MIXIデザイン本部 サウンドデザイナーの笠島です。アーティストのバックバンドからキャリアをスタートし、レーベルでの楽曲制作、フリーランスを経てMIXIに入社し、ライフスタイル事業の「Romi」や「家族アルバム みてね」 、スポーツ事業の「千葉ジェッツ」など、さまざまな事業領域でサウンドを軸としたデザインに携わってきました。
サウンドは、サービスやコンテンツとユーザーとの接点において、視覚情報と同様に重要な役割を持ちます。
今回は、MIXIで取り組んできたサウンドデザインの事例を基にしながら、サービスデザインにおけるサウンドの必要性や、サウンドデザイナーに求められる役割についてまとめたいと思います。
サウンドは、サービスやコンテンツを受け取るユーザーの体験を形作る、重要な構成要素です。
例えば、アプリの通知音はユーザーが知るべき情報を適切に伝える役割があり、スポーツ観戦時のBGMであれば、盛り上がりや高揚感を音を通じて演出する役割を持ちます。 また、デザインである以上、何かしらの課題解決や目的達成を行うための手段としてサウンドを活用することになります。
少し掘り下げると、サービスデザインにおいてサウンドが担う役割は大きく分けて次の3つです。
感情の演出 (ex.場面に合わせたBGM)
ブランドイメージの構築 (ex.そのサービスらしい雰囲気や、トーン)
ユーザビリティの向上 (ex. アプリの通知音)
また、これらの要素はどれか1つだけ意識すれば良いというものではありません。
例えば「アプリの音声案内」であれば、ユーザーの注意を引き、適切に情報を伝える役割を持ちますが、注意を引くために不快な音声に寄せすぎると、アプリ全体の印象を悪くしてしまいます。そのため、ユーザビリティとブランドイメージを両立するサウンドを模索する必要があります。
このように、サウンドが持つ強みとバランスを意識しながら、場面に応じて適切なサウンドを制作し、課題解決やポジティブな変化につなげていくことが、サウンドデザインに求められます。
一方で、サウンドは視覚的ではなく、人によって認識がズレやすい性質があります。
そのなかで、施策に活用するサウンドを、個人の好みや曖昧な共通認識のまま制作してしまっては、結果が出なかったり、ミスブランディングにつながる可能性があります。
つまり、非言語情報であるサウンドと、施策目的や意図をうまく接続していくことが重要であり、この接続部分をサウンドデザイナーが担います。
例えるならば「通訳者」のような存在として、企画者の意図を汲み取り、さまざまなアプローチを提案しながら、+αの付加価値をサウンドを通して提供していくことが重要だと考えています。
ここからは、具体的なサウンドデザイナーの動き方について、実際のプロジェクトを例にご紹介します。
「会話AIロボットRomi(ロミィ)」の筐体音声
「みてねみまもりGPS」のアラート音
「千葉ジェッツ」のホームアリーナBGM
Romi(ロミィ)は、数億の日本語データを学習し、MIXIが独自に開発する人工知能を搭載した会話AIロボットです。最新の会話AIがその都度会話内容を作り出しているため、今までのロボットとはひと味違った“会話力”が魅力の新しいAIロボットです。
Romiでは、会話音声はもちろん、目覚まし時計(アラーム)や気象・災害情報のお知らせ、ラジオ体操、歌・曲、モノマネなど、オーナーとRomiのコミュニケーションを豊かにするための様々なサウンドを搭載しており、これらのサウンドのディレクション・制作を担当しています。
Romiの価値は、スマートスピーカーのように利便性を高めるためのロボットとは異なり、オーナーの会話相手として、オーナーに寄り添ったパートナーのような存在に成長していくことにあります。
そのため、Romiを構成する外観、質感、音声、会話内容などがオーナーの日常に溶け込み、一緒に居て心地よいと思える体験を得られることが重要です。
Romiらしさを形作るトーンは統一しつつ、目覚ましアラームや天気予報などの情報を伝える場合は、注意を引きつつもネガティブな印象を与えないサウンドに、歌やモノマネなど遊びの場面では、気分が楽しくなるようなサウンドである必要があります。
このように、コンテンツのあるべき姿を踏まえたサウンド制作は非常に重要であり、そのコンテンツにふさわしいサウンドが生まれた時や、利用者に喜んでいただけた時は、とても嬉しく感じます。
みてねみまもりGPSは、お子さまに小型・軽量のGPS端末をお持ちいただくだけで、ご自身のスマホアプリから、いつでもお子さまの位置情報を確認することができるサービスです。
みてねみまもりGPSでは、子どもが携帯するGPS端末に搭載されている「お知らせボタン」を長押しすると、親のアプリに通知が届くという機能があるのですが、通知時にアプリ上で再生されるアラート音には、特に気を使いながら制作しました。
みてねみまもりGPSでのアラート音
※プレイヤー右下から音声をONにしてください
お知らせボタンは、もしもの時に助けを呼んだり、親に迎えにきて欲しい時や、日々の待ち合わせにも使える機能です。
子どもの「こまった」「たすけて」など、もしもの状況を親に知らせ、適切な対応を取れるようにすることが目的なので、アラート音を通して親の注意を引くことがまず重要なポイントです。
ただし、必要以上に不協和音的なサウンドにすると、不安を掻き立てて冷静な対応を取りづらくしてしまったり、「怖いから」と子どもがお知らせボタンを押すことを躊躇してしまう可能性もあります。
必要な場面で使うことができなければ、お知らせボタンの意味はありません。
このアラート音を、目的に対して正しく機能するサウンドにするためにチーム内で何度も議論を重ね、また、感性に依る部分もあるので、複数のサウンドパターンを制作して様々なメンバーの意見を取り入れながら制作していきました。
こちらはサウンドデザイングループの他メンバーが主に担当したものですが、B.LEAGUEに所属するプロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」のホームアリーナで流れるBGMについてです。
千葉ジェッツ ホームアリーナでのBGM①
※プレイヤー右下から音声をONにしてください
千葉ジェッツ ホームアリーナでのBGM②
※プレイヤー右下から音声をONにしてください
選手入場時や試合中のBGMとして、ホームアリーナでの熱量や雰囲気を増長する役割を持つサウンド。
制作時には、千葉ジェッツらしさや、熱量を感じられる音質やテンポはもちろん、実際にアリーナで流れた際の聞こえ方も考慮する必要があります。
ヘッドホンでのサウンドと、最大5000人を収容する空間でスピーカーから聞こえるサウンドでは、想像以上に聞こえ方が異なります。チームではユーザーと同じ体験をしてデザインすることを大切にしているため、制作メンバーは何度も実際にアリーナに足を運び、サウンドの調整を行いました。
このように、サウンドデザイナー自身も、実際にコンテンツを受け取る方々と同じ体験をしながら、より良いサウンドに近づけていくプロセスも重要だと考えています。
いくつか例を紹介しましたが、私自身フリーランスからMIXIに入社して面白みを感じているのが、関わるコンテンツが多いことです。
関わるコンテンツが多くなっていくほど、そのコンテンツに合わせて求められるサウンドの幅も一気に広がり、サウンドデザイナーの手腕が問われる場面も多くなります。
そのなかで、やはり今までの表現だけでは足りなかったり、もっと良いアプローチができるはずと思うことも多々あります。 MIXIには、特設サウンドスタジオがあったり、様々なキャリアを持ったサウンドデザイナーが多く所属しているので、アイデアが思いついたらすぐスタジオで試してみたり、他のサウンドデザイナーにアドバイスを貰ったりしながら、より良いサウンドを作るための試行錯誤を重ねています。
今後もこのような環境的な特性も活かし、技術研究も行いながら最適なサウンドを提案できるようにしていきたいと思っています。
サウンドデザイナーとして、音を軸とした制作を担当していますが、ユーザーにとっての体験は音だけでなく、様々な要素から構成されます。つまり、サウンド単体ではユーザー体験の全てを構築することはできません。
ただし、「豊かな自然」を想像すれば、川のせせらぎや鳥のさえずり、葉擦れの音が想起され、「都会」を想像すれば車の音や人々の声、雑踏の足音が想起されるように、音が人々の認識や体験に与える影響は非常に大きいものだと捉えています。
そのため、事業や企画の本質的な価値をしっかりと掴み、最適なサウンドアプローチを紐づけていくことができれば、ユーザーに届けられる感動はより大きくなっていきます。
このようなサウンドを通して得られる効果を科学し、ユーザーの喜びや事業成長にしっかりと接続していくことが、サウンドデザイナーに求められる重要な役割だと考えています。
これからもMIXIにおける様々なサービス・コンテンツの成長を、サウンドを起点に支えていきたいと思いますので、今後にご期待ください。