SUPER STUDIO サービスデザイナーの浦田です。2025年1月に入社し、現在は「ecforce」のプロダクトデザインに携わっています。

プロダクトデザインを進めるにあたってドメイン知識の習得や顧客理解が必要であることは言わずもがなですが、そのような中で私が取り組んできたことのひとつであるドメイン理解の仕組みづくりについて、ご紹介したいと思います。

その背景には、ドメインに対する深い理解をデザイナーを含むチーム全員で共有することで、ユーザーへの共感を軸にしたプロダクトデザインを、最初の一歩から実現しやすくするという考えがあります。

今回は具体的に、ブランド運営に関する業務フローの可視化と、プロダクトデザインにフィードバックするための顧客インタビュー獲得に向けた導線づくりについて紹介していきます。

入社後、新機能のデザインに携わる中で、顧客のユースケースに対する理解が十分でないと感じたことが、ドメイン理解の仕組みづくりに取り組むきっかけとなりました。

当時、ecforce bi*の機能設計を担当していたのですが、どのような方が実際に使用するのか、どんな業務で何を目的に使用するのか、どのような情報が必要なものなのかなどを想像する際、私自身の解像度が粗く、プロダクトデザインに迷いを感じる場面が多くありました。

自分自身にブランド運営の経験がなかったこともあり、プロダクトデザインの方向性や使いやすさを追求するには、顧客の業務理解を深めていくことが必要だと感じました。

*ecforce bi :データ活用における可視化・分析を行うダッシュボードツール。煩雑なデータ設計や連携等が不要で、EC特有のデータの可視化・分析が容易となる。また、複数のチャネルを跨いだデータの可視化・分析も可能とする。

また、デザイナーが上流の意思決定へ関与していくためにも重要だと感じていました。

私が入社した当時、プロダクトデザイナーは2名体制。初期から構築してきたデザインシステムによってUIデザインの効率化は進んでいた一方で、プロダクトの改善・アップデートの優先順位やデザインの方向性などは、主にPdMやPMMが判断することも多くありました。

もちろんデザイナーのリソース的な制約もありましたが、それ以上に、「上流への関わり方」にも伸びしろがあると感じていたのです。

上流で行われているのは、顧客の課題やユースケースを丁寧に読み解き、「本来あるべき姿」を描くこと。そしてその理想に向けて道筋を設計していくことです。そこで価値を発揮するためには、顧客や顧客の業務そのものに対する高い解像度=ドメイン理解が欠かせません。それこそが判断の確からしさを裏付けし、上流の意思決定に必要な要素になると考えました。

実際にPdMやPMMの判断の裏付けには、ブランド運営の経験や顧客接点の多さといった、ドメイン理解の蓄積があるからこそだと言えるでしょう。

彼らと共に意思決定に関わり、高いパフォーマンスを発揮するためには、デザイナー自身も同等以上のドメイン理解を持ち、それを成果につなげられる存在となることが求められます。

ここからは、そうした問題意識をもとに、実際にどのような視点でドメイン理解の仕組みづくりを行ってきたのかについてまとめていきます。

ドメイン理解の仕組みづくりを行う上で重要視していたのは、「森」と「木」を行き来しやすい状態をつくることでした。

ここでいう、「森」は業務フロー全般「木」は個別具体のユースケースを指します。

ドメイン理解を深めていくうえでは、以下のような課題がありました。

  • 森の課題 : 全体像が見えない

    • ブランド運営における業務フロー全体を把握できる情報がなく、自分たちがデザイン・開発しているものが、本当に顧客の利用シーンに適しているのか判断しづらい状況がありました。

  • 木の課題 : 顧客インタビューのハードルが高い

    • 顧客インタビュー対象者のリクルーティングには、物理的・心理的なハードルがあり、迅速に個別具体のユースケースを検証することが難しいという課題がありました。

そこで、これらの課題を解消するために、業務フローを可視化して全体像を把握することと、インタビューの仕組み化によって一次情報へのアクセス性を高めるといった施策に取り組むことにしました。

こうした視点を重視する理由は、顧客インタビューなどで一次情報を点で収集するだけでは文脈が見えにくく、逆に全体像だけを捉えても個別の事象に対する解像度が低くなってしまうためです。

だからこそ、「森(業務フロー全体)」と「木(個別具体のユースケース)」の両方に触れやすく、行き来しやすい状態をつくることが、ドメイン理解の仕組みづくりを行ううえで重要だと考えました。

ここからは、SUPER STUDIOで実際に取り組んできた施策についてご紹介します。

まずは、「森」の課題を解消するために取り組んだ施策について。ブランド運営における業務フローの全体像を把握しやすくするために、その可視化を進めていきました。

『(ふつうの)ショップ』や『MEQRI』など、SUPER STUDIOで自社D2Cブランドを運営するチームと連携し、ブランド運営における業務フローの可視化を行い、社内の誰でもアクセスできるようにしました。

具体的には、業務フローの全体像とシーン別 (商品登録 / 倉庫納品 / 在庫設定) の詳細なフローをまとめ、全体と具体を行き来できる構造にしました。

ブランド運営を可視化した業務フロー図

ecforceというブランド運営をされる方をターゲットとしたプロダクトを提供している以上、ブランド運営業務そのものを理解することはデザイナーに限らず、SUPER STUDIOの全社員にとって重要なことです。 一方で、商品企画や製造管理、出荷作業、マーケティング施策の実行など、 ブランド運営と一口に言ってもその業務は多岐にわたり、実際にブランド運営に携わったことがなければ、その全体像を正確に把握するのは非常に労力がかかるものです。

そこで、「業務の流れを俯瞰できるようなものがあれば、より深いドメイン理解につながるのでは」と考え、先に述べた自社D2Cブランドを運営するチームと協力し、業務フローの分解・可視化を進めていきました。

あくまでこれらはストック情報としてまとめたものであり、「どう活用していくか?」も重要な視点です。現時点では下図のように中長期的に運用することで、組織全体でのドメイン理解向上や、それによるアクションのしやすさに繋げたいと考えています。

ブランド運営における業務フローの可視化の活用シーン

また、これをきっかけに「ここのフローはまだ解像度が低いから、一度現場に行ってみよう」といった行動が自然に起こっていくことも期待しています。

次に、「木」の課題を解消するために取り組んだ施策についてです。プロダクトデザインの精度を高めるために、顧客インタビューは欠かせないものです。その対象者のリクルーティングを、迅速かつ的確に行えるようにすることで、一次情報へのアクセス性を高める仕組みを構築しました。

素早く一次情報を得てプロダクトの検証サイクルを早めるために、ecforceユーザー限定のコミュニティ『ecforce compass』を活用した顧客インタビューの仕組みを整備しました。

仕組み自体はコミュニティサイト上で「インタビューに協力していただける方」を募集できる機能を追加するというシンプルなものですが、一次情報へのアクセス性を高めるという点では非常に有効だと考えています。

『ecforce compass』内で顧客インタビューを募集

これまで顧客インタビューを行う際には、カスタマーサポートのメンバーからの紹介に頼ることが多くありました。そうなると、カスタマーサポートのメンバーの業務負担が増え、依頼のハードルが高くなってしまったり、接触できる顧客に偏りが生まれやすかったりといった課題がありました。

一方で、カスタマーマーケティングチームを中心に運営してきた『ecforce compass』は、参加人数が1,600名(※2025年6月時点)を超える規模にまで成長し、ブランド運営やecforce活用に関する知識・ノウハウが日々共有される場として定着していました。

このアセットを活かし、関係者全員にプラスになるような形で顧客インタビューの仕組みを作れないかと考えたことが出発点です。

  • 顧客インタビューしたい人 : 要件に合致したユーザーと素早く出会える

  • カスタマーマーケティングチーム : コミュニティ活性化のきっかけにつながる

  • ecforceユーザー : ecforceがより使いやすくなるための機能開発・改善への関与

実際に顧客インタビューへの協力を募ったところ、すぐに10名弱の顧客から協力の申し出をいただき、機能改善に向けた貴重なインサイトを得ることができました。

また、SUPER STUDIO社内に在籍するドメインエキスパートを集約し、いつでも気軽にインタビューできる仕組みづくりを行っている最中です。

SUPER STUDIOには、ECサービスやブランド運営に携わった経験があるメンバー、店舗運営の経験者や日々お客様の声に触れているカスタマーサポートの担当者など、豊富な経験を持つメンバーが多数在籍しています。

社外のユーザーに対してだけでなく、社内でもその道のエキスパートにヒアリングしやすい仕組みをつくることで、より素早くプロダクトの仮説・検証サイクルを回せる土壌を整えようとしています。

社内に在籍するドメインエキスパートを集約し、気軽にヒアリングできる仕組みづくりへ

ここまでまとめてきたドメイン理解の仕組みはあくまでインプットの仕組みです。重要なのはその先の「プロダクトの精度向上」「リリース前からの見込み顧客獲得」「新機能の種となるインサイトの発見」などの成功事例を生み出していくことだと考えています。

属人的なドメイン理解ではなく、仕組みによってドメイン理解を育てていくことで、組織全体でユーザーインサイトを捉えた意思決定が増えていく——つまり、「確からしさ」が高まり続ける状態を実現したいと考えています。

SUPER STUDIOが取り組むコマース領域は、深く関わるほどその面白さが増し、プロダクトの改善・アップデートの精度向上がお客様の売上に直結し、顧客の喜びの声にもつながります。

私たちSUPER STUDIOのデザイン組織は、「商売という体験をデザインでひらく集団」、つまりブランドを運営するという体験を、デザインの力で誰にでもできるようにすることを目指しています。今回取り組んだドメイン理解の仕組みも、そのための一つの武器として、今後さらにより良いサービスづくりに尽力していきます。

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