2022年5月にオープンした、DeNAが運営するライブビューイング施設「&LIVE (アンドライブ) 」。そのネーミングからロゴを中心としたVI制作を含め、世界観の構築を担当しました。
ロゴやネーミングをつくる時には「目的や機能は正しいか」「らしさが伝わるか」「耐久性はあるか」「柔軟性・拡張性はあるか」など、様々なことを考慮する必要があります。
今回担当した&LIVEでは、特に「拡張性」にこだわることで、コンセプトを明確に伝えながらも使いやすいロゴに落とし込むことができました。
制作の流れを振り返りながら、拡張性が重要だった理由、拡張性を生むために工夫したことをお伝えできればと思います。
&LIVEは、横浜DeNAベイスターズを中心としたプロ野球中継や、その他のスポーツ、多様なイベントなど様々なコンテンツを大画面で鑑賞でき、飲食も楽しめる施設です。
横浜市旧市庁舎街区活用事業の一環で、2026年春の開業を目指しているライブビューイングアリーナの先駆けとして、「お客さまが喜んでくださることが何か」をお客さまと一緒に見つけていくためにオープンしています。
制作を進めていく上で、まずはじめに関係者とのキックオフを行いながら、狙いや要望を整理していきました。
特にユニークな点は、ライブビューイングを起点としつつ、横浜DeNAベイスターズをはじめとした野球、バスケットボール、サッカー等のスポーツ観戦、食事、音楽、その他エンターテインメントなど、様々なコンテンツとの掛け合わせによる新しい楽しみ方を提供することでした。
そのため、ネーミングやロゴを考える上でも、例えば「〇〇×BASEBALL」「〇〇×MUSIC」のように、あらゆるコンテンツと組み合わさっても違和感がなく、むしろ組み合わさることが自然であるように見えることが大事なのではないかと考えました。
また、当時は施設も構想段階であり、今後どんなコンテンツが組み合わさるのか、どんな場所・媒体で使われるのかなど見えていないことも多くありました。
そのため、今後何と組み合わさろうとも柔軟に扱えて、らしさを常にぶらさない「拡張性」がネーミング・ロゴには必要なのではないかと考えました。
ここからは「拡張性」を念頭に置きながら、どのように制作を進めたのか解説していきます。
ネーミングを決定するために、まずはどのような方向性でアイデアを出していくべきかを整理していきました。
新施設のコンセプトを踏まえつつ、「LIVE感」が伝わること、人と人との出会い・つながりが感じられること、街に開かれた賑わいの拠点となることという3つがポイントになると考えました。
次に、具体的なネーミングを決定していくために以下のように進めていきました。
与件を踏まえつつ、ネーミングが持つべき要素を分解し、どれくらいその要素を持たせるか、持たせないべきかを整理。
今回であれば、「DeNA感」「横浜感」「地域展開」「LIVE感」が施設のアイデンティティとなる要素として考えられます。
その上で、今回は様々なコンテンツとの組み合わせがポイントとなってくるため、DeNA感や横浜感はあえて抑えるといった調整を行っています。
次に、具体的なネーミングのアイデアをいくつか出しながら提案としてまとめていきました。
ネーミングを考える時には、以下の点を意識していました。
分かりやすさ
拡張しやすさ (前後に別の単語がついても違和感がないか)
造語感 (キャッチーさ・商標のとりやすさ)
最終的には「SPORTS&LIVE」「MUSIC&LIVE」 など、スポーツや文化・芸術と“&”で繋ぐことで、エンターテインメント空間に更なる拡張性や未来性を持たせたいという意味を込めて「&LIVE」というネーミングに決定しました。
決定したネーミングを基にしながら、&LIVEでつくる世界観や、その世界観のシンボルとしてのロゴを制作していきます。特にポイントとなったのは以下の3点です。
ロゴの方向性・考え方の整理
あらゆる想定を踏まえたロゴの制作
柔軟なガイドラインの設計
まず、つくるロゴが満たすべき要件は何なのかを整理していきました。
施設の特性や、エンターテインメント感といったアイデンティティ要素はもちろん、拡張性や柔軟性・耐久度のようなロゴが持つべき機能も併せて定義しています。
また、プロジェクトオーナーなどの関係者にもロゴの意図が明快に伝わるように、考え方を言語化して共通認識にしました。
具体的なロゴのアイデアを詰めていく段階では、どんな場面でどんな使われ方をするかを、頭の中で何度もシミュレーションを重ねながら手を動かしました。
具体的には、以下のようなイメージです。
&マークをフードメニューに焼印やラテアートで描くと、よりその場を楽しめるな
壁面やカウンターにネオンサインや立体オブジェがあると、映えスポット的になるな
傘やマスクなどオリジナルで作っておくと自然と宣伝になるかも
試合がある日はエンブレムを使って&LIVEロゴとモーションで演出を盛り上げられるな
などなど、自分・ペルソナ・スタッフだったらどうだろうと、脳内でシミュレートし、妄想と想像を繰り返して未来像を思い描いていきました。
ロゴの拡張性を高めるための技術的な工夫はいくつかありますが、それよりもどれだけ幅広く・解像度高く未来像をイメージできているかが重要だと考えています。
これらを踏まえつつ、いくつかロゴのアイデアを形に落としながら1つに絞り込んでいきました。
プロジェクトメンバーの中ではB案とC案に意見が分かれましたが、ロゴの方向性・考え方・展開例をしっかりと伝えたことにより、C案に決定するまではとてもスムーズでした。
LIVEのタイプフェイスはフィールドやコートに引かれたラインをモチーフにし、誰でもオープンで風通しの良い施設・エンターテインメント空間であり、様々なコト・モノが組み合わされシナジーが生み出されることを表現しています。
おまけ要素として、2本のラインを使った参考例としてカタカナロゴの展開も用意しました。施設のネオンサインで使いたいなど想像力を膨らます材料として好評でした。
ロゴと併せて作られることの多いガイドラインですが、自由度を高くしデザインシステムと組み合わせたものには、実際の運用に耐えないといったこともしばしば起こります。(私も今まで何度も運用が破綻してしまうケースを見てきました...)
また、今回の&LIVEのように、拡張を前提としたロゴであればなおさら運用のしやすさに目を向ける必要があります。
&LIVEでは、ロゴを様々なコンテンツに合わせて表現の幅を広げる「グラフィックエレメント(装飾)」として利用することを前提としたガイドラインとすることで、デザイナーの首を絞めずに自由度高く&LIVEらしさが失われないデザインができる状態を目指しました。
例えば以下のような使い方も、むしろ推奨されるものとして位置づけています。
&のシンボルを全面に掲出
&のシンボルを他の要素と重ね合わせた表現
&から二重線を大きく伸ばす
もちろんロゴを利用する際の禁止事項も用意していますが、あくまで最低限のものに絞ることで、より柔軟にロゴを運用していけることを狙いとしています。
ロゴを含めるVIや世界観はブランディングの一部分にしか過ぎません。でも、わかりやすい「顔」でもあります。プロモーションによる大きなインパクトも大事ですが、「使われ続ける設計をデザインに施し」、継続的かつ連続的に展開することでブランディングイメージを構築していくことも大事だと思います。
&LIVEは「拡張性」という部分にフォーカスを置いた施設ロゴですが、企業ロゴ・サービスロゴなどでは求められる「目的・役割・機能」はまた違ってくるので、「拡張性」の考え方が必ずしも必要ではないかもしれません。ただ、「拡張性」を頭の一部に置きながらあらゆるシーンを想定して制作することは、長い期間で様々な展開を支え続けられるロゴになると思います。
これからもデザインの力で、プロダクトを支え続けるようなものづくりを継続していきたいと思います。