rootは、NRIセキュアテクノロジーズ様のデザインパートナーとして、BtoB向けのセキュリティ評価SaaS「Secure SketCH」のデザイン支援を行っています。
UIや新機能の開発などのプロダクトデザインだけでなく、デザイン環境の整備にも関わっています。その一環として、デザインプロセスの課題を日々のデザイン制作業務と並行しながら改善していくために、デザインチーム向けにOKRの導入を今回行いました。
チームとしての目標だけでなく、デザイナー個々人としての目標にまで落とし込んだことで、結果として、デザインプロセスにおける課題に日常的に取り組まれるようになっています。
そこで本記事では、プロダクトのデザインチームで、デザインプロセスの継続的な改善を実現したOKRについてご紹介します。
rootは、長期で伴走するデザインパートナーとしてSecureSketCHのプロダクトデザインに関わっています。
ただ、長期伴走していると言いつつ、実際は新機能やユーザビリティの改善に集中していたため、デザインプロセスのアップデートは後回しにされていました。
簡単に解決できるKPTの課題はアクションに移るものの、チーム全員で取り組まないと解決できないデザインプロセスの見直しは、どうしてもこれまでのチーム運営では解決できなかったこともあり、組織としてプロセス改善に力を入れられるよう、別の方法の検討が必要でした。
コミュニケーションや品質など、デザインプロセス上での課題が毎回あげられていた
まずは何に取り組むべきかを把握するために、過去のKPTで出ていた問題をすべて洗い出していくところから始めました。
プロジェクトの振り返りから出てきた問題を一つ一つ見ても、そこに取り組むべきかどうかは判断しづらいのですが、長期的にずっと起こっている問題ということが分かれば、取り組むべき問題だと判断しやすくなるためです。
実際、継続して起こっている問題を並べてみたところ、デザインプロセス上の改善点が多くあがりました。これらの問題をデザインプロセスの課題として捉え、改善に動いていくことの必要性をプロダクトリーダーとすり合わせていきました。
例えば
・デザインチームの活動の透明性
・デザインガイドの運用と心構えを整える
・他の人のタスクの把握
・毎回の提案の粒度にムラがある
など
過去に実施したKPTからデザインプロセスの課題を洗い出した上で、日常的にメンバー全員でこれら課題の解決を行える状態を目指していきました。
自分自身がDPM (デザインプログラムマネージャー) としてプロセス改善をリードしたとしても、メンバー全員の協力がない限り、チーム全体の課題は解決されません。なので、各デザイナーにデザイン制作だけではなく、デザインプロセスの改善にも目を向けてもらえるようなチーム運営の仕組みを考えていきました。
そこで取り入れたのがOKRです。OKRの仕組みであれば、改善に時間がかかる課題や難易度の高い課題もプロジェクト内でポジティブに組織として継続的にチャレンジできると考え、OKRを取り入れたプロジェクトの目標設定を行うことにしました。
具体的には、以下のような流れでOKRの導入を進めています。
- 課題とつながるObjectives/Key Resultsの設定
- 個人のKey Resultsへの落とし込み
- Key Results達成に向けたチーム運営
まず、Objectives(目標)と、Key Results(主要な結果) の設定を行います。
はじめに、KPTから洗い出したプロセスの課題の中で、メンバーのレベルも踏まえて、この3ヶ月で改善できそうなものをKey Resultsとして設定していきます。
次に、それらを抽象化した定性的な目標として Objectives(目標) を設定します。
・チームのクオリティに対する認識の足並みを揃える
・自身のデザインに説得力を持たせる
ObjectivesやKey Resultsはあくまで、メンバー視点で達成できそうと思えることが大切です。
例えば、「要求定義の枠組みに捉われないように考察する」なども、Objectivesの候補としてあがってはいたものの、3ヶ月以内に取り組むのは難しいと考えて、プロダクトリーダーと相談してObjectivesからは外しました。
さらに、Key Resultsを確実に達成し、日々の業務の中で動きが起こるよう、個人のKey Result(個人目標)をそれぞれのメンバーに記入してもらいました。
メンバーに個人目標をしっかりと言語化してもらうことで、日々の自分のアクションやアウトプットがどのような形でチームの成果に紐づくのかが伝わり、チームとしてのKey Resultsの達成に向けて、足並みを揃えて進むことができるようになりました。
Key Resultsの達成を促すチーム運営も行っていきました。
例えば、デザインコンポーネントの更新は、各デザイナーがデザイン制作をする中で課題に感じた場合、適宜自ら報告・調査・更新し、毎週の定例で、チームで更新内容をレビューして取り込む運用にしていきました。
こうすることで、抜け漏れなくデザインコンポーネントが最新に維持・更新され、プロダクト全体で統一されたデザインを作っていくことができるようになりました。
また、OKRは4半期に1回評価・振り返りを行っています。各デザイナーが自身でまず達成度を評価した上で、それをDPM・プロダクトリーダーからフィードバックするような運用としています。
個人の評価に組み込まれることで、メンバーから自発的に課題に取り組むインセンティブが生まれ、さらに適切にフィードバックすることで気づきが得られるため、日々の行動の改善につながったと感じます。
各デザイナーが目先のデザイン制作だけでなく、改善に長く時間がかかるデザインプロセスの課題に対して向き合えるようになり、結果として、チームとしてクオリティの高い制作に取り組めるようになりました。
Secure SketCHのプロダクトリーダーからも、OKRを実施したことでの、デザインのアウトプットの変化を実感いただいています。
具体的には、以下のような変化が起こっています。
クオリティに対するチームの認識が揃う
定例後、毎回振り返りを行うようになり、認識のすり合わせが行われるように
認識が揃っていく中で、遠回りな議論がなくなり、定例の時間も短縮されている
自身のデザインに説得力を持たせられる
機能や要件の目的を整理してからリサーチが当たり前に行われるように
アウトプットに対する説得力が増した
提案の幅が広がる
解決したい課題に対してプロダクトリーダーと目線が揃う
定例の中で良いアイディアが活発に出てくるように
今回の取り組みでは、常に起こっているデザインプロセスの課題を、OKRを策定してチーム全体で解決できるようにしたことがポイントでした。
このようなデザイン環境の整備については、どうしても事業成長にわかりやすくつながる目先のデザイン制作が優先され、後回しになってしまうことが多いと思います。今回、OKRのフレームワークを使うことで、組織としてデザインプロセス改善に取り組めるようになり、結果としてアウトプットの品質や生産性の向上が起こるようになりました。
規模が大きくなったプロダクトで、複数名のデザイナーがいるチームでのOKRの導入はとても効果があることを実感しています。今後も、rootではOKRを活用することで、組織的なデザインを行い、クライアントの事業成長へ貢献できればと思います。