エスト・ルージュのデザインディレクター、冨永です。私たちは、サービスデザインと開発の専門性を組み合わせ、事業開発全体を推進する「デザインディレクション集団」として、クライアント企業に伴走しています。

先日、株式会社イープラスさまと一緒に立ち上げた「音楽フェス公式アプリ事業」におけるデザインディレクションの事例を公開しました。

イープラスさまと一緒に立ち上げた「音楽フェス公式アプリ事業」

運用の効率化と事業拡大が進んできた現在、立ち上げた公式アプリは50以上。App Storeでは8,000件以上のレビューに対し、平均4.7という非常に高い評価を維持できています。

さらに、この裏側で使われているシステムを展開して、瀬戸内国際芸術祭の公式アプリなどの他領域でも、複数のプロダクト立ち上げを行っています。

瀬戸内国際芸術祭の公式アプリなど、「音楽フェス公式アプリ事業」の裏側のシステムを展開した事業領域の拡大を行ってきた

この複数プロダクトの展開を可能にしているのが、立ち上げ初期から取り組んできた「共通機能ライブラリ」を活用したプロダクト設計の考え方にあります。

今回は、音楽フェス公式アプリ事業や、瀬戸内国際芸術祭の公式アプリ立ち上げを例に、このSDKを活用したプロダクトづくりの考え方やプロセスについてまとめてみます。

共通機能ライブラリとは、複数のプロダクトに共通する機能の開発を進めるためのパッケージです。内容としては、デザインデータ、ツール、API、開発ドキュメントなどが一式としてまとめられています。

共通機能ライブラリを活用することで、毎回機能をゼロから開発する手間を省き、効率的にプロダクト立ち上げを進めることができます。

これは、SDK (直訳: ソフトウェア開発キット) という考え方を参考にしています。

このような仕組みは、機能が共通する複数のプロダクトを立ち上げる際に有効です。

プロダクトで共通する機能についてはシステム開発コストを大幅に下げることができ、その分、プロダクトごとの個別ニーズに対する開発に時間をかけることができるようになるため、結果的にプロダクト全体としての満足度が高まります。

提供する機能が増えれば増えるほど、共通化も同時に進むので、事業を進めれば進めるほどインパクトが大きくなっていく構想です。

共通機能ライブラリとは、複数のプロダクトをまたいで共通する機能の開発パッケージを集めたもの

システム設計のコストを少なくしつつ、その分各社の個別ニーズに対しての対応を可能にすることができるので、事業を進めれば進めるほどインパクトが大きくなる構想

エスト・ルージュでも、株式会社イープラスさまと一緒に事業立ち上げから拡大までを並走している「音楽フェス公式アプリ」の開発に、この共通機能ライブラリの考え方を取り入れています。

イープラスさまと一緒に立ち上げている無数の音楽フェス公式アプリは、共通機能ライブラリを活用して設計されている

「音楽フェス公式アプリ事業」にSDK構想を取り入れた理由は、事業開始時点で、機能が共通する複数のアプリを立ち上げることが分かっていたからです。

音楽フェスは無数に存在しており、各公式アプリでやりたいことは近い (ex. チケット管理、タイムテーブル表示、グッズ販売) ため、つくるべき機能は共通しやすい性質にあります。

一方で、各音楽フェスに合わせたカスタマイズも必要です。例えば、トンマナや、どのコンテンツを目玉にしたいのかは音楽フェスによって異なります。

とはいえ機能として共通する部分も多い中で、完全に個社別にアプリ開発をやっていくとコストがかかりすぎることは自明でした。

これは、ただのアプリ開発受託ではなく、共通プラットフォームを提供することができるかという事業の分岐点でした。私たちは「音楽フェス公式アプリ事業」としてのコア価値をつくるために、共通機能ライブラリを取り入れていくこととしました。

単なる個社別のアプリ開発受託ではなく、事業としてのコア価値をつくれるように、システムを共通化させる

では、具体的に、共通機能ライブラリを活用したプロダクト設計をどういうフローで回していくのか。

大きく分けると、3つのポイントに分解することができます。

  1. 共通機能ライブラリ (≒汎用化) を最初から無理に狙わない

  2. システム拡充後は、個別ニーズへの対応で事業領域を拡張

  3. 共通機能ライブラリを活用して、アプリ開発/運用業務を手離れさせる

共通機能ライブラリを活用したプロダクト設計を進める、3つのポイント

ここからは、各ポイントについて、エスト・ルージュでの実際の取組みを例にまとめてみます。

共通機能ライブラリを活用した事業では、最終的にフェスアプリに求められる機能を共通化し、汎用的なシステムとして整備することが求められますが、最初からそれができるわけではありません。

はじめから無理にすべてを共通化させようとすると、かえってシステムが複雑化してしまうため、まずは一つのアプリに絞って本当に必要な機能をつくるところから始め、徐々に共通化できるパターンを見つけていきます。

はじめは、共通化させることを狙いすぎず、小さく必要な機能に絞って段階的に拡張する

まずは、イープラスさまが強みとしている「チケット販売」に機能を絞って、MVPとしての公式アプリを公開しました。

このアプリをもとに要望を引き出しながら、各音楽フェスの公式アプリ開発の案件を増やしていきます。

チケット販売に機能を絞った、MVPとしての公式アプリを公開

その後、各音楽フェスの公式アプリ開発をいくつも進めながら、共通機能ライブラリをつくるために「音楽フェスの公式アプリに共通する機能」を見極めていきました。

例えば、音楽フェス公式アプリの場合

  • タイムテーブル

  • マップ

  • 出演アーティスト

  • チケット販売

などは「アプリ全体で共通する機能」なので、共通機能ライブラリにすべき機能として挙げられ、それらはグローバルナビゲーションに反映されています。

個別にフェスアプリの開発を進めながら、主要機能や共通化すべき機能を検証しつつ、少しずつ「共通機能ライブラリ化」を進める

共通機能ライブラリ化する際には、クライアントごとにニーズや必要な機能が異なるケースを考慮しなければいけません。必要に応じて機能の出し分けを可能にしておくなど、システム面の柔軟性も確保しています。

また、共通機能ライブラリは、新たな要望をいただきながら、常に更新をしていきます。

例えば、とあるタイミングで「グッズ販売機能も公式アプリに追加したい」という要望をいただき、一つの音楽フェス公式アプリを対象にして機能を追加してみました。

これは想定以上にユーザーのみなさまに使っていただける機能となり、その後、共通機能ライブラリ化して、どのアプリでも提供可能にしています。

共通機能ライブラリは、新たな要望を見つけながら、常に更新していく

共通機能ライブラリの強みとしては、基本的な機能のシステムが揃ってきた後に、これまでとは異なる個別ニーズに展開しやすいことです。

事業目線でいうと、対象とするユーザーや解決できる課題の範囲を拡張していくことが低コストで行いやすいとも言い換えられます。

共通機能ライブラリが拡充されたら、それを活用して、これまでとは異なるユーザーや課題に対して事業範囲を拡張していける

一点注意としては、これを共通機能ライブラリ拡充前に行おうとすると、システム開発コストが大きくなり、あまりメリットが活用できず、ただただ注力が発散しているような状態になるので、タイミングの見極めが必要です。

このような事業拡張の例として、瀬戸内海の島々を舞台に開催される「瀬戸内国際芸術祭」の公式アプリの立ち上げについて事例を紹介します。

音楽フェス公式アプリを通してつくられた共通機能ライブラリを活用して「瀬戸内国際芸術祭」の公式アプリ立ち上げも行った

このアプリは、実は音楽フェス公式アプリの機能と類似した機能で構築されています。

裏側では共通する共通機能ライブラリによってアプリを構築しているので、立ち上げのコストが非常に少なくなります。(開発コストが少ないということは、リリース速度を早められるということなので、クライアントにとっても嬉しい体験がつくられます。)

音楽フェス公式アプリでつくった共通機能ライブラリを、瀬戸内国際芸術祭のアプリにも活用している

一方で、音楽フェスと、芸術祭では、対象となるユーザーや行動の違いがいくつもあります。

そこで、今回の「瀬戸内国際芸術祭 公式アプリ」の個別ニーズに対応した機能も追加しています。

追加機能の例

・年間パスポート管理機能
・スタンプラリー機能
・地図機能のアレンジ(島ごとの移動や作品配置に対応)

これらの「瀬戸内国際芸術祭」の個別ニーズに対応するためにつくられた追加機能は、これまでの共通機能ライブラリには組み込まれていない機能です。

では「このような個別ニーズから生まれた機能も、共通機能ライブラリに組み込むのか?」という点についても整理しておきます。

結論として、追加機能を共通機能ライブラリ化するかどうかは「今後も他で使う可能性があるかどうか」「ベースプロダクトに統合することで運用効率が上がるか」といった観点から判断します。

あくまで今回しか当てはまらない個別ニーズであれば、共通機能ライブラリ化するコストの方が大きくなってしまうので、前述した「商品販売機能」のように、他のプロダクトにおいても同じ要望が発生することが明確なものを共通機能ライブラリ化するようにしています。

個別ニーズから生まれた機能は、「他のプロダクトにも当てはまるニーズか」を検討した上で、必要であれば共通機能ライブラリに組み込む

この観点からすると「瀬戸内国際芸術祭」のためにつくられた年間パスポート管理機能などは、音楽フェスの場合は当てはまらないため、共通機能ライブラリ化する必要はないように思います。

しかし、事業拡張の可能性を考えると、例えばテーマパークや動物園のようなエンターテイメント施設などではこの機能が必要となる場合もあるでしょう。

このような事業展開を進めることができ、共通する機能要望が増えてきたタイミングでは、共通機能ライブラリ化を行う可能性があります。(実際にスタンプラリー機能はすでに共通機能ライブラリ化を行っています。)

共通機能が拡充されてきたタイミングで、もう一つ行うべきは、共通機能ライブラリを活かした、アプリ立ち上げ・運用オペレーションフローの構築です。

これは言い換えるならば「共通機能ライブラリを活用して、アプリ開発・運用業務を手離れさせる」ということです。

共通機能ライブラリを活用して、アプリ開発・運用業務を手離れさせる

共通機能ライブラリとは、要するに「共通の機能コンポーネントを使ってアプリを立ち上げられる仕組み」です。

なので、突き詰めるとデザイナーやエンジニアが個別に開発しなくても、クライアントの担当者自身が手軽にアプリを立ち上げ・運用できる状態になるのが究極的な理想状態だと考えています。

共通機能ライブラリを突き詰めると、デザイナーやエンジニアが関わらなくてもアプリ立ち上げ・運用ができる状態にまで持っていける

私たちも、以下のような管理画面を作成することで、クライアントの担当者が自らアプリを運用できる体制を整えています。

クライアントが自ら機能を選んでアプリを構築できる、管理画面を構築

私たちの場合、共通機能ライブラリとして提供する主要な機能の検証が完了してきたタイミングで、管理画面の構築をスタートしました。

初期は機能自体がフィットしなかったり、オペレーションも構築されていないことが多いと思います。このような状況では、リッチな管理画面をつくる必要はありません。なので、システム開発に責任を持つエスト・ルージュのメンバーだけが操作できる簡易な管理画面で運用していました。

そこから、必要な機能が問題なくユーザーのみなさまに使われる状態となってきたこと、オペレーションフローも洗練されてきたことを受けて、クライアントの担当者が自分でアプリ構築ができるように、管理画面のインターフェースをリニューアルしました。

機能のフィットや、オペレーションの洗練が起こってから、クライアントが自分でアプリ構築できる管理画面へとリニューアルした

クライアントに自分で管理画面を操作してもらえるように、体験はとにかくシンプルにすることを心がけています。

場合によっては、デジタルサービスやアプリ運用に不慣れな方が利用する可能性があるため、直感的な操作だけでアプリが構築できるような体験を突き詰めています。

クライアントに自分で操作してもらえるように、管理画面の体験はとにかくシンプルに

音楽フェス公式アプリを軸に、共通機能ライブラリを活用したプロダクト設計を進めてきた結果、現在は50以上のアプリが展開されています。

共通機能ライブラリを活用する一つのメリットは、満足度の高い体験を再現できるようになることです。App Storeでは、8000件以上のレビューに対して平均4.7という高評価を維持できています。

共通機能ライブラリを活用して50以上のアプリを展開。全アプリのApp Storeの評価も「平均4.7 (5段階)」と非常に高い

さらに、システムの共通化やオペレーションの最適化によって、アプリ立ち上げに伴う運用コストは大きく削減されています。たとえば、基本的な機能のみであれば、10日程度で新規アプリをリリースできる体制が整えられています。

こうした効率化が進んだことで、今回紹介した瀬戸内国際芸術祭アプリのように、異なる領域に事業拡張することも行いやすくなっています。

今回のような共通機能ライブラリを活用した複数のプロダクト群の設計は、エスト・ルージュに所属するデザイン職種が普段から行っていることの一部分です。

エスト・ルージュのデザイン職種は、自分たちを「デザインディレクター」と位置付け、事業状況に合わせた最適なデザインソリューションを選び、お客さまに価値を届けることを役割としています。今回も、事業展望をもとに考えると、共通機能ライブラリがベストなソリューションであるからこの手法を選びました。

もし異なる事業状況であったとしても、このように根本的に必要なソリューションを定義するところから関わることができるのが、エスト・ルージュのデザインディレクターの役割です。

エスト・ルージュのデザインディレクターは「事業にとって最適なデザインソリューションを選ぶこと」から並走

エスト・ルージュは、toB/toC、リアル/デジタル、など幅広い変数を扱う必要がある「事業のデザイン」を強みとして、これからも持続的な事業創造に取り組んでいきます。

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