2024年7月末のシリーズBでの70億円資金調達発表に向けて、ログラスは短期間でリブランディングプロジェクトを遂行しました。
「マルチプロダクト戦略」や「AI×経営」を意識しつつ、35日間という限られた期間の中で取り組んだプロジェクトの全貌をここにまとめます。
2024年7月、ログラスのBXデザインチームは、ブランドコンセプトの策定を皮切りに、リブランディングを進めました。
具体的には、ブランドコンセプトを定めた後、「コミュニケーションエッセンス」というログラスらしい表現の原則を定義し、そのエッセンスを基に各種クリエイティブへと落とし込んでいます。
なお、今回のリブランディングは、一般的なロゴ変更やデザイン刷新ではありません。
ブランドコンセプトの設定から始まり、各種制作物におけるブランド表現の定義に至るまで、ブランド全体を再構築することを目的としたプロジェクトです。
今回のリブランディングプロジェクトは、2024年7月末のシリーズB資金調達発表が大きなきっかけとなっています。
資金調達に向けた準備段階で、ログラスは次の目標として「マルチプロダクト戦略」や「AI×経営」というビジョンを掲げていました。これに伴い、事業の成長を支える新しいブランドの定義が急務となりました。
また、資金調達の発表という大きなタイミングは、ブランドの刷新を行う絶好の機会であると判断されました。今回のリブランディングは、ログラスが未来に向けて掲げる目標を具現化するための第一歩となりました。
ログラスは複数のプロダクトを展開していますが、それらを統合したブランドの統一感に課題がありました。
例えば、各プロダクトのサービスサイトでは、色使いやフォントは統一されている一方で、トンマナがバラバラであるため、「同じログラスのプロダクト」として認識されにくい状態にありました。
この背景には、急速に事業を拡大する一方で、BXデザインチームのリソースが限られており、一貫したブランド戦略を立てる余裕がなかったことが挙げられます。結果として、各制作プロセスにおいて都度「ログラスらしさ」をボトムアップで模索する必要が生じ、統一感のあるアウトプットを生み出すことが難しい状況に陥っていました。
こうした課題に対応するため、過去にもトンマナの定義を試みていました。
結果として「高級感」「シンプル」といったキーワードは社内に浸透していたものの、これらの言葉が抽象的な状態で一人歩きしてしまい、最終的にはアウトプットの統一感を十分に担保するには至っていませんでした。
シリーズB資金調達発表後、ログラスは「2年で10個の新規事業を立ち上げる」という構想を掲げました。この構想は、経営のあらゆる領域にプロダクトを展開することを意味します。
この「マルチプロダクト戦略」の中で、増加していくプロダクト群の一貫性を保ちながら成長を遂げるためには、統一されたブランド表現の原則を早急に構築する必要がありました。
「2年で10個の新規事業を立ち上げる」という急速なマルチプロダクト化を目指す中で、ログラスは今後さらにプロダクトラインナップを拡大していきます。それに伴い、顧客とのコミュニケーションのタッチポイントも増加することは確実です。
今ですら、各プロダクトのサービスサイトのトンマナがずれ始めている。このままブランド構想が欠如した状態を放置すれば、ログラス全体の成長を阻害するリスクがあります。
ログラスがマルチプロダクト戦略を成功させるためには、ブランドの一貫性を確保し、すべてのプロダクトが「ログラスらしさ」を発揮できる仕組みを整える必要がありました。
したがって、このタイミングで「共通の物差し」となる統一されたブランド表現の原則を構築することを意思決定します。
すでに2024年7月に予定されていた資金調達の発表に向けて、また、プロダクト成長を止めないためにも、とにかく速くリブランディングを行い、運用に入る必要がありました。
最終的に35日間で完遂したリブランディングプロジェクトは、以下の3つのステップで進められました。
ブランドコンセプトの策定
コミュニケーションエッセンスの定義
各制作物に適応させて検証
まずは、プロジェクトの大前提となる課題と進め方について、代表の布川と、新規事業立ち上げの責任者の1人であるCBDOの斉藤と認識をすり合わせました。
この2人を巻き込んだのは、今後のマルチプロダクト戦略に適応できるブランドコンセプトを策定することが、今回のリブランディングにおいて最も重要なポイントであったからです。
その後、ブランドコンセプトを固めるために、専用のワークシートを用意し、ディスカッションを繰り返しながら具体化を進めていきました。
ブランドコンセプトを策定するにあたり、「デザインを、経営のそばに。」( 著 八木 彩さん) の内容を参考にしています。
ログラスはすでにサービスを提供し、市場に受け入れられている部分もあるため、これまで築き上げてきたブランドの資産を活かした形で、ブランド構想を整理することが重要だと考えました。
そのため本書に出てくる、ブランドコンセプトに必要な情報を整理するための「コンセプトワークシート」を使って、要素を整理することで、ブランドを俯瞰しようと試みます。
しかし、本書のフォーマットは新規ブランド立ち上げ時に近い考え方でつくられていたため、ログラスの場合は、既存のビジネスモデルを前提にした整理を行うための新たなフレームワークをつくる必要があることに気づきました。
そこで、事業開発で広く使われている「リーンキャンバス」を参考にしつつ、独自に「ブランドリーンキャンバス」というフレームワークを生み出してみました。この「ブランドリーンキャンバス」は、既存のビジネスモデルをもとにブランド上の強みを発見し整理するためのツールとして活用しました。
代表やCBDOが馴染みのあるリーンキャンバスの考え方を採用することで、ブランドコンセプトを最終アウトプットとしつつ、今あるログラスの強みについてスムーズに認識を共有することができました。
ブランドリーンキャンバスを活用したワークショップでは、参加者全員が共通の枠組みをもとにディスカッションを行い、ログラスの強みやブランドの方向性を具体的に整理しています。このプロセスを通じて、ブランドコンセプトが現実的かつ実効性のある形で形作られていきました。
強みが明確になった後は「ブランドコンセプトの置き場」を決める作業に進みました。
ブランドとは「相対的な評価(他との違い)から生まれる認識」であり、自社の観点だけでブランドコンセプトを決めることはできません。そのため、ログラスが経営管理という市場の中でどのように差別化されるのかを見比べる必要がありました。
このプロセスでも、前述の「デザインを、経営のそばに。」( 著 八木 彩さん) を参考にしています。
本書には、UNIQLOの事例をもとに「古い常識」と「新しい常識」を整理することで、ブランドの置き場が見えてくるというフレームワークが紹介されています。このアプローチをログラスにも適用しました。
例えば、UNIQLOは従来のアパレルブランド(「ターゲットを絞り、トレンドを追い、高価格」)とは異なり、「あらゆる人をターゲットにし、定番商品をつくり、リーズナブル」という「Life Wear」という新市場を生み出しました。
ログラスにおいても、ブランドリーンキャンバスで整理した強みを、従来の経営システムと比較し、「新しい常識」を定義する作業を行いました。
このプロセスを通じて、ログラスの特性を次のように位置付けました。
過去の経営システム... トップダウン型で巨大なシステム
ログラス... ボトムアップ型で人を中心に据えたコンポーネント型システム
この整理により、ログラスがどのように独自性を発揮し、新たな価値を提供するかを改めて言語化することができました。
これまでの議論を踏まえ、ブランドコンセプト、およびデザインの原則となる「コミュニケーションエッセンス」を定義していきます。
ブランドコンセプトは、プロダクトビジョンと同じく 「MAKE NEW DIRECTION」 としました。これは、今後マルチプロダクト化を進めていくログラスにおいて、プロダクト群とブランドの設計を一致させるためのものです。
しかし、単にブランドコンセプトを策定するだけでは課題は解決しません。「統一されたブランド表現」を実現するためには、BXデザイナーが実際に制作を行う際の「共通の物差し」が必要です。
そこで、ブランドコンセプトをブレークダウンし、デザインの原則として「コミュニケーションエッセンス」を定義しました。これは、すべてのアウトプットにおいて必ず意識すべき表現の要素を示しています。
ログラスにおけるコミュニケーションエッセンスは、以下の4項目です。
Less but Better: 必要最小限で、質の高い表現
Clear: 明快でシンプルな表現
Generative: 創造性や進化を感じさせる表現
Bold: 力強く、自信に満ちた表現
これらの要素は、これまでもアウトプットに取り入れられてきた部分はありましたが、今回のブランド構想の議論を通じて、ログラスがこれから何を目指すべきかを明確にした上で、確信を持って原則を定めることができました。
コミュニケーションエッセンスを策定した後、ログラスではあえて固定化されたブランドガイドラインを作成しないというアプローチを選択しました。
その意図は、ログラスのブランド運用において「更新型のブランド運用」を目指しているためです。(これは、今後の挑戦でもあります。)
ログラスのプロダクトはこれからも増え続け、ターゲットや価値観も変化する可能性があります。この状況において、固定化された表現を早期に決めてしまうことは適切ではないと判断しました。
そのため、ブランドの定義はコミュニケーションエッセンスという原則レベルに留め、各アウトプットにおいてそのエッセンスを解釈し、少しずつ「これがログラスらしい表現ではないか」という基準を固めていく形を理想としています。
具体的には、採用資料のアップデートから取り組み始めました。
これまでの採用資料も「ログラスらしさ」を感じさせるものでしたが、コミュニケーションエッセンスに則り以下の点を改善しました。
写真の選定と使い方
レイアウトの余白や構成
メリハリのあるデザイン
これらの改善により、ログラスのコミュニケーションエッセンスを反映したアウトプットの一つの基準が完成しました。この事例を皮切りに、今後の制作物においても「ログラスらしさ」を育てていくことを目指しています。
このようなプロセスを経て、ログラスのリブランディングを進めてきました。特にシリーズB資金調達のリリース時のクリエイティブには、今回策定したコミュニケーションエッセンスが強く反映されています。
以前の調達リリース時のクリエイティブと比較すると、その違いが明確に感じられるのではないでしょうか。たとえば、「Generative = グラデーション」や「Clear = 透明性」といったエッセンスを意識することで、新しいログラスらしい広がりや透明性を表現したクリエイティブへと進化しました。
このように、コミュニケーションエッセンスが実際のアウトプットに反映されたことで、「更新型のブランド運用」というBXデザインチームのスタンスが確立され、制作プロセスそのものにもアップデートがもたらされました。
ログラスでは、各制作領域に適した進行プロセスを定義する「BXスクラム」という取り組みを新たに導入しました。このプロセスにより、制作がより効率的かつ一貫性を持った形で進められるようになっています。
また、新規の制作物については解釈が必要となるため、基本的にはBXデザイナーが担当します。
一方で、既存のアウトプットについては、統一感を保ちながら効率よく進められるようにテンプレートを用意する方針を採用しています。このようなアプローチにより、新しいブランド運用の基盤がさらに強化されています。
詳しくはこちらでまとめています。ぜひ合わせてお読みください。
ログラスがマルチプロダクト戦略を推進し、新たなカテゴリーを切り拓いていく中で、1つのサービスのブランディングにとどまらず、将来の不確実性を許容しつつも、一貫したブランディングを実現するブランド管理が求められます。
BXデザインチームでは、シリーズB調達を機に、表現面でのチャレンジを繰り返しながら、「ログラスらしさ」をさらに磨き上げることに注力していきます。
プロダクトの成長と連動しながら、ブランドを柔軟かつ効果的にマネジメントし、マルチプロダクト構想の実現に向けて歩み続けます。