スタディストのリサーチ&デザイン室では、プロダクト開発の案件を超えて、ビジネスプロセス全体に顧客理解を活用することを推進しています。

今回は、その中でもセールスメンバーの提案資料などに活用されている「顧客解体新書」の取り組みについてまとめていきます。

ペルソナのように顧客情報を抽象的にまとめたものではなく、具体的な1社1社の活用事例を詳細にまとめた “活用事例マップ” や、業種ごとの汎用的な課題をまとめた “よくある事業課題” など、実際にビジネスの現場で活用されることを意図した具体的な情報がまとまっているのが特徴です。

スタディストでつくっている「顧客解体新書」

全社的に顧客理解を浸透させたいと考えている事業会社のデザイナーやリサーチャーの方にとって、少しでも参考になれば幸いです。

スタディストが提供するマニュアル作成・共有サービス「Teachme Biz」は、金融業や小売業、製造業など幅広い業種で利用されています。利用用途も新人教育から現場オペレーションの標準化、ユーザーズマニュアルなどと幅広く、ステークホルダーも多様です。そのため、業務理解が非常に難しいという課題があります。

マニュアル作成・共有サービス「Teachme Biz」

2024年から、これまで以上に製造業の企業での活用を増やすことに注力していく方針が決定されました。

これまでにも、製造業の方向けにいくつかの成功事例は生まれていましたが、企業ごとに現場の環境やマニュアルへの取り組み状況が異なりすぎて理解が難しい部分があります。

例えば、機械製品製造の企業ではライン作業のマニュアルが必要となります。一方で、ガスを扱う事業者では点検作業のマニュアルが必要となるなど、扱うサービスや製品が変わると求められる内容が大きく異なります。

製造業と一口にいっても、業務のパターンは無数にあるので理解が難しい

スタディストでは、毎月いくつもの活用事例記事を作成しています。

ただ、このような記事ベースでのまとめ方では、具体的な活用方法についてはキャッチアップしづらいので、社内向けに顧客理解をより解像度を高めて共有できるようなものが必要とされていました。

これまでもリサーチ&デザイン室では、小売業向けにペルソナやジャーニーマップを作成してきましたが、最初は驚きや理解の深まりが見られるものの、長期的に活用されることはほとんどありませんでした。

わかりやすく具体的な記述をしていくほど情報量が増えてしまい、理解するコストや利用するコストが高くなってしまいました。

これまで作成していたペルソナやジャーニーマップは、継続して活用されていなかった

例えば入社オンボーディングなどの場面では活用されるものの、ビジネスプロセス全体で「なくてはならない」アウトプットにはなっていないのではという違和感がありました。

特にこれからさらに注力する製造業では、小売業とは異なり、マニュアルの利用環境や目的が多様であるため、一つのペルソナを作成しても他の企業には適用しにくいという問題があります。

いくつもペルソナを作成したとしても、どうしても網羅されていない要素が生まれてしまいます。結果として、つくってみたものの利用されず共通認識は薄まってしまうリスクが見えていました。

ペルソナを無数につくっても、活用はされづらいだろうと予測していた

そこでアウトプットされたのが「顧客解体新書」です。

これはペルソナのように顧客情報を抽象化してまとめたものではなく、具体的な1社1社を対象に「どのような目的でお客様がTeachme Bizを使い、どのようなフローで活用し、どの課題を解決しているか」をまとめたものです。

顧客解体新書の内容
顧客解体新書の目的
個社ごとのTeachme Bizの詳細な活用例をまとめた “活用事例マップ”
製造業の課題を俯瞰できるようにまとめた “よくある事業課題”

すでにビジネスメンバーも商談や提案の現場などで実際に活用を始めており、全社への浸透が始まっています。

ここからは、顧客解体新書の考え方や作成・浸透ステップについて詳しくまとめていきます。

顧客解体新書の作成・浸透ステップ

まず最初に「目的の設定と取り組みの合意」を行います。

ステップ1

顧客解体新書は、「顧客内でどのようにTeachme Bizが利用されているかの認識を合わせる」という目的だけでなく「顧客への提案資料として使えるようにする」という具体的な活用先を想定してアウトプットしていました。

顧客解体新書の目的

当時、CSチームでは「利用の拡大」がテーマとなっていました。一方で、そのためには、前述したような製造業のお客さまについても深く課題理解を進めていかなければなりません。

ただ、今までのようにペルソナやジャーニーマップのような抽象的なまとめ方では、CSメンバーが現場で使えるようなものにはならないだろうと思っていました。

そこで、CSメンバーが実際に提案を行う場面でもそのまま使えるくらい、具体的で活用可能な情報をまとめていくことを目指すこととしています。

リサーチ&デザイン室からは、プロダクトデザイナーとして活動する原口が、案件と兼務する形でアサインされました。他に、CSのメンバー数名がプロジェクトメンバーとして参加しています。

まず、PoC的に取り組みをしている一社を対象に、個社ごとに活用イメージが伝わる解像度の高いまとめとして「活用事例マップ」を作成しました。

ステップ2

最初はジャーニーマップのような形でTeachme Bizの導入から定着までのストーリーをアウトプットしてみたところ、リサーチ&デザイン室の室長である磯野さんから「目的を踏まえると、もっと顧客視点で、具体的に業務の中でどのようにTeachme Bizを活用しているのかが分かるものをつくるべきでは」とのレビューを受けました。

最初のアウトプットはジャーニーマップ的に、スタディスト側の視点でまとめていた

そこで、サービスブループリントのような形で、1社単位で「顧客の業務の中でTeachme Bizをどのように使用して、課題を解決しているのか」の流れをまとめることにしました。

あくまで、これはお客さま目線での行動をまとめていることがポイントです。例えば、現場のOJT教育の中でどのようにTeachme Bizが活用されているかといった内容をまとめます。

スタディスト側の施策をまとめたものではなく、顧客理解を深く進めるためのアウトプットにするため、スタディスト側の行動などは記載していません。

「活用事例マップ」のv1

最初は仮説ベースで作成し、CSメンバーからのレビューをもらいながら疑問点を洗い出していきます。

疑問点を解消するために、お客さまにも定例mtgの中で30分時間をもらってヒアリングを行い、ブラッシュアップしていきました。

お客さまに対してヒアリング

最終的に、Teachme Bizの個社ごとの詳細な活用方法をまとめた「活用事例マップ」ができました。

1社単位での、Teachme Bizの詳細な活用方法をまとめた「活用事例マップ」

形がまとまってきた段階で、デザイナー陣にもレビューを依頼します。

「どのような規模、目的で導入しているお客さまなのかが分かるとよりイメージがしやすくなりそう」という声をもらい、活用事例マップの背景にある、前提状況がわかるスライドも追加しました。

個社ごとの前提情報がわかるスライドを追加

最初の1社での活用事例マップが固まってきたので、セールスメンバーにもヒアリングを行い、フィールドセールスでの提案の場面や、インサイドセールスの架電の場面などで活用できるかを確認していきました。

ヒアリングの中で、「個社単位のマップだけでなく、製造業の企業が抱える事業課題を俯瞰できるような資料が欲しい」という声があがりました。

セールスメンバーにヒアリング。「個社ごとの活用例だけでなく、製造業全体の課題を俯瞰できるものが欲しい」との声

前述したように、製造業の事業所形態は多様で理解が難しく、1社単位の解像度を高めるだけでは顧客理解を深めづらい背景があります。

そこで、製造業全般のよくある事業課題をまとめた資料を作成しました。これも、スタディスト側で解決できる課題をまとめたのではなく、お客さま視点で、製造業における汎用的で、かつクリティカルな課題をまとめたようなものになっています。

 製造業における “よくある事業課題” を追加で作成

この “よくある事業課題” まとめと、 “活用事例マップ” を組み合わせて、課題の俯瞰と、個社ごとの具体的なTeachme Bizを使った解決方法を行き来できるように資料を組み立てました。

“よくある事業課題” は、 “活用事例マップ” とリンクするようにつくられている

“よくある事業課題” を作成したあたりで、セールスメンバーからの反応もかなり良くなってきました。

“活用事例マップ” も、2社分作成することができ、4つの事業課題に対しての活用が詳細にイメージできる資料になってきたので、ここからは全社に浸透をしていくために実績づくりに取り組んでいきます。

ステップ4

初期から繰り返しセールスメンバーにヒアリングを行っていたところ、「これは使えそうだ」「提案などにも積極的に組み込んでいきたい」という声がどんどん生まれ始めていきます。

セールスの部長からも「一緒に連携して運用をしていきたい」と伝えてもらったので、セールスメンバーを巻き込んだワーキンググループを設置しました。

運用のために、セールスメンバーを巻き込んだワーキンググループを設置

ワーキンググループでは月1回の定例でのチームでの活用状況の共有や、活用推進に向けたディスカッションをしています。

それに加えて、必要に応じて各チームの定例に出向いて説明会を行うなどの活動を行い、ワーキンググループメンバーには、セールスメンバーからの課題の吸い上げや、提案の現場での活用を積極的に進めてもらっています。

「こういうものができた」と各ビジネスメンバーに草の根的に共有しながら、現場での活用事例を増やしています。

フィールドセールスの場面では、ワーキンググループのメンバーを中心に、実際の提案の場でお客さまに活用事例マップを見せて「現在どの課題がありますか?」と深掘りしたヒアリングが行われるようになっています。

実際の提案の場面で、活用事例マップを直接お客さまに見せてヒアリングをしている

また、インサイドセールスチームにも顧客解体新書を活用してもらえるようにコミュニケーションを行います。

初めの1ヶ月試しに使ってもらっていたのですが、その後聞いてみたところ「実はうまく使えていなかった」と伝えられます。

改めて深ぼってみると「架電中はすでにトークスクリプトのシートを開きながら話している」「電話しながらいくつもツールを開くのは難しい」ということが分かりました。

そこで解決に向けて、インサイドセールス側の方々とディスカッションを行い、すでに使っているトークスクリプトのシートに、顧客解体新書の "よくある事業課題" を反映していただくことになりました。

現在では、架電時の課題ヒアリングなどにもスムーズに活用されるようになりました。

既存のトークスクリプトに "よくある事業課題" を反映し、インサイドセールスの架電時のヒアリングで活用されるように

顧客解体新書も、いわば社内向けのプロダクトのようなものです。自分も、SaaSツールのCS担当のように運用に向けて伴走していったことで、実績にしっかりつながっていきました。

9月に顧客解体新書の全社浸透を行いました。

2024年9月、全社に顧客解体新書の活用イメージを共有

ここまでにまとめたように、浸透の時点で、すでに複数の実績が生まれていました。今回、セールスやCSのメンバーに顧客解体新書の価値について実感を聞いてきたので、その声をまとめておきます。

セールスメンバーやCSメンバーからの声

現在もワーキンググループを継続的に運用しており、セールスやCSの課題に合わせて顧客解体新書をアップデートしています。運用を通じて、顧客解体新書がビジネスプロセス全体の課題解決につながるように育てていきます。

今回の取り組みで最も意識していたのは、明確に事業の課題解決に活用されるユーザーリサーチを行うことでした。

これまでもペルソナやカスタマージャーニーを作成してきましたが、目的が不明確なアウトプットは「なんだか良さそう」と思われる一方で、普及しづらい傾向にあるなと感じています。

顧客解体新書のプロジェクトでは、「単価向上」や「受注率向上」など具体的な目的を設定することで、IS、FS、CSの提案の場面で効果的に使えるよう、要件が具体化され、内容も用途に適したものへと磨かれていきました。

「なんだか良さそう」なものではなく、「解決する事業課題が明確」なアウトプットを

ふわっとしたアウトプットではなく、具体的な課題を解決するためのユーザーリサーチが重要であると、今回改めて感じています。

スタディストのリサーチ&デザイン室(リサデ)では、「デザインブースト」というコンセプトのもと、デザイン組織の成熟度を測っています。

スタディストのリサーチ&デザイン室が掲げる成熟度の指標「デザインブースト」

案件を超えたビジネスプロセスに貢献するという現在のリサデの注力テーマに沿い、基準となるようなアウトプットをつくることができました。今後も顧客解像度を高め、事業成長を生み出す活動を続けていきます。

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