DeNA デザイン本部の松田です。音声ライブ配信アプリ『Voice Pococha』では、VIのアートディレクション、UIUXのリードデザイン、Webデザイン、キャラクターのアートディレクションなどを、立ち上げからリリースまでほぼ一人で担当してきました。
当初、MVP開発段階でのロゴ・UIUXデザインを依頼されていましたが、Voice Pocochaが選ばれるサービスになるためには「ユーザーの愛着形成」が重要であり、そのためには「ユーザーが自身を投影できる存在としてのキャラクター」が必要だと考え、キャラクター開発を含めてデザインを進めました。
結果的に、ユーザーからの愛着度の高いサービスにすることができ、リリース後の各種KPIの伸びも順調な状況となっています。
この記事では、Voice Pocochaのデザインを担当した視点から、Voice Pocochaにおけるキャラクターの必要性や、その開発プロセスについてまとめたいと思います。
ライブ配信には「Pococha」や「IRIAM」をはじめとした、数多くのサービスが存在します。ライブ配信という文化が多くの方に親しまれるようになっていく一方で、次のような状況も生まれていました。
配信はしてみたいけど、顔出しには抵抗がある
キャラや設定の作り込み、配信環境の整備が億劫
顔出しと音声のみだと、前者に人気が出やすく、どうしても比較してしまう
そこで、今まで顔出しにハードルの高さを感じていたり、他ライバーとの競争環境に一種の「疲れ」を感じているような方でも、気軽に配信を楽しみ、自分の存在を認められるコミュニティを形成できるようなサービスが必要ではないかと考えました。
仕事終わりに気軽に配信してみたり、特定のキャラを演じず「等身大な自分」で話してみたり、視聴者数を気にせず会話を楽しんだりといった、「誰でも主役になれる場所」を音声特化のプラットフォームを通してつくることを目指しました。
では、音声特化のVoice Pocochaがユーザーに愛され、使い続けてもらうためには何が必要なのか。
その答えとして「ライバーやリスナーの顔や姿が見えないサービスであるため、自身を投影する存在が必要」であり、自身を投影する存在としてのキャラクターが必要なのだと考えました。
顔や姿が見えないとなると、感情やニュアンスなどの周辺情報が、顔出し配信などと比べて伝わりづらくなりますし、どうコミュニケーションを取ると良いのか分かりづらかったりします。
そのなかで、自分の思ったことや伝えたいことを、キャラクターに代弁してもらえることで、たとえ音声のみだとしても、楽しく、気軽に、豊かなコミュニケーションが取れるようになります。
また、一方通行の情報発信ではなく、ライバーとリスナー間の双方向コミュニケーションを活性化するためには、コミュニケーションの種となる要素が必要であり、キャラクターとの相性がとても良いだろうと考えていました。
さらに、今後のサービス運用やクリエイティブ制作の側面からの必要性も強く感じていました。
Voice Pocochaは顔出しをしない音声特化のサービスなので、ビジュアル表現の素材がほとんど存在しません。メインモチーフとなるビジュアル要素が無いと、今後のマーケティング施策やプロダクトデザインにおいて、ビジュアル制作に苦戦する未来が容易に想像できました。
このように、サービスのブランディングや体験設計、デザインの運用という観点から、Voice Pocochaではキャラクターが必須だと考えました。
Voice Pocochaにおけるキャラクターの役割は、顔や姿を出さないユーザーが、自身を投影する存在となることです。このようなキャラクターを誕生させるため、以下の流れでデザインを進めました。
キャラクターは、イラストを得意としている制作会社に協力いただきながら制作しています。
まずキャラクターの要件や、トンマナ、参考となるリファレンス、ターゲットユーザーの想定などをすり合わせ、草案を提案いただきながら方向性を詰めていきました。
単体キャラクターとしての可愛らしさと、今後の拡張性 (モチーフバリエーションや性格・感情表現) などを考慮し、「黄色いくま」の方向性でブラッシュアップしていきました。
Voice Pocochaでは当初から、単一ではなく複数キャラクターの展開を必須要件としていました。背景は以下の2つです。
ユーザーが自身を投影しやすくなるために、性格や表情など様々なキャラクターの中から「誰かしらに共感できる」ことが必要。
単一のキャラクターにすると、サービスの世界観が「たぬきのサービス」のようにひとり歩きしてしまいます。あくまで主役はユーザーであり、キャラクターはユーザーの代弁者という立ち位置を明確にしつつ、複数のキャラクターで「こういうトンマナの世界観なんだな」という印象を持ってもらうことが必要。
このような背景を基に、さらにキャラクターのバリエーションを制作していきました。
キャラクター達を「ボイポコフレンズ」と名付け、色味などディテールを調整していき、コンセプト、ガイドラインなどのアセットとしてまとめています。
Voice Pocochaにおけるアイテムは、ライバーとリスナーがコミュニケーションを取ったり、配信をより楽しむために大事な要素です。
同じセリフのアイテムだとしても、キャラクター毎に言い方や表情を変えるなど、ユーザーの性格や心境に応じてキャラクターを使い分けられるようにしています。
また、アイテムの制作時には、Gifでラフ画を作成したうえで制作パートナーに依頼させていただくなど、クオリティマネジメントの工夫も取り入れています。
リリース後にも、ユーザーの感情表現をより反映しやすくすること、アイテム制作時の運用しやすさを高めることを目的に、キャラクターをアップデートしています。
その1つとして、各キャラクターの内面を深掘りした詳細なプロフィール資料をまとめました。 「ライバー・リスナーともに誰かしらに共感できること」を深掘りの軸として作成しており、「どんな時に、どのキャラクターを使うと良い」といった判断基準として機能しています。
これらのプロフィールは、ユーザーの皆様に向けても発信しており、キャラクターやVoice Pocochaへの愛着を持っていただくきっかけにもなっています。
さらに、当初は5パターンに限定されていた各キャラクターの表情も、プロフィール資料を基に10パターンの差分を作成。より細かな感情の機微も、キャラクターを通して表現できるようになりました。
リリース後は、ダウンロード数やデイリーアクティブユーザー数など各種KPIも順調に成長しています。
具体的には、以下のような状況となっています。(2022年1月〜2023年1月時点での計測)
ダウンロード数は、6倍に成長
デイリーアクティブユーザー数は、3倍に成長
アイテムを使用したコミュニケーションも、約11倍に成長
ライバーとリスナーのコミュニケーション量も、約4倍に成長
リリース時点ではVoice Pococha上で誰も配信していない場合を想定し、empty画面の準備もしていたのですが、リリース後一度もこのempty画面は表示されず、常に誰かがライブ配信している状態が続いています。
また、2022年1月のリリース初月から現在まで課金含め長く楽しんでくれているユーザーもたくさんおり、長期間にわたってVoice Pocochaに価値を感じてくださる方々が多く生まれていることも嬉しく思っています。
各キャラクターの性格や世界観の設計など、語り尽くせていない点は多々ありますが、それ以上に重要だったのが「なぜそのサービスが必要なのか」「そのサービスが選ばれるために何が必要か」といった必要性を見極め、それらを満たすことに全力を注ぐことです。
Voice Pocochaでは、ライバーやリスナーの顔や姿が見えないサービスであるため、自身を投影する存在が必要であると考え、キャラクターをデザインし、良い結果を生むことができました。
このように、必要性から考えてデザインに取り組むことは、Voice Pocochaに限らず様々なサービスに携わるうえでも活きてくる視点だと思います。
今後Voice Pocochaでは、ライバーとリスナーのコミュニケーションを、キャラクターやアイテムを通してより楽しく、円滑にできるよう取り組んでいきます。
例えば、ユーザーの感情表現をより投影できるよう、各キャラクターのパーソナリティに即したアイテム展開を強化したり、特定の配信枠限定で使えるエフェクトを用意することを考えています。 また、先日公開したファンランクアイテム限定の新キャラクター(ジュリア、エミリー、サラ) の登場もその一つです。
これからもVoice Pocochaを通して、誰もが主役になれる場所をつくれるよう、デザインに取り組んでいきますのでご期待ください。