DeNAデザイン本部 マーケティングデザイン部のナシームです。元々は主にアプリやゲームのデザインをしていましたが、サッカー好きが高じて、2022年3月から「SC相模原」のデザインに携わっています。以来、ブランディングや各種クリエイティブの制作、ユニフォームのデザインなどを担当してきました。
クラブの一員として、試合中・試合外に関わらず「クラブがどう見られるか」の印象を設計し、サポーターの熱量をクリエイティブを通して高めたり、結果としてのビジネス成長にも繋げていくというこの仕事は、とてもやりがいがあります。
今回は、「SC相模原」のデザイナーとして取り組んできたことを例に挙げながら、どのようにクラブの成長に貢献しているかについてまとめたいと思います。
まずはじめに、SC相模原のデザイナーとして取り組んでいることの全体像を紹介します。
SC相模原では、シーズン開幕に向けた販促物やユニフォームなどのデザインはもちろん、サガミハラエナジーフェスなど、時期毎に開催するイベントの準備も含め、年間を通して様々なクリエイティブを担当しています。
デザイナーとしては、ただクリエイティブの制作面を担うだけでなく、以下の2点を鑑みながら長い目線でデザインに取り組むことが重要だと考えています。
中長期を見据えたクラブへの愛着形成
ビジネス指標への接続
年間を通して膨大な量のクリエイティブを制作していますが、これらの役割は大きく以下の2点に集約されます。
SC相模原ファン(サポーター)の皆さまに、その時のチームの雰囲気や魅力を届ける
より多くの方々にSC相模原やサッカーを知ってもらう・好きになってもらう
クラブとして目指す先やサポーターの思いを汲み取ってデザインすることで、より多くの方の「SC相模原が好きだ」「応援したい!」という熱量を高められると考えています。
ここで例えば、デザインがいまいちだったり、SC相模原らしさを感じられない、もしくは気づきづらいものだと上記の役割を果たすことが難しくなってしまいます。
そのため、2022年からはSC相模原としてのブランドガイドラインや、シーズンごとのトンマナ設計に注力し、いかなる場面でも「SC相模原らしい」と感じられるコミュニケーションができるように努めてきました。
SC相模原は現在J3に所属するクラブですが、今後J2、J1へとステップアップしていく未来に向けて、デザインを通して、関わる皆さまの熱量を高めていきたいと考えています。
一方で、サッカークラブの運営は事業として成り立っており、チケットやグッズの販売数など売上を高めていくことも前提として重要です。
また、これらの売上はクラブの育成や設備投資、マーケティングなど、クラブをより強く、より魅力的にするために投資されます。
特にユニフォームの売上は、スポーツクラブでの売上のおおよそ40%を占めるものであり、これらの制作を担うデザイナーとしては、いかにチームの意志や魅力をデザインに反映し、サポーターの皆様にも欲しいと思っていただけるかが重要な視点だと考えています。
ここからは、上記の観点を踏まえて実際に取り組んでいることについて、詳細にお伝えします。
DeNAが参画した2021年以降、SC相模原におけるブランド指針を「Design Communication」としてまとめ、シーズン毎にアップデートしながらデザインに取り組んでいます。このような指針を定義する目的は以下の2点です。
SC相模原と関わる方々とのすべての接点において、SC相模原らしい印象を形成する
クラブへの深い共感を生むことや、統一感と効率性を兼ね備えた制作を可能にする
Design Communicationでは、単に1つのトンマナを定めるのではなく、SC相模原と社会とのタッチポイント毎に適切なトンマナを定めるようにしています。具体的には以下のような区分を設けています。
CORPORATE
SC相模原という会社全体に関わる全体トンマナ。
MATCH
試合・選手・観戦体験に関するデザインコンセプトと全体トンマナ。非日常での、高揚感のあるスタジアムや観戦体験をサポーターに感じてもらうことを目指す。
FAN
ファンや街との接点に関するデザインコンセプトと全体トンマナ。試合以外の日常での、地元相模原を盛り上げることを目指す。
また、このような区分を設けたうえで、チームの状況や目標、サポーターの思いなどを汲み取りながら、シーズン毎にコミュニケーション指針をアップデートしています。
例えば、2023では選手の入れ替えがあり、クラブとしての再出発となるシーズンでした。サポーターとしても今後どのようなクラブとなっていくか想像しづらい状況にもなるため、「刷新・フレッシュさ」をキーワードにコミュニケーションすることで、クラブとしての新章開幕をより楽しみに、期待感をもって迎えてもらうことを心がけていました。
一方、2024ではフレッシュさを抑えつつ、「次のフェーズへ進んでいく」という意志や姿勢を伝えられるようにコミュニケーション指針を更新しています。例えば、高揚感のある観戦体験を定めている「MATCH」では、「COMMITMENT (献身)」「CHALLENGE (挑戦)」「UNITY (結束)」などのキーワードを設定し、力強く、勢いがあり、常にあふれ続ける熱量を感じられるイメージを伝えることを目指しています。
また、アップデートしたコミュニケーション指針に併せて、シーズン毎のビジュアルも変えています。2023シーズンでは、フレッシュさを押し出すために白基調多めで爽やかな印象としていましたが、2024シーズンでは、SC相模原として次のフェーズに進む勢いを押し出すために、濃度の高い緑やより濃く燃えるオーラを表現したビジュアルとしています。
公式ユニフォームは試合中に選手が着用し、最も目に触れるものであるため、選手・サポーターからの期待も大きいアイテムです。
一般的に、サプライヤーが用意しているデザインテンプレートから選ぶことも多いようですが、SC相模原では毎年オリジナルのデザインを制作しています。
ユニフォームを制作する時には、選手・サポーターが魅力的に感じるか、他チームと差別化できているか、フィールド上での存在感など、様々な視点を考慮します。
2024のユニフォームでは、「SC相模原が未来に向けて希望をもって進化する」というメッセージを、昨シーズンでの経験と成長を追い風としてはためくフラッグの形を組み合わせてつくったオーラのモチーフや、袖に施したゴールドの縁取りによって表現しています。
また、ゴールキーパーユニフォームでは、オーラのモチーフを全身にまとったデザインで、絶え間ないサポーターの声援に応えながらゴールを守り続けるゴールキーパーの不動の精神を表現しています。さらに、ベースカラーとして国内では珍しい「ボルドー」「パープル」を採用しており、斬新かつより魅力を感じられるユニフォームにしました。
2024年1月初旬にユニフォームを公開した結果、「めちゃくちゃかっこいい!」「これ着て応援するのが楽しみ!」など、サポーターの皆様からありがたい反響をいただいています。
また、ユニフォームなどのグッズの売れ行きも好調です。特にゴールキーパーユニフォームが想像以上に人気であり、売上状況も前年度と比較して40%以上UP。事業面での成果も大きく生まれました。
Jリーグでは比較的珍しいカラーにチャレンジしたことで、今までユニフォームを買っていなかった方や、女性の方々にも購入いただいているようです。
まだ2024シーズンは始まったばかりですが、装いを新たに、SC相模原とサポーターが一丸となって試合に臨めることをとても楽しみにしています。
SC相模原のサポーターの皆様は、色々な思いを持って応援してくださっていますが、一番見たいのはやはり「チームが勝利する瞬間」だと思います。
自分もサッカーやSC相模原が大好きなので、勝利の感動をサポーターの皆さんと分かち合える瞬間を心から楽しみにしています。
デザイナーとして試合の勝敗には関われませんが、デザインを通してクラブの魅力を伝え、サポーターの数や応援したいという熱量を高めることはできます。
これからも、デザイナーの立場からクラブの発展に対してできることに全力を注ぎ、SC相模原が掲げる「ENERGY FOOTBALL」をより多くの方々に届けられるようにしていきますので、今後にご期待ください。