ヤフーのデザイン横断部 部長 鈴木辰顕 です。元々、ヤフーの子会社の社長をやっていましたが、会社のヤフーへの吸収のタイミングで、2020年からヤフーで450名のデザイナーを横断的に統括するデザイン組織を立ち上げました。
ヤフーは基本的に各事業ごとのデザイン組織が存在しています。(2022年11月現在) そこに対して、各事業の個別最適化された良い部分を残しつつ、横断的に最適化ができる部分をまきとれる組織を目指しました。
横断のデザイン組織を立ち上げてから約2年。
人を集め、関係部署に合意を取る部分から、デザイン組織から業績貢献施策を生み出す部分まで、幅広く取り組んできました。
今回は、その立ち上げプロセスと、各アクション/施策への狙いについてまとめてみたいと思います。
横断部ができる以前のヤフーでは、各事業部での個別最適化が良い意味で進んでいたこともあった半面、担当者の異動などによって「浮いたままのボール」がいくつもありました。
- デザイン原則などのガイドラインの定常的なチェックや更新時のルール、責任者の不在
- 各事業ごとのデザインツールの契約やデザインシステムの乱立
- 多職種から見ると、デザイナーへの依頼先など、コミュニケーションの場所や様式が決まっておらず、どこに依頼をすれば反応をもらえるのか分からない状況
事業部ごとにデザイナーが所属するような組織においては、「事業をまたいだ、デザイン組織全体として整備すべきこと」が多くあり、デザイン横断部が立ち上がることになりました。
2019年末から2020年序盤の半年間かけて、横断部に必要な人を集めること、また、私自身もヤフーから離れて5年以上経っていたため、現状のデザイン周りの課題などのヒアリングをヤフーを辞めた人含め、社内外に対して100名以上行いました。
実は、ヤフーではこれまでにも横断型のデザイン組織立ち上げを試みたことがありました。しかし、継続的な運用には課題がありました。
過去を振り返りながら以下のポイントを意識して、「横断部にとって本当に必要な人」を集めていきました。
- 400名近くデザイナーのため、自分のためだけではなく400人のことを考えられるような、目立たなくても本当に組織や事業にとって重要なことを理解している人を集める
- 過去の立ち上げについて知っているようなメンバーも入れる(過去を否定しない、無駄な軋轢を生まない)
- デザイン組織に課題だけでなく、ヤフーの事業や他職種から見たデザイナーへの課題を理解しているような人を集める
- デザイナーのことだけを考えるのではなく、エンジニアや企画、営業など他職種のことも考えたり理解している人をいれる。
元々社内の開発イベントであるハックデーなどから、ある程度の社内のできるデザイナーの知見はあったため、横断部として集める人を決めつつも、子会社の社長をやっている間に、ヤフーに入社した人など各事業の責任者に相談するなどして、地道に声をかけていきました。
並行して、具体的にやるべきことや、順序を整理するために、社内外の方々100名以上にヒアリング(1人あたり30分程度)も実施しました。
また、社外のCDOなど経営に携わっている方々にもお話させていただき「今後、デザイン組織としてどんな課題にぶつかりうるか」などの未来の課題もヒアリングしました。
ヒアリングを通して、大きくやるべきことは以下のようになりました。このフェーズでは、「止まっていたものや、滞っていたものを再始動させる」という方向性で動いていました。
デザイン原則やビジュアルアイデンティティは、これまで定義していたものの、恥ずかしながら更新が止まっていたり、明確なルールのもと、定期的なアップデートがされていない状態でした。
まずは一定のルールの元、運用していくことを告知し、誰がオーナーで、変える際はどのような手順で変えるのか、また、どれくらいの頻度で定期的に確認をするのかをルール化しました。
整備されたガイドラインは、v1.0.0として、社内で運用されています。
当時400名近くデザイナーがいたものの、デザイナー全体に周知する際、Slackのデザイナーが多く集まる部屋はどこなのか、メーリングリストは公式に制定されたものか、などデザイナー自身もどこで周知すれば全体に周知したことになるのかわかっていなかったため、それを定めました。
また、Slackのデザイナーチャンネルでは、デザイナーが集まってはいたものの、投稿がしばらく無いなど活性化しているとは言い難い状態であったため、個人的な目標として最低でも1週間に一度は何かしらの全体周知を行うことを意識して運用をしていました。結果として、今ではほぼ毎日のように何かしらの情報が投げられるようになっています。
また、デザイナーの全体会に関しても数年回開催されておらず、デザイナー同士の全社的な交流も活発とは言い難い状態でした。デザイナーの全大会に当たるデザインミーティングを半年に一度の割合で開催し、社内の様々なデザイナーの活躍を伝える場としました。
加えて各事業のデザイン部門での責任者に当たる人たちが、意見を交換する場として「デザイン部門役職者会議」を制定し、定期的に全社のデザイン部門の課題や事例などを共有する場を作りました。
ガイドラインや、コミュニケーション基盤の整備と同時に、採用後の研修、社内のデザイン黒帯等、横断部門が無かったため、各担当がデザイナーの統一意見に関して困っていた事柄についての言語化等、一部人事周りの対応も行いました。
基盤整備の次に取り組んだのは「横断型のデザイン組織から、業績に貢献する施策の立ち上げ」でした。
横断組織だからといって事業や業績から距離置いていては、さまざまな部門からの信頼は得られないと感じ、自分たちでもしっかりと業績に貢献している数字を出す必要があると思っていました。
さまざまな施策を検討したり、テスト的に実施しましたが、大きく全社で成果を出せたなと思う取り組みは以下の2点です。
- 行動経済学をもとにしたナッジの考え方のもとの共有言語化
- ペアデザイン、モブデザインによるデザインワークの浸透
ナッジという行動経済学の理論に基づいて、バナーのABテストを実施してみてその結果を比較するなど、業績に貢献した事例をつくり、クリエイティブを作る際の一つの考え方と共有言語として、展開しました。
そのために、(フレームワークにしづらいものもたくさんありますが)なるべくフレームワークにして、広がりやすい状態にしていました。
他にもデザイナーの業務改善の一環として、ペアデザイン・モブデザインの取り組みも行っていました。
デザインワークの効率化により、プロジェクトのスケジュール短縮とデザイナーの工数を削減し、リモートワーク下におけるデザイナーの様々な働き方を可能にするとともに、育成や会社のクリエイター文化の継承を実現することを目的としていました。
詳しくはこちらをご覧ください。
また、取り組み自体を評価いただき、グッドデザイン賞など第3者からの目線でも評価いただきました。
ここまで業績貢献として、サービスへの売上の数字はもちろん、スケジュールの短縮や工数の削減という意味での数字で成果を出すことを意識しました。
また、それ以外でもデザイナーの全大会はデザイナー約400名を基準とした視聴UUやアンケートで相対的に他の社内イベントや過去の施策との対比できるようにしたり、ガイドラインの更新頻度など、とにかく日時と数字として残すことを意識しました。
デザイナーと数字との関係は常に永遠のテーマだと思います。
上記で出したような数字が、全て意味あるものとは言い切れない部分もありますが、過去との対比で相対的に健康状態がチェックできるような意味も含め、数字で活動を見せられるように常に意識していました。
デザイン組織としての基盤整備はもちろんのこと、きちんと事業づくりにとって不可欠な存在に組織がなっていくように考えて実行してきた2年間でした。 新しい課題、新しい考えに常に向き合えるようなデザイン組織になっていくために、デザイン横断部は活動を続けていきます。 そして、ご存知の通りヤフーはLINEやZHDを含めた合併を行う発表を行いました。デザイン組織においても、どのような形かは2023年4月現在では検討中ですが、様々な面で日本のデザイン組織としては、歴史上最大規模の統合を実施することになると思います。
合併後、例え1,000名を超えるデザイン組織になったとしても今まで以上にデザイナーのアウトプットを最大化でき、事にコミットできるデザイン組織を作っていきます。