エスト・ルージュのHead of Design 冨永です。私たちはデザインコンサルティング会社としてクライアントワークの形で、さまざまな事業立ち上げ、拡大を支援しています。
私たちが最も強みとしているのは「事業のデザイン」の支援です。
イープラスさまなどさまざまなクライアントに対して、単にデザインリソースを提供するのではなく事業に対するデザインの扱い方自体を支援してきました。
そして2025年10月、エスト・ルージュにおいて、プランナーやUX/UIデザイナーという職種の呼び方を取りやめ、「デザイン・ストラテジスト」という職種名に統一する意思決定を行いました。
今回は、エスト・ルージュのデザイン組織の変遷とともに、このような「職種名変更」に至った意思決定の裏側についてまとめていきます。
エスト・ルージュは、2016年に立ち上がった会社です。創業以来、イープラスさまなどエンターテイメント業界を中心に幅広くクライアントワーク事業を展開してきました。
拠点はグローバルに存在しており、現在は東京を中心に世界3カ国に拠点を持っています。
東京拠点では、デザイン・ストラテジスト、デザイナー、プロジェクトマネージャーの3職種を抱え、海外拠点では100名を超えるエンジニアや先端技術検証に取り組む技術者を抱える体制を取っています。
特にデザイン観点での支援として強みとしているのは「事業のデザイン」です。
事業が形になっていない段階から入り込み、伴走的に「事業アイデアの具体化」「初期スコープの設定」「ターゲット拡張の調査」「現場のオペレーション設計」など、事業自体が前身していくような戦略から実行までの全体支援を推し進めています。
まず、エスト・ルージュを立ち上げた2016年の段階で、時代感を確かめるところから始めました。
私たちは、今は「内製化の時代」だと捉えています。事業会社にインハウスでデザイナーやエンジニアがいることは当たり前になりつつあり、外部パートナーがデザインリソースや開発リソースを提供するだけでは価値を出せません。
このような状況下で、私たちに対しての依頼は「事業推進・デザイン戦略」にご期待いただく場合が多くなっているように感じていました。
例えば、2017年に依頼いただきイープラスさまと一緒に立ち上げた「音楽フェス公式アプリ」のプロジェクトでは「DX化を推し進めていきたいが、何から行えばよいか分からず、一緒に検証を進めてほしい」というな期待からプロジェクトが始まっています。
ここに応えていくには、単なる制作だけでは足りないはず。そしてこのような企業はこれからどんどん増えていきます。
「DX化に向けて、一緒に事業推進から取り組んでもらいたい」という声をいただくことが多くなってきていた
この市場構造に早めに気づいて、自分たちが特化すべきポジションは「事業に合わせた適切なデザインの扱い方を示すこと = デザイン戦略」なのではないかと考え、プロジェクトの支援とともに組織体制を磨いていきました。
そこから9年が経ち、現在エスト・ルージュでは、デザイン職種を「デザイン・ストラテジスト」と称し、制作よりも、デザインの扱い方自体を支援することに価値を置くことを決めています。
とはいえ、ここに至るまでにはいくつもの検証が必要でした。
私はエスト・ルージュの立ち上げ時に1人目の社員として参画してから、まず自分の役割から検証を進めていきました。具体的な検証の流れについてまとめます。
まずは、社内で唯一のスタッフでありデザイナー職であった私自身が「デザイン戦略」の守備範囲を決めるところがスタートでした。
私は、過去に海外拠点の立ち上げや、SIerでディレクションやUIデザインに幅広く取り組んできた経験はありますが、バックグラウンドがデザイナーではありません。ただ、前述したような時代感を踏まえると「制作にとどまらないデザインの価値発揮」の形を見つける必要があると感じていました。
そこで、いくつものプロジェクト推進を行いながら「事業を立ち上げるためのデザイン職種の要件とは?」という問いに向き合い続けてきました。
例えばイープラスさまとの「音楽フェス公式アプリ事業」の立ち上げでは、事業フェーズに応じて「MVPの公開」「フェスごとの公式アプリ立ち上げ」「事業拡大に向けたオペレーション基盤の整備」など、その時々で求められる課題に対して、最適な解決策を提示していくような動きを行っています。
「DXに取り組みたいけど、まだ何をしたら良いのかも分かっていない」という段階から入り込み、一緒に事業を成長させていくことで、さまざまな音楽フェス公式アプリや、さらには瀬戸内国際芸術祭などにまで、事業の価値提供範囲を拡大することができています。
このような動きの中で、単に「アプリの品質を高める」という制作面のみに閉じた責任ではなく、「事業課題に対して最適な解決策をあげて実現させていく」という事業全体の推進に責任を持っていくことが必要なのではないかと感じるようになっていきました。
このようなプロジェクト推進と並行して、自分がやるべきことを明確にするために、当時の代表 (現: 会長) と一緒に、エスト・ルージュにおけるデザイン職種の役割を定義するディスカッションを行いました。
ディスカッションの中で、エスト・ルージュのデザイン職種がやるべきことが少しずつ明確になっていきました。
そもそも、私たちは事業会社を支援する会社です。なので、クライアントの要望をもとにプロダクトをつくりあげるのが大前提です。
ただ、そこでやるべきことは「市場に出せるプロダクトの品質を見極めて、そこに照準を合わせてクオリティを上げられる」ということではないかと結論づけました。
クライアントは、やりたいことがあっても、今の時代にどのような体験が必要で、どんなソリューションであれば実現できるか、というところまでは解像度が高まっていない場合も多くあるはずです。
この「クライアントのやりたいことを、時代に合わせて変換して、エンドユーザーに届けられるようにする」ということこそが、根本的に担うべき価値だと考えました。
それには、解決策の提案をするだけにとどまらず、クライアントのビジネススケジュールに合わせたプロジェクト推進や、解決策を実現できるように必要なデザイナー・エンジニアを巻き込んでいくことも含まれます。
このような定義をすると、社員のあり方も見えてきます。エスト・ルージュでは (当時としてはまだ珍しかったのですが) デザインパートナーでありつつ、UIやクリエイティブの提供に責任を負うわけではなく、事業推進に責任を持つのが根本的なスタンスです。
なので、社員であるデザイン職種に求められるのは「デザイン戦略」の力だと考えました。
逆に、UI制作やクリエイティブなど制作部分に責任を持つ人は、社員ではなくパートナーとして抱えることを意思決定しました。
エスト・ルージュではこの数年間で、イープラスさまとの事業開発を始め、いくつもの事業を立ち上げ、拡大させてきました。この支援の連続を通して「事業のデザイン」という価値の発揮をしていくことが固まってきています。
現在エスト・ルージュとしては、この「事業のデザイン」の支援を強めていくために、デザイン戦略をかけられるようなデザイン組織体制の拡大を模索し始めています。
その一手目とし「デザイン・ストラテジスト」というデザインポジション名に呼称を統一することとしました。
ここまでにも触れてきましたが、エスト・ルージュにおける「デザイナー」と「デザイン・ストラテジスト」の具体的な職域の定義としては、以下のような差分があると考えています。
国内を見渡すと、このようなデザイン戦略を推し進めていけるようなレベルの高いデザイン職種を内製で抱えられていない企業も多くあるはずです。
外部パートナーである私たちが、外から「事業のデザイン」を進める「デザイン・ストラテジスト集団」となることで、世の中のデザイン活用を推し進めていけるのではないかと考えています。
冒頭に述べたように、今は「デザイン内製化の時代」だと捉えています。
多くの事業会社で、内製でデザイナーを抱えることが当たり前になってきている中、外部パートナーとして単純なリソースとしての制作業務を提供するのでは、特に差分が出せません。今後、AI(LLM) の発展によってこの傾向はさらに強まっていきます。
この時代に外部のデザイン会社が出すべき価値は、事業に機能するデザインの役割を見つけることだと考えています。内部でも、デザイナーの価値の発揮しどころが見えていない、という方は多くいます。この内製化と、事業への機能のギャップを、私たちが解いていきます。
事業に機能していくための最初のデザイン職種として入り込むのが、エスト・ルージュのデザイン・ストラテジストです。私たちは、外付けの「デザイン・ストラテジスト集団」のような存在になっていきます。
この未来に向かっていくためには、まだまだ社内のデザイン・ストラテジストも不足していますし、もっと多くのクライアントの方と支援の実績をつくっていく必要があります。
今回の「デザイン・ストラテジスト」という職種名統一を皮切りに、時代を進めていけるような支援により一層コミットしていきたいと思っています。今後も引き続き、私たちの活動の事例を公開していきます。