モンストIPクリエイション部 部長の砂村です。モンスターストライク (以下、モンスト)のリリース直後から運営に携わり、現在は、モンストのアート・映像・サウンド領域の組織マネジメントやクリエイティブのプロデュースを担当しています。
2023年に10周年を迎えたモンストでは、さらに多くの方々に楽しんでいただくため、「IPを育てる活動」が重要だと考えています。
その一環として、モンストのクリエイティブ制作における指針(= 一貫した「らしさ」を持たせる仕組み)を改めて構築し、運用を進めています。
なぜ今、クリエイティブ制作の指針が必要だったのか、どのようなプロセスで構築していったのか。できる限り詳しくまとめたいと思います。
モンストは、リリースから10年以上にわたり、多くのファンの皆様に支えられ、スマホゲームのトップランナーの一つとして成長を続けてきました。
そして、これからの10年、20年を見据え、さらなる飛躍を遂げるためには、「スマホゲーム以外の領域」でも多くのファンに楽しんでいただけるよう、IPを育てる活動が重要だと考えています。 実際にこれまでにも、アニメやリアルイベントの開催、音楽をテーマにしたスピンオフプロジェクト「モンソニ!」など、ゲームの枠を超えたさまざまなメディア展開を行ってきました。
これらの展開には、より多くのファンにモンストの魅力を届けるだけでなく、ゲームだけでは伝えづらいキャラクターの背景や世界観、ストーリーをより深く体験してもらいたいという背景があります。
もちろん、ゲーム内でもストライクショット(各キャラクターが持つ必殺技)の演出やボイス、BGM、背景ビジュアルなどを通じて、世界観やストーリーを伝える工夫は続けてきました。しかし、それだけではキャラクターへの思い入れや愛着を深めるには限界があると感じていました。
私たちは、モンストのIPを 「キャラクター」「世界観」「ストーリー」 の3つの要素で構成される固有の資産と考えており、これらに対して熱狂的なファンが生まれ続ける状態を目指しています。
そのため、単にメディア展開を行うだけでなく、ファンの皆様がキャラクターに感情移入し、ストーリーに引き込まれ、モンストの世界に没入できる体験を創り出すことが重要だと考えています。
スマホゲームとしてスタートしたモンストのIP展開を進める上で、クリエイティブ制作においては、以下のような課題がありました。
■ 個別解釈によるモンストらしさ
モンストらしさという言葉は頻繁に使われていたものの、その解釈には個人差がありました。イラスト、アニメ、グッズなど、さまざまなクリエイティブ制作に全力で取り組む一方で、一歩引いて見たときに、軸となるテーマがぼやけ、一貫性を欠いてしまいがちだったのです。
■ 多種多様なキャラクターとデザインの平準化
モンストには現在8,000以上のキャラクターが存在し、毎年約200体の新キャラクターが登場しています。これほど多くのキャラクターが生み出される中で、らしさの解釈の個人差も相まって、デザインの平準化(没個性化)が起こりやすい状況になっていました。
このような状況を踏まえ、結論として「一貫性を持たせること」が重要だと考えました。
具体的には、モンストにおける「キャラクター・世界観・ストーリー」を詳細に設計し、それらをあらゆるクリエイティブに、一貫性を持って落とし込めるようにすることです。
そのために、私たちが取り組んできたことが、以下の2つです。
モンストらしさの定義
モンストバイブルの運用
1つ目は、「モンストらしさ」を定義することです。モンストのクリエイティブ制作に携わる全員が、何をもって「モンストらしい」と判断するのか、その構成要素を改めて整理しました。
モンストらしさを定義するにあたり、まずはモンストのクリエイティブにおける理想的な構造を考えました。結論として、MIXIのパーパスに根ざしたものにすることが重要だと判断しました。
IPを育てるという行為は、単にキャラクターやコンテンツを広げることではなく、ユーザーとブランドの信頼関係を築いていくことだと考えています。そして、その信頼関係が生まれるためには、ユーザーがブランドの思想や存在意義に共感できるかどうかが重要です。
そのため、MIXIが提供するサービスとして、モンストらしさを定義する際にも、MIXIのパーパスに立脚するのが自然な流れだと考えたのです。
具体的には、「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」というMIXIのパーパスから、ミッション、モンストブランドビジョン、モンストらしさ...といったつながりを持たせることで、モンストのキャラクター・ストーリー・世界観はもちろん、モンストIPから創出されるクリエイティブはMIXIが肯定する価値観を体現しているべきであるという構造にしています。
補足として、パーパスに立脚して考えることは、インナー目線でも重要だと考えています。
まず自分たちが会社のパーパスやミッション、ブランドビジョンを信じていなければ、お客様にも信じてもらえません。その前提のもと、モノを作るうえで、常に作り手たちが立ち返ることができる軸のようなものがあることが大事です。それがあることで、どの角度から切ってもブレのない一貫性が生まれ、その積み重ねが、点ではなく、線となりIPのブランド力を成長させ、ブランドビジョンの実現を目指し、パーパスへの共感にもつながると考えています
モンストらしさを構成する要素は、以下のように定義しています。
コミュニケーション : 共闘、協力 / 友情、絆、相互理解 / みんなでワイワイ
ポップ : 王道感 / わかりやすさ / 親しみやすさ
クレイジー : 驚き、ケタ外れ、意外性、ヤンチャさ、ユーモア、熱い
これらの要素は、これまでのモンストの歩みを振り返りながら、何がモンストの遺伝子と言えるものなんだろうかと整理していく中で見出されたものです。
ユーザーの皆さんが期待していることは何か、モンストを生み出したチームのパーソナリティ、今までのクリエイティブにおいて大切にしてきたことなどを紐解いていくと、これらの要素が「モンストらしい」と言えるのではないかと考えました。
これらの要素はチーム内の共通言語となっていますが、クリエイティブ制作においては必ずしもこの要素に当てはめることがゴールではありません。
一番大事なのは、本質的な目的でもある、思わず興奮して誰かに言いたくなってしまうような感動を生み出すことです。つくっている本人が「どうにか要素には該当しているけど、そんなにイケてるとは思っていない」など言語道断です。そのため、あくまで指針として機能し、迷った時に「モンストらしさとは何か」に立ち返れる存在として役立てば良いと思っています。
モンストバイブルは、モンストにおける設定を集約した資料集です。
世界観やキャラクターのストーリー、相関図など、あらゆる設定が詳細に記載されており、クリエイティブの制作や監修の際に参照されています。
モンストバイブルは、ハリウッドを視察した際に知った「フランチャイズバイブル」からヒントを得て、運用を始めました。
ゲーム原作の作品を映像化するプロダクションをいくつか訪れた際、どの現場でも「フランチャイズバイブル」という言葉が共通して使われており、ゲーム原作のIP化において欠かせない存在だというのです。
バイブルの制作には、複数のシナリオライターで構成されたチームを中心に、半年〜1年程度かけて世界観や詳細な設定を構築していくそうです。
その内容は、キャラクターの設定や背景、地理、政治、宗教、人種など、多岐にわたる膨大な情報が記載されており、メディア展開を進める中で、多種多様なクリエイターやチームが関わる中でも、IPの一貫性を保つうえで重要な役割を果たしていることが分かりました。
ゲームはもちろん、IPに関わるクリエイティブは、一人の力だけで生み出せるものではありません。時には、MIXI社内にとどまらず、高い専門性を持つ外部パートナーと共創することもあります。
その際、関わるすべての人がモンストの世界観やストーリーを深く理解し、それを踏まえたクリエイティブ制作ができるようにするためには、このような「バイブル」が必要だと考えました。
モンストバイブルの骨子は、私が最初に整理し、その後は監修をしながら内容を充実させていきました。現在は、新たなキャラクターを制作する際などに、バイブルを随時更新しています。
ここで、記載内容の例をいくつかご紹介します。
■ モンストの世界観
モンストの世界観や関係性などが記載されています。例えば、モンストに登場するキャラクター達の世界(ストライク・ワールド)の中継地点である「ストライク島」については以下の設定を定めています。
■ キャラクター設定
モンストバイブルには、キャラクターのコンセプトやプロフィール、ストーリー設定に加え、外見的特徴や内面的な要素まで、細かく記載されています。
モンストバイブルを制作したことで、スムーズにメディア展開できる状態になっています。
外部パートナーとの制作プロジェクトにおいても、バイブルの記載内容を基に世界観を共有・監修することで、深い共通認識を持って制作を進められる環境が整ってきました。
実際に、外部パートナーから「スマホゲームでここまでしっかりと設定を用意しているプロジェクトはほとんどない」と評価いただくこともあり、IPの成長を支える重要な仕組みのひとつとなっています。
これまでの取り組みを基盤に、モンストらしさを体現し、キャラクター・世界観・ストーリーを伝えることができた例として、2025年1月に登場したキャラクター「エル」をご紹介します。
新年に発表されるキャラクターは、毎年高い注目を集め、その年の顔ともいえる存在になります。その中で登場した「エル」は、ゲームとアニメの連携によって世界観とストーリーを補完し、キャラクターの魅力を最大限に引き出すことができました。
モンスト11周年で迎える新春は、新たな10年に向けて動き出す重要な節目だと考えていました。
そんな中で、最初の新春 超・獣神祭の限定キャラクターでもあり、特に人気が高く、運営チームにとっても思い入れの深い「堕天の王 ルシファー」の因子を継承した新キャラクターを登場させることで、大きなサプライズを届けられるのではないか。こうした構想を約2年前から温めていたことが、「エル」誕生の起点となっています。
「エル」のテーマは「覚悟」。コンセプトは「世界を守るため堕天の王の力を継ぐ覚悟を決めた少女」です。
強大な力を持つ「ルシファー」の因子を継承するにあたり、その力を引き受けるには並々ならぬ覚悟が必要になるはずです。その覚悟をより印象的に描くには、日頃からどこかアンニュイで目立つようなことをしたくないような感じの普通の少女が、自分が何をしたいのか悩みながらも友人との繋がりを通して、与えられた力の使い方、役割と向き合い、成長していくストーリーが良いのではないかと考えました。
キャラクターデザインやシナリオ設計においては、「エル」が「ルシファー」の因子を継ぐ者でありながら、決して「ルシファー2」にならないよう、チーム内で強く意識していました。
細かな仕草などで「ルシファー」らしさを感じられる要素を取り入れつつも、「エル」自身の個性をしっかりと際立たせ、独自の魅力を持たせることを大切にしました。そうすることで、ユーザーの皆様に愛着や思い入れを持ってもらえる存在にしたいと考えたのです。
「エル」の登場にあわせ、世界観やストーリーを最大限楽しんでいただくために、短編アニメの同時公開を行いました。外部のパートナーと密に連携し、先述のバイブルも活用しながら、深い共通認識を持って約1年かけて制作したアニメとなります。
実はこのアニメは、モンスト10周年でのルシファー 獣神化改発表PVと同じ世界の500年後が舞台という設定で作られています。「ルシファー」の因子を継承するというコンセプトから、映像作品における世界観の連動性も意識していました。
実際のアニメがこちらですので、併せてご覧いただけると嬉しいです。
公開後、「エル」というキャラクターやアニメに対して、多くのポジティブな評価をいただきました。
ゲーム内アンケートによるキャラクターの好感度調査では、過去の新春限定キャラクターの平均と比較して、大幅に上回る高評価を得られました。また、YouTubeで公開したアニメは、後編まで視聴する率も高く、多くのユーザーに楽しんでいただけたことが伺えます。
さらに、売上においても好調な成果を残すことができています。
モンストらしさを体現するキャラクターを構想し、ゲームとアニメの連携によって世界観とストーリーを補完することで、その魅力を最大限に引き出していく。このアプローチで確かな成果を得られたことは、今後のIP成長に向けた大きな手応えとなりました。
次の20周年に向けて、「日本のエンタメカルチャーの定番の一つ」と、皆さんに言っていただけるくらい、モンストIPがエンタメに存在していて”当たり前”の世界を目指していきます。
そのために、単なるゲームではなく、触れた瞬間に「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」という私たちのパーパスが体現されるようなIPへと成長させていきたいと考えています。
この未来を目指すからこそ、一貫した「らしさ」を実現する重要性を強く意識してきました。
今回まとめた「らしさの構成要素」や「モンストバイブル」は、モンストのものづくりに携わる私たちにとって、拠り所となる北極星のような存在です。
まだ試行錯誤の途中ではありますが、これからもより豊かで楽しい時間を皆さまにお届けできるよう、進化を続けていきたいと思います。