MIXI デザイン本部 動画クリエイティブ室 CGデザイングループでは、MIXIが展開するさまざまな事業に横断的に関わりながら、CGデザインの視点から幅広いクリエイティブを手がけています。

その取り組みの一つが、モンスターストライク(以下、モンスト)におけるPV制作です。

モンストでは、新キャラクターの登場時などに合わせ、キャラクターを主役としたPVを数多く公開しており、これはキャラクターを魅力的に訴求する上で重要な役割を担っています。

モンストキャラクターの企画・イラスト制作を行うチームは別部署に存在しており、私たちは主にキャラクターの訴求をミッションとした映像制作に携わっています。

※ モンストのPV制作はCGデザイングループだけでなく、他部署でも行っています

今回は、モンストのPV制作に携わる中で特に意識している「キャラクターの魅力を最大限引き出すアニメーションと映像術」について、実際の制作事例を交えて紹介したいと思います。

この事例は、実際のPV制作のプロセスに沿って構成されています。具体的には、キャラクターアニメーション、カメラワーク、コンポジットの各工程に加えて、ステージイベント向けの特別な映像制作についてもまとめています。

比較的情報量が多い構成となっているので、「全体をさらっと見てみる」「特に気になる点をじっくり読み込んでみる」など、状況に合わせて見てもらえると嬉しいです。

まずは、キャラクターアニメーションについてです。キャラクターの個性を丁寧に紐解き、動きや表情の変化に反映させることで、その魅力を最大限に引き出すことが重要です。

ここでは、「アビス」というキャラクターのPVに向けて制作したアニメーションを例に挙げます。

「アビス」は、「乱れた深淵(負の念)の封印を調律する少女」というコンセプトを持ち、「内気。世間知らず。」といった性格のキャラクターです。

キャラクターアニメーションを考える際には、こういったコンセプトや性格、イラストから連想される動きに対してイメージを膨らませることが重要になります。

例えば、「深淵の魔王をその身に封じている少女」「内気で世間知らずな性格」という設定を踏まえると、激しい動きよりも、全体的に落ち着いた動きの方が合っていると考えられます。

「音叉の杖」は深淵の力を移して宿すという役割があるため、杖をついたり、実際に音を鳴らしたりする行為はキャラクターの特徴になります。

また、設定以外にもイラストから想像できる動きもあります。

  • 辺りを見渡している : 頭を左右に振ってみる

  • ランタンを持っている : 足元を照らすように腕を動かしてみる

  • 階段の下に向かっている最中 : 一歩踏み出す動きを入れてみる

このように、キャラクターが「しそうな動き」や「させたい動き」をどんどんリストアップしてみることが大切です。その後は、リストアップした動きをLive2Dで調整しながらキャラクターモーションを仕上げていくという流れになります。

キャラクターの動きをつくる際に意識しているポイントを紹介します。

まず「顔の動き」についてです。顔はキャラクターの個性が最も現れる部分なので、絵柄の雰囲気を保ちつつ、適切に変形させる必要があります。

ポイントは、「軸から遠いほど移動量を大きくする」こと。顔の動きでは首が軸になるため、鼻や前髪などは大きめに動かし、口や目のような軸に近いパーツは小さく、輪郭に沿って動かすと自然に見えます。

次に「揺れもの」についてです。髪や服の揺れは、シーンの状況やキャラクターの動きを伝える上で重要な要素です。

ポイントとしては、「根本から先端にかけて、曲げる箇所を設定すること」と「曲がるタイミングをずらすこと」。こうすることで、フォロースルーの動きを表現でき、よりしなかな印象を与えることができます。

このように、個別のアニメーションを丁寧に作り込みつつ、他にもランタンを照らす腕の動きや、身体をひねる動きなどを組み合わせることで、一体感のある滑らかな動きを生み出すことができます。

カメラワークとは、キャラクターの動きや演出を「どう見せるか」を決める視点設計の工程です。

アングルやズームイン・アウトなどを駆使し、キャラクターの個性やシチュエーションが自然と伝わるよう心がけます。

ここでは、クリスマスαと呼ばれるシリーズキャラクターとして登場した「グリム兄弟α」「太公望α」のPVを例に、「シンプルなカメラワーク」と「シチュエーションと共に魅せるカメラワーク」という2つの視点から紹介します。

まずは、シンプルなズームイン・アウトを中心に構成したカメラワークについてです。

以下は、実際に制作した「グリム兄弟α」のPVの一部です。こちらを例に、シンプルなカメラワークで意識している点をまとめます。

「グリム兄弟α」は、“メルヒェンな夢を届けるサンタ兄弟”というコンセプトのキャラクターです。PVのシチュエーションとしては、二人とも大きなプレゼント袋を担ぎながら、元気よく空から飛び降りてきているという状況となります。

1つ目のカットはこちらです。新キャラクターの初登場シーンとなるため、ユーザーの印象にしっかり残る瞬間になるよう、フルショットで全身を映すカメラワークを採用しています。

周りのプレゼントなどの要素には、After Effectsの3Dレイヤーで視差をつけて配置することで、キャラ絵の平面的な印象を抑え、立体感を持たせるようにしています。

2つ目のカットは、村に向かってプレゼントを配った右側の弟に対して、左側の兄が褒め称える言葉をかけ、二人で成功を喜び合うシーンです。

シンプルなズームイン・アウトのみのカットになるのですが、そのアニメーションの「何を見せたいのか」を整理し、それに見合った距離 (クローズ・ミディアム・フル)を選ぶようにしています。

具体的には、下図左のカットでは「二人の関係性を伝える」ことに焦点を当て、ミディアムからクローズへのズームインを採用しました。一方、右のカットでは「双子の性質を伝える」ことに焦点を当て、クローズからフルへのズームアウトを用いています。

このように、シンプルなカメラワークであっても、強調したい表情や動きを意識し、「何を伝えたいか」に基づいてカメラを設定することで、キャラクターの個性やシチュエーションを的確に伝えることができます。

次に、シチュエーションと共に魅せるカメラワークについて、「太公望α」というキャラクターのPVを例に紹介します。

「太公望α」には“封神クリスマスアイスダンス“というコンセプトがあり、このPVは、人々の前でクリスマスアイスダンス(スケート)を披露しているというシチュエーションです。

こちらは、スケートリンクの上を滑り抜けて演舞の決めポーズを取るというシーンです。ここでは、以下2つの要素を整理し、それらを織り交ぜる形でカメラワークを設計しています。

  • キャラの要素 : 「太公望α」の特徴である長い髪や衣装のなびき、演舞の決めポーズなど

  • 構成上の要素 : スピード感や、決めカットに向けた“溜め”を示す体勢の変化・重心移動など

また、臨場感を高めるため、キャラクターを横から追従するようにカメラを設定しています。隣でカメラマンが滑りながら撮影しているような視点にすることで、キャラ絵の平面的な印象を和らげ、より実在感のある見え方につなげることができます。

コンポジットは、アニメーションやエフェクト、背景などのすべての素材をひとつの画としてまとめあげる最終工程です。光や影、色味の調整を通じて、作品全体に統一感を持たせながら、印象的な画づくりを行います。

ここでは、「月下老人」というキャラクターのPVで使用したカットを例に挙げます。完成版の映像はこちらです。

コンポジットの方向性を考える際には、キャラクターアニメーションやカメラワークの工程と同様に、キャラクターのコンセプトやシチュエーションを意識することが重要です。

「月下老人」のキャラクターコンセプトや設定は以下の通りです。シチュエーションとして、場所は山に囲まれた草原。時間帯は夜で、光源は背後から差し込む月明かりによる逆光の状態を想定していました。

これらを踏まえて方向性を検討した結果、「月下老人」を表現する上では、「やわらかく優しい雰囲気の画作り」が適していると考えました。

この方向性をもとに、画作りの調整を重ねていきました。具体的には以下のような流れです。

  • 背景の加工:グラデーションやブラーをかけ、キャラクターに目が行くように調整

  • キャラクターの加工:立体感とグローでやわらかい印象へと調整

  • 雰囲気出し:ビネットやレンズフレアを用いて、月明かりが印象的なシーンへと調整

  • フィルターの追加:フィルターで色味を調整し、背景とキャラクターをなじませる

このような調整を重ねていくことで、シチュエーションを的確に表現した画作りが実現したのではないかと思います。

逆光状態での映像

しかし、逆光という設定に忠実であることにとらわれず、あえて順光の要素も取り入れることで、「月下老人」のテーマや魅力をより伝えるように調整を加えていきました。

モンストのPV制作においては、「映像として正しい表現」が必ずしも最優先ではないと考えています。

今回のカットは、「月下老人」のイラストが初めてお披露目される場面であり、印象的にキャラクターの魅力を伝え、ユーザーに「欲しい!」と思ってもらうことが役割となります。

シチュエーションとしては逆光が本来の設定であるものの、逆光が続くと暗い印象の時間が長くなり、「やわらかく優しい雰囲気の画作り」が難しくなります。その結果、キャラクターの持つテーマや魅力が十分に伝わらない可能性が生まれてしまいます。

そこで今回は、あえて順光表現を取り入れることで、キャラクターの印象を際立たせるようにしました(厳密には、常に順光にすると面白みにかけてしまうため、一瞬逆光表現を入れることでインパクトを出すようにしています)。

このようにコンポジットでは、キャラクターのコンセプトやシチュエーションを踏まえて方向性を考えつつも、映像としての“正しさ”にとらわれず、カットの役割を考慮した演出にしていくことが重要です。

最後に、番外編として大規模なステージイベントでの映像制作について紹介します。

例に挙げるのは、2024年7月13日・14日にLaLa arena TOKYO-BAYで開催された「DREAMDAZE Ⅱ」におけるステージイベント「禁忌の誘い ~演舞ノ獄~」での映像制作です。

映像演出の目的は、ダンスをメインコンテンツとしつつ、映像によってイベント全体に賑やかさを加えること、そしてその映像をきっかけにユーザーを「禁忌の世界」へと誘い込み、映像そのものでも楽しんでもらうことでした。

映像において主役となるのは、「禁忌ノ弔鬼 不可思議」というキャラクターです。キャラクターのコンセプトや設定は以下の通りです。

演出の方向性としては、「弔いの幽鬼」や「棺、髑髏、魑魅魍魎」といった要素をもとに、「おどろおどろしい和の雰囲気」がふさわしいと考えられました。

また、メインコンテンツであるダンスパフォーマンスとの親和性を踏まえて、「不可思議」がダンスをしているような映像にしたいと考えました。

しかし、キャラクターの設定やイラストの構成上、実際に踊る動きはつけられません。そこで、画面内を縦横無尽に動かすことで、視覚的に“踊っているように見える”ことを目指しました。

また、「おどろおどろしい和の雰囲気」に合うよう、機械的な動きではなく、人の手でつけられた“ブレ”を意識。エクスプレッションなどは使わず、手付けでキーフレームを打ったり、「カメラシェイク」で不規則な動きも加えたりすることで、独特の緊張感や不気味さを演出しました。

さらに、空間づくりでは、キャラクターの「属性」を軸に色味や背景を構成し、全体のまとまり感がでやすくなるように心がけました。

次に、今回使用されたような横長スクリーン・大規模モニターでのテクニックについて紹介します。

横長スクリーンでは、キャラクターの全身を映すと小さく見え、インパクトに欠けるため、「画面全体に広がるような工夫」が必要となります。

そこで、キャラクターを複数見せたり、上下左右に動き回らせたりすることで、多角的にキャラクターを見せられるようになり、視覚的なリズムと変化が生まれ、ユーザーの視線を自然に引き付けることができます。

また、大規模モニターで映像を映す際には、特有の演出上の課題があります。

  1. 会場の照明環境やモニター設定によって、輝度の高い映像が白飛びし、意図したビジュアルが見えづらくなる場合がある。そのため、コントラストや明度の調整が重要。

  2. 大規模モニターで映される際には、自分の制作画面で確認したよりも動きが速く見えることがある。そのため、見せたい文字や情報がある場合は、動きの速さに気をつける必要がある。

こうした課題を事前に想定し、「実際の会場で実際にどう見えるか」を意識して制作することも重要です。

ここまで、モンストのPVにおけるキャラクターアニメーションや映像制作の工夫について紹介してきました。

どのセクションでも一貫しているのは、キャラクターの個性や世界観を丁寧に紐解き、それらを最大限に活かした映像表現へと落とし込むということです。

これにより、ゲーム内のイラストだけでは伝えきれないキャラクターの魅力を最大限に引き出し、ユーザーの皆さんにより深く楽しんでいただくことを目指しています。実際、PVに対してユーザーの皆さんから嬉しい反響をいただくこともあり、運営としても大きな励みになっています。

今回は主に2D表現を中心にまとめましたが、最近では3DやVTuberなど、新たな表現に挑戦することも増えてきています。

そうした中で、映像制作を軸にさまざまな専門性を持つメンバーが集い、互いに試行錯誤しあえる環境から得られる学びも非常に多くあります。

今後も、ユーザーサプライズをより多くの方に届けられるように取り組んでいきたいと思います。


2024年11月に開催された「CGWORLD 2024 クリエイティブカンファレンス」では、今回の事例と同テーマでの登壇を行いました。Live2DやAfter Effectsでの実際の制作風景など、より詳細に紹介していますので、こちらもあわせてご覧ください。

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