2023年11月から2024年2月にかけて、『デジスマ診療』のデザインリニューアルに取り組んできました。

M3デジカルスマート デジスマ診療
https://digikar-smart.jp/

事業目標の設定から、達成のためのプラン分解、具体的なUIUXの改善までを一貫して進めて行くことで、目標達成に貢献することができました。

これらを推進したデザイナーとして、どんな狙いでデザインリニューアルを実施し、どのように進めていったかをまとめたいと思います。

デジスマ診療は、予約・問診・受付・会計までオールインワンで、患者・医療従事者双方を支援する診療支援システムです。2021年の提供開始以降、順調にサービス成長を続けています。 2024年6月現在、アプリストアで2.9万件のレビュー、評価は「4.6」とユーザーから高い評価をいただいています。さらに、2023年にはグッドデザイン賞を受賞することができました。

デジスマ診療のサービス概要

このようなサービス成長は、徹底的な現場志向やスピーディーな開発文化に支えられており、特徴的な仕組みとして、毎日開催される「IAレビュー」があります。

毎日開催されるIAレビュー会で、経営メンバーも含めてプロダクト優先度やUI・UXを議論

主にPdM・Assistant PdM・エンジニアマネージャー・デザイナー・CSで構成されるチームで、施策の優先順位や具体的なUI・UXの議論を毎日行っています。これによって、日頃からプロダクト改善が素早く回るようになっています。

また、IAレビューのメンバーを中心に、今の事業状況を俯瞰しつつ「成長の角度をもっと高められないか」について議論する合宿を、数ヶ月に一度開催しています。今回のデザインリニューアルは、この戦略合宿がきっかけとなっています。

合宿では日頃扱っている粒度の論点ではなく、改めてストレッチに設定してある事業目標を確認し、達成のためにできることをそれぞれの視点から出し合い、戦略のアウトラインを作っていきます。

戦略合宿時のホワイトボード
※具体数値は掲載できないので、あくまで話していたことのイメージとして見てください

例えば事業目標として「受注数を〇〇件達成」と設定し、50%はマーケティング強化で達成、25%は〇〇で達成、10%は〇〇で...といったように目標をざっくりと分解していきます。

さらに、どのKPIをどれくらい上げると達成できるのか、そのために何に取り組むと良いのかを具体的にしていきます。

その中で、特に予約率や決済率などのプロダクト指標を、UXやブランディングの観点から向上させられないかという仮説が生まれ、デザインリニューアルに取り組むことにしました。

この段階ではざっくりとした仮説状態であり、このまま進めてしまうと、目的がぶれたり、筋の悪い改善をしてしまう可能性があります。

そのため、改めてプランを具体化し、チームメンバーと方針を詰めていきました。実際にプランをまとめていた資料がこちらです。

リニューアルの目的と目標について
目標達成に対するプランやアクション、スケジュールについて

このように、目標や目標に対するプラン分解をしっかりと行ったうえで、具体的な改善案については何度もアップデートしながら進めていくことにしました。

とはいえ、目標はとても高く、自分自身も成長しなければ良い結果を残せないと感じていました。

特に自分の伸びしろだと思っていた点は「患者感覚」をつけることです。私は医療従事者ではなく、あまり病院にもいかないので、デジスマ診療のユーザーである患者さんへの深い理解ができていませんでした。

患者さんを深く理解し、自分の言葉で語れるようになることは、自分にとっても、リニューアルを筋良く進めるためにも重要だと考えました。そこで、以下に取り組んで患者感覚を深めていきました。

  • デジスマ診療を自分で使ってみて、実際に受診してみる

  • デジスマ診療のユーザーにインタビュー (3〜4人)

  • 社内の有識者にインタビュー

現場でのユーザーインタビューの様子

実際にユーザーの声を聞いていくと、想像以上に満足いただいている部分もあったり、シニアな方でもしっかりと使ってもらえている状況を知り、下手に今のUXを崩しすぎると悪手になってしまうだろうなと気づきます。

一方で、プランを練る段階で考えていた「登録体験」「予約体験」「決済体験」にはまだ伸びしろがあることが分かり、納得感を持って改善案を作っていくことができました。

今回のリニューアルでは、指標改善に効果が見込める点に絞って何度もプロトタイプを作りながら、順次開発を進めていくようにしました。

一気に様々な箇所のデザインを変えていくと、何に効く改善なのかが曖昧になり、検証もしづらくなります。

また、エンジニアにとっても負担なく進められるよう、普段の開発プロセスに合わせられるようにしたいと考えました。

ここからは具体的に取り組んでいたことをまとめていきます。

サービス全体の体験の流れを俯瞰しながら、当初設定していたUU・予約率・決済率の向上に繋がるような改善案をプロトタイプしていきました。

作成したプロトタイプはIAレビュー会に持ち込み、PdMやCSメンバーから何度もフィードバックをもらいながら改善していきました。

主要なフローの改善案を何度もプロトタイピングしていた

例えば、見直したところとして「予約なしで直接来院された患者さんの予約導線」があります。

今まで、直接来院されてデジスマ診療を使っていない患者さんへのデジスマ診療のタッチポイントが少ないことが全体の流れを整理しているときの気付きとしてありました。

そこで、そうした患者さんにもデジスマ診療の利便性に気づいてもらえるように、会計時に発行される領収書に予約用QRを加えることで、再診時にQRから予約をいただき、会員登録と、予約率の改善につなげることができました。

予約なしで直接来院された患者さんの予約導線

また全体のフローを見直すだけでなく、KPI改善が図れる細かい施策も複数実施しました。

中でも効果があったのは、デジスマ支払いへワンクリックで変更できる導線を予約確認画面に配置した施策です。

決済方法の変更をすることで、診察後すぐ帰れるようになるというメリットを、モーショングラフィックスで訴求しました。結果として、決済利用が約10%向上しました。

また、デザインシステムやスタイルを改善することで「誰でも使える、シンプルで、余計な操作の少ないプロダクト」にしていくことを目指しました。

具体的には、今まで運用していた「デジスマ デザイン原則」を再整備したうえで、フォントやカラー、ボタン等のコンポーネントを見直していきました。

リニューアルにあたって改めて整理し直した「デジスマデザイン原則」とスタイルの方向性

実際に、新しいスタイルを適用したホーム画面がこちらです。よりデジスマらしさを強調したうえで、情報の認識しやすさを高めることができたのではないかと思います。

リニューアル前後のホーム画面UIの比較

このようなリニューアルを通して、大小合わせて10個のUI/UX改善施策を進めていきました。結果として、前述したような効果が生まれており、当初掲げていた目標に対して貢献することができたと思います。

またスタイルもアップデートし、かつデザイントークンも再整理できたため開発体験も向上しました。

今回は事業目標に対して、デザインリニューアルという手段を取りましたが、一般的なリニューアルの進め方や、他社事例にあまり囚われないようにしようと意識していました。また、他により良い手段があれば柔軟に変えていっても良いと考えていました。

手段やデザイナーという肩書に囚われず、「目標をどうやったら達成できるか」を考えて、自分たちに合ったやり方でアクションしていった方が、結果的に成果を上げやすく、何より楽しく取り組むことができると思っています。

これからもデザイナーの枠や、手段の枠に囚われず、チームやプロダクトの良さをしっかりと見て、自分たちなりのやり方で事業推進をしていきたいと思います。