プレイドのデザイナーtomoです。

普段はPXD(プロダクト・エクスペリエンス・デザイン)チームの一員として、ブランドに関わるクリエイティブのデザインや実装を担当しています。

プレイドの新プロダクト「QualtData」のロゴやカラーなどのブランドDNAをゼロから作り上げたので、今回はそのプロセスをまとめました。私自身のオリジナリティとして、「アナロジー思考」という思考方法を用いながら進めたので、その解説や使い方も合わせて書いていきます。

▼QualtDataについて

KARTEは「CX(Customer Experience)の向上」を掲げており、その対象は顧客(エンドユーザー)です。KARTEを利用することで、クライアントは自社サイトやサービスを向上させ、結果それらを使う顧客に良い体験を届けます。

▼KARTEについて

ただ、プロダクトの成長とともに、多くの人が認識している狭義のCXよりもプロダクトの提供価値が大きくなってきました。例えば、「KARTE Datahub」はKARTEの活用を拡げることをコアの価値として利用されていますが、それだけに留まらない企業内のデータ活用プラットフォームとしても利用されています。

プレイドの提供価値・ブランド整理の図

「KARTE≒PLAID≒CXだけ」という認知を塗り替え、PLAIDという会社は人の立場や役割に関わらず「データによって人の価値を最大化する」ミッションを果たしていくことを示すために、KARTEから独立した形で、データプラットフォームを新たに作り上げることになりました。

事業戦略として「KARTE」や「CX」といった既存のブランドを切り分けると意思決定して生まれたプロダクトなので、実際の開発着手前にブランドDNAの設計をしていかなければいけないプロジェクトでした。

構想段階から入ってブランドDNAを作り切る役割として、CDOのsuさんから私の名前が挙がり、プロジェクトを開始する運びとなりました。

まず最初は、ブランドが携えるべき本質を見定めるために、前身となるDatahubのAsIs(問題点・強む弱み)、ToBe(誰に何を伝えたいか、目指す未来)の洗い出しを行いました。

ブランドのアウトプットはロゴ、ブランドカラーなどの視覚情報といった非言語要素が目立ちますが、まずは思考や、その後の非言語要素に関する議論を進めやすくする言語的な定義を行いました。

言語的定義→非言語的定義の順に進めていく

経営陣から現場メンバーまでヒアリングを実施し、理念体系、ベネフィット、ブランドコンセプトといったレイヤーに分けて考えていきました。非言語要素も加え、これらをブランドDNAとしています。

理念体系は、理念や価値基準など「ブランド自身がどのような存在を目指すのか」を言語化しています。ブランドDNAの中で最も上流に位置するため、その後の定義や社内の認識がずれないよう、PLAIDのコーポレートミッションをブレイクダウンするところから始まっています。

Notionで言語によるブランドに関する定義をまとめたもの。ブランドを間違った方向に進めてしまわないよう社内に共有している。

続いてのベネフィットは、利点や機能的属性(実質的な強み)、感情的属性(感じてほしい印象)など、ユーザーに対して、どのような価値提供がミッション実現に繋がるかを定義しています。

ブランドの価値を定義し、機能的・感情的属性を言語化

理念体系とベネフィットをストーリーやフレーズにまとめたブランドコンセプトについては、ビジュアル・アイデンティティの開発指針として複数案出しています。

ブランドコンセプトの発散
コンセプト案から要素を抽出し、プロダクト名を発散する

それぞれのコンセプト案から要素を抽出し、ネーミングの元となるワードを発散していくなかで、「Qualia」という単語が最も馴染む言葉として残りました。

「Qualia」は「感覚質」と訳され、主観によって捉えられる現象的側面、とりわけそれを構成する個々の感覚を指します。デジタルなプロダクトであっても、そこに蓄積するデータは人の思考や行動による痕跡であり、またそれを捉えようとするのも人であり、各々が持つ「(ポジティブな意味としての)主観」が介在することから選定しました。機能的属性である「直観」的UIによる発想力向上の促進も、その理由です。

そのほか、品質や優良性を意味する「Quality」や「Alternative(代替、慣習的方法をとらない、新しい)」などとの造語により「Qualt(クオルト)」となりました。

言語的な定義とネーミングが完了したのちに、ロゴや色彩、書体などの非言語定義に着手しました。今回はロゴに焦点を当てて説明します。

まずは、いきなりデザインに取り掛かるのでなく、こちらもまた言語的なアプローチから始め、重要なキーワードを見落とさないよう、またインスピレーションを得るきっかけとして、ミッションやネーミング、前身のDatahubから幅広くモチーフを抽出しました。

幅広くモチーフを抽出、具象抽象に関わらずブレイクダウンし続ける

抽出が完了したあとは、モチーフが単一の造形として、どのような描写方法があるか発散します。そして、描写した単一モチーフを複数組み合わせます。そうすることで、ひとつの造形の中に複数の意味を込める。QualtDataを、最小単位の構成で、より正確に表現していきます。

抽出したモチーフをビジュアライズ

20弱のアウトプット、3度に渡る議論を行い、QualtDataでは4つのモチーフを組み合わせたロゴデザインが採用されました。

最終的にロゴを構成する4つのモチーフ

1つ目は、直感のモチーフとしての「ニューロン」。ニューロンが、電気信号から思考・行動への変換地点としての最小単位であることから着想しました。このことは「デジタルからアナログへの変換」とも言え、データから価値へと具現化されるQualtDataを表していることから来ています。

2つ目は、「積み木」のモチーフ。これは、データを積み木で遊ぶように、自由に安全に扱えることから由来しています。六角形のシェイプは、ブロックをパース(奥行き感)のある描写とすることから由来しています。立体を2次元平面に描く(次元を落とす)という描写自体も、QualtDataの「データを扱いやすくする」というコンセプトに適合しています。

3つ目は、「レイヤーと太陽」のモチーフ。レイヤーはQualtDataのデータ構造であるオニオン構造を彷彿とさせることから、太陽はビジネス価値の結実に貢献するという思いから由来します。また、太陽の内部構造は「中心核、放射層、対流層、光球、彩層」とオニオン構造的でもあり、こちらもまた一致しています。

そして最後、4つ目は「データ」のモチーフです。ビットのようなモジュールや、同じようなモジュールがリピートする構造で表現しています。

最小単位で複数の意味を込め、可能な限り正確にQualtDataというプロダクトを表現する
ロゴの候補を色彩とともにパターン出し
ロゴの色彩設計

言語、非言語双方を定義するうえで、必ず要素の発散を行います。幅広く発散することで、世界観の表現の正確性を高めることができます。

そこで今回私が意識したのが「アナロジー思考」です。アナロジー思考とは、全く別の分野の要素を抽象化することでアイデアを転用する思考法のことです。

例えば、今回のプロセスで言うとVI開発指針であるブランドコンセプト「Ghost in the Data」は、90年〜2000年代のアニメーション作品「攻殻機動隊(Ghost in the Shell、Stand Alone Complex)」と60年代のドイツの小説「The Ghost in the Machine」から転用し作成しています。

「攻殻機動隊」の世界では、人の電脳化が進み、外部世界と繋がっています。この世界観が、QualtDataの目指す未来(データが脳の拡張として存在する世界観)と酷似していました。もちろん、作品を知らない人にとってはピンとこない話ではありますが、アナロジーを用いなければ説明や想像は困難になります。 このように、他分野の構造を転用することで受け取り手との認識のズレを最小化できるというメリットがあります。

もう1つの由来である「The Ghost in the Machine」。英語とドイツ語に精通した著者は「Ghost」を「精神」「意識」という意味で捉え利用している。

もう1つ、特にブランドのような抽象的なものを設計する際に、​​過去の事実や神話、童話など「語り継がれてきた身近な物語や音楽」の構造を転用することで、潜在的に「親しみ」を感じられるものを作ることができると私は考えています。

ブランドが受け入れられやすい土壌へと耕しておくことで伝えたいメッセージの信頼性や説得力の向上に繋がる、「QualtData」をより多くの人に受け入れてもらうブランドにしたい、そのような思いでブランドデザインを進めてきました。

「データによって人の価値を最大化する」というPLAIDのミッションや、KARTEというプロダクトは、データを単なる情報としてでなく人と同様に扱う姿勢が込められていますが、それらもアナロジーによって短いフレーズに込められたように考えています。

アナロジー思考を駆使するために、日頃からNotionに言葉やフレーズをストックしている

ロゴのような非言語コミュニケーションだからこそ、言語によって多角的構造的なプロセスを踏み、ブランドDNAを設計しました。併せて、メッセージの信頼性や説得力を向上させるために、アナロジーを利用して、アイデアを発展させたり、ブランドが受け入れられやすい土壌づくりを行いました。

プロダクトがない構想段階からデザイナーとしてプロジェクトに入ったのは今回が初めてで、自分にとって大変チャレンジングな取り組みでしたが、ブランドの「始まり」については、完遂できたことに安堵しています。

ブランドに完成はなく、プロダクトや社会の有り様に応じて絶えず変化していかなければならないもののように思います。プロダクトの伴走者として、ブランドの人格や表現に絶えず反映し続け、育てていきます。

なお、今回まとめたロゴデザインプロセスについて、11月25日(木)開催のこちらのイベントで詳しくお話します。興味ある方はぜひお越しください。

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