ウエディングパークのプロダクトデザイナー西嶋です。

私たちが運営する「Wedding Park」は、2004年にスタートして以来、20年以上にわたって多くのカップルに使われ続けている、日本最大級の結婚準備クチコミ情報サイトです。

今回は、2024年にWedding Parkで実施した「検索結果一覧画面のUIリニューアル」のプロセスについて詳しく掘り下げていこうと思います。

Wedding Parkの「検索結果一覧画面」のUIリニューアルを実施

Wedding Parkのプロダクトデザインの難しいポイントとしては「プラットフォーム事業」特有の、toB / toC両方にとって最適な体験を保っていくことかと思います。

ユーザー視点を取り入れた “フェア” な体験をプロダクトとして実現し、さらには利用してくれている式場の方々にも共感を得ていくためのコミュニケーション設計までどう取り組んでいくか。この思考の裏側をできるだけ詳しくまとめていきます。

Wedding Parkは、2004年にサービスを開始した、国内最大級の結婚準備クチコミ情報サイトです。

20年以上にわたる運用の中で、50万件以上のクチコミ投稿、5,000軒以上の結婚式場データベースを持ち、結婚式場の比較・検討をオンラインで完結できるプラットフォームとして、ウエディング業界を支え続けています。

20年以上運営されている、国内最大級の結婚準備クチコミ情報サイト「Wedding Park」

UIリニューアルの必要性は、事業モデル的な背景と、長年運営されているからこその負債的な背景の2つから生まれていました。

Wedding Parkの事業モデルは、結婚式場から広告費用をいただきつつ、式場に対するユーザー投稿のクチコミ情報や動画などのコンテンツを掲載し、それを見たカップルの方たちが式場への問い合わせを行うことで価値が生まれるような構造となっています。

Wedding Parkは、結婚式場とカップルの双方に価値を提供するプラットフォーム

それゆえに、ユーザーであるカップル側だけ、または広告主である式場側だけ、という偏った視点でのプロダクト設計は理想的ではありません。プラットフォームとして、両者に自然な体験をつくっていく必要があります。

このような、式場とカップルの両者を重視する設計思想として、Wedding Parkでは「永遠のフェア宣言」という運営方針が掲げられています。プロダクトデザインにおいても、この思想が最重要な考えとして位置付けられています。

永遠のフェア宣言

このような思想でサービスは設計されているものの、20年近い年数の運用の歴史の中でサイトの機能やコンテンツが増えてきたりと規模が拡大してきたことで、どうしても自然でない体験になってしまう箇所が生まれてしまっていました。

例えば、今回リニューアルした「検索結果一覧画面」もその一つです。検索結果に基づいて式場が一覧で表示される画面なのですが、カップル目線では必要以上に情報が散りばめられてしまっているような状態になっていました。

このように情報が溢れてしまう一つの原因として、単発の施策ごとにUI改善を行ってしまっていたことがあります。例えばSEO結果の向上を意図したページ内の説明テキストや、式場情報の粒度も揃っていない画面になってしまっていました。

「検索結果一覧画面」の過去のUI

ユーザーからすると、検索結果に対して不要な情報が多く表示されたり、式場ごとに情報が揃っていない一覧画面は、理想的な体験ではありません。同様に式場にとっても、これが影響してユーザーが離れていくことは本意ではないはずです。

「永遠のフェア宣言」を掲げるWedding Parkとして、 “真にフェアな式場探し体験” を実現するために、プロダクトの体験や情報設計を見直していくことを決めました。

最終的に、以下のように2024年秋頃にUIリニューアルを完了していますが、ここまでに至るにはいくつもの検証を進める必要がありました。

「検索結果一覧画面」のUIリニューアルを実施した (before / after)

カップルと式場の双方に価値を提供するWedding Parkのプロダクト改善においては、ただUIを綺麗に一新すれば良いのではなく、両者が共感し、さらに行動が生まれるプラットフォームへとバージョンアップするところまで持っていく必要があります。

そこで、プロダクトデザイナーとしては、理想的なプロダクトのUIを設計すること以上に、以下のような体験の検証に力をかけていきました。

  • 価値検証: 本当にユーザーファーストな設計にしたときに、ユーザー行動が起こるのか

  • 浸透: 式場の方に共感してもらえるために、どのようなコミュニケーションをすべきか

単なるUI刷新で終わらせないために、「価値検証」と「浸透」に注力した

ここからは、バックキャスティングで、具体的にどのように体験の検証を進め、カップルと式場の双方が受け入れられるようにUI刷新を完了させたのかをまとめていきます。

まずは、価値検証のステップです。一番初めのタイミングでは、まだ課題感を私とディレクターが持っているのみで、正式にプロジェクトとして始動させるには至っていません。

ここから、実際にプロジェクトを始動させるために、「本当にユーザー行動が起こる」ことを証明しにいきました。これまでのUIよりも、ユーザーの行動が確実に起こるのだということが実証できれば、あとはコミュニケーション次第でリニューアルを推し進めることができます。

具体的には、価値検証は以下のプロセスで進めていきました。

リニューアルに関する価値検証のプロセス

1. 理想的なプロトタイプを用意
2. セールスに懸念点を確認
3. リニューアルの数値向上 (または維持) をABCDテストで検証
4. セールスとの合意

まず取り組んだのは、理想とするプロトタイプをつくることでした。

ユーザー視点で「本当に使いやすいUIとは何か」を考え、不必要な情報は思い切って排除しました。また、式場の情報は、Wedding Parkの強みであるクチコミをベースに構成し、ユーザーが自然に比較・検討しやすいかたちに整えました。

結果的に、この段階で制作したプロトタイプは、実際にリリースされたUIとほとんど変わらない完成度で、初期の時点でかなり精度の高い設計にたどり着けていたと思います。

まず理想的なプロトタイプを用意

いきなり全体を一気にリニューアルするのは不確実性が高いため、まずはスマホ版のUIに絞ってリニューアル案を用意しました。ユーザーの閲覧環境としてもスマホの比率が高く、影響度の高い領域から段階的に改善を進める方が現実的だと判断したためです。

ディレクターとすり合わせながら、リニューアル案をプロジェクトとして進められそうな手応えが見えてきた段階で、次に取り組んだのが社内のセールスチームへのヒアリングでした。

Wedding Parkはプラットフォーム型のサービスであるため、ユーザー視点だけでUIを刷新してしまうと、掲載している式場側に価値提供ができなくなる可能性があります。そこで、ディレクターからセールスチームに対して、「今回のリニューアルに対して、式場側として懸念が出そうなポイントはあるか」と丁寧に確認をしていきました。

実際、ヒアリングを進める中で、「表示する情報項目を減らすと、式場側が自社の魅力が伝わらなくなると感じてしまうのではないか」といった声があがり、式場側の視点では懸念が多くありそうなことが見えてきました。

セールスメンバーから、式場側の懸念を回収

こうした懸念が残ったままでは、プロジェクトを正式に始動してもうまく進まないと考え、「リニューアルをしても大丈夫」だと思ってもらえるような進め方を意識し、実装前の段階で価値検証を行いながら進めることで、関係者に納得感を持ってもらえるようにしました。

リニューアルを進める上で最も重視したのは、「数値的に問題がないこと」を証明することでした。いきなりすべてを変更するのではなく、既存のサービス環境上で、リニューアルの種となる要素をひとつずつテストしていくアプローチを取りました。

ここで大切にしていたのは、「数値が向上することが理想」ではあるものの、たとえ改善が見られなくても、これまでと同等の数値が出ていればそれで十分説明材料になるという考え方です。ユーザーファーストな設計に切り替えても、主要な指標が維持されていれば、「リニューアルによって式場側への悪影響はない」と伝えることができます。最低限のラインとして、数値の“維持”を明確に意識して検証を始めました。

リニューアルの要素は4つほどに分割し、時期をずらしながら順番に検証。Wedding ParkにはABCDテスト(4パターン同時比較)を行える検証環境が整っており、この仕組みを活用して半年近くにわたってテストを繰り返しました。

ABCDテストで数値の向上 (または維持) を証明する

テストのたびに、セールスチームとは密に連携しています。

ディレクターがセールスの定例ミーティングに参加し、「今週はこういう改善を実施します」「先週の検証では数値がこれだけ向上しました」といった情報をこまめに共有し、少しずつセールス側の納得感と信頼を積み上げていきました。

ディレクターがセールス定例に参加し、ABテストの結果を伝えていく

また、検証の過程で数値的な改善が見られた要素については、そのまま本番のプロダクト環境に反映し続けます。フルリニューアルに向けた検証という側面だけでなく、日々の運用改善としても価値ある取り組みとなりました。

検証を重ねた結果、数値は想定以上に良い方向へと向かうことが分かりました。これまで懸念されていた「情報を削ることによる式場側への価値低下の可能性」についても、ユーザー行動のデータから影響が起こらない、あるいはポジティブであることを説明できる状態が整いました。

こうした結果をふまえ、改めてセールスチームに対してリニューアルの合意を正式に取りに行きました。すでに継続的な共有と信頼関係が築けていたこともあり、スムーズに合意を得ることができました。

セールスメンバーとの合意を持って、正式にプロジェクトとしてスタート

リニューアルによるユーザー行動が問題なく、むしろ理想通り数値的には向上していくことが検証できたので、実装へと進めていきます。このタイミングで、プロダクトデザイナーとしては、もう一方のステークホルダーである式場への共感をつくりにいくためのコミュニケーション設計に力を入れていきました。

もともと、なぜUIが複雑になっていったかというと、式場側に対しての価値提供を意識して、機能追加をしたり、式場情報を多く表示していけるようにしていた背景が影響しています。

「Wedding Park上にどのような情報が表示されるのか?」という話は式場としてもかなり重要なポイントです。単に「UIが変わりますよ」と言うだけでは式場側に不安が生まれてしまうことは容易に想像ができました。

この状況を突破するためには「リニューアルにより、むしろユーザーの行動が起こりやすくなる」というポジティブな可能性を式場の方にも丁寧に伝えていくことが必要です。ここで行ったのはセールスと連携しながら式場とコミュニケーションを取るための「ストーリー」をつくることでした。

式場に共感してもらうためのに、セールスと連携しながらコミュニケーションを設計する

まずは、セールスチームが式場側への説明に使う「媒体資料」を作成しました。

これは、セールスが式場の担当者に対して新しいUIや機能の背景・価値を説明するための資料です。限られたアポイントの時間で、効率よく今回のリニューアルによって何がどう変わるのかを視覚的に理解してもらえるように設計しました。

資料には、変更点の概要だけでなく、検証によって得られた具体的な数値データや、ユーザー行動の変化なども盛り込み、式場側が納得感を持ってリニューアルを受け入れやすいような内容に仕上げています。

セールスから式場の方に対してリニューアル内容を説明する「媒体資料」の一部

ディレクターが資料の骨子を組み立て、それに対して私はプロダクトデザイナーとして表現方法や構成を一緒に磨き上げていきました。

この資料で最も重視したのは、セールスと式場側のコミュニケーションがスムーズに進み、高い納得感を持ってもらうことです。

プロダクトのUI設計では常にユーザー目線を追求してきましたが、このフェーズでは視点を切り替え、とことん「クライアント=式場の視点」でコミュニケーションを設計しています。

プロダクトリニューアルはとことんユーザー目線。リリースコミュニケーションはクライアント目線で

リリースを控えたタイミングで、ディレクターからセールスメンバーに向けて「今回こういったリニューアルがある」という事前共有が行われました。その際に同時に、セールス向けの「質問シート」をチームに配布しています。

セールスメンバーが新機能に対して疑問に思ったことがあれば「質問シート」に疑問を記入してもらい、それに対してディレクターが回答を記載していきます。

同じような質問が繰り返される中で、その都度このシートを参照すれば自己解決できるようになるため、チームとしての説明精度が自然と高まっていく運用フローです。

セールスメンバーや式場の方からいただいた質問を記入する「質問シート」
もらった質問に対して、ディレクターが回答を残しておくことで、チームとしての納得度が高まっていく

さらにこのシートは、セールスが式場と実際にやりとりする中で受けた質問も追記してもらうようにしており、式場目線でのリアルな疑問にも、ディレクターが回答を残していきました。

このような形で情報を集約し共有することで、チーム全員が高い解像度でリニューアルの背景と意図を理解し、式場の方とのコミュニケーションに臨める状態をつくることができました。

こうして進めてきたUIリニューアルは、まずスマホ版から無事にリリースされました。数値の手応えもあったことから、今ではWeb版にも反映されています。

UIリニューアルが完了

実際に、式場への送客数も明確に増えました。ユーザーが使いやすいと感じる設計に徹した結果、ちゃんと行動にもつながっていることが数字でも裏付けることができています。

今回のリニューアルを通じて、ユーザーファーストな設計を続けることで数値も大きく向上し、事業が成長するということをプロダクト設計としても学習することができました。

ウエディングパークでのプロダクトデザインの考え方は、「四方良し」という考え方で説明されています。

カップル、式場、社会、ウエディングパーク、のどのステークホルダーも満たされるようなフェアなプラットフォームを志向していく会社のスタンスに、私自身とても共感しています。

ウエディングパークが掲げる方針「四方良し」

最後に、私の言葉でウエディングパークのプロダクトデザインの魅力をまとめると、以下の3つがあります。ウエディング市場というドメイン特有の難しさや、プラットフォームゆえの複雑さがありますが、そこも含めてプロダクトデザインの価値が大きく求められる環境だと思っています。

ウエディングパークのプロダクトデザイン 3つの魅力

1. 世の中の結婚観の変化や多様化に対応し続けるために、バージョンアップを繰り返す
2. プラットフォームとして、式場・カップル両方の体験を重視する (by永遠のフェア宣言)
3. セールスとも連携し “チーム ウエディングパーク” として式場の納得感も実現する

20年運営し続けてきた「Wedding Park」の基盤を活かして、さまざまな事業運営・新規事業立ち上げに取り組んでいるのが現在のフェーズです。今回まとめたような「永遠のフェア」な設計を続けつつ、理想の結婚式プラットフォームとして今後もサービスを育てていきます。

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