレッジとして蓄積し、活かし続けていくことが重要だと考えています。

そうした積み重ねが、常に高いクオリティを追求し、実現するための土台になるはずです。

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