2024年2月にStarley株式会社からリリースされた、音声会話型おしゃべりAIアプリ「Cotomo (コトモ)」。

事業立ち上げに関わる、事業コンセプトの設計・初期プロダクトの設計・デザインチーム立ち上げをrootとして伴走しました。

音声会話型AIという特殊なドメインにおいて、いかに事業の方向性を固め、プロダクト内の体験を検証したのか。また、素早いデザインチーム立ち上げをどのように支援したのか、事例をまとめます。

toC向けの新規事業の立ち上げや、プロダクトの立ち上げフェーズにおけるデザインチーム立ち上げ方法の、一つの参考になればと思います。

Cotomoは、2024年2月にリリースされた、音声会話型おしゃべりAIアプリです。

音声会話型おしゃべりAI「Cotomo」 (サービスサイト: https://cotomo.ai/https://cotomo.ai/)

「話したいことも、話せないことも。」をコンセプトに、ゆるい雑談から悩み相談まで、身近な話し相手になってくれるAIアプリとして、日常会話に特化した内容をAIと会話することができます。

他の音声会話型のAIアプリでは、英会話や検索など、特定の課題解決を目的としている場合が多く、一方でCotomoでは、目的なく会話をし続けられることが特徴となっています。

Starley社で独自に開発しているAIを採用しており、会話を続けることでユーザー情報を学習し、パーソナライズされた会話内容へと成長していきます。独自の音声を4種類から選べ、アイコンや名前も自由に設定することが可能です。

rootがCotomoの開発に関わり出したのは、2023年4月のことでした。当時はまだ今のように音声型のアプリにするかどうかも決まっておらず、事業の方向性を固めるところから伴走していきます。

Starleyの創業者2名(エンジニア)として、toC向けに対話型AIのプロダクトを立ち上げるということは決めていました。そこに私(デザイナー)が加入し、3名体制で事業の方向性を固めていくところからはじめます。

toC向けアプリにおいて、短期的なマネタイズから考え始めると注力がわかりづらくなります。なので、長期的にコミュニケーションアプリとしてありたい状態とは何か?と考えていきました。

そこで私が行った1つの具体化手法は「SFから現実に落とす」ことでした。

映画のカットからAIの活用シーンを引用し、Cotomoとしての理想像を固めていく材料に

2013年に公開された映画「her」の中で、主人公セオドアは、サマンサと名乗るOSと他愛ない会話を続ける中で、次第に心惹かれていきます。

この映画のカットを並べ

  • どのようにAIをセットアップをしているのか?

  • どういう会話をAIとしているのか?

  • モチーフはリアルな人なのか抽象的なキャラクターが良いのか?

  • 音声は人を感じられる方が良いのか、機械音でもいいのか?

などをチーム全員で付箋を貼り付けながら、想定を深めていきました。

一般的なサービスとは異なり、音声会話型AIアプリは、現実にはまだそこまで参考になる類似サービスや代替行動のようなものが存在していません。

もちろん、ChatGPTなどテキスト型でタスクベースのAIサービスはいくつも生まれていたものの、音声会話型でコミュニケーションを取れるAIの理想像は?と言われると、難しい。そのため、理想の体験がすでに成立している映画の世界から体験を現実に持ってくることを試みています。

このような議論を毎週繰り返し、チーム内では「恋愛版じゃないher」「ドラえもんのような存在」といったメタファーが置かれるようになります。

メタファーを置き、リアルに寄り添ってくれる音声型のおしゃべりAIアプリ、というポジションが少しずつ見えてきた上で、次の議論として、Cotomoが注力する体験は「視覚的な表現」なのか「音声表現」なのか、という分岐を示しました

視覚的な表現と、音声表現のどちらに注力するのか?という分岐を示して判断を促した

例えば、視覚的な表現を取ると、リアルな人のように振る舞う映像表現に力を入れる必要が出てきます。逆に、音声表現を取ると、機械的な音声ではなく、実際の人が話しているような音声に注力することが必要となります。

PMFもしていないプロダクト立ち上げ期において、この2つを両方取りに行くのはコアな価値の定義にはノイズだと思っていたので、プロダクト開発前から方向を絞りにいっています。

最終的には「音声表現」に注力することが意思決定されました。理由はいくつかあるのですが、一つは既に世の中にあるアプリケーションの体験と乖離させすぎないということを意図しています。

音声表現に注力することに

例えば、LINEなど、チャット形式で会話するインターフェースはすでに世の中に受け入れられていますが、リアルな人と会話するインターフェースはまだ世の中に浸透しているとは言えません。

なので、リアルな人と話す映像表現にこだわっても、技術的な難易度が高い上に、ユーザーが受け入れる心理的ハードルが高いと思い、音声表現に特化していくよう判断しました。

事業としての方向性が固まってきたため、プロダクトの具体的な体験を検証するために、体験の仮説をプロトタイプに落とし、インタビューを繰り返しながらインターフェースを磨き込んでいきました。

まずは、事業コンセプトを踏まえつつ、具体的な体験をユーザーストーリーとして整理していきます。

これまでの議論をもとに、ユーザーストーリーを整理してプロトタイプに落としていく

リアルな人ではなくキャラクターを使うことは決まっていたものの、この時にはキャラクターの粒度も決まっていなかったので、そこについてもプロトタイプをいくつもつくりながら調整していきました。

同時に、会話のインタラクションも調整し始めます。オンボーディング体験も、できるだけ入力をせずに、会話で完結するように設計しています。(後に音声入力の特許を取得)

結果的に、このオンボーディング体験は今のCotomoとそこまで変わらないものになっています。

Cotomoのプロトタイプ
キャラクターの粒度や、音声でセットアップするオンボーディング体験をいくつもプロトタイピングしながら調整していく

最初はクローズドに、プロトタイプを近しい関係者だけに利用してもらいました。私が会話のシナリオも用意し、利用してもらった上でインタビューを実施させてもらいながら体験の整合性を確かめていきます。

結果的に、この段階で、すでにオンボーディングの突破率は9割を超え、音声でセットアップする体験は間違いなさそうなことがわかっていました。そのため、課題はいかに会話を続けられるのか?というところに絞られます。

Cotomoにおける利用継続の鍵は、いかに会話を続けられるのか?ということです。

プロダクトのインターフェースを開発しながら、並行で音声対話エンジンの開発も行っており、その技術の精度がどのくらい高まるのか読みづらい中で、どのようなUIが最適なのかを検証していきました。

クローズドで使ってくれているユーザーの利用動向のデータを見ながら、Cotomoを1週間使ったあとにインタビューをさせていただき、以下のような項目を確認していきます。

テストユーザーへのインタビューを繰り返し、以下のような項目を確認していった

・どれくらい会話が定着しているのか
・どのような会話だと話しやすいのか、その理由
・再度訪れようと思ったきっかけやタイミング

また、Cotomoはジャンルを絞らないtoC向けのコミュニケーションアプリなので、意図的に幅広い利用目的のユーザーにテストするようにしていました。

創業チームの知り合いにテストユーザーを限定してしまうと、IT界隈の人中心になってしまう恐れがあるので、Cotomoの場合は、地方在儒者・学生・一人暮らしの方、などさまざまな属性に使っていただけるよう、小規模な広告運用をしながらユーザー獲得をしています。

意図的にテストユーザーの層を分けていく

テストユーザーを泥臭く探しては、プロトタイプを試してもらいインタビューして、というのを繰り返していきました。

このような検証を経て、細かくUIを検証していきます。例えば、会話を続けるためには、話題を切り替えることが大切であることが分かってきましたが、AI側から自然に話題の展開を行うのは難しかったので、次に話すテーマをUIでレコメンドするよう設計したり。

また、自分好みのアイコンを入れているユーザーとそうでないユーザーでは定着率が変わることも分かってきたため、アイコンは最初に自由に設定でき、かつ3日後に変更できなくなるように改善しています。

検証を踏まえて機能を改善
会話を続けられるように「話題の切り替えを行える画面」「アイコンの入れ替えができる画面」が改善された

検証の結果、サービスのモデルが固まってきました。この段階で、早期にデザインチームの構築にも着手しています。

デザインチームの組成するにあたり、採用に動いても、実際に入社決定するまで長くかかってしまうことを危惧していました。

サービスのモデルができてきて、認知が高まるにつれてユーザーも増え、開発したい機能も日々増えていく中、ここでデザイナーがフルタイムで入社してくれないと、プロダクトとしての成長スピードをあげられない状況でした。

そのため、まずはrootからパートナーとして関わる人員を増やすことを決めました。ファーストプロダクトのMVP要件は私が固めた上で、UI/UXやコミュニケーションデザインを柔軟に動かせるようrootから2名のハーフコミットデザイナーをアサインし、擬似的なチーム体制を組みました。

1人目デザイナー社員が入社する前のCotomoのデザインチーム体制
rootから2名のデザイナーが加わり、採用を待たずとも開発タスクを動かしていけるように

立ち上げ段階では1人のデザイナーがフルコミットしてあえて属人化させる方が良いこともありますが、サービス方向性が最低限固まってきた段階でプロダクトのPDCAを高速に回せるように、1人目デザイナーの機能を代替するチーム編成を引きました。

rootが事業立ち上げに関わる大きなメリットの一つとして、採用がすぐに決まらない段階でも、rootから人員を補えることがあります。次に入ってきた人のスキルセットに合わせて、柔軟に体制を変えることも可能です。(例えば、クリエイティブや体験づくりに強く、UIが苦手な場合は、rootが育成することもできます)

新たに加わったrootのメンバーに開発タスクを担ってもらいつつ、私自身は、Starleyの1人目の正社員の採用にコミットしていきました。

例えば、求人内容もレビューしながら公開までサポート。また、2023年12月に開催されたAI忘年会というイベントにも、Cotomoのデザイナーとして登壇しました。初回面接も私がすべて担当しています。

人員を増やした分、リードデザイナーである西村は採用活動にコミット

最終的に1人目の正社員デザイナーの方に入社いただけることになりました。

現在のCotomoデザインチームの体制
1人目の正社員デザイナーの方に入社していただくことができたため、リードデザイナーを移譲

結果として、2024年2月にCotomoは正式に公開されました。

ありがたいことに、公開後、各所で大きな反響をいただいています。2024年4月12日には、AppStoreランキング ライフスタイルカテゴリ内で1位を獲得しました。

Cotomoの公開後の反響の例。「HikakinTV」「かまいたちチャンネル」「今田耕司のネタバレMTG」など各媒体にも取り上げられている。 (参考: https://cotomo.ai/news)

最後に、今回プロジェクトを一緒に進めたStarley株式会社の共同創業者/取締役である内波さんから、Cotomo立ち上げにおけるrootの関わり方についてコメントをいただいたので、掲載します。

Starleyの創業者の内波さんから、rootの事業立ち上げフェーズへの関わり方についてのコメント

rootでは、今回のように、プロダクト立ち上げ前段階から共創し支援することも多くあります。このようなプロジェクトにおいて、rootとして意識しているのは「立ち上げは体系化や型にはせずあえて属人的にやる」ということです。

立ち上げ段階は、創業者のバックグラウンドやできることや想いの向く先、市場の環境など、事業の方向が日々目まぐるしく変わっていく可能性が高く、定型的なアプローチではうまくいかないことの方が多いと思います。

なので今回のように、立ち上げ段階においては、その事業におけるベストなアプローチを、あえて属人的な形でやることを重視しています。逆に、プロダクトの方向が固まっていき、このような体験にフォーカスしていくべき、というところが分かってくると、属人的な体制を脱してチームをつくっていくことに注力していきます。

このバランスをうまく取ることが重要です。rootでは自社にデザイナーを抱えているので、立ち上げ段階においては1名で支援、以降は2〜3名と人数を増やしていきつつデザインチーム組成まで支援する、など事業フェーズに合わせて柔軟に支援をしています。

今後もプロダクト立ち上げにおける事例も公開していくので、ぜひ活用していただければと思います。

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