DIGGLE プロダクトマネージャーの本田です。 DIGGLEでは2023年10月頃から、デザインに注力していくことを全社的な意思決定とし、デザイン組織の立ち上げを本格化しています。
2024年3月には1人目のシニアプロダクトデザイナーが入社し、社内のデザインプロセスの改善や、体験を重視した短期・中長期のプロダクト改善が進行。さらなる組織拡大に取り組んでいます。
DIGGLEにおいて、なぜデザイン組織が必要だと考えたか、ファーストステップとして何に取り組んできたのかをまとめることで、同じような状況に置かれたデザイナーやプロダクトマネージャーの方に参考になれば嬉しいです。
DIGGLEは2016年に創業した、予実管理SaaSを提供する企業です。 2022年にシリーズAでの資金調達、2023年にはデットファイナンスによる資金調達を実施し、累計調達額は約10億円に到達。「DIGGLE」導入企業の拡大とともに社員数も1年で約2倍となるなど、事業・組織ともに拡大を続けています。
DIGGLEを含めた予実管理の市場は、競合も多い環境です。そのため、2022年頃までは意図的に機能拡充に重きを置き、リリーススピード優先の開発を行うことで、現在の事業成長を実現してきました。
一方、予実管理SaaSに求められる機能がある程度揃い、競合も同様に機能が充実してきたことで、導入の決め手として、体験の良さが重視されるようになっていきました。
つまり、市場が盛り上がりを見せる中で、DIGGLEがさらに成長していくためには「プロダクトが体験としてどのように機能するか」が極めて重要である。これが全社的な共通認識となり始めます。
しかし、このタイミングで、創業初期からデザイン全般を1人で担ってくださっていたデザイナーがDIGGLEを離れることになります。これにより、DIGGLE社内のデザイナー数はゼロになりました。
プロダクトとしてデザインに注力することが重要であったものの、組織内にデザイナーがいないという状況となり、プロダクト成長に責任を追う立場として大きな危機感を持ちます。
このままでは、競争の激しい環境の中でDIGGLEがさらに成長し、「組織の距離を縮め、企業の未来の質を上げる」というビジョンを達成する未来が遠のく可能性がある。
単に新たにデザイナーを採用できれば良いという話ではなく、今後も継続的にデザインが重要であるという認識のもと、デザイナーが力を発揮できる環境をつくらなければならないと考えました。
そこで、CTOやプロダクトマネージャー、開発メンバーを中心に、現状の課題認識や今後の方針について議論を重ねていきました。
1つの課題感として、実際の開発プロセスにおいて体験の良さを重視した判断を行うことがあまりできていなかったことに気付きます。
例えば、ある機能の実装を行う時に、以下2つの選択肢があったとします。
A : より良い体験を提供できるが、工数が大きくかかってしまう
B : 工数が低く、素早く出せるが、体験の良さは劣る
この場合に、Aを選択するほうが良いと感覚的に理解しているが、Bが選択されやすい状態にありました。
経営層や開発メンバーを含め、「お客様にとって使いやすいほうが良い」という価値観は共有していました。しかし、工数はSP(ストーリーポイント)として数値化され、判断の根拠としやすい一方、体験の価値は可視化されづらく、明確な根拠や納得感を持って優先度を決めることが難しい状況でした。
さらに、使いづらさがどれくらい許容されるのか、どのような体験を目指すべきかといった基準が明確でなかったことも、判断の難しさに影響していたと考えています。
このような状況では、デザインプロセスが下請け構造になりやすく、デザイナーの役割も「絵を描く人」に限定されてしまいます。
俯瞰すると、これは個々人の問題ではなく、体験を重視した意思決定がしづらい”構造”となってしまっていることが問題だと考えました。
また、この問題を「経験豊富なデザイナーやPdMを採用し、属人的なパワーで解決」しようとすると、いつか破綻してしまう可能性があります。
そこで、持続可能な仕組みにしていくためにも、体験の判断にオーナーシップを持った組織が、意思決定フローに組み込まれている状態を目指したいと考えました。
つまり、体験の目線からプロダクト判断に影響を与えられる存在としてデザイナーが必要であり、今後も継続的に体験を重視した判断をしていくためにデザイン組織が必要だと考えました。
このような考え方を社内で何度もディスカッションしながら固めていくことで、1〜2名デザイナー採用するという話ではなく、デザイン組織を立ち上げていくことを意思決定しました。
組織として立ち上げていく以上、なぜ今必要なのかという根拠を明確にしておく必要がありますし、その根拠が曖昧なまま進めてしまうと、体制を拡大する中で必要性がぶれて空中分解する可能性もあります。
そのため、体験を重視することで効果が見込める指標を決め打ちし、それに対する現状を明らかにすることで、必要性を補足していきました。
例えば、DIGGLEの失注理由を細かく見ていくことで、市場環境の中でDIGGLEの勝ち筋となっている点・負け筋となっている点を確認していきました。
結果として、以前は失注理由としてよく見られた「〇〇機能がないから(機能の不足)」がほとんどなくなってきており、逆に「〇〇機能が他サービスのほうが使いやすいから (体験の不足)」が増えていることが分かりました。
つまり、勝負の土俵が「どんな機能があるか」から「どのように使えるか」に明確にシフトしていっていることが改めて明らかになりました。
さらに、勝負の土俵が変わる中で、DIGGLEがどれくらいの満足度を提供出来ているかを確認するため、NPS®️分析を実施しました。
結果として、一部のユーザー層では想定以上のスコアであったものの、一方で想定を下回るスコアとなったユーザー層も顕在化しました。
これにより、満足度の観点からも体験の質を高めていく必要性が明らかになりました。
DIGGLEは経営企画部の単なる効率化ツールではなく、組織を横断したデータの一元管理とコラボレーションを実現することで、経営の意思決定に貢献することを目指しています。
このDIGGLEの目指すプロダクト像を実現していくためにも、組織全体で「使いやすい」と感じてもらえることが重要であり、そのためにはデザイン組織が必要。そして、デザイナー数がゼロとなっている状況だからこそ、組織立ち上げに踏み切る必要があると考えました。
組織立ち上げを意思決定してからは、デザイナー採用の優先度を一気に高めました。デザイナー採用を私の目標に組み込み、業務の半分以上を採用活動に割き、そのための予算も確保しました。
そこからはあらゆる採用媒体を試し、最終的にYOUTRUSTでのスカウト活動に注力していきました。
2023年10月から1人目デザイナーの入社が決まる2024年3月の約半年間で、合計77件 (1日あたり5〜6件) のスカウトをお送りし、ほとんど毎日のように面談も行ってきました。
さらに、1つ1つのメッセージは絶対にテンプレにせず、その方の経歴や思いを汲み取り、なぜDIGGLEに必要だと思うのかをしっかりと言語化したうえでお送りすることを心がけていました。
体験に対するオーナーシップを持って施策の判断をしていってほしいというミッションは、非常にハードルが高いことは理解していたので、最大限の誠意をもって会話できるようにしたいと考えていました。
約半年の採用活動を経て、DIGGLEのビジョンやプロダクトに強く共感してくださったシニアレベルのプロダクトデザイナー、江原さんが1人目のデザイナーとして入社しました。
江原さんの入社直後から、DIGGLEにおけるプロダクトデザインプロセスの見直しや、UIUXの改善プロジェクトを一緒に進め、着実にデザインによる価値を作っていくとともに、今後の体制拡大に向けた基盤を整えていきました。
結果として、「デザインを重視することでここまで使いやすさが変わるのか」と社内からの反響も改めて大きく生まれ、さらなる拡大に向けて動いています。
現在はデザイナー1名体制ですが、プロダクトデザイン領域を中心に役割を拡張していき、年内で3名、そこからさらに5名へと増やしていきたいと考えています。
ここまでまとめてきたように、DIGGLEでは激しい市場環境を勝ち抜くためにもデザインが重要であり、そのためにデザイン組織を立ち上げていくことが必要不可欠だと考えています。
また、その必要性についても、経営陣やプロダクトマネージャー、開発メンバー含めて何度も議論を繰り返しながら明確にしてきました。
デザイナー数がゼロとなる状況の中で、改めてデザイン組織を立ち上げることを意思決定し、採用にフルコミットしていた期間は、苦労も多くありました。
ただ、新しくデザイナーが入社してくださり、一緒にプロダクト改善や体制整備を進める中で、やはりデザインの力はDIGGLEに必要不可欠なものだと確信していますし、これからもこの認識は変わらないと自信を持って言えます。
今後はさらに体制を強化しながらプロダクト、コーポレート、ビジネス全体へと役割を広げ、あらゆる場面で体験の目線から正しい判断ができる組織にしていきたいと思います。