Cloudbase株式会社でデザインマネージャーを務めている成塚です。

Cloudbaseはクラウドセキュリティプラットフォームの開発・提供をしており、デザインチームではプロダクトデザインとコミュニケーションデザインの2軸の役割を担っています。

Cloudbaseが開発しているクラウドセキュリティプラットフォーム

私はCloudbaseの1人目デザイナーとして参画し、プロダクトデザインの他にビジュアルアイデンティティ(VI)の設計や様々なクリエイティブ制作を通して、メンバーと共にBX/コミュニケーションデザイン領域の土壌を整えてきました。

これまでの制作物

事業立ち上げ期におけるブランド構築をしていく上で意識していたのは、初期フェーズに必要最低限の ブランドアイデンティティとVIの定義を行い、施策を進めながら検証し、表現や訴求の型を作っていくことです。

そのため、下の二つの両輪のバランスを取りながら進めることが重要だと考えています。

  • 指針となるアイデンティティをつくる

  • 検証を進めながら表現・訴求の型をつくる

ブランディングとコミュニケーションデザインの関係性・取り組む施策についてまとめた図式がこちらです。

アイデンティティを定義して、コミュニケーションデザイン施策を回しながら検証を行う

BtoB SaaSスタートアップの初期にどのようにブランドを構築していくと良いのか、一例として、Cloudbaseにおけるブランド立ち上げの変遷をまとめます。

Cloudbaseでブランドづくりに取り組み始めたのは、私がCloudbaseに業務委託として関わり始めた2022年5月のことです。その時期、事業は立ち上げ段階で、プロダクトも正式リリース前でした。

振り返ると、次のようなステップでブランドづくりを進めていきました。

  1. ブランドアイデンティとビジュアルアイデンティティ(VI)の定義

  2. VIを基にした各種クリエイティブの展開

  3. デザイナー以外のメンバーもブランドアセットを正しく活用できる仕組み作り

Cloudbaseでのブランド立ち上げにおいては、「指針づくり」と「表現・訴求の検証」の両輪で進めていき、速度とクオリティの両方を担保できるように進めていきました。これは、事業立ち上げ期のブランド設計においては、どの会社でも共通して重要になる考え方だと思います。

Cloudbaseにおけるブランド立ち上げのポイント

・指針となるアイデンティティをつくる
・検証を進めながら、表現・訴求の型をつくる

立ち上げ期に重要なのが「指針となるアイデンティティをいかに早く固めることができるか」です。

Cloudbaseにおけるブランド立ち上げの考え方「指針となるアイデンティティをつくる」

様々な施策を進める上で、初期段階から顧客や社員に受け入れられ、魅力的に感じてもらえるブランドを構築できるかどうかが、事業の立ち上がりやブランド価値の向上に大きく影響します。

そのため、初期フェーズからブランドの指針となるブランドアイデンティティとVIを、ある程度余白を持たせた形で短期間で定義しました。

VIについては最初はロゴデザインからスタートし、高強度(どんな場面でもしっかりと認識することができ、シンプルで覚えやすく強く印象に残る)で長く使える耐久性のあるデザインになるように、制作しました。

初期段階から品質にこだわり、ブランドの指針となるようなブランドアイデンティティやビジュアルアイデンティティを制作することを意識した

もう一方で重要なのが「検証を進めながら表現・訴求の型をつくる」ということです。 

Cloudbaseにおけるブランド立ち上げの考え方「検証を進めながら表現・訴求の型をつくる」

ブランドアイデンティティの基盤を固めた後は、さまざまな制作物にCloudbaseらしい表現を落とし込んでいく必要があります。また、よりお客様に伝わる訴求のパターンも継続的に検証し続ける必要があります。

ブランドアイデンティティやVIを、制作を通した検証のなかで、表現や訴求の型にそれぞれ落とし込んでいく

事業が成長するにつれ、扱うマーケティングチャネルも増えていきます。その際、最適な表現や訴求を行えるように、早めに検証を進めておく必要があります。

ここからは、具体的なフェーズに分けて、Cloudbaseでのブランドづくりの歩みをまとめていきます。

2022年5月のサービスリリース前のタイミングから、Cloudbaseにおけるブランドを定義していきました。具体的な進め方としては、ブランドアイデンティティを定義した後、それを基にビジュアルアイデンティティ(VI)を設計していく流れです。

Cloudbaseのブランドを作る際に最初に始めたのは、代表と創業メンバーへのヒアリングとリサーチです。

組織も事業も未発達の立ち上げ期の状態からブランドを構築する場合、その後のブランドイメージと乖離してしまうリスクがあります。そのリスクを限りなく減らすために、代表や創業メンバーからヒアリングした価値観や想いをアイデンティティに強く反映させて、組み立てていきました。

代表や創業メンバーへのヒアリングを通して、価値観や想いをベースにブランドを定義していく

そしてヒアリング内容を基に、ブランドコンセプトとビリーフ(ブランドを体現する価値観を示唆するキーワード)をまとめていきます。

ブランドコンセプトは、「誰でも安全なクラウドセキュリティ運用を可能にする」とシンプルかつ分かりやすく定義しました。

ビリーフ(ブランドを体現するキーワード)は代表や創業メンバーの価値観やサービスへの想いに加えて、私が代表や創業メンバーから感じた印象をそのままブランドパーソナリティとして組み込んでいます。最終的に、「信頼」・「安心感」・「親しみやすさ」の3つに絞りました。

Cloudbaseのブランドアイデンティティ

この時点で、以下の2点を両立できるようなVIを制作することが定まってきました。

  • 親身に寄り添ってくれて親しみやすさを感じるような暖かく、柔らかい印象

  • 信頼感やスマートさを持たせた洗練された印象

ブランドコンセプトとビリーフが固まったところで、これらをビジュアル表現に落とし込み、ブランドの象徴であるブランドマーク(ロゴ)の制作を進めていきます。

私がロゴをデザインする際には、以下の5つを意識して制作しました。

ロゴデザインをする際に意識するべき5つのポイント

シンボルのデザイン

シンボルは「誰でも安全なセキュリティ運用を可能にする」というブランドコンセプトが、視覚的に伝わるように、2つのモチーフを組み込んで構成しました。

  1. セキュリティを示す盾

  2. 安全性を示すチェックマーク

ブランドコンセプトを表現する2つのモチーフをシンボルに組み込み設計していく

2つのモチーフを表現しつつ、シンボルとして成り立たせていくために一定のサイズでスケールさせた円形を組み合わせたロゴグリッドを用いてシルエットを作っていきました。規則性を持たせて設計することで、洗練された印象やスマートな印象をシンボルに与えることができます。

「安全にセキュリティを運用できる」ことを視覚的に伝えるために、盾とチェックのモチーフを使い、緻密にシンボルを組み立てる

シンボルの設計時点では、カラーやタイポグラフィに依存せず、シンボルのシルエットだけでブランドイメージが表現できているかを意識しながら進めました。 シンボルの右上にスペースを空けているのは、Cloudbaseの頭文字のCのシルエットをシンボルに反映しているだけでなく、シンメントリーな印象を避け、動きや独自性を出す効果も狙っています。また、チェックが右重心に傾いているため、そのバランスを取るためという理由もあります。

シンボルの設計意図

カラーの検討

ロゴで使用する色を決める際は、以下の2点を意識して色を絞っていきます。

  1. 色彩心理学を意識して、持たせたい印象と合致する色を選ぶ

  2. 競合サービスのブランドカラーと被らず、独自性を出せる色を選ぶ

持たせたい印象と最も合致していること、競合サービスがほとんど使用していなかったことから、オレンジ色をブランドカラーとして使用することを決めました。

カラー選定の背景

そこから更に、オレンジの彩度と明度を変えたロゴを作り、比較しながら色を調節していきました。最終的に高めの彩度である「#FF6600」のオレンジ色に決まりました。

オレンジを基調とした温かみのあるブランドカラーを設定。今後の展開を意識して、細かく調整していく

彩度が高いオレンジ色は自然界ではあまり見られないため視認性が高く、さまざまな安全に関わる場面で利用されており、Safety Orangeと呼ばれています。色の意味合いや機能がセキュリティサービスを提供する会社とマッチしており、個人的にとても気に入っています。

タイポグラフィは、以下の3点の理由からPoppins Semi boldを使用しています。

  • トレンドに左右されず耐久性がある

  • シンボルとマッチした洗練されたシンプルなタイプフェイス

  • 安心感がある少し太めの書体・ウェイト

最後の仕上げとして、シンボルとタイポグラフィ両方の角を少し丸みを帯びた形に微調整していきました。

決まったシンボルやタイポグラフィ、カラーを組み合わせてガイドラインにまとめる

ブランドを定義してから約1年半の間、各種クリエイティブでの表現や訴求を模索してきました。

BtoB SaaSのコミュニケーションデザインは、多岐にわたるタッチポイント(ブランドとの接点)に対応するため、多くのクリエイティブが必要です。

Cloudbaseで制作が必要なクリエイティブの例

現時点で着手できていない部分もありますが、コミュニケーションデザイナーが関与していきたいポイントを全て書いています。

これらの制作を通じて、一貫したCloudbaseらしさを伝え、同時に定義したブランドアイデンティティやVIの確からしさを検証していきました。

以下に、その上で重視したポイントを挙げます。

最初は、コラボレーターメンバー (Cloudbaseでの業務委託の方の呼称) に、マーケティング関連施策の制作を出来るだけお任せしようと思っていました。

しかし、クリエイティブに落とし込む際に、コラボレーターの方が0からCloudbaseらしい表現や、正しくプロダクトや会社を訴求するデザインを作ることは非常に困難でした。 その経験から、誰かに任せる前に、まずは基準となるクリエイティブを作らなければならないと気づき、私自身がプロジェクトのコアメンバーとして動き、クリエイティブのバージョン1を作成し、基準をつくることから始めました。

まずは自分が全てのクリエイティブのバージョン1を作成し、表現の基準をつくる

具体的には、コーポレートサイトやサービスサイト、記事や調達リリースのサムネイルや挿入画像、展示会ブースやノベルティ、リーフレット、営業資料、リクルーティングデックなど幅広く制作を行いました。

その結果、事業の立ち上げ段階で必要なクリエイティブが一通り完成し、クリエイティブの土台と基準を作ることができました。この土台や基準があることで、部分的な修正やアップデートを他の誰かに任せても、Cloudbaseらしさを損なわずに制作をすることが可能になります。

さらに、これらの制作物を自ら手掛ける中で、様々なCloudbaseらしい表現や訴求方法を試しながら検証し、改善していくことができました。

Cloudbaseでは、適切なターゲット層に認知していただき、導入を促進するマーケティング施策に注力することで、事業は更に成長していけると考えています。

このようなマーケティング関連のクリエイティブ制作においては、表現のみならず訴求の方向性も綿密に検証することを重視しています。

事業が立ち上げ段階にあるため、単に表現のクオリティを高めるだけでは良い結果は得られません。企画や訴求の軸を把握し、ドメインエキスパートのメンバーと協働しながら、進めていきます。

展示会ブースのデザイン

例えば、展示会ブースデザインはその1つです。初回に出展した際のブースのタグラインは「クラウドのお悩み、すべて解決します。」というシンプルな訴求でした。

その後、よりCloudbaseの価値が伝わるように、「パブリッククラウドにおける設定ミスや脆弱性を網羅的に検出」という訴求へ変更しています。現在もタグラインを検証しながら、より最適なものになるようアップデートを続けています。

展示会ブースデザインでの訴求の方向性を検証

さらに、訴求方法をブランドイメージに合致させるため、不安を煽るようなホラーストーリーを使わず、お客様に安心感や信頼感を感じていただけるような、本質的な提供価値を伝えるサクセスストーリーメインの訴求に変更しました。

このアプローチにより、ブランドイメージを損なわずに顧客への信頼を構築し、Cloudbaseの提供価値を効果的に伝えることができるようになりました。

訴求ストーリーも改善

このようにCloudbaseでは、効果的な訴求方法を探るためにプロダクト知識とドメイン理解、そしてドメインエキスパートとのコラボレーションが不可欠です。

初期フェーズでは、指針となるブランドアイデンティティを明確に定義し、その後のマーケティング施策に適用することで、あらゆるタッチポイントで一貫性と高い訴求効果の両軸を実現することができました。このアプローチにより、顧客に対する信頼感を高め、結果としてブランド価値を向上することに成功したと感じています。

ここまでの取り組みにより、Cloudbaseのコアとなるアイデンティティや、各施策に落とし込んだ際の表現の型・訴求の型が明確になってきました。

同時並行で、コミュニケーションデザイン施策をスムーズに進めるための体制と仕組みづくりなどの基盤整備も進めていました。いくつか具体例を紹介します。

まず、PR・HRチームとマーケティングチームとの定期的な議論の場を設け、短期的な施策だけでなく、中長期先の施策についてもデザイナーが把握し、初期の段階から施策についての議論ができる体制を作りました。

中長期的にどのような施策を進めていくかや、施策の要件を固めるところからデザイナーが入り議論を行う

事業の成長に伴い、各領域での高い専門性を持つスペシャリストが次々と加わっています。

その方々がより大きな成果を出せるように、これまでの検証から得られた「Cloudbaseとして有効な表現や訴求」に関する情報を活用できるように、デザイナー側から積極的に密接な連携を促し、密にコミュニケーションがとれる体制を意識的につくっています。

Cloudbaseのデザインチームでは、デザインをデザイナーだけのものにせず組織内の全員がデザイン作業を行えるようにすることを重視しています。

これにより、余計なコミュニケーションコストを省き、デザイナーがボトルネックになるリスクを防ぐことができます。この取り組みを「デザインイネーブルメント」と呼び、積極的に推進しています。

具体的には、以下の内容をデザイナーを挟まず円滑に進められるよう、テンプレート化やドキュメントの作成、ツールの使い方のレクチャーなどを行っています。

  • メンバーごとのプロフィール写真撮影の仕組み化とレクチャー

  • 名刺、バーチャル背景のテンプレート化と作成方法のドキュメント化

  • PR記事、ウェビナー・導入事例記事などのサムネイルのテンプレート化(Figma or Canva)と編集方法のレクチャー

  • コーポレートサイトのニュース欄、サービスサイトの導入事例、イベントなどのページの更新をノーコードツールのFramerのCMS機能を用いて、誰でも更新可能に。

  • スライド資料のテンプレートを作成して全社に展開し、全社オンボーディングで使用方法をレクチャー

デザインを誰でもつくれるようにする「デザインイネーブルメント」

このような制作の型を広げる活動が可能になったのは、これまでに行ってきた「指針づくり」と「表現・訴求の検証」を早期に固めることができたためです。

デザイナーとして、検証済みのクリエイティブを誰でも作れるように仕組みを整え、自身は未検証のクリエイティブや施策に取り組むことを意識しています。

ここまでの取り組みにより、Cloudbaseのブランドの立ち上げは大きく進展しました。協働しているメンバーからも、ポジティブなフィードバックをいただいています。

Cloudbaseのメンバーからもらったポジティブフィードバックの一部

ブランディングやコミュニケーションデザイン施策は一度制作して終わりではなく、市場環境や企業内部の変化に対応するために継続的に改善を行っていく必要があります。

そのため、Cloudbaseのコミュニケーションデザインチームとしては「複数人での制作体制づくり」を構築する必要があります。

ここまでの検証により、コミュニケーションデザイナーの人員拡大や、体制づくりに取り組む確かな根拠が生まれてきました。具体的には、以下の取り組みに注力しています。

    • BXデザイナー・コミュニケーションデザイナーの採用
    • ブランドガイドラインの策定
  • 検証を踏まえて、Cloudbaseのコミュニケーションデザインチームは次のフェーズである「複数人での制作体制づくり」へと進んでいる

    Cloudbaseの核となるアイデンティティを、多角的なアプローチで表現し効果的に訴求すること。そして、デザインの力で事業成長を加速させることがCloudbaseのデザインチームの役割の1つです。

    また、ブランディングという観点からは逸れますが、コミュニケーションデザインは顧客や採用候補者とのタッチポイントの設計だけでなく、経営からメンバーへの情報伝達のためのデザインにも、大きな力を発揮します。

    社員数が30人を超えると、経営の戦略や方針を正確にメンバーへ伝え、全社員が同じ方向に向かって走ることがだんだんと難しくなっていく場合があります。

    そのため、今後デザインチームでは経営戦略や方針、現状の課題などを正しく理解し、それをメンバーに正しく伝えるためのサポートを積極的に行っていこうと思っています。具体的には、以下の2点を現段階では考えています。

    • ARRや社員数などのロードマップ・組織図などの整理・図式化

    • 経営戦略のストーリーやフォーカスポイントなどをビジュアル要素を加えて、正しく伝える

    組織図や経営戦略もメンバーが理解しやすいように

    この事例では、Cloudbaseでのブランディングやコミュニケーションデザイン領域が0から今の状態になるまでの成長の過程をお伝えしました。デザインの力で事業にインパクトを与える土壌が徐々に整ってきていますが、まだまだ課題や改善が必要な箇所は山積みです。

    現在、私たちは共にBX/コミュニケーションデザインの体制を築き、ブランドの価値と事業の価値をさらに高めていく仲間を探しています。興味のある方はぜひ、お気軽にご連絡ください。

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